噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

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3話目



汚き花火もいとわろし

 ナッパはフリーザと対決するというオレの言葉を聞いてしばらく呆然としていたが、オレたちサイヤ人がフリーザを出し抜くチャンスはここしかないということを察したんだろう。諦めたように頷いた。

 まあ、ここでオレへの協力を拒否したとしても殺してやっただけだがな。戦闘において役立たずとはいえボールの争奪戦となれば人手があった方が何かといいだろう。

 

 オレとナッパはひとまずその場に待機することにした。どうやらキュイの野郎がオレたちを追いかけてきたみたいだからな。

 ここらで奴との因縁に決着をつけてやるのもいいだろう。それに、ここで片付けておかないとそのままナメック星に居座られても面倒だ。

 

 だがこの待機中に懸念すべきはフリーザのスカウターに感知されるか否かだ。

 

 地球人どもが使っていた戦闘力のコントロール技術を見よう見まねで実践してみたが、なかなか上手くいった。我ながら見事なもんだ。

 しかしナッパはいまだそれを完全にはマスターできず、戦闘力を消しきることはできていない。

 チッ、つくづく役に立たん野郎だ!ドラゴンボールが一個だけだったならこんなバカは連れてこなかった!

 フリーザの野郎の戦闘力がいまだなんのアクションも起こしていないということはまだ大丈夫なんだろうが……。

 悔しいことに今のオレでは奴に太刀打ちできん。奴に行動が筒抜けになるという最悪の事態だけは避けたいんだがな。

 

 

「ナッパ、まだ戦闘力をコントロールできんのか」

 

「す、すまねぇベジータ。案外難しいもんでよぉ……こ、こうか?」

 

「このバカ野郎! 戦闘力を高めてどうする! フリーザに探知されるぞ!」

 

 ……単細胞に期待したオレがバカだったか。

 と、ここでやっとキュイの野郎がナメック星に到着したようだ。まっすぐとこちらに向かっている。ナッパも少し遅れて気づいたようでジッとその方向を睨みつけた。なんだ、意外とできるじゃないか。

 

 そして現れたのは気色の悪い笑みを浮かべながらこっちを見やる紫色のクソ野郎。

 オレたちにとっては言わずと知れたキュイだ。

 

「ヘッヘッヘ……やっぱり猿は所詮猿だったってことだな! もうちょい賢く生きれば良かったものを……ついにフリーザ様からてめえとナッパの抹殺任務を承ったぜ。これでやっと心置きなくてめえらを殺せるってわけだ!」

 

「……チッ舐めやがって、反吐が出る。だが同時に清々するぜ。なんせ、貴様のその下卑た声をもう二度と聞かなくて済むんだからな」

 

「へへ……確かにな」

 

 貴様(ナッパ)は相槌を打たなくてもいい。

 どうせ自分の力ではこいつ(キゥイ)に勝てないくせに……調子に乗りやがって。せめて調子に乗れる程度の実力をつけやがれ。

 

「ほお? 随分強気じゃねえか。その割には戦闘力がおちてるぜぇ? てめぇらの戦闘力じゃオレ様の相手にもなりゃしねえな!」

 

「耳障りだ。おいナッパ! こいつを黙らせてやれ!」

 

 オレの言葉にギョッとしたナッパはさっきまでの威勢は何処へやら、慌ててオレにすりよってきた。よるな、気持ち悪い。

 

「い、いやそりゃ無理だぜベジータ……。いくらオレもかなり強くなったとはいえ、まだキュイには……」

 

「情けない野郎だ。ヤツ程度殺せなければこれから先は生きていけんぞ」

 

 こいつにはサイヤ人としての誇りがあるのか?

 まあ、ナッパがこう言うことは分かっていた。オレは別に模範解答を求めていたわけではない。ナッパへの見せしめのつもりで言ってやったんだ。

 

「てめぇら言わせておけばごちゃごちゃと好き勝手言ってくれやがってよぉ! 泣いて詫びても許してやらねえからな!」

 

「フン、許す気なんかハナからないくせによく言うぜ。御託はいいからさっさとかかってきたらどうなんだ? キュイさんよ」

 

 さあ見せてやろう。

 戦闘力のコントロールをな…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後キュイの野郎が爆散したことは言うまでもない。バカみたいな嘘にわざわざ引っかかってやったのに……全くもって拍子抜けだな。

 汚ねえヤツは死に様も汚ないもんだ。

 

 これでフリーザ側にもオレが戦闘力をコントロールできることが知れ渡ったはずだ。ヤツもこれでは迂闊に手は出せまい。

 

「へへ…流石だなベジータ!」

 

「くだらんことを言ってる暇があったらさっさと戦闘力を消しやがれ、クズが」

 

 この単細胞は……。

 やっぱりこいつを連れてきたのは間違いだったか?

 ……まあ最悪囮ぐらいにはなるか。オレの不老不死のために少しくらいは役に立ってくれよ?

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 よう、俺ヤムチャ。

 

 遠目からでも汚い花火はよく見えた。

 うん、生で見てもやっぱり汚かったよ。ごめんな、えっと……汚い花火の人。

 

 それにしてもベジータはともかくナッパまで来るとはおったまげたなぁ。あいつ気のコントロールが出来てなくて気がだだ漏れだけど……大丈夫か?

 ……俺が気にすることではないか。まあ一つ言うなら、初めてにしちゃいい線いってんじゃないの?

 

 

 さて、俺たちはドラゴンレーダーを頼りに一つの村へと向かっていた。ナメック星はめちゃんこ広いから移動だけでも一苦労だ。くそ、飛べれば一瞬なんだがな。

 餃子はこれまでのほとんどの移動を舞空術か超能力で済ませてきたから慣れない足による長距離移動は中々大変そうだ。流石に疲労とまではいかないだろうけどな。

 

 数時間後移動し続けた頃だ。

 前方に中規模の村が見えた。ナメック星人もそれなりにいるようだ。しかしデンデたちがいた村ではないらしい。むぅ、残念。

 

 目の前に広がるピッコロピッコロに天津飯と餃子は表情を固くした。

 うん、気持ちはわかる。いっちゃ悪いけど気持ち悪いもんな。ほら緑だし……触覚生えてるし……ショタコンだし……。

 

 取り敢えず刺激しないように友好的な雰囲気を出しながら村に近づく。

 異星人が珍しいのだろう。ナメック星人たちは一斉にこちらを見て警戒を始めた。

 すぐさま両手を上に上げる。戦いの意思はないことを見せるのが大切だ。

 するとナメック星人の中でも老けている一人の老人が人ごみの中から現れた。恐らくこの村の長老だろう。暫定長老のナメック星人も俺たちを警戒しているが、取り敢えず話す意思は見せてくれた。

 

「……この村に異星人が何用じゃ…」

 

「俺たちに敵対の意思はありません。ただドラゴンボールの恩恵にあやかりたいと思いこの星にやってきた所存でございまして」

 

 ちゃんと頼みごとをするときは下手に出ないとな。交渉の常識である。

 そして天津飯と餃子が意外なものを見るかのような目で俺を見ていた。

 なんだよ、俺が敬語を使うのは珍しいか? 結構使ってると思うけどな……主にブルマに。

 

「ふむ、ドラゴンボールか。確かにお主達からは邪悪な気を感じぬ。しかしすまんが決まりでな、ドラゴンボールを使うに相応しい者であるか試させてもらう」

 

「ええ、構いませんよ」

 

 フリーザもこんぐらい物腰を軽くしてりゃもっと簡単にドラゴンボールを集めることができただろうに……勿体無いよな。

 

 すると長老に続いて若いナメック星人が出てきた。へぇ…中々の強さだな。

 目安で言うなら……大体ヤジロベーくらいの強さか? ちなみに長老は0.6ヤジロベーくらいだ。

 

「この者は村一番の戦士だ。この者と戦い勝利すればドラゴンボールを使うに相応しい者であると認めよう」

 

 なるほど、力比べねぇ。

 スカウターで探知される可能性があるから本気では戦えないが、どうかな。

 

 と、ここで俺たちの中からずいっと身を乗り出したのは我らが頼れる漢、天津飯だった。

 

「ヤムチャ、オレにやらせてくれ。修行の成果がどれほどのものか試してみたい」

 

「ああいいぜ。餃子もそれでいいか?」

 

「うん、いいよ!」

 

 別に反対する理由はない。天津飯がやりたいって言うならやらせてあげるのが一番だ。

 その代わり本気でやらないようにと念押ししておいた。序盤のうちにフリーザに身元を特定されるのは何としても避けなければなるまい。

 

 すると天津飯を見た長老がギョッとした様子で言い放った。

 

「……!その三つ目…まさか伝説の三つ目一族か!? よもやここで会えるとは」

 

「三つ目……一族だと…!?」

 

「「な、なんだってー!?」」

 

 今明かされる衝撃の事実。天津飯は純地球人ではなかった! まあ、だからなんだという話であるが。元々から知ってたしな。

 確か先祖返りなんだろ?

 

 だが弟弟子である餃子は衝撃が強かったらしい。そのまん丸い大きな目をさらに見開いていた。

 一方の天津飯も色々と思うところがあったようで「た、確かに周りの奴らと色々違うなー…とは思っていたが…」と呟きながらショックを受けていた。神様かお前は。

 

 まあ結局のところ純地球人はZ戦士の中では俺とクリリンと餃子だけか……いや待てよ、他二人も色々と人外じゃね? 鼻がないし、何かと白いし、どっちもチビだし。最後のは関係ないと思うけど。

 ……地球人最後の砦は俺か…!

 

 さてショックを受けていた天津飯だったが、すぐに気持ちを取り直したのだろう。キッと目つきを鋭くすると構えを展開した。

 

「オレの正体などどうでもいい。オレたちは早くドラゴンボールの力で地球を元に戻さねばならんのだ。悪いが一瞬で勝負を決めさせてもらうぞ!」

 

「フッ、その潔さよし。さあ、試験開始といこうか! 長老!」

 

 両者ともに気合十分。若いナメック星人の催促に長老は頷き前に出る。どうやら試合開始の合図を出すようだ。

 

 場はシンと静まり返り、緊張からか誰かが唾を飲み込む音がする。俺と餃子はその場に座り込みワクテカしながら試合を観戦だ。

 しばらく勿体つけるかのようになかなか開始の合図を出さない長老だったが、唐突に目をカッと見開き大声で叫んだ。

 

「試練開始ッッ!!」

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 同時刻。

 悟空、悟飯、クリリンチームは遠くの方で上がった汚い花火を見届けて暫くした後、ナメック星人の村へと到着した。

 

 こちらも餃子と天津飯と同じようにたくさんのピッコロに似た異星人たちに驚愕するのであった。しかし悟空と悟飯はナメック星人とすぐに打ち解け、クリリンは二人の世渡りのうまさに舌を捲く。

 関係は概ね良好であり、このまま楽にドラゴンボールゲットかと思われた。

 

 しかし……。

 

「ちょ、ちょっとちょっと! オラたちそんなこと言われてもなんのことかわからねえよー!」

 

「そう言われてものぅ。これでは知恵比べはワシらの勝ちということになるが、よいかの?」

 

 重大な問題が一つ。ここの村の試練の内容は知恵比べだったのだ。試合ならばともかく、知恵比べとなれば体力自慢の悟空たちに太刀打ちできる術はない。

 

 このチームの頭脳である悟飯(5歳)でも、その人生において地球からは一度も出たことがない。よって宇宙の一般常識を学んだことは一度もないのだ。まだ算術などであれば対抗できたのだが……。

 

「お主たちからは邪悪な気を感じぬ。しかし規則は規則じゃ。ワシらとの知恵比べに勝つまではドラゴンボールを渡すことはできん」

 

「そ、そんな! オレたち急いでるんですよ! それに悪い連中もこの星に来てるんです!」

 

「うむぅ……しかし……」

 

 ナメック星人は頑固な種族であり、クリリンの説得にも耳を貸そうとしない。

 悟空は「まいったなこりゃ……」と困ったように呟くと頭を掻くのであった。

 


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