ネタまとめ   作:髪様

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無機物系ヒロインVS

甲高く形容しがたい悲鳴を上げ、地面へと崩れ落ちる竜の巨体。その頭蓋、脳天にはひと振りの剣が打ち立てられていた。

 

 この剣の名をエゼルリング・コレブラン。エゼルリング(アゼルリング、エルハァイング)とは『Kong Diderik og Løven』『フョルスヴィーズルの言葉』『グロア(グローア)の呪文』もしくは『Ungen Svendal、スヴィプダグル(スヴィープダグ)の言葉』の中で登場する剣の名であり、シーフレ(ジークフリート)の剣と同等の名で、ドイツで言うナーゲルリンクでもある。一説によると『Hevatein(Hævateinn)』ヘヴァテイン(弓で番える矢)、レーヴァテインと同一視される剣ともされる。(ヘヴァテインは実際には炎と関係あるか非常に怪しく、本来はその名のとおり矢の様に避けることが難しい剣とするのが一般的であったりする)

 元来のエゼルリング、これはスヴィプダグルが亡き母より嫁探しの旅に出る際に譲り受けた装備の一つで竜の血により固くした(er harditt y drage-blod)剣とされ、彼はこの時他にも4つの魔具を手に入れている。一つが後の名馬となる仔馬(fuolle)で峡湾(fiord)すらも陸と同じように駆け抜けるもの、一つがアガーウル、歌の中では織物(dugenn)と表現する卓布でありこれを広げればその上にはのぞみの食事が生み出される布、一つが獣角の杯(dyres-hornn)欲しい時に欲しい飲み物を絶えず与えてくれる杯、一つが長船、竜頭船(skibbenn)その船首で出会う敵を川底に沈める船の四つだ。A—E節まであり、剣と表記されることもあれば、その中のC節でエゼルリングの名は出ている。

 コレブラン『Kolebrand』(コールブラン、コールブランド)とは古謡27番(Dgf27)『Rigen Rambolt og Aller hin stærke、富裕者ラムボルトと強者アラー、リボルト卿と竜の戦い』にて17節辺りでリボルト卿が赤竜より打ち得た剣であり、その元であるデンマーク古謡の内容や表記からエクスカリバーの元となった剣の一つとされるモノでもある。ちなみにアーサー王伝説に組み込まれた物語の一つともされる。

 

 「相棒ぅぅぅぅぅ!無事かぁぁ!」

 

 名付けられたの持ち主が叫ぶ、今しがた大地に伏した竜の鼻先に立つ男だ。彼の周りに人はいない。では何に彼が語りかけているのかと言うと、彼の眼前、竜の眉間(ひたい)の先に突き刺さる剣エゼルリング・コレブランであろう。

 

『大丈夫ですよ、相棒。知性ある魔剣は頑丈でもあるんですよ?これで名実共に貴方に名付けられた名を誇ることができる』

 

 確かにエゼルリング・コレブランは魔剣ではあったが、一部を除いて凡百の域を出ないしろものであった。しかし今こうして赤い竜『 Y Ddraig Goch』の血を浴びたことで伝承の力を得たと言えるだろう。概念的竜殺しを成す事で、魔剣と呼ばれる代物は各上殺しの力を手に入れることができるのだ。

 男はエゼルリング・コレブランを眉間(ひたい)より抜くと、その刀身を一度自らのボロ切れのようなマントで拭う。そして、竜の首元に近づきそこを切り裂く。

 ただの魔剣であった時には決して成し得なかったこと、竜の首はひと振りで鱗ごと裂かれ、今しがた絶命したばかりなので勢いよく血飛沫を上げる。それをまるで湯浴みのごとく浴びる男。

 

 「これで、擬似的な不死の力は手に入れた。後は概念的に絶対に弱点となる背中を守る盾をこいつの鱗で作るだけだな」

 『ですが、相棒。早く引き剥がさないと、ズライグの遺骸が幻想化してしまいますよ?そうなればどこかで復活した赤い竜を再び倒さねば鱗は手に入りません』

 「そうだな、相棒。とりあえずデカイのと小さいの何枚かと腹の皮や翼の翼膜めくってマントにでもするか、これで相棒の鞘を作り直すのもいいな」

 

 そう言ってエゼルリング・コレブランで竜の鱗を魚の鱗剥ぎの要領で剥がしていく。翼膜と腹部の必要な皮を剥がし終えたその時、巨体は光の粒子となって天へと登り始める。一部の神に等しい幻想種を倒した際に起きる、幻想化と呼ばれる現象だ。普通の魔獣や人型が死ねばそこに死骸となるが、人が打ち勝つことが難しい、竜や巨人、魔狼、天馬など様々なものがいるが、これらは総じて只人には決して打ち倒すことのできない存在である。

 神によって聖別された武具の類があれば、倒せる「かもしれない」という領域であり、そもそも不筒に暮らしていれば倒す必要があるものも少ない。

 では、男は只人であるのか?と言えば少し違うといえよう。男は幻想種『妖精王(まおう)』(Der Erlkönig)を打ち倒すために召喚された英雄の一人である。人の手で強化されたとは言え、元々が幻想種を打ち倒すための存在であり、下地は存在した。それであっても竜を討ち取ることは妖精王を討ち取ることに比類する偉業である。

 

 「我が相棒エゼルリング・コレブラン、俺はお前さえいればこの世界生きていける気がするよ」

 『我が相棒シーフレ、名を奪われし可哀想な人。私は例えこの()果てようとも貴方と共にあろう』

 

 これは、若干トチ狂った23歳の日本人男性、英雄名シグルズとエゼルリング・コレブラン+αの異世界叙情詩である。

 

 

 

 

 異世界『スカーサハ』この世界には英雄と呼ばれる者たちが今現在存在する。地球と対をなす世界であり、あの世界では既に存在しない伝承が未だ跋扈する世界だ。両者を知りうる者は二つを合わせて鏡面世界と呼ぶ。

 そして英雄とは、地球における英雄の名前を名付けられた者たちである。その際に元々あった名は奪われ、以後その役職名とも呼べる英雄名のみで呼ばれる。その時代にその時代によって名付けられる英雄名は異なり現在存在する英雄名は、

 

 不死身の竜殺し『シグルズ』

 東ゴート王『ディートリヒ』

 勇士殺し『ヒルデブラント』

 復讐者の王妃『グズルーン』

 外征王『シャルルマーニュ』

 狂える聖騎士『オルランド』

 赤き竜の騎士公『アーサー』

 万人殺の聖乙女『ジャンヌ』

 無法者達の主『ヘリワード』

 誓約が為の番犬『セタンタ』

 白き光の騎士団長『フィン』

 遠く導くモノ『アリアドネ』

 万里駆ける盾『アキレウス』

 

の13名で構成されている。

 

 その名に由来する強化を召喚されし者たちは受け、幻想種と戦うこととなる。シーフレとはジークフリート、シグルズと同じ起源の名であり、男にとっての愛称だ。といっても彼の名を呼ぶものは他の英雄に比べ遥かに少ないのだが。

 

▼彼が英雄と呼ばれなくなった日△

 

 此度の英雄のうち11人がスカーサハの住人である。英雄の名を授ける神殿が大陸の中央の山脈の中腹に存在し、地球(アスガルド)であれ影の国《スカーサハ》であれ召喚の儀によって強制的に呼び寄せられその地で英雄名を与えられ現在の名を奪われることとなる。

 その後の恒例として英雄たちはその場で『妖精王(まおう)』への方針を固め、月に一度ほど神殿にて現在の状況を話すことになっている。英雄同士が争うことはそうそうないのだが、今回は少し運が悪かったのだろう。13英雄のうちシグルズの名を得た一人しか男がいなかったのだ、そのため自ずと話について行き損なった。といってもその時点では何の問題もない。そもそも英雄同士は利害が一致せぬ限り干渉し合うこと自体少ないのだから当然であろう。

 

 しかし、小さなすれ違いから大きな誤解へと発展する出来事があった。

 

 ある日男は、導くものアリアドネと神殿内で会話をし相談をされる。アリアドネの力の中には先詠みと呼ばれるモノがある。これによって分かったことだが、ラグナロク(Ragnarøkkr、神々の黄昏)クラスの幻想種の厄災が起こるというのである。この規模になれば英雄同士が手を組むことは不思議でないのだが、騎士とは相性の悪い幻想種であるため、その際騎士の名を持つ三名が死ぬ可能性が高いのだというのだ。

 英雄とは時代によって存在する数が固定されるため、一度減ってしまえば次の時代が来るまで補充することは叶わない。『妖精王(まおう)』を一度も狩る前に英雄が減ってしまうのは大変な事である。『妖精王(まおう)』とは世界を形作る力の塊とも言える存在で、一定期間内に最低一度は狩らねば世界は滅びてしまう。そうなれば、鏡面世界である地球(アスガルド)にも影響が及び、あちらでも天変地異が起こってしまうのだと言う。

 

 「取り合えず、その厄災の名はわかるのか?」

 「モドレッド、メドラウドその名に聞き覚えはありますでしょうか?此度は魔人メドラウド、アーサーは勿論のごとく、騎士にとっては弱点となりうる存在です」

 

 このとき男は凄まじく冷や汗をかいた。幻想種の一つ魔人における厄災においても英雄名を与えられるものは多くない、更には英雄殺しの英雄名を与えられるモノは非常に少ない。英雄名持ちであっても危険であるならば、この世界の無名勇者クラスでは到底倒すことのできない厄災であろう。

 

 「それを俺一人で倒すのか?……流石にそれは」

 「タダ、とは言いません以前より欲しておられた魔剣を用意しました。無名ですが、貴方が名付ければ聖剣にも届く代物となりましょう。無論、私も戦闘の役に立つとは露にも思いませんが、シグルズ殿の援護として共に参ります」

 

 都合の悪いことに、騎士の名を持たない英雄は自らの管轄地とも呼べる場所において、幻想種の対応に追われており参戦できない。どちらかといえば部の悪い賭けとは分かってはいるものの、アリアドネと騎士三名は英雄名を名付けられる前より以前から旧知の仲であったらしく、友人を失いたくないが故の取引であった。しかし、目の前の男は戦闘に関して凄まじく優遇された英雄名を持つものである。今はまだ、龍の呪い(かご)を受けてはいないとは言え、名付け当初から幻想種殺しとしての力を持つ英雄は数少ない。今回の英雄では『フィン』と『シグルズ』しか幻想種殺しを成し得てないのだ。だが、騎士殺しの属性を持つ相手と『フィン』を今の段階で戦わせるわけには行かない。

 

 そして二人だけで、メドラウド討伐に赴いた。しかし、これが遺恨の原因たるとはふたりは思いもしなかった。

 

 まず、強力な幻想種であるメドラウドによって発生した大量の幻想種から狩ることとなる。ガンコナー、アーヴァンク、ハギス、ブラックドッグ、グレムリン、ジャックフロスト、ジャックランタン、バグベア、デュラハン、ハッグ、パック、ファハン、ボギー、ブギーマン、レッドキャップ。英国、つまりスコットランド、アイルランド、ウェールズ、イングランドにおける様々な伝承の生物の中でも人に対して悪意を持つことがある幻想種たちである。

 

 ガンコナーやハギス、ハッグなどは大した攻撃力を持ってはいないとは言え、ハギスは足元で動き回り先頭の邪魔をし、ガンコナーは耳障りな音を出す、ハッグはよくわからない火の玉を出し行く手を妨害する。そんな中、アーヴァンク、ブラックドッグのような危険な幻獣が襲いかかり、人型の幻想種によって切りつけられる。一定以上狩れば、その場に存在する幻想力と呼べるものが減少するので発生しなくなる。

 が、流石に多勢に無勢、英雄名を持つものとは言え、戦闘能力を持つ幻想種相手に無傷とはいかない。致命傷に全く届かない小傷といえど、積み重ねれば体力を大幅に奪う。強化されたとは言え人であるが故の疲労もある。ようやく狩り終えた頃には、既に体は多く傷を負い見た目だけは満身創痍であった。だが、やはりは英雄の力か、未だ完全ならずとも余力は残していた。

 

 「なぜ手を出さなかった?」

 

 魔人メドラウド、竜の被り物をかぶった長髪の騎士。シグルズが幻想種と死闘を繰り広げる最中、彼は一度もその手に持つ両手剣を突き刺した地面より引き抜かなかった。

 

 『ふむ、無粋だと思ったからだ。妖精王オベローンによって我が身に与えられたものが、反雄名だとしても騎士としての教示は守るつもりである』

 

 彼は騎士殺し英雄殺しの名は妖精王(まおう)に与えられたものだといった。そのことに少々驚きつつ剣を右斜め下に構え、左足を踏み込みの体制へと向ける。それを見たメドラウドも剣を水平に少し後ろに反らせるように持つ。

 両者が戦いの準備を終えた瞬間両者が一斉に相手に向かって飛び出す。高速に横振りされた剣を斬り上げによって、機動をずらし頭をその下へと潜らせ、魔人の背面へと側面を駆け抜け、振り向きざまにその勢いのまま横一閃。同じく振り向きそれを大きく仰け反り躱す魔人。魔神はそのまま頭上を半円を書くように剣を振り、その剣の勢いにより体勢を整え、斬り上げ。それがシグルズにより弾かれると斬り下げへとするため腕を持ち上げる。それを食い止めるため同じく斬り下げを繰り出し、剣が垂直になる程度でレの字を描きながら勢いの乗らぬ剣の軌道をズラす。そのまま後方へと少し飛び、魔神が繰り出す袈裟懸けを刀身の鎬から樋の部分で横弾きにしそのまま円を描き大きく両者の剣の向きを変える。

 突き、斬り上げ、斬り下げ、剣の重さを活用した体重移動、これらの全てが凡百が視認できぬ速さで繰り出されていく。何度も切り結んでいくうちに、両者ともに避けきれなかった傷が徐々に増えていく。しかし、魔人と比べ少々疲れ気味より始まった戦いはシグルズにとっても思いがけない事が起きる。

 勢いよく下がった先に運悪く形のおかしな拳大の石があり体勢を崩す。それだけでは直様復帰できるのだが、その時突如としてシグルズの左目を激痛とも呼べる何かが襲った。勿論彼が魔人の攻撃を受けたわけではない。少しその痛みにより怯んだ隙を魔人の横振りの剣撃が舞う。

 

 「……え?」

 

 これまでかと思った彼の前には『アリアドネ』が立っていた。左腕が切り落とされ、剣は背骨の中程で止まっている。剣の勢いであろうか、彼女の体は緩く『く』の字を書いていた。彼女の体は魔人によってそのまま剣ごと持ち上げられ、横へとずらされ地面へと落とされる。半口を開け、切断面より夥しい程の血液を吹き出しながらも彼女はまだ生きていた。祝い(のろい)とも言うべき英雄の力により未だ生かされているのだ。

 

 『貴様の動きが鈍った理由、その目元にある腫物と魔物の複合の神秘(ルーン)であろうな。この女本来なら度し難い行いだったが、勝負に水を差されたと考えれば、よくぞやってくれたと褒めるべきだろう』

 「アリアドネ、何故こんなことを……」

 「セタ、ガッ……受け、ました」

 

 (我が友人を恨まないで欲しい、我が名は遠く導くモノ(アリアドネ)。我が命によって友の剣に勝利の誘いを……剣の加護の名をコレブラン、多くの英雄を導きたもうた剣)

 

 脳内に響いた声、それと当時に光り輝くシグルズの剣。それと同時に完全に命の鼓動途絶えるアリアドネ。見開かれた目に光が途絶え、茶褐色のゆるやかに波だった髪は血と土に汚れ、オリーブ色の肌は血の気を失っていく。しかし、穏やかな死に顔であった。

 

 『最後の最後まで粋な計らいをする女であるな、勇者よ。性別を超えた良き友を持ったな』

 「……そうだな、さて、後悔するのは後だ。女神の名より加護与えられし剣コレブランよ、持ち主たるこの俺が愛称を与えよう。我が名シグルズ、竜殺し残した剣よりエゼルリングの名を。今日より剣の名はエゼルリング・コレブラン。我生を共に駆け、遍く敵を薙ぎ払うものなり!」

 

 

相棒(とも)と呼べる存在△

 

 

 その後強化された魔剣により、何とか討ち取ることがっできた魔人。本来なら喝采を受けるべきほどの強敵であった。しかし、『アリアドネ』の早すぎる死は英雄名持ち達にとって危機感を煽り、更にそれを招いたシグルズは彼らに英雄殺しと呼ばれ、特に三騎士達に恨まれることとなる。

 

 まず不仲より決闘が起こった。何とか、殺し合いになる前に逃げ切ることとなったが、これによりシグルズは英雄名持ち以前に大衆にとっても忌むべき存在へとなった。それによって彼は大陸を放浪することとなる。こうなった原因は『アリアドネ』にあるとは言え、彼女が命を張ってシグルズを助けたのも事実。死人の最後の願いである「恨むな」という言葉も重かった。なぜ自分が?という気持ちも大いにあったが、結局英雄たちを恨むことは彼にはできなかった。

 

 あてもなく、人に害をなす幻想種を狩り、出会う賊を狩り、時には人同士の争いに巻き込まれ戦場も顔を隠したまま駆ける。

 

 そんなある日のこと、彼は一体の幻想種と出会う。『エインセル』と呼ばれる少女型の妖精である。尖った耳を持った可愛らしい少女。妖精の中でも大人しい部類に当たり、意味は自分自身。最初はそのまま通り過ぎようとした。彼女は見た目も子供、仲間身も子供、能力的なモノを一切持っていない幻想種である。といっても彼女に悪意を持って襲いかかれば、それ相応のしっぺ返しが還ってくる。何せ、自分自身なのだから。からといって、良いことをしてあげても良いことが還ってくるわけではない。

 

 「……怪我をしているのか?」

 

 こてん、と首を横に傾げる少女エインセル、体中に痣と切り傷があり、足の健が切られていた。馬鹿なことをと思う、幻想殺しであれば、何の抵抗もなく彼女を殺せるが、普通の人間が彼女を害せば、自身にも同じモノが現れる。つまり、下手人はいま彼女と同じ状態になっているのだろう。見た目が森の民のため下手人は彼女が幻想種とは気づいていなかったのかもしれないが。

 痛々しく思うが、幻想種である彼女を助ける、治療する術はない。一旦殺してしまって、復活を待つのが常識なのだ。

 

 「どうする?ここで楽にしてあげてもいい、今のままだと野犬なんかの獣に襲われて生きたまま喰われるぞ?」

 

 エインセルは少し怯えた表情をし、シグルズの剣を指さし、そして彼女の胸を指さす。死んでも復活できるとは言え、全く別の個体となるのだ、もちろん記憶も消える。何ら人の死と変わり無い。もちろん彼女たち妖精もそんなことは知っている。とはいえ、生きたまま喰われることのほうが恐ろしい。幻想種にも痛覚はあるのだから。

 

 「ありがとう、しーふれ」

 

 その言葉と同時に胸へと剣を突き立てる。幻想殺しによって、エインセルはすぐさま光の粒子となり宙に消える、……そのはずだった。

 

 「何を!?」

 

 光の粒子は剣へと吸い込まれていく。目に見えて、エゼルリング・コレブランに内包する存在感と魔力が上昇し、剣の色を変えていく。鈍色だった魔剣は白刃となり、輝きを増し、形も幾分か変わっている。魔剣とはいえ見た目は只のブロードソードだった物にコアとも呼べる白い宝玉が埋め込まれている。

 

 「まさか、宿ったというのか?」

 

 その時シグルズはただ、剣が強くなったとだけ解釈した。だがそれは間違いだった。

 ある日、フォモール族を数体討ち滅ぼし、軒下を貸してもらおうと近場の村へと向かった。そして、持ち主に許可を得、軽めの食事とワインをとり、眠りに付いた。

 

 『起きてください、主殿』

 

 朝方付近である、突如声が聞こえた。少し尿意を覚えながら、眠り眼で辺りを伺えども付近に人影はない。陽はまだ登っていないようで、村の住人も流石に畑仕事をしている訳でもなさそうだ。ではこの声はどこから出ているのだろうか?

 

 『手元です、主殿が抱える剣、それが私です』

 「……なんだと」

 

 切り捨てた際にフォモール族の魔力を幾分か吸い取ったことにより、必要分の魔力を満たした、魔剣として更なる高みに進化したということらしい。といっても喋るだけであり、あとは少し頑丈になっただけだとか。その少しが普通の剣と比べればとんでもないものなのだが。

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