東の都にほとほと近い荒野にて睨み合う二人と四人。両者の間を一陣の砂風が旋風とともに通り抜けた。
侵略者である二人の表情は、端的に言い表すのなら余裕の一言に尽きる。目の前の戦士たちを完全に舐めきっているのだ。
対する地球の戦士たちは油断なくサイヤ人を見据える。様々なイレギュラーが起こり、戦力を半減近くまで削いでしまったがその状況を持ってしても悲観にくれるものはいない。ただ強い眼差しで侵略者を睨む。その瞳には確かな強い意志があった。
荒野上空には場の状況を全世界に届けようと報道用ヘリがホバリングしている。
カメラ越しにも伝わるその緊迫感は1年前の緊急会見でヤムチャによって語られたことを信じた者にも、戯言と一蹴し前日まで東の都に残っていた者にも、否応なしに突きつけられる。
相手は東の都を一撃で滅ぼすような正真正銘の化け物だ。例え英雄ヤムチャだとしても激戦は必至。世界の人々はただ願い、食い入るようにテレビを見る。
中継は西の都、南の都、北の都、そしてカメハウスにも届いている。
今回の戦闘を辞退し、耕作に勤しんでいたラディッツもその戦いは見届けるべくチチ、牛魔王とともにカメハウスを訪れていた。
「あんれ?悟飯と悟空さがいねえだな。どこさ行っちまったんだべ。ラディッツさは心当たりあるか?」
「…緑のやつもいないところを見るとあっちで何か厄介ごとがあったのかもしれんな。カカロットと緑のやつ不在ではこの戦い…厳しいぞ」
チチの疑問にラディッツがすかさず答える。意外なところで気の利く男である。
ならばと次に言葉を投げかけたのはブルマ。
「ねえあんた、あいつらの仲間だったんでしょ?ヤムチャたちは勝てるの?」
「…」
ブルマの問いかけにラディッツは答えず、目を閉じ何やら深刻なことを考えるかのように深く沈黙した。
やがて目を開くと、険しい顔で答えた。
「すまんが、こればかりはオレでも予測できん。あのチビの…ベジータとは、それほどまでに強大な存在なのだ」
「…あんたは戦わないの?」
カメハウスにいる全員の視線がラディッツに集中した。昔ならば怒鳴り散らしていただろうが農耕民族となり、それなりに温厚になってしまったラディッツには肩身苦しい思いしかない。
この一年修行してきた戦士たちは皆死地に向かった。小さい甥まで向かった、残ったのはラディッツのみである(ヤジロベー?知らない子ですね)。だがラディッツは決めていたのだ。あいつらとは絶対に戦わないと。
「……オレは…」
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よう、俺ヤムチャ。
ナッパさん怖ええぇぇぇ!!
目がギラついてやがるよ!これが…本場のサイヤ人というものなのか…!?悟空とかラディッツなんかとは大違いだよ!
ん?ベジータ?ああ、ナッパさんの影に隠れて見えなかったよ(背の高さ的な関係で)。あいつオレとほとんど同い年のくせにな。カルシウムが足りないよ。
さておふざけはこれくらいにして…作戦通りに展開していかないとな。これは一つのターニングポイントだ。原作じゃここでZ戦士は半壊、陽の目を見ることがなくなった。つまり物語についていくにはナメック星へと向かうことが必須条件なのだ。
ここにいるメンツはクリリンを除いて全員ナッパに殺されたメンバーだ。果たして戦闘力が上がったとはいえ、勝てるのだろうか…。
俺が殺されたの?サイバイマンだけどなにか?
「おい、ラディッツの野郎はどうした!カカロットもいねえじゃねえか。お前らが殺したのか?」
ナッパさんが馬鹿でかい声でこちらに呼びかける。なんという迫力、サイヤ人の名は伊達じゃねえな。
「ラディッツは(サイヤ人として)死んだ。悟空は(サイヤ人として)元から死んでいる。地球の役に立ってもらおうと思ったが…どうやら付いてこれなかったらしい」
ラディッツは最後の砦だ。生きていることは知られない方が何かといいだろう。
「…まあいい。あの弱虫と最下級戦士が死んだところでオレたちには何の関係もないからな。さて…ドラゴンボールとやらはどこだ?」
「残念、今は石ころだ。どっかのバカが願いを叶えちまったみたいでな。どうする?自分たちの星にとんぼ返りするか?」
生まれ故郷を破壊されたことを暗示し、皮肉る言い方である。何気ない精神攻撃も欠かさないヤムチャさんマジ賢将。
「…だが一生使えないということはあるまい。お前らを殺して気長に待たせてもらうさ。なあ、ナッパよ」
「おうよ!それじゃあ、早速始めようじゃねえか!」
ナッパが大地を踏み鳴らすと同時に俺たちは油断なく構える。あれ、栽培男は出さないの?
「まあ待てナッパ。ただ殺すのはつまらんだろう。一つゲームをしてみないか?ちょうどサイバイマンの種が残っていたはずだ」
お、ベジータちゃんナイスだぜ!やっぱりサイバイマンは倒さねえとな。15年間、この瞬間のために戦い続けたといっても過言ではない!
「へへへ…そいつは面白いゲームになりそうだな。どれ……ほう、ここの土は良い。サイバイマンがよく育つだろう」
ナッパはポポイと瓶から緑色の種を取り出すとそれを土に埋め始めた。おい待てナッパ、お前今どこからその瓶を取り出した?みんなは怪訝な様子でナッパを見やる。
すると…
「キイィー!」
「キキィ!」
「グギャギャ!」
「キィ」
「ギィィィィ!」
『なッ!?』
あっという間にサイバイマンの出来上がりだ。土の中から現れた5匹のサイバイマンがこちらを睨みつける。
…なるほどな。こいつらをいざ前にするとヤケに胸の奥が高ぶってきやがるぜ。
「ちょいとばかしこっちの方が数が多いが…まあいいだろう?サイバイマンと総当たりをしていこうじゃないか」
ベジータが不敵な笑みを浮かべながらこちらにそんなことを提案してきた。まあ、辞退する理由にはならんな。
「ちぃ、なめやがって!まずはこのオレから行かせてもらおう」
「よっしゃ、いけ天津飯!」
「けちょんけちょんにしてやってください!」
「天さん、頑張れ!」
サイバイマンの戦闘力などたかが知れているので天津飯なら楽勝だろうと若干お祭りモードの俺たちである。
さて、試合結果はと言うと…
「ズアァッ!!」
「ギエェェェェェッッ!!?」
天津飯のワンパンである。
あまりの一方的な展開にこちらは盛大な歓声を上げ、ベジータとナッパは眉を顰めた。俺はちょっとだけかわいそうになったのでサイバイマンに手を合わせておく。南無。
「おいベジータ…どういうことだ?サイバイマンはパワーだけならラディッツにも匹敵する。戦闘力は1200だぞ!」
「簡単な話、あいつの戦闘力が遥かにサイバイマンを上回った…それだけだ。試しに奴の戦闘力を測り直してみろ」
「ど、どれ………っ!?バカな…3320だと…!?明らかに地球人のレベルじゃないぞ!」
「クックック…貴様の戦闘力だと危ないんじゃないか?これは楽しくなってきたな」
ナッパはともかくとしてベジータは余裕…まあ当たり前か。18000だもんな。
するとナッパがサイバイマンたちに喝を入れなおした。流石、サイバイマントレーナーの名は伊達じゃない。しかしこれでサイバイマンたちは本気でこっちに向かってくるだろう。
万が一もある、気は抜けない。
するとサイバイマンたちの中でも特に目つきが悪い(ように見える)奴が前に出てきた。もしかしてこいつか?俺を殺したのは。
ここで俺以外が出るなんていう選択肢はないな。
「よし!次はオレが…」
「俺にやらせてくれ。ここらでお遊びはいい加減にしろってとこを見せてやりたい」
「ヤムチャさん、それならオレだって…」
「クリリンは一度ドラゴンボールで蘇っている。もし万一のことが起こってしまえば二度と生き返れない」
そこまで言ってクリリンを説得するとサイバイマンへと向きなおる。気合い十分!ボッコボコにしてやるぜ!
「さあ、きやがれ!!」
「キエェーッ!!」
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サイバイマンは勢いよく地を蹴りヤムチャへと肉薄する。先ほどのサイバイマンと比べてもこちらの方が若干戦闘能力が高いことが見て取れた。
しかしヤムチャにとってその程度の攻撃を捌くことなどもはや朝飯前である。サイバイマンの一撃を弾くと腹に肘打ちを決める。
相当堪えたのだろう。サイバイマンは苦悶の表情で腹を抑えると己の頭を割り溶解液を吐き出した。だがヤムチャは飛び上がることでそれを回避し、サイバイマンは上空に逃れたヤムチャを追撃する。空中戦でなら分があると判断したのだろうか。
だが…
「オラァッ!!」
「ギエッ!?」
空中にて既に迎撃の態勢を整えていたヤムチャは両手の拳を振り下ろし、サイバイマンを叩き落とす。
そして…
「かめはめ…波ァーッ!!」
「グギャアァァァァッ!!」
ヤムチャが放ったかめはめ波はサイバイマンを捉え、地表を抉る。そして土煙が風に消えるとそこには舌をでろんと出し、息絶えた様子のサイバイマンの姿があった。
『やった(ぜ)ヤムチャ(さん)!!』
Z戦士たちから歓声が上がり、それとは逆にナッパはしかめっ面で「またやられちまいやがった…」と愚痴を呟く。
そんな様子を見て気を良くしたのか、ヤムチャは焼き焦げたサイバイマンの近くに降り立つとサイヤ人に挑発を投げかけた。
「ふっ、この調子で俺が全員やつけてやるぜ!さあ次の相手はどいつだ!?」
するとベジータは含み笑いをしながらヤムチャへと言い放った。
「次に油断していたのはお前たちの方だったみたいだな」
「なにっ?」
瞬間、死んだはずのサイバイマンが起き上がりヤムチャへと飛びかかる。歓声を上げていたZ戦士たちは咄嗟のことで言葉を失った。
そしてサイバイマンはヤムチャに…
「俺が気づいていないとでも思ったか?」
…触れることすらできずに手刀によって両断された。青い血を撒き散らし、今度こそ完全に息絶えたサイバイマン。
ヤムチャはこの展開が丸わかりなのであった。嫌でも感じるこのデジャブ、警戒するなという方が無理な話である。
この瞬間のためにヤムチャはサイバイマンなんかに気を張り詰めていたのだ。結果、それは功を奏しヤムチャは生き残ることに成功した!
「俺に小細工は通用しない!さあ、殺されてぇヤツから前に出てきやがれ!」
「お前の後ろにいるみたいだぞ?」
だがここでヤムチャにとって予想外の展開が起こった。なんとサイバイマンがヤムチャの後ろの地中から飛び出し、ヤムチャへとしがみついたのだ。
これには流石のヤムチャも吃驚した。サイバイマンが地中で孵化したまま地表には出てこず機会をうかがっていたのだ。
慌てて拘束を解こうとするヤムチャであったが思った以上にサイバイマンのパワーは高く、中々振りほどくことができない。
そして…
自爆した。
トv'Z -‐z__ノ!_
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,. /ァ'┴' ゞ !,.-`ニヽ、トl、:.
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「や、ヤムチャさーんッ!!!」
クリリンが急いで駆け寄り生死を確かめる。しかし……ヤムチャはピクリともせず、息絶えていたのだ。呆気なすぎる突然の死だった。
そんなヤムチャの死に様を見てベジータは滑稽なものを見たかのように高笑いを上げる。そして皮肉るように言い放った。
「おい!汚いから片付けておけよ、
そのボロクズを!」
予定調和(ゲス顏)
サイバイマンが絶対ヤムチャ殺すマンと化した瞬間である。
サイバイマン
戦闘力1200の生物兵器。絶対ヤムチャを殺す存在。けど実際のところは爆発の規模…全然大きくないですよね。至近距離とはいえこれで殺されてしまったヤムチャの耐久がよくわかるだろう?いつぞやかに出てきた七色のサイバイマンはなんか好きです。
ネタバレ:このヤムチャ、ガチで死んでます。