噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

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序盤何行かがメロスのパロですが…気にしないでね?




裏で始まる劇場版◆

 ラディッツは激怒した。必ず、かの邪智暴虐のヤムチャを除かなければならぬと決意した。

 ラディッツには向上心が湧かぬ。

 ラディッツは、戦闘民族サイヤ人である。気弾を放ち、弱小星人たちを滅ぼし、時には命乞いをして暮らして来た。

 けれども格の違う相手に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 

 ヤムチャの考案により己の弟や地球人たちと殴り合う日々。日が経つごとに強くなってゆく相手、変わらぬ自分。そんな毎日に飽き飽きしていた。

 

 三つ目は堅苦しい奴である。しかしラディッツから見ても分かるほどに、信念が溢れている。ただひたすらに強さを追い求めるその姿勢はサイヤ人に通じるものがあり、ラディッツですら好感を覚えたものだ。暑苦しくなければなお良かった。

 

 白いボウズは天敵である。ヤムチャに食わされたPPキャンディなるものにより腹を弱めていたラディッツにはさぞかし餃子の超能力は効いただろう。やめてくれと言ってやめてくれたことは一度もない。意思疎通も難しく、ラディッツは毎回ドギマギしていた。人の話をちゃんと聞くということを覚えた。

 

 ハゲチビは何かと明るい奴である。中々洒落たことを言うこともあるし、気立てもいい。そしてなにより自分を気遣ってくれる。この三人の中では一番仲良くなれたであろう。そしてこの三人の中でもっともラディッツを殴ったのもクリリンだろう。界王拳的な意味で。

 

 数十年ぶりに再会した弟はとても温厚であった。薄っすらと記憶に残る親父の顔とそっくりであるが性格は真反対。そのギャップに最初こそは驚き、サイヤ人の誇りを失ったのかと憤慨したりもしたがその飽くなき向上心は今は亡き親父の面影を感じさせ…どうにも強く出れなかった。今や兄を抜こうとしている弟であるが、その姿にラディッツは知らず知らずのうちに触発されていたのかもしれない。

 甥っ子は最初こそラディッツを避けていたがともに生活するにつれて気軽に「伯父さん!」と慕うようになった。ラディッツ自身も別に悪気はしなかった。最近、あの緑色の男に何処かへ連れて行かれたようで少々の寂しさすら感じる。

 

 我ながら、地球に来てから色々な方面に良い関係を築けているのではないだろうかとラディッツは思う。

 

 そして語らずにいられないのがヤムチャという男である。ヤムチャは恐ろしい男だ。戦闘力もそうだが、なにより特筆しなければならないのはラディッツに対する対応である。苦難の日々はヤムチャとピッコロから始まったと言っても過言ではない(自業自得によるものもある)。ヤムチャの指示に異を唱えればすぐに腹下痢の刑が待っている。扱い自体で言えばナッパとベジータよりもひどかった、それほどのレベルだ。

 そんな苦行の毎日であったがついにラディッツの堪忍袋の緒が切れた。地球の戦士たちとの模擬戦闘ならばまだいい。しかしヤムチャが今回指示した内容は弟の庭(山)を一から開墾して耕せというものだったのだ。これにはさしもの一族の恥さらしとまで言われたラディッツでもキレた。

 

 “オレは開墾民族でも農耕民族でもない、戦闘民族だ!コケにするのもいい加減にしやがれ、このスケコマシ野郎!!”

 そう言ってやろうと口を開いた、その時であった。

 

「うん?なんだねラディッツくん、そんなに畑の肥やしを出したいのかね?それはいい心がけだ、肥料のお陰で20日大根はよく育つだろう!」

 

「すいません、やらせていただきます」

 

 この時ばかりは己でも自分のことを情けないと思ったラディッツであった。

 

 弟の嫁監修のもと、土弄りを続ける日々。ラディッツは伊達に戦闘力2000を(最近)超えてない戦士である。その筋力とスピードを駆使すれば広大な土地の開墾も楽々だろう。しかし面倒臭いものは面倒臭いし、手間がかかるものは手間がかかる。ラディッツとて例外ではない。戦闘力2000を超える戦士であろうとも広大なパオズ山の開墾は容易ではなかった。痺れを切らしエネルギー波で土を全てひっくり返そうともしたが、チチに怒られた。何故か逆らえずに言われるがままのラディッツである。

 

 季節は移ろい、種植えの時期がやってきた。これまた気の遠くなるような単純作業であり、ラディッツの戦闘民族としての誇りはボロボロであった。芽が出た時、とても嬉しかったのは内緒だ。

 

 さらに季節は進み、作物を育てる水やりの時期がやってくる。この頃のラディッツはもはや農耕民族であった。たまにやって来たヤムチャや悟空を軽くあしらい、ただ淡々と水をやる。悟空はかつての修行を思い出してほっこりし、ヤムチャはその傍らで界王拳の調節を間違え爆発していた。

 

 そして収穫の時期へ。パオズ山の豊かな土壌で育まれた野菜たちは朝露に輝き、一生懸命に一から作物を育て作り上げたラディッツに無言のお疲れ様を言っていた。ラディッツはただ呆然とするのみであった。

 その日の夕飯。悟飯がピッコロに拉致られ中なので若干こじんまりとした夕飯であったが、そこにはラディッツの作った野菜たちで作られた料理が並んでいた。悟空はそれにうまいうまいとがっつき、チチもその出来前ににっこり笑顔。ラディッツは野菜のスープを掬い、それを胃袋に流し込む。

 

 ”そうか…これが、作るということなのか。奪うことしかできなかったオレでも、こんなにうまい野菜たちが作れる…のか”

 

 ラディッツは一筋の涙を流した。

 地球とは…生命とは如何に素晴らしいのだろうか。もう地上げ屋なんてやめよう。オレはこの畑で生きていくんだ。

 ラディッツは心に決めた。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「だがあの化物共とは戦わん。お前やカカロット達でどうにかしてくれ」

 

「なんでだよ!?いい流れだったじゃないか!?」

 

 よう、俺ヤムチャ。

 

 上のアレは俺が脳内でこんな感じだったんだろうなーと勝手にキャスティングしたやつではあるが、概ね間違ってはないと思う。現にラディッツが今俺の目の前でタンクトップの農家服を着てせっせと来季に向けての畑作りをしてるんですもの。あれ、あれれー?

 地球には悪人浄化作用があることで有名だがまさかここまでとは…ラディッツのひ弱な根性も関係してるだろこれ。

 

「お前、なんのために修行してきたんだよ!お前の戦闘力5000までいってるじゃねえか!しかもそれでまだ気を開放してないんだろ?勝てるって、絶対勝てる!」

 

「ナッパには勝てるかもしれんがベジータには勝てん、みすみす命を投げ捨てるような真似はしないぞ。ギリギリまでお前らの修行には付き合ってやるがな。オレはここで畑を耕しながらお前らの勝利を願っているさ」

 

 な、なんてこったい…ナッパとベジータが来るまであと一週間なんだぜ?確かに昔から「奴らとは絶対戦わん!」とか言ってたけどさ。

 別に現状ではラディッツ離脱はそこまで痛くないが、大きな戦力であることには変わりない。もしもの時のために来て欲しいんだが…

 

「…お前…あの言葉が怖くないのか?」

 

「ああ…ピーピーのことか。やりたければやるがいい。オレは絶対に行かん。オレが守るべきはこの畑だ」

 

 ダメだ、こいつ…。まさかPPキャンディを克服されるとは思ってなかった。お前…戦闘民族だろ?なんで農耕民族にクラスチェンジしてんだよ。俺か?俺のせいなのか?

 悟空は悟空で「にいちゃんに戦う気がねぇならそれでいいさ」なんて言ってるし……もういいか。戦う意志を持たないやつを無理矢理戦場に連れていっても役に立つはずがないしな。

 

「…分かったよラディッツ、俺たちだけで戦う。お前は最後の砦であってくれ。………この1年…すまなかった。あと、色々ありがとうな」

 

「……すまんな。お前たちの健闘を祈ってる」

 

 まあラディッツはこの1年よくやってくれたと思う。みんなの修行相手からチチさんのご機嫌とりの相手まで広く務めてくれた。それになんか知らんが改心したっぽいし…もういいんじゃないかな。これはこれで。

 何気にサイヤ人が一生懸命に働いているのを見て静かな感動をくれたのも事実である。ラディッツ、お前は今成し遂げたんだ。サイヤ人=ニートという既に決まりきってしまった不変の等式に一石投じるという…快挙をな。

 

 若干の失意とともに空へと飛び上がると、急に空が真っ暗になった。誰かが神龍を呼び出したようだ。突然のイレギュラーで少し戸惑ったがちょっと気分的に深く考えるつもりはない。

 誰だよこのタイミングで願いを叶えたのは…。界王様の帰還が1年後に先送りじゃねぇか…とあまり気には留めなかった。

 後にこの時対処していれば…と後悔することになる。しょうがないじゃないか、色々立て込んでたんだし。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 さて、あっという間にサイヤ人来襲当日である。

 やることをやり終えたといった感じでみんなの顔は自信に満ち溢れていた。今のみんなの戦闘力ならナッパもいけるだろう。原作がヌルゲーと化してしまった瞬間である。

 

 前日に東の都に残っていた住民たちを軍隊と協力して強制退去させたし、もう憂いはほとんどないね!

 

 俺たちは人気のない荒野で奴らを待ち構える。奴らはスカウターでこちらの場所を特定するからな。こうして一箇所に集まっていれば自ずとこちらにやってくるはずだ。

 

 今いるメンバーは俺、悟空、クリリン、天津飯、餃子である。ラディッツは来ないので残る戦士は悟飯とピッコロか。うん?ヤジロベー?最近見てないなあいつ…。何してんだ?

 

 

 ……ピッコロたちがやけに遅いな。まさか集合する気がないのか?もうすぐナッパとベジータが来ちまうぞ。

 試しに気を探ってみると…一つの弱々しい気がゆっくりと近づいてきていた。この気は…まさか…!?

 

「悟飯ッ!?」

 

 悟空が視界に悟飯を捉え叫ぶ。周りのみんなも、もちろん俺もびっくり仰天だ。なんと悟飯が一人、傷だらけで飛んできているのだ。

 いきなりの急展開ッ、一体何があった!?

 

「悟飯!どうしたんだ!」

 

「お、お父さん…ピッコロさんが…」

 

 1年ぶりの親子の再会がこんなことになるとは…

 悟飯は必死に言葉を絞り出そうとしているがとても辛そうだ。回復が最優先だな。

 悟飯に仙豆を食べさせつつも何が起こったのか考える。こんな不測の事態だ。また何かしらのイレギュラーが発生したと見ていいだろう。しかし今の情報ではこれ以上は何も思い浮かばなかった。

 

 仙豆を食べて全快した悟飯は多少しどろもどろになりながらも全てを話してくれた。

 なんでもピッコロと氷河地帯で修行していた時、大多数の何者かからの襲撃を受けたらしい。一体一体の戦闘能力は高く、一対一ならばどうとでもなったが集団戦だと遅れを取ってしまったらしい。ピッコロはそいつらを難なく殲滅していたそうだが悟飯は対処しきれずやられてしまった。そして悟飯のピンチに慌ててしまった際に虚を突かれてしまい、敵の中でも特に強い三人組に倒され拉致られてしまったというのだ。

 

 …えっと…何この展開。

 

「ピッコロほどのやつが集団だったとはいえ一方的にやられるとは……かなりの手練れのようだな…」

 

「なんでこのタイミングで…」

 

 そうだ、なんでこのタイミングなんだ。別に前触れなんかは何もなかったはずだ。何も…なかっ……あ。

 

「もしかして…この間のドラゴンボールに何か関係があるんじゃないか?」

 

 ていうかそれ以外に考えつかんわ。

 くそ…事態を甘く見るべきではなかった…!

 地球上の全てに気の探りを入れてみる。すると氷河地帯に馬鹿でかい気がゴロゴロと点在してやがった。しかも邪悪な気だ。中には俺たちと並ぶほどに馬鹿でかい気を有している奴もいる。具体的に言うと0.8ラディッツが多数に4ラディッツが数体、そしてよくわからんのが一体。お、おい…やばいぞこれ。

 

「ば、バカな…地球上にこれほどの連中が存在していたのか…!?まさか、サイヤ人…!?」

 

「いや、それはないだろう。現に今……()()()()()()()()()()()()()()

 

『ッ!!?』

 

 くそったれ…最悪のタイミングだぜ。

 しかし規模から見ると明らかに氷河地帯にいる連中の方が強そうなんだよな。このまま放っておいたらピッコロが何されるかも分からねぇし…。

 ……しょうがねえな。

 

「悟空。お前は先にピッコロを救出してきてくれないか?サイヤ人は俺たちで食い止める。悟飯、お前も付いて行ってやってくれ」

 

 この中で一番強いのは俺か悟空だろう。しかし大多数を相手取るなら相性的には悟空の方がいい。俺はどちらかというとタイマン専門だ。

 悟飯はピッコロ制御装置だから悟空と一緒に行ってもらう。

 

「けど…それじゃみんなが……」

 

「悟空、オレたちを甘く見すぎだぜ!お前がこっちに帰ってくる前にオレたちがサイヤ人を倒しちゃうかもな」

 

「そうだぞ孫。お前ほどではないがオレたちも相当腕を上げたつもりだ。サイヤ人に引けをとるつもりはない」

 

「ボクも、一生懸命戦う!」

 

 クリリン、天津飯、餃子の意気に悟空は強く頷く。そして筋斗雲を呼ぶと悟飯とともに氷河地帯の方へ飛んでいった。そっちは頼んだぜ。

 さて…氷河地帯の方ににナッパとベジータが行かないように誘き寄せなければ。ここは東の都にほとほと近いから少し気を開放すればこっちに来るはずだ。

 

「全力は出さずに気を開放しよう」

 

「ああ…」

 

「そうですね」

 

 数十秒後、東の都方面で強い爆発が起こった。恐らくナッパのクンッだろうが…あいつ本当に戦闘力4000かよ!?流石は絶望量産機のナッパさんだぜ!

 

 

 

 

 

 

 

「ほう…揃いも揃って…みなさんお集まりのようだ」

 

「へへ…戦闘力1000程度のヤツらがうろちょろしてやがるぜ。どうやら格の違いが分かってないらしいな!」

 

 上空に現れたのはハゲと(M)ハゲ。

 二人から放たれる圧倒的な暴力の気が俺たちへと着実に重圧を加えてゆく。しかし負けるつもりは毛頭ない。地球人だけでもやれるってところを見せてやるぜ!

 

 

 地球人だけの地球防衛戦が幕をあける!

 

 




戦闘民族→農耕民族
ラディッツまさかの不参戦…なんでこうなったし。ま、まあ何もしないってことはないと思いますよ?ねぇ?そうだろラディッツ?
復活のFに触発されて書いたのでなんかいつもと違う気がする…てかギャグの無印は終わったのにZ始まってからギャグが続いてるような気が…全部ラディッツってヤツのせいなんだ!

ついでにもう出番はないと思うのでネタばらししますと…サイヤ人編と同時進行で行われているのは『この世で一番強いヤツ』…俗に言うDr.ウィローですね。
劇場版の扱いに定評のあるこの小説です。


【挿絵表示】


タンクトップラディッツです。
カミヤマクロさんありがとう、生きる目的がまた増えてしまった…!
さあみんな、ラディッツに勇気を分けてくれ!もしかしたら参戦してくれるかもしれないぞ!

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