チュインチュインチュイン!!
地面に軽い衝撃が走った。
(はっ、バカが。ンな攻撃で何しようってんだよ)
先程は鎧を脱いだあの姿に圧倒されたが、一度地中に潜ってしまえば己に敵う者などいない。
━━━━彼女、グリロタルパワームはそう思っている。
(そうだ。俺は出来損ないなんかじゃない。見てろ、俺はお前達ができなかったことをやってやる)
彼女の全身にびっしりと生えている感覚毛が、地中に走る振動を敏感にキャッチし、相手の位置が脳内で映像化される。
(この衝撃からして地面に当たったのは銃弾。そして銃弾を撃つ前後で人が歩く振動は無かった。つまり、相手は銃弾が当たった射線上に居る。複数の銃弾から引かれる射線が交わる位置、それがテメェの場所だよマヌケ)
そう相手を嘲笑いながらグリロタルパワームはゼロ号の背後に回り込み、シャベルのような両腕で地面を押し上げようと━━━━━━━
ドォンドォンドォンドォン!!!
(あガッガガガガガ━━━━━━???!!)
地中に凄まじい衝撃が駆け巡り、鋭敏なワームの感覚毛はその衝撃を余すことなく捉えた。
例えるなら、暗闇にいた時に目の前で雷が落ちたように。無音の空間で耳の前で花火が爆発したように。感覚器がその許容量以上の刺激を受け、機能を失う。
前述の二つの例と異なるのは、ワームの感覚器が全身にあったということ。
この瞬間、ワームは全身の機能を停止させられた。
無意味な痙攣を続ける地中から露出した上半身に凄まじい衝撃が叩き込まれ、吹き飛んだ。
「ぐえっ」
カエルが潰れたような声を上げ、人間態に戻ったワームが地面に転がった。
◆◆◆
地面に転がり、電線にぶつかった鳥のように無様に痙攣を続けているワームを眺めていると背後から声を掛けられた。
「か、勝てたの、てんどうくん?」
『…………』
その声に答えることなく、6メートル程前方に飛ばされたワームにゆっくりと歩いていく。
横たわる女を照らしていた月の光を己の体が遮った。
「うっ………」
人が近づいた気配を感じたのだろう、女は呻き声を上げ目を開いた。ぼうっとしていた目が焦点を結び、見開かれる。
「チッ。…………結局こうかよ。なんで、お前達は━━」
━━━何でももってるんだよ…………。
??????????????????????????????????
その言葉が理解出来ず。
その言葉に、知らず赤いオーラを纏った右足が、つま先を天に上げるように持ち上げられた。
つま先を女の脇腹に当てて。
ぼきぼきぼき………………
「あっ、ぐぅ?!」
硬いものが折れる音が女の腹から鳴り、女の体は放物線を描いてとんでいった。
ぐしゃ
「ふっ、ふっ、ふっ。………くそっ糞がぁ!」
再び地面に転がった女は悪態を吐きながら全身を膨らませた。
グチュグチュ………
不規則に膨張し、擬態を解いたワームが肩で大きく息を吐きながら構えている。
気負うことなく、ソレに近づくとクナイガンを手に、高熱を発する刃でその表皮を切り裂いた。
視界の隅で、赤く輝く文字を捉えながら。
System━━【RED BOOTS】awaken………………
ゴオッ━━━!!
内から湧き上がる憎しみ、怒り、苛立ち、そして恐怖を衝動に駆られるままに己の腕に込める。
スッ
だがその一撃を、目の前の敵はいとも容易くすりぬけていく。
(勝てないッ……………)
代わりに相手の持つクナイが赤く輝く刃で己の体を切り裂いた。
ジュッ
『ぎぎぎぃ!』
こわい。逃げ出したい。けれど、コレに背を向けた瞬間、俺の命は終わるだろう。そんな確信じみた直感が、彼女をゼロ号と戦うことを強いていた。
そんなワームにゼロ号は容赦なく攻撃を続けた。
『……あ』
両腕が弾かれ、胸部ががら空きになる。
赤い断罪の剣が月の光を輝き返しながら振り下ろされた。
ゼロ号の無機質な黄色くつるりとした複眼に歪んだワームの顔が映った。
ザン
分厚い鎧を刃はやすやすと切り裂いた。
体から力は抜け、なのに震えは止まらない。
可笑しくなる。
何もない、虚無の生だった。生きてる意味なんてないと思っていた、死んでも構わないと、そう思っていた。だって死ぬことが何かを失うということならば、何も無い自分は既に死んでいるのだから。既に有る状態に恐怖なんて感じるはずか無い。
なのに、何故か怖かった。
(ああ━━━━。もしかしたら俺は)
カツン
朦朧とする意識でそこまで考え、辺りが暗くなり目の前に赤を纏う足が見える。
顔を上げた。
━━━One…………
目の前に居たのは、冷徹な殺戮者。背後に輝く月を従え、しかしその姿は影になりワームにはその紅い装甲は黒にしか見えなかった。
━━━Two…………
体の震えが止まり、刑を受ける罪人のようにワームは頭を垂れた。
━━━Three………
ゴオオオォォォ……………
闇夜を闇のような炎が不規則に照らす。
ゼロ号が影を作り、暗くなっていた視界が明るく照らされた。
━━━Rider Kick……………!!
炎が視界を染め上げていき、総てが白く洗われる。
「だめぇ!!」
その直前で、炎は遮られた。
◆◆◆
とっても恐ろしくて、凡そ人間が及ぶとは思えないバケモノをゼロ号、天道君は圧倒した。
確かに、ゼロ号は何度もワームの攻撃を前に地面に伏したけれど、そんな戦いの結果よりももっとずっと高い所で、ゼロ号はあのバケモノを圧倒していたように思う。
幾度も倒れ血を流し、それでも立ち上がったあの己の血で紅く輝く姿は幾度と無く大地を照らし続ける太陽みたいだった。
けれど。
ゼロ号ががら空きのワームの体に蹴りを入れ、ワームを吹き飛ばした。
倒れ伏したワームが、泣きそうな顔で呻いた。
「結局、こうかよ。なんで、俺にはなにもなくて、欲しいものは全部お前達が……」
その言葉の途中でゼロ号は人間態のワームを容赦なく吹き飛ばした。
なんで天道君がそうしたかは分かる。憎いからだ。簡単な話だ。家族がワームに殺されたんだ、憎くないはずがない。日下部家がワームに襲撃されたあの日の全貌を知っている訳じゃないけれど、大凡は知っている。だから彼の行動は理解できる。
けれど今は彼が怖かった。余りにも淡々としていたから。あのワームが漏らした声にも、零した涙も顧みることなく。淡々と作業のように殺していくから。
復讐は何も生まない、とか分かったような事を悟ったような事をいうつもりは無い。誰かが信じて突き進んだ道なら、その道は私が踏んでいいものじゃなく、その人だけのものだから。
だけど天道君が戦っているのは、怒りとか、使命感とかによるものじゃなく、まるで何かに強いられているかのように、思考を捨てたように。
それは違う、そう思った。
気づけば体は前に出ていて、白い炎からワームを庇っていた。
ゴオォォ………
鼻先数センチで黒い炎を纏うゼロ号の右足が静止していた。
『…………』
からからになったのどからなんとか声を出す。
「……………起きて、天道君。何かに流されて、決断することを止めちゃいけない」
黄色いバイザーからは天道君がどんな顔をしているのかさえ、分からない。それでも信じて言葉を紡ぐ。
「キミが歩むのは天の道なんだろう?自分が決めた道を進まないで、それを己の道だと誇れるのかい?」
その言葉に、ゆっくりと右足が戻された。
ほっとした次の瞬間、凄まじい勢いで反転した右足が雷を纏い私に迫っていた。