噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

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腹痛くなったらなんにも出来なくなりますよね。
やだ餃子って強い!


避けたナッパ、避けれなかったラディッツ

 戦闘力7280…これは宇宙を圧倒的武力で席巻するフリーザ軍における戦闘力階級の中でもエリートの一歩手前までゆくほどの強さだ。

 7280ともなれば地球を破壊することも可能だろう。それほどの数値である。ナッパはサイヤ人の特性による超回復により規格外の力を手に入れたのだ。

 

 しかしそれに真っ向からぶつかり、拮抗する地球Z戦士たちもまた凄い。

 素の戦闘力では流石にナッパに劣ってしまう。しかし界王様から伝授された界王拳がその差を埋めているのだ。

 その数値は界王拳(2倍)を習得した天津飯で6600、同じく界王拳(2倍)を習得した餃子で3800、そして3倍界王拳を使用可能になったクリリンで8400に及ぶ。

 この三人のZ戦士の中でも最大戦闘力を誇るクリリンはナッパに着実なダメージを与えつつ戦局を支え、中々トリッキーな搦め手を使う天津飯は前衛と中衛を見事にこなす。そして餃子は戦闘力は他二人に大きく劣るものの後衛としてサイコキネシスを使った投石や腹痛などでナッパの行動や集中をかき乱している。即興のコンビネーションとしては上々の出来である。

 しかし、そう簡単にはいかないのが、サイヤ人という種族なのだ。

 

 一見Z戦士側が圧倒的有利に見えるだろう。しかしそれは違う。最初こそはナッパを戦闘力と数で圧倒していた。だがZ戦士たちは今、確実にじわじわと追い詰められていた。

 界王拳とは諸刃の剣である。その戦闘力上昇率と引き換えに体へと多大な負担をかけているのだ。短期戦ならまだしも、長期戦となると勝てる見込みは時間ともに少なくなってゆく。

 しかもナッパはタフさに定評のあるサイヤ人である。多少の戦闘力差であればそれが戦闘を決める要因になりはしないのだ。

 最初こそはZ戦士たちの強烈な一撃に激昂していたナッパであったが、よくよく冷静になって戦局を見てみると時間が経つごとに相手の技のキレがなくなってきている。しかもそれはクリリンが最も顕著であった。気のコントロールに秀で、3倍界王拳の習得に成功したクリリンであるが、それゆえに三人の中でも一番体力の消耗が激しい。やはり界王拳とは無理をする技なのだ。

 界王拳の弱点を知ったナッパがとった行動はただ一つ。相手の攻撃を徹底的にガードし、ダメージを最小限に抑えるという戦法だ。単純な戦法ではあるがそれがZ戦士たちには面白いように突き刺さった。

 Z戦士たちには仙豆があるが、それを食おうと隙を見せればナッパの強力なエネルギー波によって狙い撃ちにされてしまう。迂闊に回復すらできない状況なのであった。

 

「くそ、どどん波ッ!」

 

「効くかぁ!!」

 

 天津飯のどどん波をいとも容易く掻き消す。だがそれは陽動。真の狙いはその背後で虎視眈々と気を練っていたクリリンにある。

 

「はあぁぁ…気円斬ッ!!」

 

 片手を上に掲げ、クリリンが生成したのは高速回転する薄い円盤型のエネルギー体であった。高速回転するそれは硬い防御を楽々と突破し、格上相手にでも致命傷を負わすことのできるエネルギー効率的にも非常に優れた技である。

 スピードもそれなりにあるので相手が気を抜いてさえいれば必殺の一撃にもなり得る。それをナッパに向かって投擲した。

 

「くらえぇぇッ!」

 

「……おっと」

 

 だがナッパはそれを容易く躱した。戦闘力的には自分を超えているクリリンの攻撃だ。ナッパがそれを警戒しないはずがなかった。

 

「へっ、そんなもんかよてめぇらの力ってのは!消し飛べえぇッ!!」

 

 ナッパは指先に高濃度のエネルギーを溜め込むとそれをピッと水平に振った。

 瞬間、地は大爆発を起こし底のないクレータを作り出した。その威力の高さと意外な気のコントロール力にZ戦士たちは戦慄する。直撃すれば界王拳状態であろうと命が危ない。

 

「はぁ…はぁ…どうする天津飯さん、餃子」

 

「…オレが3倍界王拳からの気功砲を試してみる。気功砲ならば躱しようがないだろう…」

 

「けどそれは一か八かでしょう!それに天津飯さんはまだ3倍界王拳を完全には会得していないし、気功砲は負担がバカでかい。体が持ちませんよ!」

 

「天さん…ぼくがあいつを巻き添えに自爆すれば…」

 

「ダメに決まっているだろう!それにお前はドラゴンボールで一度蘇っている!もう二度と生き返ることはできないんだぞ!」

 

 万事休すであった。

 その間にもナッパは体からエネルギーを漲らせつつZ戦士たちの隙を窺う。この状況を突破するには…

 

「……オレが4倍界王拳で突っ込みます。その間に二人は気を最大限に練って、どどん波であいつの急所を狙ってください」

 

「…お前、3倍以上は絶対に出すなと界王様から言われていたはずだ。何が起こるか分からんぞ」

 

「それでもこのままやられるよりかはマシですよ」

 

 クリリンは界王拳の倍率を高めるべく気を増大させてゆく。その表情から見るに相当の負担がかかっているはずだ。

 クリリンの様子にナッパもさらに警戒を高めてゆく。そしていざクリリンが地を蹴り、飛びかかろうとした……その時だった。

 

「ダブルサンデーッ!!」

 

 クリリンを掠め、ナッパへと二つのエネルギー波が迫る。予想外の場所から放たれた技にナッパは慌てつつも、なんとかスレスレで躱すことができた。

 飛びかかろうとしていたクリリンは立ち止まり後ろを振り返る。そこには…

 

「よう久しぶりだな、ナッパさんよ」

 

 タンクトップを着こなすラディッツがいた。

 予想外の援軍にZ戦士たちの表情がほころび、対照的にナッパの表情が驚愕に彩られ、そして侮蔑に変わった。ラディッツはそのナッパの表情に眉をひそめる。

 

「へへへ…誰かと思えば弱虫ラディッツじゃねえか。死んだと聞いていたが…なんだ生きてやがったのか、サイヤ人の面汚し野郎!」

 

「けっ、言ってくれるな。まあ、確かに今までのオレは弱虫だった…それは認めよう」

 

 ラディッツはナッパの挑発に乗らず悠々と受け流す。数年前とは違うラディッツの雰囲気と態度にナッパはやや困惑した。

 だが所詮は弱虫ラディッツ。気にすることではないだろうとナッパは自分に言い聞かせる。

 

「それで…なにしに今さらノコノコとオレの前に出てきやがった。命乞いでもするのか?それとも…このオレに殺されに来たのか?」

 

「違うな。お前を倒しに来たのさ。どういうわけかベジータの野郎はいないみたいだしな。運が良かったぜ」

 

「あぁっ?」

 

 不敵にそう言い放ったラディッツに対しナッパは素っ頓狂な声を上げ…そして笑った。

 

「何を言い出すかと思えば…オレを倒すだとお?クク…ハッハッハ!面白いジョークじゃねえか!まさかオレの戦闘力を忘れちまったとかいう愉快なオチじゃねえだろうな!?」

 

「忘れるわけがない。4000だろう?」

 

「少し前まではな。だが、今じゃオレの戦闘力は7280だ。へへ…もうてめえとは天と地ほどの差が開いちまってるんだよ!」

 

「なに、7280…?」

 

「どうだ、圧倒的な差を目の当たりにして絶望したか?今から命乞いをすれば許してやらんこともーーーー」

 

「ナッパ」

 

 ラディッツは特に変わった様子もなくナッパに語りかけた。その余裕っぷりがさらにナッパを苛立たせる。

 

「残念だが…オレの方が上だ」

 

「…なにぃ?そりゃどういうーーーー」

 

 ナッパがすぐさまその真意を問いただそうとするが…それよりも先にラディッツが気を開放した。その戦闘力の大きさに地は揺れ、周囲の鳥獣たちは一目散に巻き込まれぬためにその周囲から退散する。

 ナッパのスカウターがめぐるましく変化し、ラディッツの戦闘力をありのままに叩き出す。

 

「6000…7000…9000…!?」

 

 そして、スカウターは動きを止めた。

 そのありえない数値にナッパはあんぐりと口と目を開き、震える声でその数値を読み上げた。

 

「戦闘力…9800…ッ!?」

 

「…そんなものか。最近はスカウターで戦闘力を測っていなかったが…1万を超えなかったのは悔しいな。まあこの季節は畑づくりに大切な時期だ。あまり修行にのめり込むわけにはいかなかったからな」

 

 そんなナッパの驚愕をよそに、呑気そうに畑の話を始めるラディッツ。しかしその言葉はナッパの耳には入ってこなかった。

 

「弱虫ラディッツが…9800…!?あ、ありえねえ…そんな事ありえるはずがねえ!!スカウターの故障か!?

 …いやそうか、地球人どもが使ってやがったおかしな技だな!?へへ…安心したぜ…それならお前の攻撃を捌けばいいだけだからな!てめえの技が切れるまで待ってやるよ!!」

 

「ほう、ならば耐えろよ?」

 

 ラディッツは超スピードで飛びかかりナッパへと一発の拳を繰り出した。ギリギリでそれをクロスでガードするナッパであったが衝撃は殺すことができずに岩山へと吹き飛んだ。

 その衝撃に苦悶の表情を浮かべるナッパであったが余裕の笑みは消えなかった。

 たしかに凄まじいまでの一撃。戦闘力9800は嘘ではなかったらしい。だが耐えきることが出来ればラディッツなど恐るるに足らない。

 さらに追撃を仕掛けるラディッツの攻撃をガードし受け止めるナッパ。確かにこれまでのZ戦士との戦いを鑑みればナッパの方が有利に見えるだろう……界王拳を使っていればの話だが。

 

 ラディッツが戦っている間に回復をすませるZ戦士たち。ふと、クリリンが天津飯に尋ねた。

 

「…ラディッツってさ、界王拳使えたっけ?」

 

「…いや、あいつは使えなかったはずだ。つまり…素の戦闘力でアレ…というわけか。やはりサイヤ人という連中は化け物だな」

 

「ホント…冗談キツイぜ…。まあ、ラディッツがあのサイヤ人と決着をつけたいっていうんならラディッツに譲ってやりましょう」

 

「ボクも手を出さない」

 

 静観と決め込んだZ戦士たち。

 和やかに話しつつもじっくりと戦闘を観察し、己の経験値としてゆく。もちろん修行仲間であるラディッツへの応援も欠かさない。

 

「ラディッツ!随分と愉快な仲間たちだな!最下級戦士らしく下等種族と仲良くすることを選んだか!?」

 

「……まあ(ヤムチャはともかく)あいつらはいい奴らだ。そして地球はいいところだ。貴様ら如きにはやれんな」

 

「ほざけッッ!!!」

 

 腑抜けたラディッツに激昂したナッパが反撃とばかりに拳を振り抜くがラディッツはそれを掻い潜り、逆にナッパの顔に拳を打ち込んだ。

 クロスカウンターを決められ、立つ事もままならなくなったナッパは地面に尻餅をつき肩で荒々しく息をする。

 まだかまだかとラディッツの時間切れを待っていたが……ここまでくれば嫌でも理解できる。ラディッツは、パワーアップする例の技を使っていない事に。ラディッツは、素の力で自分を超えている事に。

 

「ありえねえ…このオレが…」

 

「…ナッパさんよぉ…オレはあんたたちを見返したかった、下級戦士でもやれるってことを証明してやりたかったのさ。どうだ?下級戦士にボッコボコにされる気分ってやつはよ」

 

 今までの鬱憤を晴らすかのように清々しい顔でナッパへと詰め寄るラディッツ。

 恐らく彼としても長年夢見てきた瞬間なのだろう。

 ナッパはしばらく歯を食いしばり、食い入るようにラディッツを睨んでいたが…やがて観念したかのように手を挙げた。

 

「…オレの負けだ。まさかお前がそこまで強くなっているとはな。流石に予想外だった」

 

「ほぉ?潔いじゃないか。まあ諦めは肝心だしな、それはいい判断だと思うぞ?

 これからベジータと戦うんでな。殺すまでとは言わん。だが、無力化させてもらうぞ。悪いな」

 

 ラディッツは己の勝利を確信し、にやけながらナッパの手足を折るべく近寄ってゆく。

 かつての格上への圧倒、それはラディッツを知らず知らずのうちに慢心させていた。しょうがないと言えばしょうがない。しかし…この時ばかりは気を抜くべきではなかった。

 

「だが、甘いな!」

 

「…ッ!?」

 

 その一瞬の動作のためにナッパはラディッツに対し、敢えて下手に出る会話で慢心を誘いつつ、時間を稼ぎ力を溜め込んでいたのだ。

 ナッパがその一瞬で繰り出した動作とは…ラディッツの尻尾へと高速で手を伸ばすこと。ただそれだけなのだ。だがこれがラディッツの命取りとなった。

 

「し、しまったぁ…っ!!」

 

「ハーハッハ!一か八かだったが…尻尾は鍛えてなかったか!運が良かったぜ!」

 

 ラディッツの尻尾を握り、無力化させる。ナッパは形勢逆転とばかりに倒れ伏したラディッツの背中を何度も踏みつける。

 ナッパの巨大な足が踏みつけるごとに地面のクレーターがどんどん広がってゆき、ラディッツは苦悶の唸り声を上げる。

 

「あ、あいつ…尻尾を鍛えてなかったのか!?孫は子供の頃に鍛えていただろう!」

 

「ラディッツ自身も…ヤムチャさんもそこんところ忘れてたんでしょうね…。うーん…仕方ない…のかなぁ?」

 

「所詮ラディッツ」

 

 少々辛辣な餃子であるが、まあ的を射ている。

 強くなることに重点を置きすぎていた…ということもあるが、PPキャンディ=ラディッツの弱点という等式を頭の中で完成させてしまっていたヤムチャの失策だろう。完全に尻尾のことを失念していた。

 

「オラ、オラァ!てめえなんかが万が一にでもこのナッパ様に勝てるわけねえだろうが!驚かせやがって!オラオラッ!」

 

「ぐ、ぐおぉ…!」

 

 尻尾を握られたことにより緩みきってしまった筋肉はよく衝撃を吸収する。一撃一撃がラディッツの体力を削り取ってゆく。それをスカウターで確認しているナッパはさぞかし上機嫌だろう。

 

「所詮、てめえみたいな最下級戦士で!弱虫で!腰抜けで!恥晒しのサイヤ人に…生きてる価値なんざねぇんだよッ!!」

 

 トドメの一撃と言わんばかりに全力でラディッツの心臓を踏み潰しにかかったナッパは、勝ちを確信した。

 

 

 

 

 しかしその一撃はラディッツを捉えることなく地面へと突き刺さった。そしてお返しとばかりにラディッツの蹴りがナッパの腹へとめり込む。

 蹴られながらもナッパは状況の把握に努めた。拘束から逃れたのかとも考えたが…手には尻尾が握られている。これが意味することは…

 

「て、てめえ…サイヤ人の誇りまで棄てやがったのか…!?自分から…尻尾を引きちぎるとは…!!」

 

「なにも尻尾が生えていることだけがサイヤ人の証ではあるまい。大猿に変身できることだけがサイヤ人の証ではあるまい!!」

 

 ラディッツは力強く地面を踏み込み、トップスピードでナッパに接近すると顔面へ拳を打ち込んだ。後ろのめりに吹っ飛ぶナッパだったが、ラディッツはさらにナッパの背後へと回りこむと両肘で肩を砕いた。

 

 肩を砕かれたことによりナッパは両腕を動かすことができない。つまり戦闘能力は失われてしまったと見ていい。

 だがラディッツは終わらない。

 空へと跳躍すると両膝でナッパの足へとニードロップを入れる。これによりナッパの四肢の機能は失われた。

 

「ぐご、があぁ…!ち、ちくしょうめ…!!」

 

「…ふん」

 

 トドメの手刀を首に打ち込み、勝負は決した。

 勝ったのは最下級戦士、ラディッツ。負けたのはエリート戦士、ナッパだ。

 

 

 

 

 

 

「…殺したのか?」

 

 恐る恐るクリリンが聞くが、ラディッツは首を横に振った。

 

「いいや、気絶しただけだ。目が覚めてもこの体じゃなにもできんだろう。せいぜい帰還するためのポッドを呼ぶくらいだろうな」

 

 生かしたのは利用価値があると判断したからか、それとも同族としての情からか。

 

「なるほど…。いや、しかし助かったぜ。すまないなラディッツ」

 

「勘違いするな。オレは貴様らを助けに来たわけじゃない。オレ自身の命とパオズ山の畑を守るために来たのだ。そこらへんを間違えるんじゃあない!」

 

 天津飯の感謝の言葉を一蹴すると、ラディッツは空へと舞い上がり今なお激しい戦闘が行われている場所目掛けて飛んでいった。

 ラディッツの返答にZ戦士は肩をすくめるとその後を追うように飛び上がった。

 




Z戦士「なんだかなぁ…」

彼らには後に活躍の場があるのでナッパはラディッツに譲りました。なお、ラディッツ抜きでもZ戦士たちならナッパに勝ててました。
天津飯が3倍界王拳を使って気功砲を撃つか、クリリンが4倍界王拳を使えば案外早く終わっていたという。天津飯のやつは間違いなく即死ですし、クリリンは一度死んでますから慎重にならないとね。餃子は後方支援タイプ。
何気にヤムチャが出ない話は初めて。

ナッパの戦闘力が7280ってのは作者の願望とネタであります。ナッパさんエリートだからこんぐらい上がってほしい。壮年期なんだし。



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