噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

43 / 71
くそ…頭が痛いッ!吐き気もするッ!
だが小説!書かずにはいられないッ!
そんな心境で書いたので…ね?


噛ませ犬vsピッコロ②◆

 ピッコロは焦燥していた。

 なぜだ、なぜ自分はこの男に苦戦している?

 自分の世界征服への障害は孫悟空のみ。孫悟空さえ倒せばこの世界は手に入ったも同然であり、こいつ(ヤムチャ)三つ目(天津飯)は前菜のようなものだったのだ。

 

 それなのに、なぜだ。なぜ、自分はこの男に野望を砕かれようとしているのだ?

 

「うぉらァッ!!」

 

「グボァっ!?」

 

 ヤムチャの拳がピッコロの腹へ深く減り込んだ。

 あまりの衝撃に前のめりになり悶え苦しむピッコロであったが、ただで殴られたわけではない。苦しみながらもヤムチャの顔へ強烈な一撃を与える。しかしヤムチャは仰け反り数歩後退したが口から少量の血を流すだけでダメージ自体は軽いものであった。

 仲間たちはワッと歓声の声を上げる。

 

「やった!重いのが入った!」

 

「勝てる…勝てるぞヤムチャ!」

 

 その声援もまた気に入らないのだろう。

 ピッコロは青筋を立てるとヤムチャに向かって気功波を連続で放つ。

 しかしヤムチャはその気功波を次々と弾き飛ばしてゆく。弾き飛ばされた気功波は地面に着弾し、高密度のエネルギーが大地を抉る。それに伴い土煙が発生しリングを包んだ。視界が失われてゆく。

 ピッコロはこれを好機と見て腕を伸ばし土煙に紛れての攻撃を敢行した。しかし

 

「見えなくても分かるんだよッ!」

 

 視界が塞がれているにも関わらずヤムチャはピッコロの攻撃をタイミングよく捉え、手刀で切り裂いた。

 

「ぐ…ッ!!おのれぇ…!!」

 

 ボトリとピッコロの腕はリングに落ち、青い血が噴き出る。ピッコロは痛みに荒い息を吐きながらもすぐに腕を生やした。

 しかし腕の再生にもまたエネルギーは必要である。またさらにピッコロは不利になってしまったのだ。

 

「どうした、まだやるか?もう勝敗は見えているが…」

 

「黙れッ!このオレ様が貴様なんぞに負けるはずがないだろう!少し強くなったからといって…調子に乗りおってぇ…!!」

 

 そう言うもののピッコロの手数は減っていくのみ。完全にジリ貧の状況へと追い込まれてしまった。

 体力、パワーをはじめとしたものは恐らくピッコロの方が上である。しかしスピードと技のキレにおいてはヤムチャの方が格上。この二つを圧倒できていれば戦闘展開は大抵、後者有利に進むものだ。

 だからこそ、ピッコロは正攻法ではヤムチャに勝つのは難しい……そう認めざるを得なくなったのだ。

 

「はあぁぁぁぁぁ…!!」

 

 ピッコロは全身に妖力を込めてゆく。すると…

 

「うおっ!?」

 

「で、でけえぇ!!?」

 

 ピッコロはみるみるうちに巨大化していき、20メートルほどの巨人に肥大した。

 そのあまりの迫力に場にいる者たちは圧倒される。それはヤムチャとて例外ではない。

 

「ふははは!どうだ、これでは貴様もミジンコ同然よ!!」

 

 巨大化したピッコロの口から発せられる声は空気をビリビリと揺らし、その存在感をさらに裏付ける。

 そしてピッコロはヤムチャにむかって脚を振り下ろした。ただ脚を振り下ろしただけ、しかしピッコロにはそれだけで十分なのだ。

 

 ヤムチャは素早く横にステップしピッコロの足踏みを躱す。

 その巨大な脚がリングを打ち付けるたびに地は隆起し、その原型を失ってゆく。

 

「ちっ、スピードはそのままか!厄介なことこの上ねぇな!」

 

「どうした、まだオレ様は足踏みをしているだけだぞ!ふんッ!」

 

 続いてピッコロは拳をヤムチャへと振り下ろした。

 一撃の被撃でも戦闘不能に追い込まれる可能性は十分にある。ヤムチャは必死に拳の雨を掻い潜り突破口を探る。

 

(くそ…巨大化がここまで面倒だとは…正直予想外だったぜ。だがな俺だってなんも考えないでお前と戦っているわけじゃない。大猿をはじめとして巨大化する野郎は何人でもいるんだからな)

 

 ヤムチャは素早く軽快なステップを踏むとピッコロの足に向かって走り始めた。

 勿論ピッコロとて巨大化に置いて足元に入られるのは痛手であることは十分承知している。みすみすヤムチャを潜り込ませるようなマネをするはずがない。

 

「馬鹿め!蹴り殺してくれるわ!」

 

 ピッコロは脚を大きく振り上げ、ヤムチャ目掛けてその巨脚を振るい放った。恐らくそれを真正面から受けては命がないだろう。

 ヤムチャは途中、大きくステップを踏んで進路を変更しピッコロの蹴りをなんとか躱そうとする。

 しかしなんとピッコロはヤムチャがステップを踏んで躱したのを見極め、無理矢理蹴りを放つ方向をヤムチャに合わせて調節したのだ。

 

「嘘だろ!?その巨体でそんな緻密な動きを…!?」

 

 ヤムチャは思わず困惑の声を口走るがそんなことをしている場合ではない。横へ軽い気功波を放ち、その推進力でヤムチャもまた無理矢理進行方向を曲げ、間一髪で蹴りを回避する。

 しかし振りかぶった脚による瞬間的な暴風はヤムチャを空へと巻き上げた。

 

「うお…お、おぉ!?」

 

「もらった!死ねいッ!!」

 

 空へと吹き飛ぶヤムチャをピッコロの巨拳が捉えた。

 物々しい打撃音が会場に響き渡った。

 その凄まじい衝撃にヤムチャは全身にくまなく強烈なダメージを受け、会場外へと空を切り裂きながら飛んで行く。

 

「勝ったっ!!今の一撃は人間には耐えきれまい!!」

 

 その確かな手応えにピッコロは口角を吊り上げ、勝鬨を上げた。

 戦士たちはその絶望的な光景に唖然とし、立ちすくんでしまう。

 ピッコロはそれらの姿を見てさらに笑みを深くするとビリビリと大気を震わせ、大声で言い放った。

 

「さあ孫悟空、次は貴様の番だ!オレ様と戦えッ!!」

 

 場の全員がヤムチャの吹き飛んでいった方向を見て、悟空を見た。一心に全てを賭けるような眼差。残された希望は悟空しか存在しないのだから。

 しかし肝心の悟空は微塵にも動じてなかった。

 ただただ真剣にヤムチャが吹き飛んでいった方向を見据え、観察している。ピッコロがその姿を不可解に思った、その時だ。

 ピッコロのナメック星人としてのその耳は謎の噴射音を捉えた。ピッコロはハッとし、ヤムチャの吹き飛んだ方向へ振り返る。そこには…高速かめはめ波による逆噴射を片手で放ちながらピッコロへと迫るヤムチャの姿があった。

 

「な、なにぃッ!?」

 

 ピッコロはその姿に仰天するも、兎にも角にもまずは高速でこちらに向かってくるヤムチャを迎撃しなくてはならない。

 生きていたことには驚いたが空に浮いている状況ならば多少機動力は落ちる。そこを狙い撃ちにし、改めて殺してやればいい。

 そう目論んだピッコロはヤムチャと接敵するタイミングを見計らい拳を繰り出した。

 しかしヤムチャは緻密なかめはめ波のコントロールで上へ上昇し、ピッコロの拳を紙一重で躱す。そして

 

「せぃやッ!!」

 

「ぬおっ!?」

 

 ピッコロの腕の腱を手刀で切り裂いた。それに伴いダランと腕がぶら下がる。さしものナメックボディといえども腱を切られては動かすことができない。勿論再生はできる。しかし時間が必要なのだ。その時間こそが、ヤムチャの欲していた隙になる。

 

「喰らいやがれえぇぇええッ!!」

 

 ヤムチャは逆噴射により勢いをつけたその拳をピッコロの頬へと殴打した。その一撃にピッコロの巨体は軽々と吹き飛び、リングへと背中から倒れ伏す。

 まだ終わらない。ヤムチャはそのまま片手で放っていたかめはめ波をリングに仰向けで倒れているピッコロへと向けた。そして爆発。凄まじい爆音が再びリングを包んだ。

 

「ゲホッ…ハァハァ…どうだピッコロ…少しは参ったか?」

 

 リングへゆっくりと降り立ったヤムチャは未だ倒れ伏しているピッコロへと言葉を放った。

 そういうヤムチャとて全身ボロボロで口からは大量の血を吐き出している。骨も何本かはイッてしまっているのではなかろうか。

 

 するとピッコロが今度はみるみるうちに縮んでゆく。こちらもボロボロで、荒く熱い息を何度も吐き出している。

 両者ともに大ダメージを受けた攻防となった。

 

「ぬかせえっ!!」

 

 ピッコロが地を蹴り、ヤムチャへと攻撃を仕掛けたのを皮切りに、再び技の応酬が始まった。

 しかしもはや序盤のようなキレのある動きは両者ともになく、ほとんど防御を捨てた殴り合いである。

 

 拳が体を撃ちつけるたび、体は跳ね上がり双方ともに相当な威力の拳を放っていることがわかる。

 血が舞い、大気が震え、二人は一歩も退かない。

 

 そして先に崩れ落ち、リングに膝をついたのは…ヤムチャだった。

 

「くっ…ゲホッ…!」

 

 もう一度言うが体力やパワーといった面ではピッコロの方がヤムチャよりも上なのだ。一方、ヤムチャのスピードとキレは落ちるばかりで被打も多くなった。殴り合いならばピッコロに軍配が上がる。

 

「くはは…どうした、もう立てないのかッ!!」

 

 ヤムチャの胸ぐらを掴み上げ、顔を殴打する。

 その衝撃にゴロゴロと転がりながら場外スレスレまで追い込まれてしまった。

 

「ま、マズイぞ。このままでは殺される!!」

 

「助けに行きましょう!」

 

「うん!」

 

 ヤムチャの修行仲間3人がヤムチャを助けるべくリングに乗り上がろうとした。しかし

 

「みんなまだだ。ヤムチャは負けちゃいねぇ」

 

 悟空がその前を遮った。

 仲間を見殺しにしようとする悟空のスタンスにクリリンは憤慨した。

 

「なんでだよ!ヤムチャさんが殺されちゃうじゃないか!」

 

「ヤムチャはそんなことはのぞんでねぇと思う」

 

 掴みかかるクリリンであったが悟空は依然として言い放った。

 そう、試合はまだ続いているのだ。ヤムチャはまだ負けていないし、戦意を失ってもいない。その瞳からは燃え上がるような勝利への貪欲さが滲み出ている。

 

「悟空の言う通りだ…!俺はまだ、負けちゃいねぇ…!俺は…勝つんだ…!」

 

 脇腹を抑えつつヤムチャが立ち上がる。

 それをピッコロは嘲笑い、言い放った。

 

「その体で何ができる!オレ様の方がギリギリ貴様よりも上だった、それだけのことだッ!!」

 

 ピッコロは止めを刺すべくヤムチャへと飛びかかった。ピッコロの手刀は吸い込まれるようにヤムチャの胸へと伸びていきーーーー

 

 

 

 

 

 ーーズドンッ!!

 

 

 

 その場にいる全員が目を剥いた。

 

 立っているのは、ヤムチャ。その場に前のめりで蹲り、苦しみ悶えているのはピッコロ。

 誰もがその状況を理解できなかった。

 

「ぐおぉぉお……バカなぁ…!!?」

 

「…ギリギリ俺より上だった…?………なら俺の勝ちだ!俺は今までの俺より強いからなァ!!」

 

 ヤムチャの体からは目に見えるほどの莫大な気が溢れ出していた。ヤムチャがその歩みを進めるだけでリングはその気の奔流によって破壊されていく。

 

「ぐ、が…な、なんだ…なんだというのだ…!?」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 蹲っていたピッコロ自身も己の身に何が起きたのかを把握できていなかった。

 しかし一つだけわかることがある。ヤムチャは自分の視覚スピードでも追いつけないほどの攻撃を放ったのだろう。その予想が正しければ…

 

「お、おぉぉおおぉ!!ずあッ!」

 

 ピッコロは蹲っていた状態から素早く踏み込むと神速の突きを繰り出す。しかしそれは虚しく宙を切った。ヤムチャは軽く上体を反らし、突きを躱していたのだ。

 

「ッ!?」

 

「終わりだ、ピッコロォッ!」

 

 ヤムチャはピッコロの顎を全力で蹴り抜いた。

 その一撃は意識を問答無用で刈り取り、ピッコロは水平にきりもみ回転しながら飛んでいった。

 そして落ちた。落ちた場所は…リング外。

 

『………え、あ…マ、マジュニア選手場外!勝者は大逆転勝利を収めたヤムチャ選手ですッ!!』

 

 しばらく惚けていた仲間たちが歓声をあげる。

 ヤムチャはピッコロを倒したのだ。つまり、決勝にて悟空と戦う権利を手にしたのだ。

 

 ヤムチャは棒立ちで佇んでいた。

 だがやがて満足したかのように笑みを浮かべ、溢れ出ていた気を引っ込めると…

 

 ーーパァンッ!

 

 血飛沫を散らしながら爆発した。

 ヤムチャは薄れゆく意識の中に仲間たちの悲鳴を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤムチャ現在11勝3敗




カミヤマクロさんに敬礼ッ!!
うちのヤムチャがこんなにカッコよくていいのかなぁ…

ちなみにヤムチャは紙装甲です。ペラッペラです。

感想を返せなくて申し訳ございません。色々と立て込んでおりまして…!勿論、全部見させてもらってますよ!


ピッコロ
ショタッコロ。悟飯大好きナメック星人。中ボスキラーと言えばやっぱりピッコロですよね!この小説では10円!とかクソマァ!とかは言いません。ピッコロさんはそんなこと言いません。…多分。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。