噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

40 / 71
みんなもヤムチャになったら絶対これはしたいだろう?
誰だってそーする。私だってそーする。


足元がお留守縛り

 よう、俺ヤムチャ。

 

 欲に捕らわれるというのは別に人間としては悪いことではないと俺は思う。

 ”人間というのは実に欲に対して忠実な生き物である”。

 これはよく人間を卑下して言われる言葉ではあるが、逆に言えば欲に忠実であるからこそ人間らしいというわけだ。

 

 つまりつまり、俺が今とある欲望に燃えているのも正常なことであって、それを遂行するにあたって少々問題ある言動をしたとしても人間的には全く問題なしというわけだ!

 何が野望かだって?そりゃ勿論、神様に地面を這い蹲りまくってもらうことだよ!

 下半身がお留守?わざとだよクソ野郎!狼牙風風拳はそういう仕様なんですよォ!狼に撤退はないから脚を使う必要はないんですゥ!てかいっつも思ってたがよお、前半の金的のくだりはいらねぇだろ!油断を戒めたかったんならもっとマシな方法があっただろうが!悪意しか感じねぇんだよコンチクショウめ!

 

 …とまあ、つまりだな…自重はなしってことで…よろしく。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『えー…それでは続いての試合を開始します!ヤムチャ選手対シェン選手です!どうぞ!』

 

 規格外の試合が続きかなりテンションの湧いていた観客であったが、その男の名を告げられた時、会場のボルテージはマックスに到達した。

 観客席からはヤムチャコールが鳴り響き、英雄の登場を渇望する。

 

「なあ…なんでヤムチャってこんなに人気なんだ?」

 

「あー、お前は天界にいたから知らないよな。ピッコロ大魔王を倒したのはヤムチャさんって世間では思われてるんだよ。ピッコロ大魔王を倒した肝心のお前はいないしさ。なんでもヤムチャさんはそういう社会的な注目みたいなのでお前のこれからの修行や生活を邪魔させたくなかったらしいぞ」

 

 悟空の疑問にクリリンが答える。

 実際にはヤムチャが悟空の手柄を掠め取ったように見えなくもない。

 しかし3年前の生放送や彼の日常生活を見ていると彼はこのような待遇を真に望んではいないことがよくわかる。悟空のことを世間にあまり知らせなかったのも一重に悟空を思ってのことだ……多分。

 

 瞬間、会場はワッという歓声に包まれた。英雄が登場したのだ。

 

『ヤームチャ!ヤームチャ!ヤームチャ!』

 

 ヤムチャコールが鳴り響く中、当の人物ヤムチャはどこか様子がおかしかった。

 いつもの落ち着いた姿はそこには無く、野望に燃える一人の武闘家の姿があった。

 隣を追随するシェンは不可解に思いながらも、ヤムチャが自分に対し油断していないことを感じ取っていた。しかし油断していないことはいいことだと考えるだけでヤムチャをあまり危険視せず、次の試合でのピッコロ封印への手筈を考えていた。

 

 リング中央で両者向かい合う。

 ギャラリーからしてみればこの戦いの勝者は決まったようなものである。勝者は勿論ヤムチャ。どこぞの馬の骨とも知らぬおっさんが英雄に傷一つ付けることなど出来るはずがない。

 

「どーも、よろしくお願いします」

 

「…よろしく」

 

 陽気に挨拶するシェンに対し、ヤムチャは能面のように表情を崩さない。その顔から彼の心境を読み取ることは出来ない。

 

『それでは、始めてくださーい!!』

 

 グラサンアナウンサーが試合の開始を告げる。しかしヤムチャは棒立ちのまま微動だにせず、シェンは不恰好な構えを構える。なんとも言えない構図だ。

 

「おや?こないのですか?」

 

「どうぞどうぞ。そちらから攻撃してください」

 

 ヤムチャは能面のような表情を崩し朗らかな笑みを浮かべると、先手をわざわざ譲った。

 その様子はなんとも不気味であったが、先手をくれるならばとシェンは甘んじてそれを受け入れる。

 最初はこの姿に油断しているようであればおちょくり、それを戒めようと考えていたが、ヤムチャが決して油断していないことを把握しているので初っ端から本気である。

 

「それでは……フッ!!」

 

 人々の視線を置き去りにシェンは超スピードでヤムチャに接近し、肘打ちをかまさんとした。

 

 瞬間、シェンの視界は…世界はひっくり返った。

 いつの間にかヤムチャの前に屈していたのだ。

 

「な、なに…!?」

 

 状況を飲み込めなかったシェンであったが、すぐに現在と直前までの情報を照らし合わせた。

 肘打ち自体は手応えがあった。しかしその一撃はヤムチャにガードされたようだ。その後に脚へ衝撃を受け転倒した。恐ろしく速い脚払いで頭の認識が追いつかなかった。

 

「すみませんね…どうにも足元がお留守でしたから…」

 

 ヤムチャがなにやら言っているがそれはありえない。

 速く強い一撃を繰り出すには足腰の力が重要になる。先ほどの状況で足元への注意を散漫させるはずがないだろう。シェンが足払いによって転倒したのは一重にヤムチャの身体能力によるゴリ押しである。

 

「なるほど…相当な実力をお持ちのようだ。はっきり言って想像以上ですよ」

 

「いえいえ。一般人の体でありながらそこまでスペックを引き上げることのできるあなたも凄いですよ。想像以上とまではいきませんが」

 

「…!なんと…」

 

 シェンは既に自分の正体がヤムチャに露見していることに驚愕する。

 思えば精神と時の部屋のことを事前に知っていたり、仙豆を大量に生み出す術を披露してみせたりとなんとも不思議な人物ではあった。

 なるほど…と、自分がヤムチャの器を見誤っていたのをシェンは…神様は認めた。

 

「…確かにお主は強い。しかし、私は負けるわけにはいかんのだ。この世界のためにも」

 

「…」

 

 シェンは再び超スピードでヤムチャに接近し攻撃を仕掛ける。ヤムチャもそれを迎え撃ち、激しいラッシュの撃ち合いとなった。拳と拳がぶつかり合うたびにリングに打撃音が鳴り響く。

 消化試合と思われていた試合でのあまりにも高度な戦闘にヤムチャコールを叫んでいたギャラリーたちはポカンと口を開けるのみ。それは選手たちも同じだった。

 

「お、おい…あのおっさん何者だよ…!あのヤムチャさんとここまでやり合うなんて…!」

 

「両者ともに信じられんほどの強さだ。だがやはり…」

 

「ああ、ヤムチャがおしてる。スピードが段ちげえだ」

 

 悟空の言うとおりである。

 ヤムチャの方が遥かに拳のスピードが速い。観客からなら拮抗しているように見える両者であるが、戦士たちからは動作の一つ一つからヤムチャの優勢を見て取れた。しかもヤムチャは汗ひとつ流していない。大いに余力を残しているのだ。

 

「よっ!」

 

「クッ…!」

 

 隙を見つけたのか、ヤムチャが足払いをかけシェンが二度目の転倒を許してしまう。

 シェンは転倒しながらも距離をとるべく手を地に付け跳ね上がり、復帰を試みた。しかし…

 

「まだまだっ!」

 

「なにっ!?」

 

 ヤムチャは行動を先読みし、シェンを追撃。予想した着地点へと着地したシェンの足を巧みに払う。バランスを崩したシェンは苦い顔をしながらも再度距離をとることを試みるが、その全てをヤムチャに読まれてしまい足をその度に払われてしまう。

 ヤムチャは地に足をつけることすら許さなかったのだ。

 

「足元が、お留守ですよっ!」

 

「別に、お留守ではなかろう!」

 

 シェンの悲痛な叫びはヤムチャに届かず、足をまたもや払われる。

 しかしシェンは非力な人間に憑依していても、老いていても、腐っても神様なのだ。なすがままにされるわけがない。

 足を払われ空中に浮かんだシェンはヤムチャの逆方向に気功波を放ち、逆噴射により勢いをつけた膝蹴りを顎へとぶつけた。

 

 流石のヤムチャもこれは効いたらしく大きく仰け反ったが、それでもなお空中に浮かぶシェンの足を払い、リングへと落とした。

 しかし空中で態勢を崩されながらもシェンはリングに足をつけた途端、弾けるようにリングを蹴りヤムチャへラッシュを仕掛ける。

 顎を蹴られ態勢を崩していたがためにヤムチャは無防備であった。よって激しい攻撃を受けることになる。シェンの一撃一撃でヤムチャの体が揺れているのを見るにかなりの威力であろう。

 そしてシェンは最後に鋭い一撃を放った。その一撃は深々とヤムチャの腹へと突き刺さり、リング外に向かって吹き飛ばす。

 しかしヤムチャは吹き飛ばされながらも手をリングにつけ、摩擦力によって吹き飛ぶ勢いを殺すと先ほどのシェンのように足をリングにつけた途端、弾けるようにリングを蹴り、シェンへ接近。シェンの動体視力を超えるスピードでの足払いを放ちまたもや転倒させた。

 

「いてて…今のは効きましたよ。素晴らしい攻撃でした」

 

「……何を言うか。今のでダメージをそれほどしか食らっていないのなら私に勝機などありはせん。しかもお主が私に繰り出したのは足払いのみ。悔しいが…この体ではお主には勝てん」

 

 パンパンと服を払いながらシェンは立ち上がる。戦意がない相手を攻撃するわけにはいかないのでヤムチャは足を払わなかった。

 

「神が人を頼る…か」

 

 嫌にスッキリとした表情でシェンはそう告げると、ガクンと項垂れリングに倒れ伏した。

 

 神様は無理にここでヤムチャと競り合って双方ともに体力を消費させるより、ヤムチャを万全の状態でピッコロとぶつけた方が目的は達成されやすくなると考えたのだろう。

 もしヤムチャがピッコロに敗れ、さらに悟空が敗れた場合は、その時こそ魔封波を使えば良いのだ。

 それを悟った神様は憑依を解いたのだろう。

 

 シェンが急に倒れ伏したことにあわてるアナウンサーであったが、やがてダウンと判断しカウントを開始。カウント10によりヤムチャの勝利となった。

 

 試合が終わるや否や、ヤムチャは仙豆を取り出しシェン…いや、おじさんに食べさせる。そしてトントンと背中を叩く。

 

「大丈夫ですか?起きてください」

 

「う、う〜ん……ん?……や、ヤムチャさん!?」

 

 起きた瞬間、目の前にいたヤムチャに驚き飛び上がるおじさん。ヤムチャはその姿に苦笑すると手を差し出した。

 

「いい試合でした。またいつか」

 

「へ?いや、えっと…」

 

 戸惑うおじさんであったが握手を断るわけにもいかないので手を握る。その瞬間、会場はワッと湧いた。

 

「凄かったぞー!」

 

「ヤムチャに一撃入れるなんて凄え奴だ!」

 

「へ?」

 

 会場での反応にしばらくポカーンとしていたおじさんだったが、ハッとするとヤムチャにへこへこしながら恥ずかしそうにリングを降りていった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 よし、ノルマ達成。

 無理矢理神様の足元をお留守にしてやったぜ!凄え罰当たりな気もするけど…まあいいよな。

 いやー長年のしこりが取れたよ。神様に「足元がお留守ですよ?」って言ってやるのが俺の昔からの夢だったんだ。

 

 さて、軽く神様を一蹴してやったわけだが…これは通過点にすぎない。俺は準決勝で無印を終わらせる気満々だぜ。

 一番最初のボスが最後に決勝戦で主人公の前に立ちはだかる…ロマンティックだろう?まさに王道だ。

 

 …ん?(ヤムチャ)はドラゴンボール最初のボスだろ?君たちは何を言ってるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤムチャ現在 10勝3敗




足払い縛りで神様(シェン)に勝利。この調子で優勝まで突っ走りますかね!(露骨なフラグ)

この小説、元は「UA数がヤムチャの戦闘力を越えればいいなーw」ぐらいの気持ちで書き始めたんですが…いつの間にかフリーザ様の戦闘力を超えちゃってるじゃないですかやだー!
なんていうか…ありがとうございますね?

評価感想ビシバシお願いします!執筆関係でもリアル生活関係でも作者の救いになります!
あ、優しく叩いてね?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。