噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

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実質これがサイヤ人編だよなぁ…




俺が一番元気玉をうまく使えるんだ!

 地球が削れた。

 ターレスの一撃は神精樹の根を消し飛ばすのを恐れたためか本気よりも少し抑えた状態ではあったが、死にかけのサイヤ人とそのハーフを殺しきるには十分すぎる威力であった。

 

 ターレスは憤った感情を深呼吸によって抑え、ニヤリと笑った。

 ーー今度こそ確実に殺った!

 

 しかし、その笑みはまたもや自分に邪魔だてをする存在によって醜く崩れることとなる。再三にわたる横槍はターレスを苛立たせた。

 悟飯とラディッツの前に…ピッコロが仁王立ちしていたのだ。後ろの存在を守るために歯を食いしばり、キルドライバーの衝撃を自分の中に押し留めたのだ。

 

「死に損ないが…!」

 

「…ご、はん…逃げろ…」

 

 それだけを言うとピッコロは崩れ落ちた。悟飯はその目から涙を溢れ出させながら急いでピッコロに駆け寄る。ラディッツですらもピッコロの行動に驚き、目を見開いていた。

 

「ピッコロさぁぁんっ!!!」

 

「早く…逃げろと、言っているだろう…!お前まで…殺されるぞ…!!」

 

「嫌だ!嫌だぁぁ!!」

 

 悟飯は動けないピッコロに泣きついた。

 悟飯が自分から離れないことを悟ったピッコロは諦めたかのように一度目を閉じると、途切れ途切れに語り始めた。

 

「…き、貴様らの甘さが、移っちまったみたいだ…。くそ、オレ様は…悪の大魔王、ピッコロ様なんだぞ…どうして…こうなった…」

 

 恨み言を呟くピッコロだったが、それとは対照的に顔は晴れやかであった。

 

「だが…お前と過ごしたあの数ヶ月…わ、悪く、なかったぜ…」

 

 その閉じかける目から涙が溢れる。

 この世に生を受けてから一度も感じたことのなかった感情。それは師弟愛を超えた親子愛に似たものだった。その感情はこれから死ぬピッコロに確かな温もりを感じさせていた。

 

「死ぬ、なよ…悟飯…」

 

 そしてピッコロは力尽きた。

 悟飯はあらん限りの声で咽び泣いた。自分の弱さのせいで師を死に至らしめてしまったことをひたすら悔いた。

 しかし、それを最後まで見届けていたターレスはチッと舌打ちをすると…

 

「臭い三文芝居を見せやがって」

 

 エネルギー波でピッコロの遺体を粉々に吹き飛ばしたのだ。爆風に煽られながらも、悟飯はその光景に呆気を取られていた。

 

「あっはっは!虫けらにはふさわしい死に方だ!」

 

 妙に心が澄み渡った。脳が理解に追いついてないのかもしれない。しかし、やがて内から熱いものが込み上げてくる。怒りが心を染め上げてゆく。

 悟飯は、キレた。

 

「うあぁあぁぁああッッ!!」

 

「ッ!?戦闘力、12万…だと…!?」

 

 悟飯は叫び声を上げながらターレスへと飛びかかり、その顔をあらん限りの力で殴り抜けた。今日一番の衝撃にターレスは水平に錐揉み回転をしながら吹き飛んでゆく。

 しかし地面へと着く前に空中で復帰した。

 

「くッ…なんだ今のは…!?まさかあれが小僧の真の力とでも言うのか!?」

 

 口から流れる血を拭い、真っ直ぐに悟飯の方を見る。瞬間、ターレスの視界を光が埋め尽くした。

 

「魔閃光ォッ!!」

 

「なっ!?キ、キルドライーーーー」

 

 慌てて迎撃しようとしたターレスだったが、間に合うはずもなく魔閃光に飲み込まれた。凄まじい衝撃と熱波がターレスを襲い、吹き飛ばした。

 

「ぐあぁぁああぁッ!!?」

 

 そして神精樹へとぶつかった。

 破壊するには至らなかったが、その一撃は神精樹を大きく抉り取り、その一撃の威力の高さを物語っていた。

 ターレスは全身ボロボロの体を無理矢理持ち上げると、上空へと飛んでゆく。

 

「どいつも…こいつも…このターレス様をコケにしやがって…!!全員…確実に、痛めつけながらぶち殺してやる…!」

 

 スカウターはこちらに迫る悟飯の気を感知している。今のままでは自分は奴に殺されてしまうだろう。そう、()()()()では。

 悟飯がターレスの元に到着するよりも早くターレスは神精樹の実へとたどり着き、そしてそのうちの一つをもぎりとると豪快に食らいついた。するとターレスの筋肉は肥大化し気が膨れ上がる。

 北の銀河で最も美しい惑星地球の生命エネルギーを取り入れたターレスは、元々の何倍にも強くなったのだ。

 ターレスは体の調子を確かめるように握りこぶしを閉じたり開いたりする。そしてニヤリと不敵な笑みを浮かべると悟飯を待った。

 

 

 やがて悟飯が到着する。

 悟飯は先ほどとは別人と言っていいほどのターレスの気の変わりように動揺した。しかしここで退くわけにはいかない。他のZ戦士たちであればここでターレスの異常に気付き、仲間の元へ合流することを心がけるだろう。しかし悟飯はまだ戦士として精神面でも未熟であった。師の仇をとるまでは負けるわけにはいかないのだ。

 

「でりゃあぁぁあッ!」

 

「…ふんッ!」

 

 だが現実は非情であった。

 ターレスの振り下ろした拳に反応できず、悟飯は神精樹へとめり込んだ。カハッと咳き込むと同時に真っ赤な血が飛び散った。

 元々から悟飯への蓄積ダメージは大きかったのだ。限界を超えた力を振り絞ることによってなんとか持っていたようなものだが…ターレスの一撃によってついに線が切れてしまったらしい。地にうつ伏せたまま動かなくなってしまった。

 

 ターレスは勝ち誇り、今日何度目かの勝利への確信を得た。そして少しだけ余韻に浸るように目を閉じると…右から迫ってきていた拳を打ち払い、逆に痛恨のカウンターを食らわせた。

 吹っ飛んだのはヤムチャだった。

 

「ゴフッ…!ちく、しょうが…!」

 

 3倍界王拳からの不意打ちでもターレスの不意をとることはできない。神精樹の実は身体能力だけでなく動体視力まで強化しているのだ。

 

「はっはっは!そんななまっちょろい攻撃が当たるか!貴様に受けたこの脇腹の傷の分…じっくりと返してやるぜ…!」

 

「ケッ…やってみろよ…!4倍界王拳ッ!」

 

 4倍界王拳、さらには捨て身のヤムチャ流界王拳を併発させ、ターレスを本気で殺しにかかる。狼牙風風斬を発動し、狼牙風風拳並みのスピードで斬りかかるがターレスはそれらをいとも容易くひらりひらりと躱し、時折ヤムチャを殴打した。現段階でのヤムチャの戦闘力は15万を超えるが、ターレスを倒すまでには至らない。

 

 時間制限は刻一刻と迫っている。

 時間も…実力も足りなかった。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 よう、俺ヤムチャ。

 

 ピッコロが…殺されちまった…。つまりそれは神様の死を意味する。もうドラゴンボールは使えない。

 くそが…!

 

 ターレスの気功波によって俺の仙豆は全滅しちまったが、仙豆を届けに来たヤジロベーのおかげで事なきを得た。ターレスにやられちまったみんなもヤジロベーが仙豆を食わせるなりして今頃は回復しているはずだ。…悟空だけが地下の奥深くまで落ちちまったから届けられなかったらしいが。

 だがそんな俺たちの必死の食らいつきもターレスにとってはただの無駄な足掻きなのだろう。現に4倍界王拳とヤムチャ流界王拳を同時に使ってもターレスに及ばない…!一発でも、一発でも当たれば勝機はあるんだ…!

 

 神精樹の実を食べる事も考えたさ。だがその分のエネルギーはどうなる?ただでさえ今の地球のは壊滅寸前だ。エネルギーをちゃんと還元しなかったらどうなるかも分からん。つまりターレスにこれ以上実を食われることもあってはならないんだ。

 ドラゴンボールがあれば…!

 

「ハイッハイッハイィィッ!!」

 

「なまっちょろいぞ、このウスノロが!」

 

 狼牙風風斬を躱したターレスの強烈な膝蹴りが腹に刺さる。それと同時に俺の体は界王拳の負荷に耐えきれず、爆散してしまった。

 ターレスは俺が爆散したことに驚いている。その隙に口に仕込んであった仙豆を噛み締め回復し、不意の狼牙風風斬を放った。

 だが…

 

「おっとッ!」

 

「ッ!!」

 

 一撃が、果てしなく遠い。

 

「死ね、このくたばりぞこないがァァーッ!」

 

 ターレスの踵落としが俺の肩にめり込んだ。

 俺の体は衝撃の赴くままに下へと落下し、ついには動けなくなってしまった。

 ちくしょう…ここで…終わりなのか…!?

 

 と、その時だった。

 

「ターレス、受けてみろーーッ!!」

 

「ッ!?スカウターが!?」

 

 ターレスの真下から巨大な気功弾が飛んでくる。そのエネルギーの巨大さにターレスのスカウターは爆発した。

 そうか、あれは元気玉…!

 とすると放ったのは悟空か!あれが当たればターレスを倒す事ができる!

 

 だがターレスには元気玉のスピードは止まって見える程度だろう。簡単に躱してしまった。いや、躱したからなんだ!アレを当てれば良いだけの話だ!

 

「繰気弾ッ!」

 

 たっぷりと高密度の気を込めた繰気弾を放つ。あの繰気弾のスピードならば元気玉を追い越し、軌道を変える事ぐらいはできるだろう。

 問題はその後どうやってターレスの動きを止めるかだが…

 

「気功砲ォッ!!」

 

「ダブルサンデーッ!!」

 

「太陽拳ッ!!」

 

 心配は無用だった。

 天津飯が放った気功砲とラディッツが放った気功波が元気玉を躱しきって油断していたターレスにヒットし、僅かに動きを膠着させる。

 その隙にクリリンの太陽拳が発動しターレスの視力を潰す。後ろでは餃子が超能力でターレスに妨害をかけているようだ。

 

 みんながこの時のために待機していた。あとは元気玉を決めるだけだ。

 そして俺の繰気弾は元気玉にぶつかる。

 

 

 

 ーーヌリュン

 

「はっ?」

 

『なっ!?』

 

 予想外の事が起こった。

 繰気弾が元気玉に吸収されたのだ。

 元気玉の方がエネルギーが強かったのか…?

 

 どうしようもない絶望感が場を包んだ。

 みんなが頑張ってくれたのに…俺のせいで全てが終わってしまった。すまない…みんな…。

 

「ヤムチャーッ!元気玉を下に降ろせーッ!!」

 

 悟空の声が響いた。

 ハッとして上空を見上げる。するとそこには空中に静止したまま浮かび続ける元気玉の姿があった。しかもなぜだか中央がオレンジ色に光輝いている。あれはまさしく繰気弾の輝き…。

 おい…まさか…

 

「元気玉を…操れるのか…!?」

 

 な、なんだよそれ…何が起こったんだ?

 だが時間は俺に考える時間を与えてくれない。ターレスが復帰しようとしている。

 

 ええい、ままよ!

 繰気弾を操る感覚で人差し指と中指を下へと曲げる。すると元気玉はそれに従いかなりのスピードでターレスへと向かい始めた。

 ワッと仲間たちから歓喜が湧いた。

 

 ターレスが異常に気付き後ろを振り返るが、もう遅い。元気玉は目と鼻の先まで来ている。

 

「し、しまッーーーー」

 

「くたばれ、ターレスゥゥゥゥッッッ!!」

 

 元気玉はターレスを飲み込んだ。

 俺は間髪入れず元気玉inターレスを操作し神精樹へとぶつける。その直後に悟空が俺と悟飯を抱えてその場から退避した。

 元気玉はその生命エネルギーで神精樹を根元から破壊し、その全ての気を爆発させ神精樹から生命エネルギーを地球へと還元させた。

 

 凄まじい勢いで迸る爆発と衝撃に、俺たちは伏せる事しかできなかった。

 しかしそれらもやがては収まった。

 辺りを見回すと、そこには朽ち果てて今にも倒れようとしている神精樹と、僅かに草が生えつつある土壌がどこまでも広がっていた。

 

 

 

 

 

 勿論、ターレスの気は感じられない。

 

 みんなは勝利に喜び、ハイタッチをしている。ラディッツはどこかそわそわと落ち着かない様子であったが。

 一方の俺は…疲れ果て、気絶しながらも涙を流す悟飯を見て素直に喜べなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤムチャ現在13勝4敗




後半端折ってる?仕様です。
えっと…あれですね。私のその他小説を読んだ事がある人はわかるかもしれませんが…なぜ噛ませ犬だけこんなに文体が軽いんだろう…。


ターレス
最強戦士(笑)もろブラックがターレスで笑ったのは作者だけじゃないよね。時期が時期なので犠牲なしには倒せない男。
クラッシャー軍団と合わせてかなり好きなキャラです。なのでナッパ戦より絶望感を持たせたかったんですが…なぜこうなった。ピッコロさんごめんよ。

神精樹の実
禁断のドーピングアイテム。作者もこれをヤムチャに使うことは憚られた。
神のみが食すことを許される…。当時は「えっ、それにしちゃ神様弱くね?」とか思ってましたがビルス様の登場で少し見直しました。食ってんのかなあの人



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