すでに村があった痕跡は跡形もない。
あるのは破壊によって生み出された瓦礫の山と、その上で拳をぶつけ合う二人の超戦士のみ。
打ち付け合う拳から発せられた衝撃波が、星そのものを削っていた。
現在の悟空とフリーザの戦況は──若干悟空有利へと傾き始めていた。
現時点での二人の戦闘力にそれほどの差はない。しかし悟空の戦闘力は5倍界王拳を使用することによって100万まで増加している。
さらに悟空はその上の倍率界王拳も制御可能、まだまだ力を温存できている。
フリーザ第二形態までなら軽くいなせる程だ。
ともに被打が20を超えたあたりで、ついに我慢ならなくなったのだろう。フリーザは悟空から素早く距離をとった。
憤慨するは帝王としてのプライド故か、笑みを浮かべるは強者としての余裕か。
「貴様、いい気になりやがって……! その顔を見ているとどうにも腹が立つ! ……この際だ、特別に見せてやろう。フリーザ様の次なる形態をなァ!」
「なにっ、次なる形態!? おめぇ…まだ変身して強くなるんか!?」
フリーザは悟空の驚愕を他所に変身を開始した。爆発的な戦闘力の伸びとともにフリーザの後頭部がぐんぐんと伸びていく。
変身の時間はさほどかからなかった。最たる問題はその質である。
全身に角・突起が増え、顔が縦長になり、全体としてエイリアンのような醜悪な禍々しい姿となったフリーザ。
戦闘力は現段階での悟空を遥かに上回っていた。
「お待たせしましたね……この姿を見せるのは貴方が初めてですよ。さて、第二回戦といきましょうか。じっくりとなぶり殺してあげますよ……」
「は…はは…こいつは、ちょっとやべぇかもなぁ。ギリギリってとこかな?」
悟空は乾いた笑みをこぼすと、決意を胸に抱いた。一気に気を高めていく。
体を覆う気のオーラは界王拳により紅蓮に染まり、炎のように揺らめいた。
ひしひしと空気にのって伝わるプレッシャーが先ほどの悟空とは一味も二味も違うことを証明している。そして再び悟空の気がフリーザに並んだ。
「ほう…! 戦闘力は分かりませんが、相当なものであることは分かりますよ。そして……それが貴方の限界であることもね」
「へへ…限界でもいいさ。その限界でおめぇを倒すことができるんならなッ!」
悟空は地を陥没させるほどに強く蹴り、フリーザへと肉迫。強烈なラッシュを叩き込む。
難なく抑え込むフリーザだが、額には少なくない玉の粒が浮き上がっていた。
フリーザのこの形態は遠距離からの攻撃に向いている形態であり、こと近接戦では不利というわけではないが、第二形態よりも苦戦するのは必至であった。
だがフリーザは笑みを崩さず悟空の猛攻を防ぐと、その自慢のスピードで即座に距離をとる。そして指先にエネルギーを込め、高速デスビームを放った。
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャッッ!!」
「くっ…! こんなもん効かねぇぞォ!!」
悟空は周囲に気のドームを張り回転。フリーザへと突進しつつ高速デスビームを弾いていく。
ヤムチャに教えてもらったこの技が早速役に立つなんてな……と悟空は内心ほくそ笑んだ。
単に力で押すタイプのサイヤ人だろうとタカをくくっていたフリーザはその対処に移るまでの動作を鈍らせた。その一瞬の隙さえあれば十分。
悟空は気のドームでフリーザを跳ね飛ばし、さらに脳天へと踵落としを打ち込んだ。
しかしタダで終わるフリーザではない。下へと落ちながらも咄嗟に尻尾を悟空の足へと巻きつける。そして自分の落ちる推進力を利用しながら悟空を下へと投げ飛ばした。
なす術なく地面へと激突した悟空だが、すぐに立ち上がる。そして上空にて手を組みこちらを見下ろすフリーザを睨みつける。
このままいたずらに界王拳を使い続けてもこちらが消耗するだけ。だからといって界王拳なしではフリーザには歯が立たない。
仙豆を使っての持久戦法も1つの手ではあるが、悟飯たちの行方を心配だ。ドラゴンボールとナメック星人の子供を持ったままでは戦いようがない。
オマケにこちらへと近づくそれなりに大きな2つの気……このままいけば悟飯たちと鉢合わせてしまう。刻一刻と変化してゆく状況……悠長にフリーザと戦っている暇もない。
ならば…本気の一撃をぶつけ、短期決戦を狙うほかに悟空のとることができる行動はなかった。だが同時に、それは最も最善な方法になりえた。
亀の道着を破り、気を漲らせていく。
赤く揺らめくオーラがまた瞬きを増した。それと同時に悟空の体へと凄まじい負担がかかるが、けたたましい声を張り上げそれを全く感じさせない気概を示す。
自身最高の一撃、つまり自身最高の技。ならばこの技しかあるまい。昔からその威力を発揮し、数多の強敵たちとの戦いで己の力として支え続けてくれた亀仙流の奥義。
「かめ…!」
自分のためよりも、仲間のために……フリーザを生かしておくわけにはいかないのだ。
勿論悟空に死ぬ気はない。勝って、願いを叶えて、またみんなと一緒に地球に帰る。悟空は今までのどの時よりも勝利に貪欲であった。
「はめぇ…!!」
漲る気を一点集中。悟空の気は地にまで伝播し唸りを上げる。フリーザは受け切れると見て迎撃する構えをとった。
悟空の思いを汲み取るように群青色のエネルギーが掌に凝縮される。燃え上がるような紅蓮のオーラがエネルギーを包み込む。
全てを賭けた一撃が、今ようやく完成したのだ。
「ッッッ波ァァァァ!!!」
悟空から放たれた荒れ狂う気の奔流は凄まじいスピードでフリーザに迫る。流石のフリーザもその迫力にはたじろいだ。
そして衝突。その瞬間、ナメック星が震えた。
「く…ぎぃ……! こんなものぉ…!」
始めは両手で踏ん張っていたフリーザだったが、想像以上の勢いによって徐々に…徐々にではあるけれど、着実に身体が後退していた。
堪らなくなり右足まで使って抑えにかかる。ここでようやく両者が拮抗した。
ピンチなのはフリーザであるが、消耗が激しいのは悟空。ここで攻撃に失敗してしまえばあっという間に命を奪われるだろう。
ここが踏ん張りどころだ、と悟空は決意を固め、最終手段を叫んだ。
「界王拳、20倍だァァァァァァッ!!」
「な、なにぃぃッ!?」
数倍に膨れ上がったかめはめ波がフリーザに襲いかかる。あまりの衝撃にフリーザの無数に生えていたツノと長い尻尾が消し飛んだ。
受け止めていた手足は焼き焦げ、フリーザの力を奪っていく。そして────
「ぐ…ぐぐ…! おのれぇぇ……!ち、ちくしょォォォォッ! ぐあぁぁああッ!!」
ついにかめはめ波はフリーザを飲み込んだ。それとともにかめはめ波は爆発を起こし、ナメック星の空を光で彩った。
悟空は結末を見届け、仰向けに倒れる。
はぁ…はぁ…と荒い息を吐き、震える手で腰の仙豆へと手を伸ばす。そして最後の力を振り絞って仙豆を口へと放り込んだ。
全快した悟空は上半身を起こすとフリーザが爆発した場所を見上げた。未だに黒煙は濛々と立ち込めている。
「……とんでもねぇ相手だった。宇宙には地球よりもすげえ奴らがいっぺぇいるんだなぁ。負けねぇようオラももっと修行しねぇと」
悟空はさらなるパワーアップを誓い、腿をパンッと叩くと勢いよく立ち上がる。悟飯たちが心配だ。すぐに駆けつけなければ。
悟空は舞空術によって飛び上がり────
肩をレーザーで貫かれた。
痛みでバランスを崩した悟空は再び地面へと顔をつけることになってしまった。
「…!? い、いてぇ…!」
ドクドクと血が流れる傷口を押さえ、レーザーが飛んできた方向を見る。場所は、黒煙の中だった。
その瞬間、悟空はバカバカしいまでに巨大な気を黒煙の中に感じ取る。
見覚えある巨大で禍々しい気。これには悟空も乾いた笑いしか出なかった。
「はは…は……こりゃもうダメかもな…」
一陣の風が吹き、黒煙を晴らす。
眼前に現れたフリーザの姿は、ひとことで言えば弱そうだった。
外角やツノなど、細々としたものは全て取り払われ、シャープないでたちへ。第三形態とは似ても似つかない。
だが逆に言えばこの形態は完全戦闘形態とも言える。余計なものは何1つない。戦うためだけに極限化されたそのフォームはこれまでとは違う意味で、悟空に強烈なプレッシャーと重圧をかけていた。
「今のは……痛かったですよ? お猿さんにしては少々お痛が過ぎましたねぇ。おかげでこのボクを怒らせてしまった…」
「ここまで強いとなると……流石に勝てる気がしねえなぁ」
悟空は肩の傷を治そうと仙豆へ手を伸ばしかけるが、少し考えて手を戻した。後の仲間たちのために、仙豆の情報をフリーザに与えなかったのだ。
つまり、悟空は死ぬ覚悟を決めたということだ。
「さあ、地獄以上の苦しみを与えてあげるよ。忌々しいサイヤ人」
「……へへ…こいっ! オラは地球育ちのサイヤ人、孫悟空だ!」
孫悟空は、初めて命を散らした。
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「先ほどから地震が激しいな……。十中八九フリーザ様によるものだろうが、あの男はそこまで強いのか? ……連れがドドリアを一撃で殺すような奴だ。ありえん話ではない、な」
ザーボンは呟いた。
この分では自分の命は無いかもしれない……と、えもいえぬ恐怖と焦燥を抱きながら。
フリーザの命により、逃げるクリリンと悟飯を追跡していたザーボンだったが、不意の太陽拳により二人の姿を見失ってしまった。
あのフリーザの様子だ。いつもなら何度か挽回のチャンスを用意してくれる帝王だが、今日ばかりはそこまで穏やかでは無いだろう。
スカウターを全て破壊されるという失態に次ぐ、失態続き。しかも連中の一人はドラゴンボールを一つ確保していた。それを逃したとなれば───。
「くそっ何処へ行ったんだ……! このままでは私の命が危ないんだぞ……!?」
ナメック星は広い。
スカウターも、気を読む術もないザーボンに地球人二人を探し出すのは殆ど無理な話だ。
しかし、それでも諦めるわけには──。
「ようザーボンさんよ。随分と忙しそうじゃないか……必死に何を探しているんだ?」
「……っ! 貴様、ベジータ!」
「オレもいるぜ」
ザーボンの前に姿を現したベジータとナッパは不敵な笑みを浮かべる。
二人の姿を認めたザーボンもまた笑う。腹から大きな声を出して豪快に。
「はっはっは! なんということだ、まさかお前らに助けられるとはな! これで私は死なずに済む! 礼を言うぞ、ベジータ!」
地球人二人を捕まえることはもはや不可能。ならば他の手柄で失態を帳消しにすればいい。
せめて手土産にサイヤ人二人の死体を持ち帰れば、フリーザの態度もいくらか軟化するだろうという、ザーボンの皮算用だった。
ナッパは訝しんで眉を顰めた。
「……なんだあいつ。恐怖で頭がおかしくなっちまったか?」
「ふん、どうでもいいな。クク……それに笑いたいのはこっち方だぜ。まさかここまでドラゴンボールを二個も運び出してくれるとはな」
ザーボンは両脇にドラゴンボールを抱えていた。あの戦闘の場に置きっぱなしにするわけにはいかなかったからだ。
できればドドリアの持っていたドラゴンボールも持ち運びたかったのだが、腕が二本しかないザーボンには無理な話だ。
どちらにせよ好都合。ベジータはどうしようもなく可笑しかった。ザーボンと同じく豪快に笑いたくなるくらいに。
「フリーザの野郎が近くにいたんじゃあ手が出せない。だが、こうして雑魚のお前がオレたちの前までドラゴンボールを持ってきてくれたんだ。……礼を言うぜ、ザーボンさんよ」
「馬鹿め! 貴様らごときの戦闘力でこの私に敵うと思っているのか? ハハ、待っていろ! すぐに殺してやるからな!」
両手がドラゴンボールで塞がっているので蹴りで強襲。ベジータの腹に深々と突き刺さる。
だが、計算内だ。
「くっ……そぉれッ!!」
「な!?」
ベジータはザーボンの足を掴むと、地面に向けて投合した。あまりの遠心力によって手元を離れたドラゴンボールをナッパが回収する。
なんとか勢いを殺しつつ、ザーボンは地面に軽く着地した。そして上空を見上げベジータを確認しようとしたのだが、その姿はない。
「くそ、どこに隠れやがった!」
「灯台下暗しとはこのことだッ!!」
瞬間、拳がザーボンの腹を突き破った。咄嗟にくの字に曲がったことで貫通を避けることはできたが、戦いの決定打となる一撃。
紫色の血が吐き出される。
「よもや……ここまで戦闘力を上げているとは…! だ、だが、私が変身すれば、貴様らごとき……片付けることなど……!」
「ほう、変身型の宇宙人だったのか。それは中々面白そうだ。───だが時間が押してるんでな。貴様のくだらん延命に手間をかける暇はない!」
ザーボンの体内で気の奔流が迸る。
変身によって徐々に膨れ上がっていた筋肉を突き破り、ベジータの一撃は今度こそザーボンを貫通するのだった。
吹き飛ぶザーボンの致命傷を確認し、急いでフリーザと悟空の元へ向かおうとベジータは背を向けた。だがベジータはミスを犯した。
気を探る技術を身に付けようともまだまだ拙い部分があるのは当然だ。
ベジータは気の確認を怠った。
「まだだッ……死ね、ベジータァ!」
「なに!?」
最期の最期で変身を終えたザーボンの悪あがきだった。醜悪な外見になったザーボンの瞬間戦闘力がベジータを上回る。
掌にはすでに高密度のエネルギーが集約されていた。
「これで貴様はおわり──!」
「っと、危ねえな死に損ないが!」
エネルギーを放つ寸前、ザーボンはナッパに蹴り落とされた。
地面に叩きつけられたザーボンは醜く、そして弱々しく悶える。そこには美しさの欠片もなかった。
「こ、こんなところで……この私が……!」
「チッ……驚かせやがって。貴様は負けたんだ、おとなしく死にやがれ」
ベジータの足がザーボンの首をへし折った。
これにて戦闘終了、気に入らない側近の片割れを殺したことで清々しい気分なのだが、得意げな表情を浮かべるナッパがどうしようもなくイラついた。
「なんだナッパ。何か言いたそうな顔だな?」
「いやいやそんなことはねぇぜ。ただオレがいなかったらヤバかったんじゃねーかなと思ってな……へへ」
「調子に乗るなよ。余計な手出ししやがって」
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フリーザは激戦の末、デスビームで悟空の胸を貫き殺害。その後力の消耗を防ぐべく元の第一形態へと戻っていた。
そして静かにザーボンの帰還を待っていたのだが…いつまでたっても戻ってこない。
寛大なフリーザでも流石に飽き飽きし、彼は死んだと見切りをつけた。
「やれやれ……私以外は全滅ですか。使えない部下どもですねぇ。ザーボンも殺されたようですし、ドラゴンボールもそのまま奪われたと見るべきですか」
もはや怒る気力もない。フリーザは大きなため息を吐いた。思わぬ伏兵に苦戦させられた挙句に、これだ。
普通ならここで惑星を破壊して終わりだろう。嫌な思い出のある星など残しておく価値もない。しかし、今回は我慢する。
フリーザは目力によって瓦礫を吹き飛ばし、埋まっていたドラゴンボールを手元に寄せた。ドラゴンボールが一つでも手元にあれば他の勢力が願いを叶えることは不可能。
不幸中の幸いといったところか。
取り敢えず宇宙船に戻ろうかと、宙へ浮かび上がったフリーザは、もう一度悟空の亡骸を見た。胸をレーザーで貫いて、終わり。
実に呆気ない最期だった。
……しかしなぜか恐怖を感じていた。似ているのだ。惑星ベジータが消え去った日に最期まで抵抗を続けた、あのサイヤ人に。
大した脅威にもならない格下の存在のくせに、フリーザを慄かせた気迫は、今も脳裏を掠める。
「……まあ、偶然でしょうがねぇ。しかし、タダでは終わらないような、嫌な予感がする…」
フリーザも一端の超能力使い。その予知能力は目を見張るものがある。
またそれを抜きにしてもドドリアを葬り去ったあの子供など、自分の不老不死計画を邪魔する存在が幾つかこのナメック星に在ることを把握している。
まず明らかに配下が足りない。そしてスカウターもない。このままの状態でドラゴンボール探索を続けるのは困難であった。
「呼ぶしかありませんねぇ……ギニュー特戦隊を」
舐めプしなかったらこんなもんでしょう。ベジータのミスはナッパが帳消しにしてくれたのでセーフ! セーフです!
たった一人の最終決戦ってサブタイはフリーザにもいえるというダブルミーニング
ヤムチャ……2個
ベジータ……2個
フリーザ……1個