さて、時が流れるのは早い?もので、80本の剣が揃った。それに合わせて短槍の数も揃え、矢を防ぐだけの木製簡易盾や牛革の鎧を手に入れたり着々と立志するための準備を進めた。では次の目標は難攻不落と行かなくとも安心して住むことのできる拠点の確保である。
「さて、今日仕事を休みにして集まってもらったのには理由があります。我々は一大拠点の確保構築を行いと思います。場所はここ、ルデン要塞跡地です」
40年ほど前に放棄された旧式要塞である。少しばかり森の奥にあり過ぎ、戦線からも遠い。街道からも離れすぎているし、屯地としても役に立たない立地であるので今や
「そこでロウェン、リオンを連れてメルカ第三、四地区の貧民街から、80人ほど私と同じくらいの人間を連れてきて欲しいのです。彼らに拠点の一部を与えることを条件に参戦助力をお願いします。いくらかの報酬も支払うことを伝え忘れないように」
俺より一つ下だが、赤毛で厳つく、体格がよく十代後半に見えるのがロウェン。同い年で剣の扱いに長け、金髪の将来モテそうな少年がリオンである。彼らは現在俺の手足といっても過言ではない。
「姉上、自分が行くのはわかるんですが、リオンを連れて行くのはなぜでしょう?」
「ロウェン、それこそお前より俺の方が交渉には長けているのだが?」
仲が悪いわけではないのだが、事あるごとに背比べをする二人である。競い合って精進するのはいいのだが、少々時と場合を考えないきらいがあるので、困りものだ。今は良いが後の禍根にならない程度に収めて欲しいとは思う。
「決まっているでしょう、貴方たちが捕まった挙句に
この子達は馬鹿ではない。俺が育てたのだ、そこそこの知恵は回るようにしている。将来では凡人の俺よりも良い知恵を出してくれる存在になるだろう、……今気づいたが、完璧にこいつらと離れるという考えがないんだな俺には。むしろ、既に深入りしすぎて手放せない領域だったみたいだ。ここまでくれば、あまりにも彼らを置いて逃げるという考えそのものが、馬鹿らしくなって思わず笑ってしまった。
すると彼らはこちらの質問に対してなんの返答もなくこちらを見ていた。
「どうしました?」
この件に対して、彼らにもなにか懸念や考えがあるのかと一応尋ねてみる。あったとしても大事でない限りは却下するが、この辺の伝達は重要だ。
「いえ、姉様何もありません。私はロウェン共々吉報をもって拠点に帰ってきたいと思います」
「姉上、頑張りましょう。俺たちの町を作るんだ、期待して待っていてください」
ロウェンの言葉は少々気が早いような気がするが、やる気があることはいいことだ。自然にこぼれた苦笑い混じりの微笑みで退室する彼らを見送る。残りの年長組には一時の間、街中での仕事を休むように伝えひとまず解散とする。
翌日には、ロウェン、リオンの二人以外には集まってもらい、年少組を含めた総会を開催する旨を伝える。程なくして集まってきた63人、全員に短剣等の装備を渡していく。しかし、この中で弓が上手いものには弓を使うように伝え、新しく揃えた戦闘用の短弓を手渡す。そのほかには短槍を装備させ背中には木の盾を括りつける。
「貴方たちには今回のルデン攻めにあたっての訓練を行ってもらいます。
ここで一度全員を見渡す、
そこで考えたのが、連携による
「短槍部隊は
槍部隊は
最悪、何度かに分けて要塞内部より誘き出し、減らしてから突入させるべきだろう。
訓練期間を設けて攻めねば、孤児たちの数は激減するであろう。それはそれで外道ならば良いのかもしれない。しかし、情を覚え理解してしまった俺には不可能である。65人全員に犠牲者なく戦いに勝利したいものである。
結局のところ人集めを行っているので、三週間の期間を設けた。その間ずっと仕事を休むのも今後に差し支えるといった最もな意見も出たので、昼間は街での仕事を行っても良いと許可する。しかし、早朝と夕方の日が暮れるまでは戦闘と連携の訓練である。俺も一人こっそりと打ってもらった細剣の練習である。
この頃であろうか、今までノンアクティブだったスキル群がアクティブされていた。どうやら一定以上の戦闘練度を持った集団を持つことで突撃等のスキルは有効化され、剣術や槍術も一定以上の品質のモノを装備することで有効化されたようである。これにより戦闘能力皆無より、戦闘力小程度になった。
いや、なんだ、言い訳させてもらえれば年長組の一部が強すぎなのだ。俺の守護五人衆ことリオン、ロウェン、ゲール、レント、カールの戦闘力は中程度ある。これは腕っ節が強いとされる大人に匹敵する。
結局のところ予定よりも早い、二週間で
残りの一週間は足でまといにならない程度にかき集めてきた孤児を訓練する。一部反抗する者もいたが、報酬をちらつかせその場は引いてもらった。被友好的な彼らには戦闘の最中に消えてもらうつもりである。嫌悪の方が強い連中にまで情けはかけない、そんなことしても拠点を手に入れたあとに寝首をかかれるだけであろう。
そのため部外者に関しては合図の笛と基本の武器の使い方以外は教えていない。笛一回で突入、二回で撤退である。その他にもあるのだが、覚えてくれないだろう。うちの連中にのみ伝達している。
「頃合ですかね……、ミレイナ!明日作戦を開始することを伝えてください。ボンクラどもには一番手柄には銀貨を与えることも忘れずに伝えるように」
ミレイナとは金髪を片口まで揃えた少女である。美人や可愛いとまではいかないが、素朴ながらも愛嬌のある顔だ。彼女も十一人いる年長組の一人であり、弓がそこそこ使える少女である。決して五人衆みたいな強者ではないのであしからず。
「了解です、姉様。復唱します!明日作戦決行、一番手柄には銀貨を与える!」
「よろしい!では、頼みます」
ハイ、と元気に駆けていく。実は彼女が一番規律に忠実で自分にも厳しい。使いどころを間違えなければ非常に有能な少女である。そう、俺なんかと比べてもだ。彼女だけではない、年長組全員が俺なんかよりも能力が上なモノを多く持っている。
転生知識がなければ彼ら彼女らが俺の下につくことはなかったであろう事確実だ。案外、一人一人だと既に表舞台に立っていたのかもしれない。それ程までに有能、こちらが嫉妬を覚えるほどに。まぁ、彼らをアゴで使ってるからそんな嫉妬も大してないんだけどね。
程なくして帰ってきたミレイナ、それと同時に明日への疲れを残さぬために今日の訓練は早めに切り上げるように告げる。その後は全員で、それこそ寄せ集め連中も呼び寄せての決起会である。もちろんハメを外し過ぎないように注意しつつ、こちらが用意した果実酒や食事を大盤振る舞いした。この中で有能な者で俺に従う人間は引き抜こうと考えながら。
そして翌日、出撃である。各自には一日1.5食として一週間分食料の入った背嚢を背負わせ、一部体格のいい者には、蝋を塗りたくったテント替わりになる布を持たせている。武器や矢は少々余分に持ち運ぶ。
これから二日ほど歩き目的の場所にまで行くのだ、事前情報では子鬼《ゴブリン》、豚鬼《オーク》合わせて80匹程、篭城されていると考えても勝てない相手ではない。だが問題は、実質、三日以内に戦闘を終えねばならないことである。そうせねば、こちらの兵糧が尽きることとなる。長期戦を出来るような輜重部隊を揃えることなんて、もちろんできない。つまり一度撤退して再び侵攻しなければならない。
そしてそれは痛い、助っ人連中に支払う食事に困ることになるのだ。こちらとてそこまで食料に余裕がある訳ではない。実際には無い訳ではないのだが、此度のために長期間かけて貯めてきたものだ、無駄な出費は抑えたいのもある。
攻略後は問題ない、その後の面倒を見る約束はしていないのだから。
今回手に入れることが出来るであろう拠点は一部貸与する約束はしている。しかし、彼らの食料の保証まではしていない。こうすることで街中で生活してきた彼らはスゴスゴと街に戻るか、俺らの傘下につくしかなくなるのである。もちろん力尽くという可能性も大いに存在するが、戦闘直後に彼らの武器を必要ないだろうから回収する旨は伝えてあるし、彼らが食事問題に気付きまでという、こちらに反乱が起こるまでの猶予もある。それまでに壊滅させれば良いだけの話である。
ちなみに、俺は彼らに嘘は一つもついていない。イイ様に使ってやろうという考えは多分に存在するが、こちらに恭順するのであるならば、今後要塞維持にも開墾にも人手が足りなくなること必至であるので、厚遇してやろうとは考えている。その為の用意もしてある。
街中であれば殺人として警邏に捕まる可能性もあるが、ここで殺してもバレることはないだろう。こちらとて出来るのならば、そんなことにならなければ良いとは願っているのだが、今後のことは分からない。
もしかしたら先読みのし過ぎで、これまでの考え全てが意味のないものと化す結末もありうる。例えば城攻めの最中に彼らが壊滅する可能性もあるし、その立地の悪さに気づき、街に全員が帰る可能性も無い訳ではない。
考え過ぎならばいいが、足りなくて後悔することだけは避けたい。この場合の足りないは俺の死や俺直下の組織の壊滅である。ようやくここまで育てたのだ、惜しいものがある。
そう、俺には未だ成してないことが多すぎる。騎士団よりも騎士団らしい傭兵団を創り、世界を駆け抜ける。竜にだって乗ってみたい、剣を振り下ろし大軍を動かすなんてのもロマンがある。調停士として様々な魔物を狩るのも名声を高めるためにはいいだろう。こんな世界だ、多くの悲劇がある。それに負けないくらいの喜劇も見つけねばならぬと思う。
色々、知らないことが多すぎる。それに伴って知りたいことも多すぎる。魔王のことは全く知らない。俗世に流れる勇者の噂も詳しくは知らない。この世界の常識だって知らない。知らない知らない尽くしだ。俺を万能だと勝手に勘違いする孤児たちも呆れるぐらいに本当は何も知らない。
だから知るのだ、少しでも彼らに誇れるように、当たり前を当たり前だといえるように。未だ始まらぬ世界、世界を統べるのが誰であろうとそれに連なってやろう。
決意を胸に下だらぬながらも大きな夢を抱き、全てが上手くいくことを願いながら俺は始まりの号令をかけた。