噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

13 / 71
今回、決着。


噛ませ犬vsジャッキー・チュン③

 よう、俺ヤムチャ。

 

 きてる、これはきてるぞ。

 ジャッキー・チュンとの近接戦は制したし技も『よいこ眠眠拳』と『残像拳』を看破した。次に来るのは『酔拳』あたりか?まあ、なんにせよ破ってみせる。ここまでくれば勝利あるのみだ。行けヤムチャ、行けるぞヤムチャ!

 

 さて、次はどう攻めてやろうか…。もう一度狼牙風風拳を披露してやってもいい。または隙を見てかめはめ波を使うのもいいな。

 

 攻めを行う上で最も気をつけるべきは残像拳。あの技は厄介であり、レイジングブラストでは何度も煮え湯を飲まされたものだ。

 悟空が行った残像拳への対処法はジャッキー・チュンが作り出す残像の数をさらに超えた残像の数で抑え込むというものだったが、一目見ただけであんな技を使えるようになるなど俺には到底できない。

 しかしこの技、動かなければ使う事は出来ないのだ。要するに相手の動きをよく観察しておけば残像拳を使うタイミングは分かる。

 

 油断はしない。どれほど追い詰めても勝つまで慢心は無しだ。俺はジャッキー・チュンに勝ち、クリリンに勝ち、悟空に勝って優勝する。

 そしてヤムチャのDB最強伝説がスタートするんだ!

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 試合は大詰め。

 実力伯仲。互いに譲らない一進一退の攻防。次から次に繰り出される技の応酬。

 いつ勝負が決まってもおかしくないその状況に観客は固唾を飲み見守る。

 後に試合を控えているナム、ランファン、ギランはあまりのレベルの高さに唖然とし、二回戦でこの二人のどちらかに当たる事になるクリリンの顔はどんどん青ざめてゆく。その横にいる悟空の顔はどんどん明るくなってゆくが。

 

 しかし、その二人の試合はとうとう終わりを感じさせ始めた。試合が、動き出したのだ。

 

「セイッ‼︎」

 

 ーーガスッ

 

「ぐぬぅ…!」

 

 ヤムチャのラッシュを防ぎ切れず、軽い一撃がジャッキー・チュンに通る。

 致命傷にはなりえない一撃、だが今現在の形勢がよく分かる一撃だった。

 

 ジャッキー・チュンのスタミナ切れ。

 

 今まさに人生の絶頂期と言えるほどにヤムチャは若い。体からはスタミナが溢れ出らんばかりだ。

 対しジャッキー・チュンの体は老い、技は健在だが、かつての絶頂期のようなパワー溢れる戦いが難しくなっている。

 確かにラッシュにより最も消費されるのはヤムチャのスタミナだ。しかし受けるジャッキー・チュンのスタミナも同様に消費されていく。その消費レースにヤムチャがリードしているというだけの話だ。だがそれは長く伯仲する戦闘における一つの転機。

 流れが変わりつつある今、勝負がつくのは時間の問題と言える。

 

「でりゃあぁぁ‼︎」

 

 ーードガァ!

 

「ぐふっ…!」

 

 ヤムチャのラッシュが再び決まり、ジャッキー・チュンが後ずさる。先ほどよりも重い一撃が入り、ジャッキー・チュンの顔が歪む。

 

『ああーっと!ヤムチャ選手の一撃がまたもや決まったーッ‼︎これはジャッキー・チュン選手、苦しい展開かーッ⁉︎』

 

 アナウンサーにも試合の展開は読み取れた。

 この勝負、ほぼヤムチャの勝ちが決定しているようなものだと。それは観客、大会出場者、悟空、そしてヤムチャの心の中における共通認識でもあった。

 

 

 

 だが相手はジャッキー・チュンもとい、武天老師。奥義はかめはめ波だけではないのだ。

 

「ふぅ…」

 

 先ほどまで油断なく構えていたジャッキー・チュンが突如構えを崩す。ジャッキー・チュンの突然の行動にヤムチャは勿論会場の全員が困惑する。

 

「どうしたんだ?この勝負、諦めたか?ふっ、そりゃあいい。手間が省ける」

 

 ヤムチャが小憎たらしい笑顔を浮かべながら皮肉を言う。彼なりの挑発だろう。しかし老練の武闘家、ジャッキー・チュンがそのような挑発に乗るわけがなく、「いんや」とやんわり言葉を返す。

 

「そろそろ本気で勝負を決めようと思っただけじゃよ。次で全て終わりじゃ」

 

 そう言いながら袖を捲っていくジャッキー・チュン。その様子にヤムチャは眉をひそめる。

 

「(…?酔拳は使ってこないのか?いや、それよりも…何だと。全てを…終わらせる?かめはめ波でも撃つつもりか?残念だが当たるつもりはさらさらないぞ?)」

 

 ヤムチャは警戒レベルを一気に引き上げて行く。

 ふとおもむろにジャッキー・チュンは語り出す。

 

「…この技を使わせたのはお主で二人目じゃ。そして…その最初の男とは武天老師が一番弟子、孫 悟飯」

 

「なに⁉︎……まさか…!」

 

 ここでヤムチャはジャッキー・チュンが何を繰り出してこようとしているのかに気づく。

 かめはめ波を凌ぐ威力を持つ亀仙流最強の必殺技に。

 

 ジャッキー・チュンは両手の掌を合わせると顳顬に青筋を立てるほどに力を集中させてゆく。やがてジャッキー・チュンの掌は発光を始め、その光は電流へと変化する。

 

「ちっ!当てさせるかよ‼︎」

 

「む…⁉︎」

 

 ヤムチャはジャッキー・チュンを中心として円を描くようにぐるぐると高速で走り始める。

 ヤムチャは高速移動によってジャッキー・チュンの照準をズラそうとしているのだ。

 

「これは驚いた…この技も知っておるのか。なるほど、確かにそれはいい手じゃな。しかし、経験不足が災いしたのう。本当に、惜しいものじゃ」

 

「何を……ッ⁉︎」

 

 ジャッキー・チュンがとった行動。それはヤムチャの後ろをぴったりと追撃するというものであった。敵が動くのならばこちらも動けばいい…。単純ながらも明快な答えである。

 

「嘘だろ…⁉︎そんな緻密に気を練りながら超スピードで追撃するとは…‼︎」

 

 ヤムチャは呻き、縦横無尽にリングを駆け回るがそれでもジャッキー・チュンを真後ろから巻くことはできない。ヤムチャはまるで自分の考えが見透かされているような錯覚に陥る。しかしその錯覚は間違いではない。ジャッキー・チュンはヤムチャの行動・考えを予測し、その先を実行しているのだ。

 

「(ま、巻けない…⁉︎こ、このままでは…ッ‼︎)」

 

 そして、ついにジャッキー・チュンはヤムチャを射程内に抑える。それを期に気を一気に練り上げていく。ジャッキー・チュンの手がなお一層輝きをましてゆく。

 

「くらえッ‼︎『萬國驚天掌』ッッ‼︎」

 

 ジャッキー・チュンの手から放たれたのは輝く電撃。文字どおりの電光石火の速さでヤムチャに迫り…

 

「よ、よけきれんッ‼︎」

 

 命中した。

 輝く電撃はヤムチャを飲み込み、一切の自由を奪う。そしてヤムチャの体にとてつもない負荷を与えていくのだ。

 

「ぐ、が、ぐおぉぉ…‼︎」

 

 あまりの苦痛故にヤムチャは呻き声を漏らす。しかし、それでもなお電撃は止まない。ジャッキー・チュンの手から気が続く限り永続的に放たれ続けるのだ。

 

「さあ、ギブアップをするのじゃ!はよせんと死んでしまうぞい‼︎」

 

 ジャッキー・チュンはヤムチャに勧告を行う。しかしヤムチャは顔を苦痛で歪めながらも、笑う。

 

「は、はは…!して、たまるかよ!ここ、まで、来たんだ!負けて、たまるかよぉぉ‼︎」

 

 ヤムチャは吠える。今のヤムチャにはギブアップをする気はゼロ。ヤムチャは勝利を貪欲に求めているのだ。

 

「な、何を強情を張っておる!死んでしまうぞい⁉︎」

 

「ぐ、がぁぁぁ‼︎」

 

 ヤムチャは突然、無理矢理体を動かし掌を重ね合わせ腰まで持ってゆく。その構えにジャッキー・チュンは目を剥き、仰天した。

 

「お、お主…ま、まさかその構えは…!」

 

「その、まさかだ!かめは、め、波ァァ‼︎」

 

 ジャッキー・チュンはヤムチャの手から放たれたかめはめ波によって一時引くことを強いられる。よってヤムチャは『萬國驚天掌』から逃れることができたのだった。

 

「くっ…!」

 

 ーードゴォォ‼︎

 

 そしてかめはめ波はジャッキー・チュンの手前に着弾。リングの中央を大破させた。

 

「な、なんというやつじゃ…。まさかかめはめ波を撃ってくるとは…!」

 

 一方のヤムチャは…

 

「はぁ…はぁ…くそっ…‼︎」

 

 かなりの体力を消耗させていた。息は荒くなり、体の至る所は焼け焦げている。だがヤムチャは片膝をついた状態でそこにいた。

 

「(まだ、まだ…‼︎俺は、負けてなんか…‼︎)」

 

 そして立ち上がる。ヤムチャのあまりの気迫に流石のジャッキー・チュンもたじろぐ他なかった。

 観客席からは歓声が上がり、悟空やブルマ達の歓声が一際大きく響く。

 ヤムチャは震えながらもお馴染みの構えを取り、ジャッキー・チュンに向かわんとする。

 

「行くぞ…‼︎狼牙、風…風…」

 

「もうよい。お主はよく頑張った。休め」

 

 ーードシュッ

 

 いつの間にかヤムチャの背後に高速移動していたジャッキー・チュンがヤムチャの首に手刀を打ち込む。

 流石のヤムチャもそれには耐え切れず、膝から崩れ落ちていった。

 ヤムチャがダウンするとすかさずアナウンサーはカウントを取り始める。

 

『ワン!ツー!スリー!』

 

「(動かない…!体…動け…動けぇ…‼︎)」

 

 ヤムチャには意識があった。必死に体を動かそうと地を這い蹲り、もがき続ける。

 

『フォー!ファイブ!シックス!』

 

「(勝つんだ…‼︎俺は、咬ませ犬なんかじゃない…‼︎)」

 

「頑張れー!ヤムチャー‼︎」

 

「ヤムチャーー‼︎」

 

「ヤムチャさまーー‼︎」

 

 会場中からコールが起こる。それに応えるかのようにヤムチャは片腕を地面につけ上体を起こしていく。

 

『セブン!エイト!ナイン!』

 

「お、おォォォォッッ‼︎」

 

『ヤムチャ‼︎ヤムチャ‼︎ヤムチャ‼︎』

 

 会場のコールがピークに達した時、ヤムチャは膝に手を置き、グググッと起き上がっていく。

 

「…」

 

 ジャッキー・チュンは何もせず、静かにヤムチャを見据える。

 

 そしてヤムチャは腕に力を入れ、一気に立ち上がろうとした…その瞬間だった。

 

 

 

 

 

「…ぁ」

 

 ーードサッ

 

 ヤムチャの腕から力が抜け、再び地に這い蹲る。

 そして…

 

『…テン!決まりました‼︎優勝はっ…じゃない、失礼いたしました‼︎ジャッキー・チュン選手、二回戦進出です‼︎』

 

 ーーワーワー‼︎

 

「ちく…しょう…‼︎畜生…‼︎」

 

 ヤムチャは身を震わせ、悔しさを吐き出すように地を叩きつけた。

 

 こうしてヤムチャの第21回天下一武闘会は…終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在ヤムチャ 3勝2敗




というわけで、ヤムチャ敗北です。感想欄にてヤムチャを応援する声が多かったので書いてて凄く苦しかったですねf^_^;)
しかしヤムチャの戦いは終わらない。第21回天下一武闘会は序章に過ぎないのだ‼︎


萬國驚天掌
ばんこくびっくりしょう、と読む。
両手から電撃を放つ。
かめはめ波と段違いの威力を持つ、亀仙流の最強技。
一度しか、それもジャッキーの姿でしか使わなかった技なので、残念ながら弟子達には引き継がれなかった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。