加速する太陽   作:サカマキまいまい

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更新か遅れてすみません。べ、別に原作見直してやべー、とか、なったりしてないんだかねッ!

ニューロリンカーのある生活ってどんなだろ、と妄想してましたが結構面白そうですよね。


BEGINS NIGHT

弾丸のような速さで、うねりながらテニスコートのライン上にぶつかったテニスボールに、天道は一瞬で追いつくと即座に反対側のコートへ打ち返した。しかし楕円に変形しながら飛んでいったボールが相手に返され、天道は反応出来なかった為、再び彼のテニスコートを抉り、相手にポイントが入る。

 

「ふふふ。予想以上ではあったけれど。残念ながらここまで、かな?」

 

王冠を被った白色の妖精を模したアバターが目を細めた。天道は答えることなく、ラケットを構え、グリップを強く握る。

 

「あの天道が苦戦するなんて……」

 

「流石はこの学園の王と言われるだけはあるな」

 

湖に浮かぶテニスコートを岸辺から多くのギャラリーが見ている。

 

1年は天道が苦戦していることに驚き、生徒会長と同じ学年である2年の生徒達は、生徒会長に接戦する天道に驚いていた。

 

……まあそもそもの話、なぜ天道が生徒会長とテニス、いやテニヌをする羽目になっているかというと、それは三日前に遡る。

 

 

 

 

天道は小春から話を聞き、その日の放課後に生徒会長の居る生徒会室にまで行くことにした。

 

生徒が普段授業を受ける北棟から、生徒会室のある旧校舎へ向かう。

旧校舎には今では使われていない実験室と、膨大な数の古書が保管されている旧図書館がある。というかそれらしか存在しない為、一般の生徒が旧校舎へ足を運ぶことはほとんど無い。それでも形式的にとは言え、ちらほらとソーシャルネットワークカメラが見受けられるのだから、近年の監視社会は流石と言ったところか。

 

「だが、それにしてもこれはやり過ぎだな」

 

足元にカチッという手応えを感じ、即座に首を横に曲げると、顔の直ぐ側を泥団子が掠めていく。旧校舎に入り、旧図書館を過ぎた辺りから、廊下にトラップが仕掛けられ始めていた。今では5歩けばトラップが湧いてくる。

 

「相手を呼び出しておいてこの仕打ちとは。誰に喧嘩を売っているのか分かっていないようだな」

 

ふつふつと湧いてくる苛立ちを如何にして晴らしてやろうか、と天道が暗い笑みを浮かべていると、ようやく生徒会室に辿りついた。

 

ガラリとノックもなしに開けた扉に手応えを感じた。反射的に右手を正面に伸ばし、放物線を描いて飛んできた黒板消しを掴み取る。物が飛んでくるトラップよりも、今日び、殆ど使われることがなくなった黒板消しが存在していた事に驚く天道。流石は旧校舎である。

 

パァン!とクラッカーが鳴る。

 

「ヒュー!こんぐらっちゅれーしょん!!パーフェクトだよっ♪」

 

声がした方には、ぶかぶかの制服を着崩し、バラの花を天道に向ける女子生徒が居た。

面倒くさそうなやつだ、と内心でため息を吐きながら火薬の臭いが充満する部屋に入る。

 

「おい、お前。人を呼び出して置いてどういうつもりだ」

 

黒板消しを握り締めながら、にやにやと笑う女に詰寄る。

 

「え、だって生徒会に入りたいんでしょ?さっきまでのは、様子見のテストだよ。本番はこれからさ。これで入会出来たと思っていたのなら残念だったね。あ、その黒板消しは商品としてキミにあげるよ」

 

間髪入れずに天道は言った。

 

「少しも残念ではないな。俺はあくまでお前に会いに来ただけであって、生徒会に入るとは言っていない。そしてこんなものはいらん」

 

「あれ、そうだったの?でもまあいいじゃない。折角ここまで来たんだし、私もキミにますます興味が湧いてきたからね」

 

これまでの会話から、コイツに言葉は通じない、と相手を説得する事を諦め、とっとと要件を済ますことにした。

 

「……人の話を聞け。だが、確かに俺もここまでされてそのまま引き下がるつもりは無い。俺に何をさせたいのかは知らないが、俺を試すならまずは同じ土俵に降りてこい」

 

天道の返事を聞いて、満足げに頷くと生徒会長は天道から一歩離れた。

 

「うんうん。ノリが良くて助かるよ。キミの有能さはさっきまでで大体分かったからね。ダメっぽかったら帰ってもらうつもりだったんだけど。今度は私が直接キミと勝負して、キミの資質を見てあげるよ」

 

天道は生徒会長のセリフを聞き、不快げに眉を顰めた。

 

「お前、何様のつもりだ。いいだろう。俺が身の程というものを教えてやる。何で俺と勝負するつもりだ」

 

「あれ?いいのかい?」

 

フンと鼻を鳴らし、天道は右手を天に掲げた。

 

「お婆ちゃんが言っていた。相手を屈服させたいならば相手の土俵で打ち負かしてこそ、だと」

 

そんな天道を生徒会長は興味深そうにまじまじと見た。

 

「へえ。ほんとにそんな感じなんだ」

 

「そんな、とは?」

 

「あ、いや、小春ちゃんから聞いただけだよ」

 

「一体、あいつは俺の事をどう吹聴してまわっているんだ。……まあいい。とにかく、俺がお前に勝った暁には、今までの非礼に対する謝罪をしてもらう」

 

天道の言葉を聞き、生徒会長は神妙な顔つきになった。そして天道に向かってバッと頭を下げた。

 

「うん。ごめんなさい。自分でも強引だと思うよ。でも、私にはどうしても叶えたい事があるんだ。キミが私のお眼鏡にかなえば、あるものをプレゼントしよう。きっとキミも気に入ると思うよ」

 

頭を下げたままの彼女をじっと見つめ、やがて目をそらした。

 

「訳が分からないな。だがもういい。それで、俺と何で勝負する?」

 

それを聞き、彼女はガバッと頭を上げ、ニッと笑うと元のテンションで言った。

 

「よくぞ聞いてくれました!勝負はテニスだよっ!」

 

「テニス?お前、俺と体力で勝負するつもりか?」

 

天道の問に生徒会長はちっちっちと指を振った。

 

「いや、私が知りたいのは肉体の速さではなく、キミの心の速ささ。バーチャルでの決闘と洒落こもうじゃないか。ローカルネットワーク内にあるテニスコート。そこが僕達のデュエルの場所だよ。日時は三日後の放課後でどうかな?」

 

「成程な。いいだろう」

 

「ふふっ。じゃあ、楽しみにしているよ。私の名前は日景火垂(ひかげほたる)。この学園の王さ」

 

「俺は天の道を往き総てを司る男。天道総司だ」

 

嬉しそうに笑う彼女に毒気を抜かれた天道は、フンと鼻を鳴らすと部屋から出て行った。

 

火垂だけが残った薄暗い部屋が傾き始めた日に濃淡を付け、緋色に染め上げてゆく。

 

その中で黒い影が笑みを消し、ぽつりと零す。

 

「さあ、キミは出来るのかな。加速した領域に踏み込むことが。そして私は叶える事が出来るのだろうか?貴女との約束を」

 

未だに影は独りぼっち。

 

◆◆◆

 

 

 

 

夢を見る。目の前には助けなければならない人間がいて、なのに体は動かない。敵は側まで来ていて、逃げることが出来ずに、身を小さくして震えているしか無かった。

 

さっきまでは。

 

「お前も総司(おれ)ならば覚えておけ」

 

━━━Hyperclock Over!!!

 

一瞬にして数多の敵を屠った赤い戦士が言う。

 

━━Kabuto Power

 

お前(おれ)はいずれ、天の道を往き総てを司る男」

 

━━Thebee, Drake ,Sasword Power

 

周りに群がる敵を瓦礫の上からを睥睨し、天に掲げていた剣の切先を向ける。

 

「天道総司、なのだから」

 

━━━All Zecter Combined !

 

その背中から虹色の羽が天に伸び、はためいた後ぐんと左右に広がった。

 

━━━Maximum Hyper Cyclone !!!

 

「はあああああ!!」

 

目が眩むほどの光線が、射線上にある、あらゆる物体を分解していく。

 

辺りが再び薄暗くなった頃、塵が風に乗りさらさらと飛んでゆく中で、そこにいたのは瓦礫の下で呆然とする自分と彼女と、そしてあの赤い戦士だけだった。

 

「……う、がっ!はあ、はあ、はあ」

 

酸素が不足した体が、脳を覚醒させる。暗闇の中で慌てて息を吸い、酸素を取り込んだ。

 

「まだ4時か……」

 

ベッドに横になったまま、時計を見た。現在の時刻が分かった所で、何をする気にもなれず、天道はそのままぼんやりと思いを巡らせた。

 

「……確か、今日だったか。………あいつが何をしたいのかは知らないが、俺の行く手に塞がる壁は、総て壊す」

 

暗闇に手を伸ばし、ぐっと拳を握った。

 

「お婆ちゃんも言っていた。あらゆる障害は、俺を成長させるために存在する。何びとも俺の進化を阻むことは出来ない、と」

 

夜明けまではまだ少し長い。

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「おっす天道!今日は頑張れよ。応援しに行くから!」

 

学校へ登校した天道は同学年の生徒達から声を何度も掛けられていた。火垂がローカルネットワークの掲示板にも、彼女と天道の試合を宣伝していた為だ。試合会場の下見をしに行った際に天道もちらりと見たがあれを1人で作っていることには素直に感心した。ただ、宣伝の派手さには眉を潜めたが。

 

「ああ、俺の勇姿を目に焼き付けておけ」

 

「ははっ。あの会長と試合って言うから少し心配してたけど、大丈夫そうだな」

 

笑顔で天道の席から離れていくクラスメイトから目をそらすと、ここ2日、天道を遠巻きに見ていた小春がこちらにやってくるのが視界に映った。

 

「あのっ!天道君、ごめんなさい!」

 

「何がだ?」

 

小春に続きを促す。

 

「私、天道君が折角何でもできるのに、部活に入っていないのが気になっていて何かで活動して欲しいって思っていたんです。その時、会長が有能な人間を探しているって聞いて、天道君に是非やってもらいたいなあって思ったんです」

 

「だから俺をあいつに紹介したのか」

 

「はい。でもこんなに大事になっちゃてて。迷惑でしたよね?」

 

恐る恐る天道に尋ねる小春にばっさりと言う。

 

「ああ。お婆ちゃんは言っていた。時間とは人が持つ限られた財産。それを奪うことは泥棒より質が悪いってな。俺がどう過ごすかは俺が決める」

 

だが俯く小春に、流石に見かねてフォローした。

 

「まあ、お前が俺の事を考えてくれたのは分かったし、俺が自分の意志であいつの話に乗っただけだ。お前に思う所はない。そもそもの話、俺はどれだけ注目を浴びようが気にならない」

 

おずおずと顔を上げる小春に微笑み、右手を差し出した。ゆっくりと差し出された小春の右手と握手を交わす。

 

「ほら、これで仲直りだ」

 

「……はい。じゃあ私も試合の応援に行きますね」

 

漸く笑を見せた小春にフッと笑い、右手を天に掲げた。

 

「ああ。俺の勝利を記録しに来るといい」

 

笑い合う天道と小春を見て、クラスメイトが囁き合う。

 

「やべえよ、あいつら。朝からめっちゃ青春してるんだけど。なんか肩身が狭いんだけど」

 

「あれが天道のスキル青春の1枚(おとしてあげる)、か。成程ああやって信者を増やしていったんだな。客観的に見るとよく分かる」

 

「なぜ私にはあんな青春が無いのかしら」

 

「ハッ、どうせ俺なんてェ……」

 

ホームルームまで、クラスは花が咲くような暖かい場所と、ドロドロした場所に、真っ二つになっていたという。

 

「さて、行くとするか」

 

放課後になり、席に座ったまま言った。

 

━━ダイレクトリンク

 

天道の精神が肉体の枷から逃れ、バーチャルの世界へと落ちてゆく。

 

 

 

 

 

タンッと受肉した仮想の肉体が仮想の地面を踏んだ。薄い甲冑を纏った赤いサムライが天道の使用するアバターだ。天道の唯一苦手とする分野が、IT、バーチャルに関することではあるが、天道が普段フルダイブをし、学園のローカルネットワークを利用することがほとんど無かった為、初期設定のままアバターを放置していたのを、そういった分野に詳しい友人が作ってくれたのだ。

 

鎧がガシャガシャと音を立てるのを鬱陶しく感じながら試合会場へ向かう。

 

だが以前とは様子が異なり、何の変哲もなかったテニスコートは、柔らかそうな下草が岸辺に邪魔にならない程度に生い茂る湖となっていた。

恐らく、中央に浮かぶ小島がテニスコートになっているのだろうが、そこへ向かう橋が無い。鎧姿で泳ぐ訳にもいくまいと天道が戸惑っていると背後から声を掛けられた。

 

「や、来たね。待っていたよ」

 

声に振り向くと、花のような王冠を被り、白いワンピースを着けた華奢なアバターがいた。

 

「日景か。どうやってあそこまでいく?」

 

「簡単さ」

 

岸辺にあった看板を日景が操作すると文字が浮かび上がった。

 

━━このステージは16:30から使用予約がされています。

 

━━日景火垂さん。本人確認完了。良き試合を(グッドラック)

 

文字が消えると橋が岸辺から展開され、小島に架かった。

それをじっと見ていた天道に火垂が振り返った。

 

「もしかしてあんまりバーチャルに詳しく無い?ありゃりゃ、これは駄目かもな」

 

後半をぼそりと呟いた小春だったが、それを聞きとがめた天道がむっとして言い返す。

 

「確かにフルダイブはあまりしないが、皆無ではない。それに一昨日潜って動きは確認済みだ」

 

それを聞いて妖精のようなアバターは肩を竦めた。

 

「そういう意味じゃないんだけど。まあ、楽しみにしているよ」

 

そう言ってスタスタと橋を渡り始めた火垂の後を天道が追う。

 

二人がテニスコートに入るとアナウンスが聞こえてきた。

 

『さあ、今日の試合はなんと生徒会への加入を賭けた戦いです!青コートには我々2年生の間で超人と名高い現生徒会長、日景火垂さん。対する赤コートには1年生の間での有名人、天道総司君が入ります。試合のアナウンスは放送部2年、音撃響(おんげきひびき)が。解説はテニス部副部長の2年、風間壁(かざまへき)が行います。ルールは1セット3ゲーム、2ゲーム先取でセットの勝者に、2セットを先取した方が勝利する短縮試合で行います』

 

「お前、ここまで大々的にしたのか」

 

まさか放送されることになるとは思わなかった天道がやや呆れた様子で言った。

 

「まあ、皆ここ最近イベントが無くて暇していたからね。生徒達のストレスを適度に解消させてあげるのも私の仕事のうちさ。まあ、そんなことより」

 

火垂が操作パネルの試合開始ボタンを押すとラケットがくるくると飛んできた。

 

「さあ、始めましょう。貴方の速さ、見せてもらうわ」

 

同時にラケットを掴み、構える。2人の間を軟式のテニスボールがふわふわと迷うかのように浮き、やがて天道の手に滑り込んだ。天道はそれをしっかりと掴むとフ、と笑った。

 

「いいだろう。俺の実力を教えてやる」

 

『さあ、試合が始まりましたが。二人とも中々鋭いショットを打ちますね』

 

『ええ。相手の打った玉にも反応が良い。俺はあの1年の事は知りませんでしたが、これが終われば是非テニス部に欲しい逸材です』

 

いい試合だと好意的な反応をする放送席の2人に反し、火垂は冷めきっていた。様子見だと思っていた一撃が何時までも変わらないからだ。

 

「この程度か」

 

パァンと乾いた音を立てて飛んできたボールに天道は反応出来ずに、火垂に15が入る。

 

「以前、言ったはず。私が見たいのは心の速さだと」

 

火垂のサービスショットをライン目掛けて打ち返した天道の一撃に、火垂は認識が困難なスピードで追いつき、打ち返した。再び火垂にポイントが入る。

 

「なぜ私が動きながら会話が出来ると思う?」

 

話す火垂に対して無言を貫いていた天道がその言葉にぴくりと反応した。

 

「そう、ここが仮想の世界だから。もっと言うならば、ここにいるのは精神だけだから。肉体の限界は存在しない」

「呼吸の必要は無く、それによって呼吸に合わせた動きをする必要は無い」

「感じる摩擦も重力も空気抵抗も、ただの紛い物。故にここに現実のような物理法則はない」

「速さを決めるのはシステムに規定された数値と、そして精神のみ」

 

天道が放つあらゆるショットが返され、試合は終始、ワンサイドゲームのまま遂に火垂がゲームを取得した。

 

『………これは。流石は日景火垂といった所でしょうか』

 

『ええ。正直、彼女に適う者は存在しないでしょう。このまま次のゲームも彼女が勝つと1セットを先取することになります。先程の試合を観るにかなり厳しい試合になりそうですが』

 

休憩時間中、天道は終始目を閉じラケットを構えていた。

 

肉体的な疲労が薄い為、1分間の休息の後、直ぐに第2ゲームがはじまった。

 

天道は火垂のサービスショットを返し、今度は火垂に食らいついていく。落胆した様子だった1年のギャラリーがおお、と湧く。

 

しかし、天道は粘ったものの火垂が第2ゲームも取得する。

 

結局、第2セットも火垂が勝利し、勝者は火垂となった。

 

天道の前でYou Lose の文字が踊り、ゾロゾロと湖に落ちて、消えていった。

 

『凄い試合でしたね。天道君は残念でしたが、後半は非常に日景さんに肉薄していたと思います。風間君はどう思いますか?』

 

『……いえ、俺に言えることはありません。しかしただ一つ分かることがあるとしたら、これはテニスでは無いということです。もしギャラリーの人の中でテニス部に興味があった人がいれば、このテニヌを観ても気にしないで下さい。是非、我々テニス部と青春をしようじゃないかっ!!』

 

『はい、ということで最後にちゃっかり部の宣伝でした。では次の放送日は明後日の昼休みです。アロマセラピー部のアロエ・ユーリさんをお招きしての放送です。テーマは昨今のストレス社会における学生ならではの対処法についてです。~ねえ、せんせい。アロマってなに?アルマジロと関係あるの?~でお送りします』

 

わらわらと集まっていた人々が続々とその場を後にしようとする。

 

俯いていた天道の肩を火垂がぽんと叩いた。

 

「まあ、最後の方は良かったよ。来年はかなりいけるんじゃないかな。詫びも含めて今度学食でも奢るよ。今日はありがとう」

 

そう言って、橋に片足を乗せた時、後ろから声がした。

 

「待て」

 

ぴくりと動きを止め、ゆっくりと背後を振り返る。そこには静かな目をした天道が居た。

 

「お前は言ったな。『俺の心の速さを見る』と。ならばテニスの試合はあくまで手段の筈だ」

 

それを聞いて火垂が首を傾げる。

 

「だからさっきの結果を無効にしろって?あれ、キミはそんな人間だったのかい?」

 

「違う。だから、」

 

━━お前の最速の攻撃(··)をして見せろ。俺がそれを返してやる。

 

面白そうに火垂が唇を歪める。

 

「へえ、ついさっきボロ負けしたのに?」

 

天道は右手で緋色に染まる天を指さした。

 

「覚えておけ。俺の進化は光より速い。何びとも俺の進化にはついて来れない」

 

プッ、クッ、アッハッハッハッ!!!

 

突然響いた笑い声に帰ろうとしていたアバター達が何事かと振り返る。それに構わず、火垂は捻れた二本の角が生え、牙が口から出ている、鬼を模したアバターに声を掛けた。

 

「ねえ、音撃君。最後の試合をしてもいいかな?」

 

それを聞いて鬼のアバターは戸惑ったように頭を振った。

 

「これから、ですか?しかし、もう終わった筈では。それに生徒も何人か帰って居ますし」

 

「なあに、ならここに残っている生徒達だけで構わない。とにかくこれからの事を記録して欲しいのさ」

 

鬼顔のアバターが ならば、と頷いたのを確認して、日景がパネルにささっと入力していく。

 

「私が天道君とテニスをした理由は彼がどこまで速くなれるか見たかったからだ。天道君が私を認めさせる程速くなれるなら、彼を生徒会に入れてもいい」

 

騒ぎを聞きつけ戻って来た生徒の中の何人かが釈然としない様子でいるのを横目に、続ける。

 

「しかし、何人かはそれでは納得しないだろう。故に、誰もが認めるほどの無茶をしてもらおうか」

 

モニターに日景が作ったルールが拡大されて表示される。

 

「ルールは簡単だ。私が四つのボールを同時にキミのコートに打ち込む。それを総て私のコートに打ち返せたらキミの勝利だ。チャンスは1度きり。どうかな?」

 

誰もが無茶苦茶だと思う中、天道は全く顔色を変えず頷いた。

 

日景と火垂の二人がテニスコートに立つと、四つのテニスボールと三つのラケットが現れる。

 

日景は二つのラケットを構え、宙に浮かぶ四つのテニスボールを視認が困難な速さで捉えた。

 

死を描く四の軌跡(フォーラインレイヴンズ)

 

天道は一瞬収束したかのように見えた四つの弾丸が次の瞬間には一気に四方に拡散していくのをスローモーションで捉えた。

 

◆◆◆

 

 

 

 

最速とは何か、天道が聞かれたとしたら、彼はまず間違いなくあの赤き戦士を挙げるだろう。理解することさえ不可能な速さで敵を屠っていったあの姿は今でも天道の脳裏に焼き付いている。

 

あれだ、と思う。

 

相手の思考すら置き去りに、総てを置き去りにして加速する。まるで周りの時間が止まっているかのように。

 

例えば今。

 

世界から音が消える。キーンとうるさいくらい耳鳴りがする。ボールがゆっくりと拡散して行く様子が手に取れるように分かる。

 

だがまだ遅い。あの速さには遠く及ばない。知っている筈だ。総てを置き去りにする速さを。あれはなんと言っていた?

 

覚えている。

 

あの時の煤で見えなくなった空を。

 

誰かの泣き声を。

何かが焼ける噎せ返るような臭いを。

 

己の体を押し潰さんとする瓦礫の重みを。

 

総て覚えている。

 

世界を切り裂いて現れた赤き戦士のことも、総て。

 

だから出来る筈だ。俺も。

 

加速しろ。総てを置き去りにして。俺は知っている。精神の速さ、などというチャチなものよりもずっと圧倒的な速さを。それに比べれば精神のみを加速させる事などずっと容易い筈だ。否、そもそも俺に不可能などない。

 

何故なら俺は━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「クロックアップ」

 

━━━━━━━天道総司なのだから。

 

世界のすべてがぐんと自分に収束したかのような全能感と共に、知覚が超加速し、総てを置き去りにした。仮想の肉体が一瞬で宙で止まる四つのテニスボールを総て打ち返す。常人では理解すら出来ない速度で、日景のコートの地面を抉った。

 

頭上のパネルがやや遅れてポイントを入れる。その数字を見て尚、誰もが理解出来ない中で、日景だけは理解し、歓喜した。

 

「Congratulation!!キミの勝ちだね。歓迎するよ、天道総司君。そしてこれは歓迎の印だ」

 

ピッと投げられた青いバラを掴む。

 

「じゃあ、後で生徒会室まで来てくれ。そこでそのバラについて話をしようじゃないか」

 

そのままあっさりとリンクアウトした彼女に続いて残っていた生徒も天道に声を掛けて消えてゆく。

 

最後まで残っていた天道は沈んでいく仮想の太陽をちらりと見て、出ていった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「入るぞ」

 

昨日とは違い、ノックをしてから天道は生徒会室に入った。扉の正面のデスクにある椅子に座っていた日景が、天道を見て微笑む。

 

「や、来たね。贈り物は無事届いたかな?」

 

「あの青いバラのことか。こっちに戻って来た時に妙なアプリに変わったんだが」

 

つかつかとデスクの前まで来て、立ったまま言う。

 

「うん。それこそがキミにあげたかったものだよ。それはキミを新しい世界へと導くだろう。まあ、やってみた方が早い。ソレをとっととインストールしたまえ。本来ならば色々尋ねることがあるんだけどね。恐らくキミは条件を満たしている」

 

さあ、と促された天道は言った。

 

「もうやった」

「はやっ?!え、雰囲気とかあるでしょっ!ていうかよくインストールする気になったね?」

 

思わず叫ぶ日景に天道は言った。

 

「面倒ごとは省きたい質でな。それにお前に関しては多少信頼している」

 

それを聞いて日景は目をパチクリとさせた。

 

「へ?それって………」

 

「日影」

 

ただその一言に日景は納得したかのように頷いた。

 

「…………流石だね。まあ今はいい。詳しいことは明日話そう。今、私からキミに言うことは二つ。一つは今日から明日までニューロリンカーを外さないこと。そして私に会うまでグローバル接続をしないこと。以上の2点だよ」

 

「分かった。覚えておこう」

 

天道が了解したのを確認して、日景はニッと笑うと天道の手を掴み、手を組んだ。

 

「おい」

 

「まあいいじゃない。これから親密な関係になるかもしれないし?一緒に帰ろうよ」

 

天道はぐいぐいと自分の体を引っ張るその力強さに内心で驚きながらやれやれと首を左右に振った。

 

「腕を組む必要性は何処にある?」

 

「分かってないなー。こういうのは雰囲気だよ?」

 

旧校舎から校門までの長い道のりをお互いの腕を組んで歩く二人を見て、男女ともにショックを受ける人間が多かったとか、そうでないとか。

 

「へえー、じゃあ妹さんがいるんだ?」

 

「ああ。この学園ではない別の中学に通ってはいるがな」

 

「ちょっと見てみたいかも」

 

「いいだろう。樹花の了解がとれれば、1番可愛く樹花の魅力が表現出来ている画像データをやらんでもない。但し、無断で他人に見せるなよ。特に男に」

 

「あ、はは。天道君ってなかなか妹想いなんだね」

 

天道がシスコンであると悟った日景が引き攣った笑みを浮かべる。

 

「家族を想うのは当然のことだ」

 

家族愛を超えてるからコンプレックスなんじゃねーかと思うが口には出さない日景。賢明な判断である。

 

「おっと。ここでお別れだ。じゃあね天道君。さっきも言った通り、」

 

「分かっている。先輩のアドバイスを蔑ろにするほど、俺も愚かではない」

 

日景の発言を遮って言った天道の言葉に安心したように笑うと、日景は去っていった。

 

タタタと軽い足で去っていく日景の後ろ姿を見送って、天道は1人で帰路を歩いていく。

 

 

 

 

 

「さて、とは言ったものの鬼が出るか蛇が出るか、と言ったところか。まあ、その時になれば分かるな」

 

夕食の食材を買っていなかった事に気づいた天道は、一旦その事を考えるのを止め、商店街へと足を運ぶことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かの泣き声が聞こえた気がして目を覚ました。咄嗟に声の元に行こうと思い、体を動かそうとしたが地面に縫い付けられたかのように動けない。

 

(ここは…………?)

 

朦朧とした意識で現状を把握しようとする。

 

また、泣き声が聞こえてハッとする。どうやら声は自分の真正面からしている様だった。

 

「……たすけて。ねえ、おとうさん、おかあさん。たすけて、ひよりをたすけてよ」

 

その言葉にスッと頭が冷えた。

 

(………これは、夢。あの時の夢か)

 

確かに薄暗い中、自分の手を見れば、そこにあるのは鍛え上げた筋肉質の腕ではなく、貧弱な薄汚れた5歳位の子供の手だった。

 

だったらこれから起こることは知っている。

 

瓦礫を踏み荒らし、何かを探す「敵」の気配に俺達は身を小さくして震えた。

 

動かないからだで、小さな腕で、それでも過去の自分は妹に手を伸ばした。

 

いや、もしかしたら伸ばしたのは、今の自分なのかも知れない。

 

変えられることを祈って、これが夢でないと信じて、浅ましくも手を伸ばす。

 

だが結局のところ、瓦礫に踏み潰され、惨めに這い蹲う己の腕は届かない。

 

(そんな事はとっくに知っている)

 

妹の名を叫びながらもどこか冷めたところでそう思った。

 

その後も知っている。俺達は助けられた。

 

事実、天道達を見つけ集まってきた「敵」は一瞬で赤い影に、その命を散らされた。

 

━━━Hyper Clock Over!

 

あたり一面の暗闇の中で、ただあの赤い影がいる一山の瓦礫だけが、まるで劇場の舞台のように輝いていた。

 

あの時思った事は、助かったという安堵でも、英雄に対する憧憬でも無かった。

 

ただ思った。妹を救えるのは俺では無かったと。

 

それはまるで、恋人が竜を屠った英雄に助けられるのを離れた所から見ている村の男ような、お前は彼女にとっての英雄にさえなれない、壇上に上がる資格すら無いのだと、世界から己を、自己の根底から否定されたような気持ちだった。

 

そうだった。ここで俺は終わり、そして始まった。俺は、

 

「間違えるな。目の前に居る人間を救えるのは、お前しかいない。世界を救えるのはこの世でただ1人、天道総司を除いて他にない」

 

過去の俺に話す声が聞こえてくる。

 

そうだ。誰かが、俺の救いたい人間を救うなど俺が歩みを止める理由にはならない。俺は俺の為に生きる。俺の為に人を救う。

 

「いずれ分かる。俺の過去に俺は居なかった。だからお前は俺とは別の道を歩むだろう。だが世界が変わろうとも俺は変わらない。何故なら天の道は常に存在するからだ」

 

「ああ。その通りだ」

 

ビシッと瓦礫にヒビが入っていく。そして、天道を押さえつけていた瓦礫も、漂う塵にも、赤い影にもヒビが入っていく。

 

ガラスが砕けるような音と共に全てが消えていった。

 

ただひたすら闇の世界で、ゆっくりと天道が立ち上がった。

 

「俺は天の道を往き総てを司る男」

 

天も上下左右も分からぬ暗闇の中で、右手を掲げる。

 

━━━━ブウウウン

 

すると暗闇を突き破り、赤い昆虫のような機械が天道の元に飛来した。

 

そのまま天道を見定めるかのように彼の周りをぐるぐると回る。

 

「俺の名は、天道。天道総司」

 

天道の言葉と共に彼の手に収まったそれを掴む。

 

━━━━Hennshinnn……………

 

その時こそ暗闇を照らし、加速世界に太陽が誕生した瞬間だった。

 




天道:おれがまけるとかありえねーから


前半がすごく駄文なんですけど、上手い絡ませ方が書けなかったんですよね…

自分でも駄作だと思っているのでここが駄目だとか指摘して下さると有難いです。
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