ネタまとめ   作:髪様

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狐のままに
狐、人となる


 昔々、あるところに賢い狐がおりました。

狐は付近に住まう他の狐とは異なり、言葉が分かりました。

それは空を舞う小鳥であれ、野に根を張る木々であれ、川を流るる石であれ全ての言葉が聞こえました。

 

 

 

狐は目の前にある水面を眺め思いました。

 

 

「どうしてこうなった」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 気が付けば土を掘った巣の中、今の現状を一言で答えればこうなる。

一言で答えずに説明すると、家に帰ってから飯の合間にちょびちょびとほろ○いモモ味の缶チュウハイを飲んで風呂に入って、もうそろそろ布団も洗濯しないとねとか考えつつパソコン開いて、ネットにつなげて、恒例のサイト巡回した後布団の中でラノベを開いて就寝。

 

 

 ……したはずなんだが、目が覚めると、どう考えても人が入りそうにもない、今にも崩れそうな穴の中で目が覚めた。

そこまでは良い。

もう一度寝たらきっと、いつもの少々使い古され、黄ばんだ枕が見えるはずだ。

そう考え再び寝た。

そして次に目が覚めるたとき、先程寝た時と変わらずそこにある湿った土の独特の臭い。

ついでに目の前にはミミズがにょろりと顔を出していた。

まあ本来、ミミズぐらいならそこまで気にする奴でもなかったはずなんだが、流石に顔の前に居たら恐い、むしろめっちゃきしょい。

 

 

思わず喰ってしまった、そりゃまぁパクリと一口で。

 

 

え?「なんで、そうなるの」ってか?

私にも分からないが、でも一つだけ言える。

 

 

土の味しかしなかった。

 

 

 その後、夢であろうと何であろうとどうでもよいが、こんな狭いところにゃ長くは居られないので這い出るように穴から抜け出した。

あれ?なんか目線が低いのだが、気のせいかな。

いえ、気のせいではありません。二本足で立ち上がろうにもバランスがとれず、しかも何かしっくりこない。

なぜか四本足で居るほうが落ち着く。

どうでもよいのだが、さっきから色々と違和感がありまくりです。

手足を見ように下を向いても首は曲がらず、背中を向こうとぐるりと腰を回す。

 

 

今度は簡単に体が回って見ることができた、のは良いが目の前にあったのは、

 

 

「尻尾?」

 

 

 そう、尻尾である。先っちょが白くて、その他は小麦色な尻尾及び、犬みたいな感じの毛が付いた胴体。

犬とは狼が人に飼いならされた種を言うのだから、今現在はおそらく野生の狼。

オーケー分かった、ここはあれだ、言葉が話せる獣ときたら確実に妖怪化及び幻想入りコースだろう。

ふふふ、ニコニコな動画もなろうな小説サイトも某理想郷も巡っている私に不覚なし!

 

 

 

と思っていた時期が私にもありました。

 

 

 

 普通に考えれば分かるのだが、今何時よ?

時代も時間も季節も全く分かりません。

いや、季節はなんとなくわかる、春だ。

だって、頭がほやほやな変人が出る季節はいつだって春だ、もしくは冬。

信じたくないが、若干変態に片足突っ込んでいた私も両足とも突っ込んだ挙句体まで変態へとなり下がってしまったのだろう。

 

 

認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものを

 

 

 うむ、どうでも良いが(いや良くないけど)、まずこの体は狼ではなかった。

なぜそのような事が分かったのかというと、喉が渇いた私は水を探した。

さすが野生動物、その辺は直感とも言うべきか水辺の大体の方角は分かる。

しかも、すぐに水分を取れる位置に居を構えていたのでちょっと歩くだけで、流れが緩やかで浅くそこそこ大きな川に出た。

そこで、川から分かれ、流れがなく河原とも言うべき場所にたまっていた水を覗き込むと、一匹のキツネが居た。

 

 

 なるほど、キツネですか。

その時はこれは九尾の狐になって、妖狐無双でもするんですね分かりますとか思っていた。

きっとこの後、「~する程度の能力」とかでるだろ絶対、とか思ってみたりして瞑想しましたけど、これ確実に後の黒歴史へと至る道。

河原にお座りの状態で腰かけ瞑想すると聞こえてくる声。

目を開けても誰もいないのに聞こえる声、「声を聞く程度の能力」ですね、おそらく。

まあ、実際(後々気付く)は「~程度の能力」なんて持っていなかったのだけれどもね。

 

 

「大和の国で垂仁天皇が即位したらしい」

「肥前肥州を攻めたいと言っちょった」

「女王は邪魔じゃと言っちょった」

「王は大和に一人で良いともいっちょった」

 

 

 ……誰だよ、垂仁天皇って。

まあいいや、ここが幻想の入り口、妖術とか妖力とか使えるはずだぜ、つまり特訓。

ここから始まる最強妖怪ルートになるといいな。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「至尊、喋る野狐を捕まえましたでございまする」

「ようやったぞ、はようみせい。」

 

 

トリッパーもとい、キツネです。

何が起こったか話したいと思います。

 

 

 野山で妖術の練習がてら、技名を叫んでいた。

付近の村人が不審に思い大人数で原因を探しに来た。

そこには人語をしゃべるキツネが何かよく分からない事を喋りながら叫んでいた。

お偉いさんに報告した。

興味を持ったトップが捕まえるように命じた。

大量の人間に囲まれた。

あっけなく捕まった。

檻に入れられ偉そうな奴の前に連れてこられた。←いまここ

 

 

「おい、キツネ、何かしゃべってみせい」

「皮剥いで首に巻いたり床に敷くのだけは勘弁して下さい」

「「……」」

 

 

 言われた通りに喋ってみたのに、唖然とする偉い人及び、臣下の人たち。

トップらしき偉い人に関しては周囲の人に指差しながら確認し、それに合わせて臣下たちは首振って否定している。

ちなみに全員どっかの博物館で置いてそうな剣と角髪装備の古代日本人風の人。

場所は掘立小屋に毛が生えた程度の建物の中、雰囲気的には高床倉庫に近い。

 

 

「キツネ、もう一度言う、うぬが喋ったのか?」

「貴方が誰だか知りませぬが、貴方の臣が貴方を騙った、ということは否定なされたのでしょう。ならばこの場で話すのは私しかおりません」

「ならば聞くぞキツネ、主は何ゆえ人の言葉を介せるのだ」

「この身は元は人でありますれば、人の言葉を話すのは致し方ないかと」

「人であったと申すか、ならば我が祖の名を言ってみよ。主がいつの時の人かわ分からぬが、我が祖の名は知れ渡っていようぞ」

 

 

 それなんて無茶振り?自意識過剰だと思うのは私だけなのだろうか。

この人がどれほど偉いかは知らないが、中身未来人な私がこんな一辺境の量出費人の名前なんて知る訳ないジャマイカ。

とりあえず、この人が誰かも聞いてみないとこの人の先祖が誰だか分かるはずもない。

 

 

「その前に御身の御名をお聞かせ願いたい」

 

 

 私が知りうる言葉の中で一番の献上語っぽい言葉で聞いてみる。

昔人間、今獣の私ではいつ毛皮にされて犬鍋みたいに喰われるか分からない。

怒らせない方が賢明であるのは確かであろう。

 

 

「おい、獣、無礼であろうぞ」

「よいわ、黙れい。いつからその身か知らぬが、一時俗世より離れておったのだ、我が名を知らぬも致し方なしであろうぞ。聞け、キツネ。我が名は日本武尊を父とす、足仲彦天皇《たらしなかつひこのすめらみこと》なるぞ」

 

 

 足仲彦天皇か、ぶっちゃけ誰だかさっぱり分かりません。

でも、知ってる名前も出てきた。日本武尊って日本神話でのビックネームだ、とりあえず彼の子孫の先祖って言ったら神武天皇って言ったらいいハズ。

 

 

「ならば、貴方様の祖は神武天皇でいらっしゃれる」

「じんむ?誰ぞ、その名は我が祖の名は神日本磐余彦尊《かむやまといわれひこのみこと》なるぞ」

 

 

 

 

……なんかもう色々と終わった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 まず結果から言おう、とりあえず命は助かった。

でもあの後更に大きな檻(檻の隙間は2cmぐらいだが大きさ自体は3mぐらいある)に突っ込まれて野外に放置された、しかも干し肉という食事付き。

妖術の練習をして山暮しをしていたころは川魚を生で食していたので久しぶりの肉だった。

なんの肉かは知らない、でも臭いの感じからして猪とかじゃないかと思っている。

フォックスノーズは嗅覚に優れているのさ。

イヌ科だから当然とは言わないでおくれ、においに敏感なのになぜ捕まったのさとかも聞かないでおくれ。

元々人間だったから人が近づいても「なんだ、人間か」程度にしか思っていなかったんだな。

完璧に自分がキツネだってこと忘れてた。

 

 

食事をとった後は大人しく寝た。

 

 

 皮剥ぎされなきゃいいけど、死ぬのはマジ勘弁です。

絶対、痛いよ?毛皮とかにするなら綺麗に殺すだろうからお腹をさっくりと開いて中身出して綺麗に洗って目玉なんかの腐りやすい場所は取り除いて、

ってなんで自分でそんな解体されること想像してんだよ。

こんなことを朝起きて考えるなんて、とてつもなく自虐だよな。

 

 

「……キツネ?」

「ぷるぷる、ぼくわるいきつねじゃないよ」

 

 

 昨日偉い人と同じ場所に居た人が心底驚いた顔でこちらを見てる。

目を見開いて、口をおの字にポカンと開いてボケっと突っ立っていた。

どうしたのだろうか、私の顔に何か変なモノでもついている?例えば血を吸って面白いぐらいに大きくなった、1.5cmぐらいのダニとか。

でもそれだと痛痒くなりそうだよな、でも痒くはないし、昨日食った干し肉のカスが頭の上に乗ってるとか色々考えられるが、それにしても驚き過ぎだと思う。

 

 

「キツネ、お主……」

「はぁ、」

「人に成れたのか?」

「はっ?」

 

 

 何をおっしゃりますか、このひげ達磨は。

説明しよう、今目の前に居る人は達磨にもさもさな髭と昆布巻き(みずら)が付いているの物にそっくりなのである。

人の形になれるなら今の今まで奇声上げたり獣じみた生活するなんて、そこまで苦労してねぇよ。

人ならちょっとした釣竿だって作れるし、山で大量に見かけた猪相手にトラップだって作れる、作り方しらねぇけど。

 

 

「まあ良い、その様子だと何も知らぬのだろう。今身につけるモノを持ってくる故しばし待て」

 

 

 一方的に何かいった揚句、彼は駆け足で元来た道を駆けて行った。

そしてしばらくすると、彼と同じくらいの少々年食った女性と手に様々なの布を抱え此方にやって来た。

彼はそのまま檻の扉に手をかけると、かんぬきを取り払い、扉を開けた。

中まで入って来た彼は私の腕を取り、

 

 

「……腕?」

 

 

あれ?何故だろう。人間の手が見えるぞ?しかもしっかりと掴まれているという感覚がある。

おかしいな、寝た時まではしっかりとキツネボディーだったし、キツネになって恒例、いつも通りに丸まって寝たのだが、今は普通に胡座かいてる状態。

いや、気付けよ、ここまでくれば普通なら気付くだろうに。

寝ぼけていたとか、そんな理由じゃつかないぐらいにボケてるな。

 

 

 仕方無い、既にキツネになってから120年ぐらい経ってる。

近くに生えてた木に爪で365日刻んで数えてたから分かるのだ。

普通そんなに長生きしないはずだが、長生きはお約束だと勝手に納得している。

こう考えれば人として生きた時間よりキツネとして生きた時間の方が長いのだが、人としての感性の方が強いのは自分が常に人であった事を意識し続けたからであろう。

もし、キツネとして生きていたら今では更に野性味あふれる生き物になっていたと思う。

 

 

「これを着れ。わしの息子が着ていた物じゃが、主でも入るじゃろう。カヌシ、これを奴に着せてやれ」

「はいはい、お前さん。しかし、女子のような容姿であるのについてる物はたくましいのう」

「ははは、美丈夫であるな、見た事がない小麦色の髪と獣のような耳よな」

 

 

 そう言うと素っ裸の私に、私の母より少し年老いたぐらいの女性はすぐさま着付けを行い始める。

若干鼠色に近いが水干にそっくりの上着と、しめ縄風の腰巻、前垂れ風の飾り布である。

少々時間がかかったが、ようやく着付けを得ると銅鏡を彼女は差し出してきた。

やはり現代で使っていた鏡に比べると映りは非常に悪い。

 

 

「うむ、何この美人?」

 

 

 銅をきれいに磨いて球面状にして作られた鏡に映るのは金髪獣耳の中性的な容姿。

非常に整った顔にキリリとした目ついでにお尻にゃ尻尾が三本。

山の中で瞑想しながら叫んでいたのが良かったのだろうか、予定通り(笑)のモテそうな姿を手に入れた。

今になっちゃあまり嬉しくないけどね、つうか妖怪なんていないもんこの世界。

 

 

「良いわキツネ、身支度すんだら至尊の元に向かうぞ。主の沙汰を決めるそうだ」

「分かりました」

 

 

今は人間の姿だから皮は剥がれんと思うが、首落とされそうだな~。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「主、キツネか?」

「キツネにございまする、獣よりこの姿になったは私にも理解できぬことです故、説明出来ぬ不義理をお許しください」

「ふむ、それは構わぬ」

 

 

 足仲彦天皇あらため仲哀天皇?(服くれた人に聞いた)も驚いている様子だったが、一言の確認だけで何かを悟ったようで、考え込む。

流石一国の主ともなると凡人とは違う感性を持っているのだろうか、他の臣下達とは明らかに反応が薄い。

そのような中、仲哀天皇のぼそぼそと呟く声がかろうじで獣耳に届くが流石に内容までは聞き取れない。

 

 

「キツネ、主女子であったか」

「いえ、|男(おのこ)にありまする」

「主の体をわしに差し出せ、それが主の罪への沙汰よ」

「男にありまする」

「聞こえておるわ、知った上で申しておる。わしに抱かれるのだ、喜べい」

 

 

 流石に喜べねぇよっ!男だぞ?今も昔も私は男だった。

男にケツ出せって言われて「どうぞ」とか言う訳がないでしょうに。

未だ未経験の私に男性経験を先に持てと申されるとは何と言う嫌がらせ、もとい最終勧告。

なるほど、今の時代まだ同性同士のお突き合いは普通なんですねぇっ!

 

 

「なにとぞ、それは勘弁してもらえないでしょうか。この身はキツネでありますれば、御身に何かしらの厄害があるやもしれませぬ。我が罰なれど、御身に害あるは本意に無きと思われます」

 

 

 私の言葉に何か思うところがあるのだろう。

野生のキツネ限らず、動物にに噛まれたりすると病気になる可能性もあるとか聞いたことあるしね。

そこまで全てが発達していない今の時代ならちょっとした病気でも直ぐに死へと至る可能性が高い。

こんだけ言っておけば、余程の冒険家、ギャンブラーじゃなければ私を抱こうとしないだろう。

 

 

「まあ良いわ、なれば主の沙汰は我が后の新羅攻めに参じることぞ。時は日が百昇った日とす」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 その後、退室させられ、服をくれた人、達磨について行くよう命じられた。

ちなみに彼の本当の名はニニギと言うらしい、歩きながら自己紹介をされた。

役名は侍大将、此度の新羅征伐は彼が兵を生きいて行くらしい。

だが今の私に名乗る名はないので、自己紹介をしようにも出来ない。

そう彼に告げると彼は、

 

 

「これからは狐月と名乗るがよい」

 

 

と言ってくれた。自分で名を考えるのも考えていたが少々虚しい気もしていたので渡りの船と彼の提案に乗らせてもらう事にする。

ニニギの後をついて行くと、そこにはまさしく竪穴式住居が大量に立ち並びその屋根からは煙を噴いていた。

初めて見る竪穴式住居だが、結構大きい。

以前、学校の授業などで習った時に私としては一般的な中規模テントぐらいしかないと思っていたのだが、実際には直径4mほどの円形に5mほどの高さで経っている。

時々小屋風の建物もあるが、どうやら鍛冶場であるようだ、といっても簡易的ではあるが。

 

 

「ここじゃ、入れ。カヌシ終わったぞ。奴の沙汰は新羅攻めじゃ」

 

 

 ニニギに案内され入った住居の中には先程着付けをしてくれた女性がいた。

カヌシとは彼女の事なのだろう。

かといって勝手に彼女の名を呼ぶのは失礼なのではないかと思ったので、一応名前は聞いておかねばなるまい。

 

 

「申し遅れました、先程ニニギ殿に名づけてもらいました、キツネの狐月と申します。なにとぞよろしくお願いいたします」

「カヌシぞ。気軽に呼ぶと良い」

「うむ、では、何も分からぬであろううぬに説明せねばな」

 

 

 ニニギはこちらが獣人生を送って来た事を知っているんで、まさしく一から十まで丁寧に説明してくれた。

戦に必要なモノから戦い方、やってはいけないことにやらなければならないこと。

それは自分が生き抜く上で必要な事の他にこの時代の戦を切り抜け勝つための極意であった。

 

 

「糧は自ら用意するので?」

「うむ、一人がだいたいの荷の中に四つ日が昇るまでの糧を用意する。無くなれば現地で奪うか、野で探すかよ。それと狐月、これを受け取れ。主の剣じゃ。後で主の名を打ちに行くぞ」

 

 

 彼が差し出したのは両手持ちの鉄剣であった。

元々はニニギの予備ともいえる剣であったが、青銅の剣より鉄剣に変わって折れることが少なくなり必要無くなったとか。

ちなみにこの剣はニニギが予備として持つ三本あるうちの一本である。

彼が剣をくれるまで良くしてくれる理由は知らないが、ありがたく受け取ることとした。

 

 

「不思議か?」

「何がでしょう」

「主に着を与え、剣まで与えることがよ。主はどうやらそこらの村衆より賢いようだ。顔には出ておらぬが、空気で分かる。」

「本音を言えば確かに理解できませぬ」

「ふむ。何、簡単なことよ。幾分前に死んだ息子に主を重ねておるだけだ。容姿は主と比べモノにつかぬほど劣ってはおったが、それでも良く出来た息子であった」

「で、ありますか。なれば、貴方の息子に劣らぬ働きと感謝を私はニニギどのに返さねばなりますまいな」

「なかなかに言うではないか。だが死ぬでないぞ、狐月よ。まだ時経たずとも、わしにここまで言わせたのだ。理解したのであれば無駄死にせず常に勝ちぬけい」

 

 

 彼はそう言うと、私に先ほど差し出した剣を持って外に出て行った。

おそらく彼が付けた私の名前を剣に彫る為に鍛冶場へと向かったのであろう。

外へと向かう、その時の彼の背中が哀愁漂っていたのは間違いない。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 百日といえど、良い時が過ぎるのと嫌な時がやって来るものは早いモノであって、あっという間に出兵の日に近づいた。

幸い、筑前筑州が今現在の仲哀天皇の本拠地(仲哀天皇が参陣する訳ではないが新羅攻めに合わせてこの地にやって来た。)であったため、移動に時間がとられることはない。

此度の陣取りの将は神功皇后であるからして、すでに各村へ兵を派遣するように命じたようだ。

近代の馬と比べると一回り2回り小さな馬で各地に木簡を届けていたので間違いないだろう。

 

 

 私は百日近くの間、剣と矛の扱いをニニギ殿に享受してもらい、ちょっとした実戦まで経験した。

実戦といえども戦ではなく、大和の国に忠を誓っていない山の民が盗みと襲撃を働いたため、それの防衛線へと駆り出されたのである。

流石に数はこちらが多かったが、少人数で何処からともなく切りかかって来るので数の有利はあまりなかった。

しかし、私はキツネであったからして、未だに獣としての嗅覚は存在するので、彼らが襲ってくる前に彼らが身を潜める場所に矛を突き出し打ち取ると言う事を繰り返した。

 

 

 殺しに対して、元々の私にも人としての忌避感はあったのだろうが、どちらかと言えば今は獣としての血への興奮の方が高く、予想していたような嘔吐や、殺した相手を夢で見ると言った事は一切なかった。

ちなみにこの時の働きにより、仲哀天皇よりお褒めを受け、新羅攻めでの二百人長の役を授かった。

二百人長とは読んで字のごとく、二百人の隊長である。

指揮官としての能力が私に存在するのか、甚だ疑問であるが、この時代のここら近辺で集団戦闘は古代ローマ辺りと異なりそこまで発展しておらず、とりあえず、ある程度の人数で固まって突っ込むだけらしいので私でもおそらく大丈夫だろう。

 

 

 しかし、バラバラに戦えば被害が増えるであろうから、私的には船の上だけでも集団訓練、槍衾もどきや掛け声に合わせて矢を射るぐらいはできるようにしたい。

矢は実際に放たなくても掛け声で一斉に弓を構える練習ぐらい出来る筈なので、矛で行う槍衾同様幾人かのグループ、この場合五人ぐらいで練習させようと思う。

彼らが生き残り易いひいてはそれが私が矢面に立たされる場面が減り、生き延びると言う事に繋がるのである。

 

 

「ニニギ殿、私の剣の腕はどうでしょうか?」

「主の剣はまさしく獣よ。読もうとしても思わぬところで行き先を変える。しかし、慣れてしまえば数種の剣筋しかないのだ、見切られようぞ。故に初見で仕留めるならば十分であろうぞ。更に剣筋を増やせば主は更に強くなるぞ」

 

 

 という訳で、剣の才能なんて以前はなかったのだが、キツネになってからは全てにおいて身体能力が上がり、ある程度は認められるほどの腕前へと変化した。

たったこれだけの期間でここまで腕を上げることができたのだ、完璧とも言わなくとも御の字であろう。

今では空いた時間で乗馬と騎乗攻撃の練習をしているが、この時代鐙が発達してないのね、乗りづらくて仕様がなかった。

そこで様々な内政モノの先人?達が手掛けてきたように私も鞍に鐙を取り付けた。

そして私には身体能力以外にも今現在一つだけチートがある。

全ての言語を喋る事が出来ると言うものだ。

 

 

 これは今まで聞けるだけと思っていたモノが私がその伝えたい対象に、伝える意思を持ち言葉にすればそのまま彼らに伝わるのだ。

人馬一体という言葉がある。

あらかじめ騎乗する馬に体重移動に合わせて移動してくれ、何回胴を蹴ったら速度を上げてくれなどと伝えておけば、その通りに動いてくれるのだ。

彼らにも好き嫌いなどの好みがあるだろうが、私に関しては絶対の好意を寄せるように何故かなっている。

これは別に彼らに教えてもらった訳ではなく、ただなんとなくの直感で分かるのだ。

 

 

 これ幸いと流鏑馬まがいの事や、馬上槍(ほこ)の練習で動きながら逃げる猪を狙う等の特訓をほぼ毎日行っている。

今では一日に二頭の猪を手に入れ(ちなみにここらの猪は異常繁殖している)その日のうちに干し肉にしている毎日である。

私は田畑を持っていないのでもちろん穀物系の糧は持ってゆくことができない。

そこでニニギ殿に干し肉を分けることで代わりに兵糧丸的なモノを作ってもらっている。(実際に作っているのは妻のカヌシ殿である。)

当初、カヌシ殿もニニギ殿も私が作った干し肉はいらないと言っていたのだが、ここで私がそこまで干し肉の作りが下手なのかと落ち込んでいたため、そんな事はないと慰めつつ渋々だが受け取ってくれる様になった。

「確かに少し塩気が足りぬが、これだけできれば十分よ」とのニニギ殿のお言葉である。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 出兵の四日前、男装した神功皇后が勅命により集まった各村からの将、隊長陣を集める。

皇后自らが必勝の舞を舞い、今回は海外故参陣しない仲哀天皇が士気向上のための音頭を取る。

これが終わると、これよりひと固まりとなり、筑前の港場まで行くのだ。

そこより五十人ほどが乗れる小舟に毛が生えた程度の船に乗り、対馬を経由して朝鮮半島南東部、新羅へと兵を進める。

ちなみに船の上での食料は個人ではなく、船ごとに人数分だけ大和より配給されている。

そして今回の新羅攻めに動員される兵力は、古代日本としては中々の破格で八千人である。

馬の数三百頭、船の数百六十五隻一つの船に馬は二~三頭ほど乗っている。

もちろん、馬用の干し草も用意されているのでその辺は心配はない。

 

 

 初めての和船だが、対馬までの航路非常に波が激しかった。

本来ある程度沖に出れば、波はそこそこ収まるのだが、今回船の強度上一度対馬に寄ってから朝鮮へと向かうため、少々荒れた航路となる。

所詮は和船、五〇人乗れるといっても、一五名程しか乗れない準構造船を丸太と板でつないで馬が乗れるるようにしているだけなのである。

時々他の船が海上分解し、馬が海に落ちていた。

 

 

 今の時代、野生の馬を捕まえ飼い慣らすなど時間がかかるため、馬は少なく、結構笑い事ではないの話なのだ。

しかし、今の時代ではこの様な海を渡る上での被害はいつもの事なので気にする事でもないらしい。

酷い時には一回の航海で数十隻が帰ってこなかったとか。

つまり気にしてもどうしようもないから、忘れよう的な考えという訳ですね、分かります。

 

 

 あれだけ揺れたのだから船酔いも激しそうだと思ったのだが、私は結局始終酔わずにいられた。

だが、初めて船に乗るような人も多くいた為、大の男たちが顔を真っ青にして、舟にしがみついていたのはなかなか奇抜であった事を記して置く。

 

 

 その他にも出兵前に少しの間住んでいた村の中ではそこまで無かったので気にしていなかったのが、外からやって来た人間には面白いぐらい大勢の人に、この姿を観察された。

古代日本に存在しない小麦色の髪つまり金髪で、自分で言うのもなんだが、すらりと伸びた四肢に獣耳と尻尾、一七五cmの背丈である、目立つのも当然であろう。

中には直接、獣耳などの事を聞いてくる奴も結構な数が居た。

一応、「戦狐の狐月です。よろしく」といった感じに誤魔化すように挨拶だけで済ましたが、全員理解納得していなかったと思う。

私の事を直に聞いてきた人間、聞こうにも聞けなかった人間、全てと言わずともほとんどが、私がキツネの皮でも被ってる、と思っているのではないだろうか?

 

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