噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

33 / 71
何気に初のヤムチャ視点と三人称視点以外の視点ですね。
なお副題は無双OROCHIをパロってたりパロれてなかったり。



YAMUCHA無双

 世界の人々は大混乱に陥った。

 数百年に渡り世界を統治し、安寧と平和をもたらしてきた国王政府がたった今、ピッコロ大魔王と名乗る巨悪の手に落ちたのだ。

 ニュースは世界中を駆け巡り、東西南北、全ての人々に大きな衝撃を与えた。

 ある人は逃亡の準備を始め、ある人は家族と抱き合い恐怖におののき、ある人は巨悪を打ち倒さんと息巻いていた。

 しかし大魔王に矮小な一般市民の思惑など関係ない。邪魔な者は消す。目障りな者は消す。弱者は甚振る。ただそれだけで十分。

 これからの世の中は力が物言う世界だ。まさに大魔王の独壇場。

 ここに、ピッコロ大魔王を元首とするピッコロ帝国が誕生したのだ。

 

 記念すべきピッコロ帝国建国記念の日、ピッコロ大魔王が初めに出した命令は…とある男を殺すことであった。

 

 ピッコロ大魔王の天下を脅かす存在はもはやただ一つ。

 それは魔封波である。

 究極の封印術、魔封波。その使い手に数時間前に会ったことは事実。危うく封印されるところであったがことなきを得た。

 その術者は気を使い果たし、惨めにも死んでいったがこれで安心とはいかない。その術者よりも前に魔封波使いを名乗る男とピッコロ大魔王は邂逅していたのだ。

 その男が魔封波使いである証拠は自身がそう名乗ったこと以外には無い。しかしその当時の老いた姿ではリスクが高い、そう判断したピッコロ大魔王は男を見逃した。しかしその後、魔封波使いの老人が現れたことで例の男が魔封波を真に使える可能性は高まった。間違いなく、現代まで魔封波は受け継がれているのだ。

 

 全てを手にした帝王が次に欲するもの。それは永遠の安心である。

 ピッコロ大魔王がこれから生きていく上で、その男ほど厄介で目の上のコブである存在は無い。よって消す以外の選択肢は無いだろう。

 

「大魔王様…西の都遠征軍の準備が只今完了いたしました」

 

「ほう…早かったな。褒めてつかわす」

 

 ピッコロ大魔王が現代に復活した際一番最初に生み出した息子、翼竜の頭を持つピアノが国王の座る椅子に腰掛けたピッコロ大魔王にそう告げた。

 

 西の都遠征軍に構成されるのはその全てがピッコロ大魔王の息子である。直前に大魔王が産みに産み出したその数総勢300匹。相貌は総じてトカゲのような体色をしており、中には羽があるもの、ツノがあるもの、体格が大きいものなどバリエーションに富んでいる。そしてその1匹1匹が百戦錬磨の武闘家を撲殺できるほどの実力を有しているのだ。

 ピッコロ大魔王はピアノの報告に満足そうに頷くと重い腰をあげた。どうやら大魔王自身も出陣するようだ。ただしピッコロ大魔王は後方からの高みの見物である。

 自分の息子たちの実力ならばあの…ヤムチャとかいう男を殺すことは容易いだろう。しかし万が一のことはある。自らの目でヤムチャの死んだ姿を見届けるまでは安心できないのだ。

 また仮に西の都からヤムチャが逃げ出していたとしても見せしめの意味で住民の殺戮後、都を吹き飛ばさなくてはならない。もっとも、ヤムチャが居ても居なくても西の都が消し飛ぶことは決定事項なのだが。そういったわけでピッコロ大魔王直々の出陣である。

 

 ピッコロ大魔王は宮殿の庭に一同集う我が息子たちを見回し、一瞥すると握りこぶしを作り、高らかに宣言を言い放った。

 

「息子たちよ、これより世は暗黒の時代…我々の時代だ!!殺せ!奪え!破壊しろ!絶望を与えよ!老若男女問わずだ!人間どもに再び魔族の恐ろしさを叩き込んでくれよう!!そして…ヤムチャなる男を消すのだ!!魔封波使いが絶滅した時、永遠のピッコロ帝国が誕生する!!さあ行くぞ!!」

 

『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!』

 

 魔族の咆哮が大地を揺らし大気をビリビリと振動させる。

 蠢めく魔族の群れはもはや地獄絵図に等しかった。

 その光景をキングキャッスル上空を飛行する二機の飛行機が捉えていた。

 

 一つはTV局の中継機である。この惨状をリアルタイムで全世界へ恐怖、絶望とともに配信しているのだ。ピッコロ大魔王はその存在に気づいているが、全世界の人間どもにこの軍勢を中継できるのならば儲け物だ…と敢えて放置している。

 

『な、なんということでしょう…!あの異形の化け物たちを見てください!こ、こんな化け物が本当に存在するのでしょうか…?存在してよいのでしょうか…!?今、あのおとぎ話が現実になろうとしているのです!!西の都の皆さん!直ちに避難をしてください!!繰り返します!直ちに避難をーーーー』

 

 切迫したアナウンサーの言葉と映像が見事にマッチし、この世の終わりかと見違うばかりの地獄絵図をさらに引き立てる。

 

 そしてもう一機の飛行機には…魔封波を習得した三つ目の戦士が搭乗し、場の戦局を見極めようとしていた。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 眼下に映るのは魔族、魔族、魔族…。そして憎き悪の権化、ピッコロ大魔王。

 奴を見るたびに怒りで頭がどうにかなりそうになる。この手で殺してやりたい。いや、せめてでもこの手で封印してやりたかった。

 

 しかし甘かった。完全に考えが甘かったのだ。

 何がピッコロを必ず封印させるだ。何が餃子と武天老師様の仇を討つだ。

 あんな化物どもをどうしろと言う?あれほどの人数を前に魔封波など使えるわけが無い。戦ったとしても嬲り殺されて犬死だ。

 

 自分でも己の戦意がへし折られていることに気づく。それがなお、自分を腹立たせた。武闘家の誇りを失いかけている自分にも。

 だがそれよりもっと腹立たしいのは自分の無力さだ。

 

 …悔しいがここは退くしかない。日を改めて機を見るのだ。西の都は見捨てることになってしまうが……クソッ!

 惨めだ…自分が惨めでならない。仲間の仇を前にしておずおずと引き下がるとは。

 

 苦渋の決断を下し、おめおめと引き下がろうとしたその時だった。

 俺の搭乗する機体のすぐ横を新たな飛行機が猛スピードで飛行し、あっという間に抜き去っていった。

 TV局関係の飛行機だろうか。そう思ったその時だ。

 なんとその飛行機から一人の男が飛び出し、大空へダイブした。

 操縦者を失った飛行機は自動操縦となり、何処かへと消えていったが今気にするのはそこではない。

 現在自分たちが飛行している場所は高度数百メートル高層域だ。その高さから落ちたのなら恐らく常人ならばひとたまりもないだろう。

 しかし、その男は地表に接する直前に減速し、何もないように地に降り立った。そして悠然と魔族たちの前に立ちはだかったのだ。

 

 俺は…この男を知っている。

 橙色の亀の文字が刷り込まれた胴着に身を包み、油断なく構える猛獣のような眼光を持つ戦士。

 

 俺は驚きのあまりポツリと言葉を漏らした。

 

「ヤムチャ…!?」

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 おーす。おすおすおーす。俺はヤムチャだ。

 

 今の状況を説明しよう。

 軽く五回は死ねる。

 

 ちょ、ちょっと調子に乗り過ぎたかなぁー…?かっこよく登場できたのは良かったけど、そのおかげで俺は全魔族からの視線に晒されている。どいつもこいつも気持ちの悪い風貌をして、ケケケと変な笑みを零しています。はい。

 しかも全員目がギラギラしている。あれは捕食者の目だ。「ザマァなことなんだけど今から俺たちに嬲り殺しにされるんだよな」っていう目だ。実際そうだけどさ!

 

 ていうかなんで軽く100体はいそうな魔族軍団が結成されてるの?俺あの太っちょ魔族だけだと思ってたよ?いつからドラゴンボールって無双シリーズになっちゃったの?「ヤムチャ…お前こそが真のナンバーワンだ!!」ってか?ベジータは黙ってろ畜生め!!

 

 ふと奥を見るとピッコロ大魔王がそれはそれは見事な笑顔を浮かべていた。あら、いい笑顔。

 

「クハハハハ!男よ、まさか貴様からこちらに出向いてくるとは思わなかったぞ!!おかげでこちらの手間が省けた!!」

 

「ほう光栄だな。こんな団体様で俺のお出迎えを計画しててくれたのか?そりゃ嬉しいもんだ。計画を台無しにしてすまないな」

 

「なぁに、心配しなくてもよいぞ。どこで貴様と出くわそうとも、お前が死ぬ未来に変わりはない」

 

 うーん…大魔王!

 いい具合に絶望と恐怖を植え付けてくる。逃げ出したい気分でいっぱいなんだが…残念、俺は知っている。大魔王からは逃げられない。

 

「さて御託はこれくらいでいいだろう。ドラムよ!奴を完膚なきまでに殺せ!!」

 

「はい大魔王様」

 

 するとドラムと呼ばれた太っちょ魔族が腕を上げ、魔族たちに指示し俺を円形に囲んでゆく。

 あー…囲まれちゃいましたわ。威圧感が凄い。

 ピッコロ大魔王があの太っちょ魔族…ドラムとか言ったっけ?そいつに指示を任せたところを見るとあいつがこの軍団の総大将と見ていいのかな?いや、総大将はピッコロ大魔王だった。ならあいつは指揮官か。

 

 さてはっきり言おう。この戦い、勝てる気はしない。ただ、負ける気もしない。これから俺がやるのは悟空が来るまでの…ひいては悟空がピッコロ大魔王を倒すまでの時間稼ぎだ。

 こいつらを一網打尽にすることはできないだろう。しかしこいつらをキングキャッスルに留めることはできる。

 幸運にも超神水のおかげでパワーアップを果たしている俺にはこいつら一体一体ならば簡単に倒せる程度の実力になっている…筈だ!戦闘力1000の戦士と戦闘力100の戦士20人。どっちが強いかと言われると戦闘力1000の戦士に軍配が上がるのがこの世界だからな。

 立ち回り次第ではピッコロ大魔王に一矢報いることができるかもしれない。

 

「さあ来いよ。ここらで調子に乗るのはいい加減にしろってところを見せてやるぜ!!」

 

「ふん、戯言を!ドラム、殺れッ!!」

 

「かかれー!!」

 

『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!』

 

 …やっぱこえぇ!!

 しかし残念!大魔王からは逃げられないのだ!

 

 




ゲームボーイアドバンスの悟空少年期のゲームでこういうイベントがあったなー…と思い出しヤムチャにやってもらう。ご愁傷様。
モブ魔族たちはタンバリンの半分くらいの強さかなと設定してます。ドラムの実力はそのまま。


ピアノ
何故かこいつだけ名前を覚えてた。本当になんでこいつだけ覚えてたし。参謀役みたいだが地割れに巻き込まれて死亡。

ドラム
太っちょ魔族。途中で名前を思い出した。天津飯を一蹴するなどポテンシャルはかなり高い。またアニメ版では魔封波からピッコロ大魔王を守っており忠誠心もかなりのもの。またその際にピッコロ大魔王に助けてもらうなど確かな信頼関係が伺える。あれ?こいつ凄くね?




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。