加速する太陽   作:サカマキまいまい

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更新遅れてすみません(いつものご挨拶)

あと、前話に描写していなかった場面を入れたのでもう一度見て頂けるとありがたいです。


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分厚い雲に覆われた薄暗く荒廃した街に風が吹く。

 

「はあっ、はあっ」

 

そんな街の廃墟の一つであるボロボロのビルの影に身を潜める男は、ひび割れたコンクリート越しにゆっくりと彼のいる方へ近づいてくる銀の鎧を見た。

 

ザッ……ザッ……

 

顔さえもバイザーに覆われ、常に表情を見せることの無いアレは今この瞬間に、一体何を見て何を考えているのだろうか。

 

ふと、バイザーに覆われたソレの頭がこちらに向けられた。どきりとして体を建物の影に隠す。

 

見つかったのか?いや、ここからあそこまでどれだけ離れていると思っている?

 

深呼吸をして再びビルの影から顔を出す。

 

彼の左目に取り付けられたレンズが勝手に動き倍率を調整すると、彼の目だけに見える赤いレーザーで描かれた領域に「鎧の男」が足を踏み入れるのが見えた。

 

━━今だ!

 

腕をクロスさせ、手首に着いた装甲にあるボタンを押し込み叫ぶ。

 

 

「マイン・ヘル!!」

 

チチチチチチ………!

 

鎧の男の周囲に取り付けられた地雷が一斉に輝き始める。

 

「!!」

 

ゴオッ!!

 

爆発で生じた爆風が領域内の相手を捕らえ、包み、逃さず爆発のエネルギーを叩きつける。

 

ドオオォン!!

 

「やったか!?」

 

己の視界の隅に浮かぶ相手の体力ゲージは勢いよく減少し、しかし、彼の祈りも虚しく急に減速すると全体の半分ほどで止まった。

 

「そんな、バカな」

 

体を隠すことも忘れ、爆心地を見ていた彼の目の前で、ゆっくりと煙が晴れていく。

 

「………………」

 

紅蓮の炎がヘビのように大地をのたうつ中から、それは悠然と現れた。

 

「そんな………。バカな」

 

おかしい。確かに見たのだ。彼がたまたま観戦していたデュエルにおいて、炎属性の攻撃を受け大きなダメージを受けた彼━━ヒヒイロカネ・デイを。

 

彼が歩みを進める度に、足元の炎は畏れ慄くようにゆらゆらと震えながら消えていった。

 

炎を映し薄く桃色に染まった銀の鎧を身に纏い、ヒヒイロカネ・デイがゆっくりと近づいてくる。

 

 

「お前は……お前の弱点属性は、炎じゃなかったのか?………お前は一体、何者なんだ?」

 

思わず零れたその問に、終始沈黙を貫いていたデイがバイザー越しにふっと笑う気配があった。

 

「お婆ちゃんは言っていた。遥かな高みにある太陽の大きさを人は実感出来ない。同じように、お前如きでは俺という存在を測ることは出来ない」

 

頭上でカッと太陽が輝き、分厚い雲を吹き飛ばした。ボロボロのビルが影を作る薄暗い世紀末ステージの中で、デイの立つ場所だけが照らされた。

 

「━━━だがせめて、俺の存在だけでも覚えておけ」

 

天に掲げた腕を包む鎧が空から降る光を反射し、辺りを照らした。

 

「俺は天の道を往き、総てを司る男」

 

 

◆◆◆

 

ぐうううおぉぉん………

 

超加速していた思考が捉えていた、引き伸ばされた重低音の音が元に戻る。

 

ボロボロのビル群が逆再生された動画のように修復し、空は輝きを取り戻していく。

 

青く澄み切った空を見上げ、天道が息を吐くと背後から背中を叩かれた。

 

何者なのか半ば確信しながら背後を振り返るとそこにいたのは案の定、日景火垂だった。ニイッと八重歯を見せて笑いながら、彼女は天道の正面に回り込んだ。

 

「お疲れ様。ナイスファイトだったよ」

 

朝っぱらから何時になく御機嫌な彼女に、天道はクールに答える。

 

「当然。それより………。久しぶり、だな」

 

「うん、久しぶり。怪我はもういいのかい?」

 

「ああ、問題ない。お前こそ、謹慎は解けたのか?」

 

天道の問に疲れたような表情を見せる日景。

 

「あー。大分絞られたよ。キミに、会えないし……。キミは寂しかった?」

 

瞳を潤ませ、上目遣いで天道を見遣る日景に、ちらりと目をやった天道は彼女を鼻で笑った。

 

「別に」

 

素っ気なく答え、学校への歩みを進める彼に歩調を合せながら、彼女は天道の横顔をのぞき込んだ。その澄ました顔からは、彼が重傷を負っていたことをちらりとも感じられない。

 

「ちぇ、淡白だなあ。そう言えば……。また着けたんだね、鎧を」

 

仮想世界での戦闘を終え、現実に戻ってきた天道を労った日景の言う通り、一ヶ月半前の彼女との戦闘でデイが脱いだ鎧は再び彼のデュエルアバターに装着されていた。

あのワームとの死闘の後、重傷だった天道はつい最近までZECT管轄下にある病院に放り込まれており、日景は今回の失態を祖母からこってりと絞られ自宅謹慎となっていた。

謹慎中はインターネットへ接続することを禁じられ、ニューロリンカーまで取り上げられていた日景は、その間に天道がどうしていたかを知らない。

 

結局、あの時の彼の呟きを、それに込めた祈りを、彼女は知らない。

 

顔を曇らせた彼女を見て、天道はふっと笑った。

 

「ああ、あの重みの意味に気付けたから。だからもう簡単には投げ出さないさ」

 

「?」

 

頭の上に疑問符を浮かべた日景のそばをスッと通り過ぎていく天道を通り過ぎていく。

その後ろ姿を眩しそうに見つめた後、日景は慌てて後を追った。

 

背後からのその足音を聞きながら、天道は先週の出来事を思い出していた。

 

 

◆◆◆

 

━━退院おめでとう、天道総司。早速だが会長が貴様をお呼びだ。

 

一週間前、遂に全身を覆っていた包帯が取れた天道は彼を病院まで迎えに来たトルーパーらによって、ご丁寧に両脇を固められた状態で黒塗りのボックスカーに押しこめられた。

 

三時間ほど暇すぎるドライブをした後にモーター音が止み、どこかに停車したのだと解る。

 

「出ろ」

 

アイマスクと拘束が外された。

 

「……………」

 

辺りは薄暗く、少し先にある硝子のドアから光が照らしていた。

 

横に居るトルーパーに促されドアまで近づいた天道はそこで彼を待ち構えていた人影に気付き、足を止めた。

 

「ふん、来たか天道総司」

 

「『来た』のではなく、『連れてこられた』んだがな。貴様は━━」

 

ため息混じりに答えた天道を遮るように、ZECT本部の前で待ち構えていた眼鏡の男が言う。

 

「会長補佐、三島正人だ」

 

「……そうか。それで、お前がこれから俺を案内してくれるということか?」

 

「ハッ、俺には貴様に一々構っている暇など無い。田所」

 

「ハッ!」

 

三島の背後に控えていた彼の部下の中から一人の男が出てきた。以前と同じく、険しい顔つきをしている。一瞬だけ目が合ったが、田所は直ぐに三島に向き直った。

 

「こいつを会長室まで案内しろ」

 

「解りました。天道、俺についてこい。トルーパーは全員三島補佐の護衛だ」

 

「「了解」」

 

複数の足音が響く喧騒の中、三島から離れ田所の元へ行こうとした天道を三島が呼び止めた。

 

「ふん。せいぜい身の振り方は考えておくんだな」

 

「………なに?」

 

天道と目を合わせることなく、三島は彼の耳元でされた囁いた。

 

「ワームは勢いよくその表皮を破かれると内部に溜め込んだエネルギーを抑えきれず内側から破裂する。そしてワームの(RM)細胞が燃えて生じる炎は緑だ」

 

「………」

 

「━━今回は見逃してやる。だが、次は……」

 

「忠告は感謝するが」

 

三島の手を振り切り、彼から離れた天道は背中を向けたまま歩き出す。それが示すは明確な拒絶の意思。

 

「何を正義とし、誰を殺すかは俺が決める」

 

離れていく背中を睨みつける三島の視線は、やがて閉ざされた扉に遮られた。

 

 

「随分と壮大な眺めだ」

 

田所に連れられて硝子張りのエレベーターに乗った天道は、ぐんぐんと離れていく地上を見てそう零した。

 

まるでミニチュアの模型のようになった周囲の建物を見ていると、現実感が希薄になる。

 

「これ程立派な建築物となると都内でもそうはあるまい。安易に部外者を乗せて良かったのか?」

 

「さてな。CGを映しているだけということもある」

 

澄ました顔でそう言った後、顔を顰めた天道を見て田所は笑った。

 

「冗談だ。ただ、客人を囚人のように案内したくはなかったからな。三島さんは組織の調和を乱すものを嫌う。だが俺のように、たった一人でワームから女を守り切ったお前に敬意を抱く者も少なくないということだ」

 

━━━チーン

 

反動を全く感じさせずに停止したエレベーターの扉が開く。

 

柔らかい絨毯が敷き詰められ、仄かに甘い香が焚かれた廊下を暫く歩くと、滑らかに光を反射する分厚い木の扉が見えた。

 

その横にあるインターホンを田所が押した。

 

「会長、例の適合者を連れてきました」

 

『ああ、ご苦労だった。君は下がりなさい。天道君、入って来なさい』

 

(さてどれほどの人間か、見極めさせてもらうとするかー)

 

ポーカーフェイスのまま、内心でそう呟いた天道は秘密のヴェールに包まれた組織のトップの膝元に入った。

 

「やはり貴方が…………」

 

部屋の奥に置かれた大きな木製のデスクの前に座っている人物を見て、天道はそう呟いた。

 

「……久し振りだね総司くん。私の事を覚えていてくれたようで嬉しいよ」

 

ゆっくりと椅子から立ち上がり、天道を出迎えた男が微笑みながら言った。

 

「改めて自己紹介をしよう。私がワームに対抗するために創られた組織ZECTの会長、日上陸(かがみ りく)だ」

 

「……日下部家の元長男、天道総司」

 

シンと静まり返った密室で緊張が高まった。だが、日上が唐突に頭を下げたことでその空気は霧散する。

 

「何のつもりだ?」

 

「済まない、と。君から家族を奪ってしまったことを。これから君をこの世界に引き込もうとしていることを。だが、恥を承知で言おう。これ以上君のような人間を出さないために、どうか、私達と共に戦ってはくれないか?」

 

「断る」

 

真摯な言葉に対する天道の答えは拒絶。

 

「………理由を聞いても?」

 

「俺はお前達を信じていないからだ。あの時、十年前のあの夜」

 

付け加えられたその言葉に、僅かに日上の顔が曇る。

「日和は………俺の意識があった時、まだ俺の近くにいたんだ。俺達に襲いかかったワームは、ライダーに倒された。だがお前達は病院で独り目覚めた俺にこう言った」

 

━━日下部ひよりはワームによって行方不明になった、と。

 

黒々とした天道の瞳をじっと見た日上は目を細めた。

 

「詰まり、君は、こう言いたいのかな?」

 

━━━日下部ひよりが行方不明になったのはワームによってではなく、ZECTによるもとである、と。

 

「ああ。こうも言ってやろうか?」

 

━━━対ワームの秘密結社ZECTにはワームに内通している裏切り者がいる、と。

 

 

「…………」

 

押し黙る日上に畳みかけるように天道が口を開く。

 

「だから、俺は……」

 

「君の父上と私は、ZECTをちょうど君くらいの歳の時に立ち上げた」

 

窓の方へ向き直り、日上が遮るように口を開いた。

 

「? いきなり何の話だ」

 

「とは言え、一から作り上げた訳ではない。私たちの両親が作り上げたこの企業がどうしようもないほど落ちぶれた時、彼らを追放して一から、いやマイナスからやり直したんだ」

 

 

窓際に立ち、外を眺めながら呟くように言う。

 

「━━━よく二人で話をしたものだ。私達はいつ、息子達にこの地位を奪われるのか、とね」

 

「本当に、楽しみだったんだよ。未来が。私達は負けを知らぬ挑戦者だったのだ」

 

天道の方へ静かに振り返った日上の瞳が彼を貫く。

 

「君のご家族のことは申し訳なく思う。だが、不憫には思わない。ZECTの上層部にいる者達は皆、いつか己に降りかかるであろう悲劇を覚悟している。彼らもそうだった。例え、この闘争の先にあるのが私達の破滅だったとしても、我々は進み続ける。我々の持ちうる総てを次へと渡してゆくために。だから、どうか、我々に君の力を貸してくれないか?」

 

「…………」

 

沈黙を貫く天道を暫くの間じっと見つめていた日上は、やがて溜息を吐くと椅子に座り直した。

 

「……分かった。現在、君を選んだマスクドライダーシステムゼロ号を修理、調整中だ。完成した暁には君に渡そう。君は我々にとっての救世主になれると、私はそう信じている」

 

踵を返し、無言で部屋から出ていこうとする天道を日上が呼び止めた。

 

「最後に聞きたい。恨んでいるのか、我々を?」

 

「………憎まない理由がないだろう。ワームも、お前達も」

 

ガシャン、と。扉がしまる音が重々しく響いた。

 

小雨が降り注ぐとある夜。静寂に包まれた、寂れた薄気味悪い神社の地面が突如盛り上がった。

 

ボコッ、ゴゴゴ

 

「ぐっ、うおお。はあ、はあ、はあ」

 

霧雨が降り注ぐ静けさを取り戻した境内に居たのはボロボロになった一人の女。

 

彼女は荒い息をつき地面に横たわったまま、仰向けになり空を見上げた。

 

『お前は虚無なんかじゃない。その身に肉は無かったかもしれない。だが、お前の心には確かにお前を作る骨があった。お前を形作るなにか、望んだはずだ。だから、生きてみせろ。足掻き続けろ、最後まで』

 

「………訳、分かんねえよ」

 

伝う雫は、降り続いた雨の残滓か、それともー。

 

だがこの時、彼女は気づいていなかった。彼女をじっと無機質な瞳で見つめる存在に。

 

 

それは踵を返すと神社からそう遠くない、周囲を錆びた金網や有刺鉄線で囲われたクレーター群に辿りついた。

 

「彼」を出迎えたのは昆虫の形をした青と紫の機械たち。

 

『◆♪~☆♥』

 

『**◆☆~♪……』

 

人間には理解出来ない言語でコミュニケーションをとる彼らの集いは、そこに現れた乱入者によって妨げられた。

 

影が興奮に満ちた声を上げる。

 

「遂に、見つけたぞッ……。これが、【選定の剣】ッ!」

 

ローブをつけた影はクレーターの淵から中央に降り立った。その背後で静かに蠢く「虫」達に気づくこと無く。

 

そして辛うじて剣と解るソレの砂で覆われた柄を恐る恐る握った。

 

バチン!!

 

「ぐっ?!」

 

柄を握った手を弾いたのは、剣が放った電撃。それは端的な剣の拒絶の意思だった。

 

それだけで充分だった。━━「彼ら」にとっては

 

「そんな、何故だッ?!私では━━ガッ!」

 

取り乱す影の腹部をローブごと切り裂いて現れたのは紫の蠍。

 

「ツ~~~~~?!く、失われたゼクターか!丁度いい、ならばせめて、お前だけでも頂いていくとしよ━━

 

パァン!

 

影の頭部が熟したザクロのように弾けた。

 

頭を撃ち抜いたのは上空からやってきた青空色の蜻蛉。

 

「ぐあああああああああああ!!」

 

最後に黄色い蜂が血みどろの顔面を抑える手にその針を突き立てた。

 

「ぐっ?!」

 

膝から地面に崩れ落ちる。影が伸ばした手は地面に積もった砂を掴んだだけだった。

 

「……くそ、我ら、直視に耐えぬおぞましき者ども(アスヒモス)に栄光あれ」

 

その体が不自然に膨張し、はじけた。風船が弾けたようにあっさりと。影はその亡骸すら残さず消えていった。

 

 

 

 

三匹の機械仕掛けの虫達は待ち続ける。【剣】を引き抜き、自分達の王となる存在が現れる刻をー。

 

 

 

 

 

 




以前、活動報告にも載せたのですがこれからは定期的に連載をしていこうと考えています。詳しくは活動報告にて。
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