噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

31 / 71
知らないのか?大魔王からは逃げられない。


噛ませ犬の大ボラ

 よう、俺ヤムチャ。

 

 簡単に言うと…大魔王には勝てなかったよ…。

 悟空は序盤、一進一退の攻防を繰り広げこれは…もしかすると…みたいな展開もあった。しかしピッコロ大魔王の方は全く本気ではなかったらしい。

 本気を出した瞬間場の支配権はあっという間にピッコロ大魔王へと移った。悟空は顎への蹴りと撃ち墜としであっさりダウン。グッタリしたまま動かなくなってしまった。

 だめだ強すぎる…!当初のヤムチャプランがどれほど馬鹿なことだったかがよくわかる。こんなの俺たちが束になってかかっても勝てるはずがねぇよ…!賢将(笑)じゃねぇか。いや、それを通り越して恥将だな。

 

 っと、ピッコロ大魔王は悟空の胸ぐらを掴み上げ空へ投げ飛ばすと手に気を溜め、トドメを刺そうとした。アレをくらったら流石の悟空でも危ない。

 ………いくか!

 

「おいピッコロっ!こっちだー!!」

 

 ピッコロ大魔王に向かって叫ぶ。俺の声に反応したピッコロ大魔王は訝しげにこちらを見やると、悟空に放つはずだった怪光線をこちらに放った。

 俺は茂みから飛び出しなんとか回避する。背後から爆発音と叫び声が聞こえた。叫び声は多分ヤジロベー。

 やばいな…もし当たっていたら即死だった…!ヤジロベー?あいつは自力でなんとかするだろ。

 

「ほう、まだ仲間がいたか。だがアリンコが何匹増えたところで何も変わりはせん」

 

「へ、そうかい」

 

 ピッコロ大魔王に応答しつつも悟空に視線を向ける。ちょうど地面に落下してきたところでなんとか生きているみたいだ。よし。

 

「それではいくぞ!すぐに殺してやる!」

 

「まあ待てよピッコロ大魔王。一つ言わせてくれ」

 

 余裕たっぷりといった感じで語る。大物感を出すんだ。小物感をひた隠せ!

 

「もしもだ。その何匹いても変わらないアリンコどもの中に……毒を持っているのがいたらどうする?」

 

「…なにを言っている。貴様の戯言に付き合っている暇は…」

 

「その毒は貴様を間違いなく追いつめる。侮っていた矮小な存在の一噛みでな。そんな経験が貴様には…あるだろう?」

 

 そう言うと俺はポケットから小石(プーアル)を取り出す。そして敢えて大声で叫んだ。

 

「石よ、電子ジャーになれ!!」

 

 プーアルは俺の指示を汲み取り電子ジャーへと変化する。ピッコロ大魔王には俺が術が何かを使って手のひらに電子ジャーを出現させたように見えただろう。そしてなにより…

 

「で、電子ジャー…だと…!?ま、さか…貴様は……!!」

 

「毒が何か教えてやろうか?もちろん、魔封波だよ。矮小な存在が貴様のような強者に対抗するために作った…な」

 

 ピッコロ大魔王は明らかな怯えを見せた。効いてる効いてる!

 やっぱり閉じ込められたトラウマは効くよな!

 

「ここで俺からの提案だ。取引をしないか?」

 

「と、取引…だと?」

 

「一つ言っておくがお前に拒否権はない。少しでも拒否する姿勢を見せたら魔封波を使う。いいな?封印するのは一瞬だぜ」

 

 念押し。もちろんの事だが補足しておく。全て俺のホラだ。俺は魔封波なんて使えません。なんとかうまくピッコロ大魔王に引いてもらわねぇと…。

 

「まず、だ。お前は知っているかもしれんが、魔封波を使うとその使った術者は…死ぬ」

 

 多分人外なら死なない。天津飯とか神様とか天津飯とか。

 

「生憎、俺は死にたくないんでな。できれば魔封波は使いたくない。そこでだ、ここにいる人間全てを見逃し、このドラゴンボールを持って消えろ」

 

 地面に転がっているドラゴンボールを指差す。

 

「元々のお前の目的はドラゴンボールのはずだ。これが回収できればそれでいいだろう?もちろんお前が願いを叶えるのは俺にとってはあまりよろしくない事だが…背に腹はかえられん」

 

 強制的な取引とは言いながらもピッコロ大魔王にとってはかなり有利な条件だ。ピッコロ大魔王のデメリットは魔封波を使える戦士である俺を見逃すくらい。

 

「…悪くない条件だ。しかしだ、やけに話がうますぎる。お前が魔封波を使えなかったら?損するのは私ではないか。何しろ、私が貴様らを殺せばドラゴンボールは手に入るのだからな」

 

「俺が魔封波を使えなかったらな。お前はそこまでのリスクをおかしてまで俺と戦うか?リスクをおかして全ての懸念を消し去るか、安全をとって取引に応じるか。お前の好きにすればいい。ただし一つ言っておくが、俺は魔封波を使えるからな」

 

 ピッコロ大魔王は恐らく取引に応じるだろう。

 なにせ俺を殺す機会は今だけじゃない。若返った後に強化された我が子たちで殺してやればいいのだ。流石に今の俺ではあのでぶっちょ魔族が送られてきたら結構危ない。なにも今リスクをおかしてまで俺を殺す必要はないのだから。

 

「……よかろう。貴様の策略に敢えて乗ってやる。ここは貴様らを見逃してやろうじゃないか。しかし私が若返った暁にはまずお前から殺してやるからな。覚悟しておけ」

 

 そう言うとピッコロ大魔王はドラゴンボールを拾いに行く。もちろん距離を詰められるわけにはいかないので後ずさりし、等間隔を保ったままだ。

 ピッコロ大魔王はドラゴンボールを拾うと浮かび上がり飛行船へ。その後飛行船はどこぞへと飛んで行った。

 しかし参ったものだ…。思った以上にピッコロ大魔王は強い。しかもこれからもっと強くなるという…。化け物め!

 

「プーアル、ご苦労さんだ。よく頑張ったな」

 

「や、ヤムチャさま〜!ボク怖かったです…」

 

 プーアルもよくあの状況下でボロを出さず見事に電子ジャーになりきってくれた。ありがとう。

 

「おい悟空。生きてるか?」

 

「な、んとか…。すまねぇ…ヤムチャの、言う通りだった…」

 

 悟空の体はボロボロだ。骨も何本か折れてしまっているのではないだろうか…。

 取り敢えず今は仙豆だな。

 

「おーいヤジロベー。お前も生きてるかー?……死んだか」

 

 返事がない、ただのしかばねのようだ。

 ヤジロベー…あいつは…いい奴だったよ。

 

「生きとるわ!てめぇよくも声を出しやがったな!」

 

 と黙祷を捧げているとヤジロベーが茂みの中から黒焦げになって出てきた。うーん…頑丈。流石ヤジロベーと褒めてやりたいところだ。

 

「悪い悪い。けどああするしか悟空を助けられなかった。ところで、お前美味いものに興味はあるか?お詫びをしたいんだが…」

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「ーーーーというわけです。みすみすドラゴンボールをピッコロ大魔王に渡してしまいました。申し訳御座いません」

 

『いや、よい。ピッコロと遭遇して命があっただけでもラッキーじゃ。それに悟空も生きておった。まだまだ希望はあるわい。それにしてもお主…魔封波でピッコロを脅すとは…やりおるのう」

 

 無線で武天老師と通信する。悟空が生きていた旨と一部始終を報告しておいた。

 あちらはすでに残りのドラゴンボールを集め終わったらしい。つまり…ピッコロ大魔王と鉢合わせることになる。

 

「それほどでもありません。取り敢えず武天老師様たちはドラゴンボールをそこらに捨てておいてください。鉢合わせることになれば間違いなく殺されます。目の当たりして分かりました、奴には…勝てません」

 

『…わかっておる。じゃが、引くわけにはいかん。ワシには奴を倒す義務があるからのう。なあに心配せんでもいい。ワシは不老不死の薬を飲んでおる。死にゃせんよ』

 

 …嘘だということはわかっている。だが…

 

「…わかりました。しかし…無茶はしないでくださいよ?」

 

『うむ。それではの。……もしもの時はこの世界を…頼むぞい』

 

 通信は切れた。

 武天老師様の言葉からは強い意志を感じた。死んでも刺し違えるという強い意志が。

 それを俺が否定し止めさせるのは無粋なことだろう。

 

 

 

 

 

 ただいまジェット機にてカリン塔を目指して飛んでいる。搭乗員は俺、プーアル、悟空、そしてヤジロベーだ。なんだかんだでヤジロベーには仙豆の存在を教えとかないといけない気がする。

 

「おいヤムチャ。その仙豆とかいうのがあるカリン塔はまだか!」

 

「あとちょっとだ。我慢しろ」

 

「俺は腹ペコなんだよ!食うもんがねぇならこの猫みたいなのを食うぞ!」

 

「ひいぃぃ!?ヤムチャさま〜!!」

 

「てめぇ!プーアルに手ぇだしたらぶち殺すからな!!」

 

 ヤジロベーがなにやら恐ろしい事を言っていた。マスコットを食うって…お前正気か?快男児もここまでくると恐ろしい…。

 

 まあしかし、これなら原作よりも早くカリン塔につけそうだな。ヤジロベーのエアカーよりもジェット機の方が断然スピードは速いし。

 悟空強化は早いに越したことはない。気をつけるべきは天津飯が一人で突貫しないようにしておくことだな。

 悟空を半殺しにしては仙豆を食わせるっていう強化法もあるけど…それはちょっと…な?

 当の悟空は空を見たままポカーンとしている。よっぽどダメージが大きかったか。頭からモロに落ちたからなぁ…………ん?

 

「悟空…どうした?」

 

「…わかんねぇ…けどなにか…」

 

 …まさか、と思った時だった。空が急に暗くなり世界は闇に包まれた。この現象…俺は知っている。これは…

 

「神龍か…?てことはピッコロ大魔王が願いを…」

 

 ああなるほど。さっきの悟空の様子の理由がわかった。多分武天老師様が死んでしまったのだろう。そして餃子も。…また助けることができなかったか。

 原作通りに進むってのは安心すると同時に腹ただしい。俺の存在程度じゃ変えることはできないと言われているみたいで。

 

 

 

 

 この世界を生きていく中、常々考えてきた。そして桃白白の出現でとある確証を持つことができた。

 

 原作の流れっていうのは、そう簡単には変わらない。俺が起こした些細な違いは修正力というべき力によって修正されてしまっているのかもしれない。なんか--仁--を思い出した。

 

 だがでかい出来事…つまり本来出会うはずのない(ヤムチャ)が桃白白を倒すという本来の原作から大幅にずれた展開。これを成し遂げた時、原作は明らかなズレを見せた。

 そう簡単には未来を変えることはできない。だが、頑張れば未来は変えることができるんだ。まあ仮説だけどな。

 俺が活躍する未来を作っていくというのは決定事項。だが…その過程で仲間を見殺しにしてもいいのか?ともに飯を食い、ともに技を磨き、ともに敵と戦う。そんな仲間たちを見殺しにしてもいいのか?答えは…もちろんNO。俺の心が罪悪感でマッハだし、仲間を救う上で活躍できるしな。

 

 つまりだ。俺は決心したわけだ。原作を自らの手で変えてやろうってな。その幕開けとする予定だったヤムチャプランは一発目から空ぶったけど。

 ズレが怖くてこの世界やっていけるかってんだ!まだまだだが俺もそれなりに力をつけた。現段階でのイレギュラーになら対処し得る。

 やっていこう。もっと活躍していこう。仲間も助けていく。フォローもしていく。汚い手もどんどん使う。

 クリリンたちの死で吹っ切れた。これからは自重なしだぜ。

 なんたって、頑張れば未来は変わる。

 噛ませ犬でも頑張れるのだから。

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 しばらくして空は再び明るさを取り戻した。

 恐らくピッコロ大魔王は若さを取り戻したのだろう。あー怖い怖い。俺の乏しい想像力じゃアレ以上なんて考えつかないぞ。まあ、まだまだ上がいるのは知ってるんだけどね。

 

 カリン塔に着陸するとボラ親子に俺たちは迎え入れられた。相変わらずみたいでなによりだ。

 プーアルにはここに残るよう勧めたが、ここまで来たら一緒に来たいという訳で同行だ。まあプーアルは重さなんてほとんどないから俺が担いであげれば余裕だけどな。それにプーアルがいてくれると帰りが何かと楽だし。

 

「それじゃ悟空とプーアルは俺につかまってくれ。あっという間に登っちまうからな」

 

「おい、俺はどうなる!こんな塔の上に仙豆とかいうのがあるなんて聞いてねえぞ!!」

 

「まあ来ないんだったらそれでいいぜ。仙豆は俺で独り占めだけどな」

 

 そうとだけ言うと俺は悟空とプーアルを背中につかまらせ一気に上へと駆け上がる。途中下を覗くとヤジロベーが渋々ながらも付いてきていた。流石はヤジロベーと褒めてやりたいところだ。

 んじゃ、どんどんペースを上げていこうかね。

 

 




なんか最近スランプ気味かなーなんて思う作者です。やっぱり精神状態に関係してくるのかな…。


ピッコロ大魔王
無印のラスボスといえばこの人。ピッコロと同一人物みたいなもんだからいいよね。
無印では考えられないほどの高火力技が素晴らしい。あれはかなりの絶望を与えてくれました。ヤムチャなんかとは大違い!
ドラゴンボールヒーローズでワンターンキルされたのは苦い思い出。これでもやりこんでたんですけどね…。大魔王には、勝てなかったよ…。

魔封波
武泰斗様は偉大です。これ魔人ブウに使ったら封印できそうですね。気が多ければ死なないのでしょうか…?天津飯は(空とはいえ)何回も使ってましたし。人外だから?やはり化け物か…


日曜洋画劇場であってましたね。とても面白かった。流石にあれほどには歴史の修正力は強くありません。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。