加速する太陽   作:サカマキまいまい

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PRAY

「死ね」

 

ハーヴェスターの貧弱な体を支える杖の先端に昏い輝きを灯り、軌跡を描くと、それは刃となった。ハーヴェスターの振るう大鎌がぶうんと唸りを上げてデイに迫る。広範囲、高威力の一撃ではあるが、それはあくまでその刃が通る面での話。大振り且つ直線軌道を描く一振りをデイは身を屈めることで回避した。肉のないアバターが大鎌の一振りに翻弄されている隙に、デイが骨だけの胸部に拳を叩き込む。

 

(ちッ…………!やはり、無駄か!)

 

しかし、ハーヴェスターの体力ゲージは全く減ることなく、肋骨の隙間を貫いたデイの拳は人体で言う所の心臓部に達し、蠢く黒き肉塊に触れた。

 

(……………………?!)

 

胸部から引き抜いたデイの腕に、のたうつ肉塊が絡みつく。

 

(ぐっ…………………………)

 

堪らず、足の裏にあるタイヤを逆回転させ距離を置いたデイであったが、肉の触手はデイの腕を捕らえたままゴムの様に伸びた。更に、触手に触れた部分は僅かに銀の輝きを放っていたが、やがてグチュグチュと腐食し、体力ゲージをがりがりと削いでいく。

(くそっ、こんなことをしている場合では……)

 

首を締め付けられ、体力ゲージがレッドゾーンに入った所で、その触手をぐいと掴むとデイは本体を手繰り寄せ、右肩から体当たりをした。ハーヴェスターの体は呆気なく崩れ、醜悪な肉塊を覆う骨はバラバラになり、ぼとりと黒い肉塊が地に落ちた。それでも、ハーヴェスターの体力ゲージは減る様子は無い。

デイはバラバラになった骨の一つを掴み、腕に力を込め、割ろうとする。だが、

 

(固いな……)

 

同レベルならともかく、相手のレベルが7ではとても太刀打ち出来なかった。

 

「クハッ…………………………」

 

肉塊がタコの様に触手を生やし、バラバラになった骨をかき集めることで再生したハーヴェスターが再び杖を鎌に変え、デイの首を切り落とした。

 

 

 

 

いよいよ全損という二文字が現実味を帯び始める中、現実世界に戻った天道は、少しずつ引き寄せていた、あるものを手にし、そこで再び加速世界に戻される。

 

(考えろ。なぜこいつは俺の命では無く、俺の日景との記憶を奪おうとする?)

 

ハーヴェスターに悟られないように戦闘を行いながらも考える。

 

(今の俺ではこいつには勝てない。だが、直結をキャンセルする算段なら既につけている。)

 

「策」が上手くいけば、全損する前に直結を解除できる。考えるべきはその後。

 

触手に絞め殺され、現実世界に戻って直ぐに、天道は己の背を死角にして、それを放り投げた。

 

その直後、すぐさま加速世界に戻される。

 

「なんか、さっきから馬鹿の一つ覚えみてぇに突っ込んで来るけどよぉ」

 

デュエル開始と同時に向かってきたデイを見て、ハーヴェスターが嗤う。

 

「お前に、勝ち目なんて、あるかよッ!」

 

デイに向かって伸ばしたハーヴェスターの腕の骨に絡みつく肉の触手が先端部分で四つに裂け、デイを捕らえんと迫る。それを避ける機動力は、重い鎧を背負うデイには無い。

デイの四肢に絡みついた触手がデイを締めあげ、彼の体力ゲージが見る間に減少する。

 

(そうだ。早く俺を殺せ)

 

デイをいたぶることに夢中だったハーヴェスターは気づかなかったが、天道にとっては既に、この勝負のことは二の次だった。現在天道が最優先ですることは本物の日景を見つけること。

加えてハーヴェスターが直接天道に手を出す気は無いのは、天道の命ではなく、日景との記憶を奪おうとしたことからも明白。

 

ならば希望はある。

 

とにもかくにも、このワームとケーブルで直結されている状況をなんとかする必要があった。

 

四肢に力を込めていたデイの首をハーヴェスターの口から吐き出された触手が絞めあげる。

 

デイの体力ゲージがゼロとなり、その肉体は霧散した。

 

(ぐっ…………、今だ!)

 

仮想の痛みに悲鳴を上げる肉体を酷使し、《策》を為す為に天道は現実世界に戻った一瞬の猶予も逃さず行動していた。

天道が放ったチョークがピンポイントでケーブルに当たり、ニューロリンカーのセーフティが発動する。

 

「うぉっ?!」

 

今まさに天道に対戦を申込もうとしていた擬態・日景の視界いっぱいに警告メッセージが広がる。突然のことに硬直した隙を見逃す天道では無い。

 

「ハッ!!」

 

長い足で、ワームの顎を思い切り蹴りあげた。脳震盪を起こし、眼球が裏返ったのを確認した天道が思い切りケーブルを引くとケーブルはあっさりと外れ、天道の手に残った。

 

余りの呆気なさに少し拍子抜けしたが、天道はすくに踵を返し、生徒会室から脱出した。

 

 

(………追ってこないな。一体何を企んでいる?……いや、今は日景とコンタクトをとることの方が重要だ)

 

旧校舎を出た天道は校門まで走りながら思考する。その時、ニューロリンカーが電話の着信を告げた。着信は非通知。だが、このタイミングとなると予想は出来る。

 

(このタイミングの良さは…………、いや、そういう事か)

 

覚悟を決めるように一瞬だけ固く目を閉じ、電話に出た。

 

「日景か。……今どこにいる?」

 

『よく私だって分かったね………』

 

日景の笑い声は今まで聞いたことが無いくらい儚げだった。

 

『ねえ、お願いがあるんだ……』

 

「何だ?」

 

そこで日景は息をすうと吸い、言った。

 

「今からひとりきりで、天宮神宮に来てくれないかな」

 

「……ああ、分かった。……一つだけいいか?」

 

「なんだい?」

 

「元気か?」

 

これは罠だとか、そんなことはどうでも良かった。ただ、己の不甲斐なさのせいで零れる涙を掴めないことだけは嫌だった。

電話の向こうにいる日景が息を呑む音がが聞こえた。

 

「うん、ありがと。…………ごめん」

 

「待っていろ」

 

天宮宮は渋谷区にある神社だ。天道が今いる天宮学園が世田谷区だからバイクで15分といった所か。

 

「ぐっ………」

 

ニューロリンカーの電源を切った天道は、ぐらつく頭を抑え、首を振った。

 

未だ締め付けられた感触の残る首を撫でる。膨大なポイントが全損寸前になるまでいたぶられ、彼の精神的疲労は既にピークに達している。だが、それは何ら、零れる涙に手を伸ばすことを諦める理由にはならない。

俯いていた顔を上げ、息を吸うと自宅に向かって走り出した。

 

もうじき日は沈む。燃えるような紅に染められていた町並みは陰りを増し、冷えた闇に包まれようとしていた。

 

◆◆◆

 

「……まんまと一杯食わされたようですね」

 

「チッ!うっせえな」

 

床に横たわっていた少女は、彼女に話し掛けたローブを纏った男にそう毒づくと、その容姿を変えた。一瞬、揺らめきに包まれたかと思うと、天真爛漫そうな小柄な少女から、髪を無造作に伸ばした野生味のあるオオカミのような女に変わる。

 

「一体どうやって接続を切りやがったんだよ……ってケーブル切れてるし」

 

彼女のニューロリンカーに繋がったままだったケーブルは元の長さの半分ほどで、綺麗に切断されていた。

 

「恐らく、カッターのようなものを貴方の死角から頭上に投げていたのでしょう。流石は天道総司です」

 

「ハッ!たかが高校生だろうが」

 

「いえ、あの男はいずれ必ず脅威となる」

 

はっきりと断言した男を胡乱げな目で見て、日景に擬態していたワームは言った。

 

「ならとっとと殺しておくべきだろうが」

 

そう言ったワームを男ははっきりと侮蔑と分かる目を向けて言った。

 

「貴方のようなワームが居るから我々はいつも苦労させられるんです。我々が人間の社会に寄生して生きていくことを選んだ以上、我々を知る人間とは出来る限り、協調路線でいかなければならない。今、彼を殺すことは無闇にZECTを刺激するだけです」

 

「あー、はいはい。分かったよ。だったら俺がZECTを刺激せずに四天の再興を止めてやる」

 

「……本当に可能なのですか?」

 

疑わしそうに確認する男に、ワームは鬱陶しそうにボサボサの髪をかいた。

 

「ああ。既に策は打ってある。その代わりこれが成功したら俺もお前らの評議会とやらに入れろ」

 

そう言って去っていく女を一瞥して、男は吐き捨てる様に言った。

 

「ふん。環境に適応することさえ出来なかった落ちこぼれが、偉そうに。……まあいい。せいぜい利用させていただくとしようか、停滞者(のうなし)

 

 

 

◆◆◆

 

家に戻った天道が必要なものを取り出し、自室から出た時、ちょうど樹花が戻ってきた。

 

「おかえり、樹花。今日は早いな」

 

笑顔で出迎えた天道に、樹花も笑顔を見せる。

 

「ただいま!うん、今日は雨で校庭が使えなくなったからね。部活が休みになったんだあ。……ってあれ?お兄ちゃん、これからどっか行くの?」

 

「ああ、寂しがり屋な先輩に会いにな。………少し遅くなるかもしれないから、夕食は先に食べていてくれるか?」

 

暫く天道の瞳をじっと見つめていた樹花は、何か考える素振りをした後、ぱっと笑顔になった。

 

「あっ!じゃあ、今日の夕食は私が作って、お兄ちゃんのこと待っていてあげるね」

 

「………いや、だが」

 

躊躇った天道を、樹花は正面からがばっと抱き締めた。細い腕で天道にしがみつく様に、ぎゅっと体を押し付けた。

 

「だって、約束してくれたもん。ずっと傍にいるって。樹花が辛い時は何時でも傍にいるって」

 

その言葉に、記憶が泡のようにぷかりと浮いて蘇った。

 

──────

─『安心しろ、大丈夫だ。俺がお前を守る。何時だって傍に居るよ』

 

現実は、あの時の幼い俺が思っていた以上に険しかった。

 

だけど、あの誓いをした事を悔やんだ事も、諦めようとしたことも無い。変わらず胸にあの輝きは灯し続けている。

緊張し、強ばっていたいた体からふっと力が抜け、天道はその時初めて自分が緊張していたことを知った。

 

「……参ったな。あんな昔のことをまだ、覚えていたのか」

 

樹花ごにっこりと微笑む。

 

「だから、私がお腹が空いて辛くなったら、帰ってきてくれるよね?」

 

思わず苦笑する。樹花の頭をそっと撫で、言った。

 

「ああ、そうだな。……………約束だ」

 

「……うん。じゃあ、いってらっしゃーい!早く帰ってきてね!」

 

樹花はしっかりと約束した天道の背中を笑顔でぐいと押した。

 

背後で玄関のドアが閉まる。ガレージに向かい、バイクに乗ると、天道は呟いた。

 

「……ああ、約束だ」

 

小雨は未だ降っているが、このバイクならば問題は無い。

 

ブウォン!!

 

昏い街を紅いバイクが切り裂くように小雨が踊る中を走り抜けていった。

 

ブウゥン………

 

 

◆◆◆

 

天宮神宮とは渋谷区と世田谷区の堺に位置している神社だった場所のことだ。

 

かつて渋谷区に落下した隕石が起こした衝撃波により拝殿は半壊、他の建物にも甚大な被害が生じた。唯一無事だった、御神体である山からは周辺を一望することが出来る。

 

一時期は取り壊しの計画もあったが、鳥居と拝殿だけは隕石の凄まじさを後世に伝える為に残されている。

 

その鳥居に続く道の前で天道はバイクを停めると、ニューロリンカーに入っていたナビゲーションのアプリを終了させた。

 

鳥居を潜り、屋根が吹き飛び傾いた拝殿に至った天道に、雨に打たれたまま、御神体を眺めていた日景が言う。

 

天宮(あまみや)の元の姓は天宮(あまのみや)って言ってね、元々は皇族だったんだって。ここはその皇族を祀った所で、その分家が今の四天で、だから今私たちは御先祖様が眠る場所にいるんだ。…………もし、魂というものがあるとしたら、ここに祀られている人達は、今の私達を見て、なんて言うんだろうね?」

 

くるりと天道へ振り向いた日景の顔はぐしょぐしょに濡れていた。

 

「……日景」

 

濡れる拳を固く握りしめ、天道は日景の下へと歩いていく。だが、暗い中で降りしきる雨のせいだろうか。天道には、歩けど歩けど二人の距離がいっこうに縮まらない気がした。

 

「ごめんね。でも、これだけは誓うよ。キミの親として、絶対に奴らがキミに手を出すことだけはさせない。例え私の祈りを汚してでも、絶対に」

 

その宣言の直後、天道が知覚していた世界が凍る。視界を遮る炎と共に、英文が目の前で踊った。天道の肉体を銀の鎧が包み、ずっしりと重しを乗せた。

 

 

 

━━━━Here comes a new challenger!!

 

 

目の前を吹き荒れる炎が消えると、目の前を煌々と輝く月に照らされて、プレイヤーが立っていた。

 

「お前が彼奴に何と言われたかは知らないし、今更俺が何と言おうが無意味だろう。だが、これだけは覚えておけ。俺は何も諦めてなどいない」

 

「………………………」

 

 

 

「へえ、月光ステージかよ。どれどれ今日のデイの対戦相手は━━━は?」

 

「おいおい、レベル7ってマジかよ。対戦申し込んだ方は何考えてんだ」

 

「そっちじゃねえよ。ペシモン・プレイヤーってデイの『親』じゃねーか」

 

観戦者達は予想だにしない対戦の組み合わせに驚き、興味津々で対峙する二人を見る。その中で青と白の修道女を思わせるゆったりとした衣装に身を包んだF型デュエルアバターが胸の前で手を握った。

 

「……プレイヤー、どうしちゃったの」

 

ざわめきの中にあった彼女を気遣う声はプレイヤーの耳に入る前に消え失せ、静かに杖をつくプレイヤーはただそのアイレンズに月の光を映すばかりだった。

 

 

 

デイの所有するポイントは残り1。

 

つまりは、この状況こそ、正にあのワームが狙ったものだろう。

 

天道と日景の関係を断ち切り、四天再興を阻止する。唯その為だけに日景は利用され、彼女は今、己を汚し、その夢を断とうとしている。

 

だが、だからこそ、天道は彼女のその意思に折れてやる訳にはいかない。

何故なら、かつて天道は誓ったのだから。

 

空っぽの墓の前で、せめて目の前を過ぎる涙だけは必ず掴んでみせると。

 

日景が大切なものの為なら、過去の誓いさえ汚すというのなら、

 

天道は大切な者の意思でも、過去の誓いの為なら押し退ける。

 

────要するにこれは、互いの意思のぶつけ合い。

 

親と子の血で血を洗う戦いが始まる。

 

━━尤も、レベル1と7の戦いを戦いと呼べれば、の話ではあるが

 

 

 

◆◆◆

 

デュエル開始と同時に、デイは接近戦を仕掛けた。身を屈め、鉄の砲弾の様に、プレイヤーに突っ込む。

 

(プレイヤーは赤と黄の中間アバター。距離を取られれば不利になる。俺が見出すべき活路はこの距離にしか存在しない)

 

そう考えていたデイの予想はあっさりと裏切られる。

 

その場から動くこと無く、プレイヤーは先端で丸まり捻れている、自身の身長と同じ長さ程もある杖を器用に使い自身に突っ込んできたデイを牽制し、勢いが止まったデイの鎧が無い首を突いた。

 

「がっ?!」

 

よろめくデイをさらに連続で突き、その威力にデイは吹き飛んだ。

 

地面を転がるデイを眺めて、プレイヤーは言った。

 

「まさか、遠距離タイプだったら、近距離に活路があると考えたのかい?だったとしたら、残念ながら甘いよ。一体何年、私が加速世界で生きてきたと思っているのさ。ポイントで強化こそしていないけれど、棒術はかなり鍛えてきたんだよ」

 

拳を握り、無言で立ち上がったデイは今度はゆっくりとプレイヤーに近づいていく。それを見たプレイヤーは歯をぎしりと食いしばると、自分からデイとの距離を一気に詰めた。

 

「無駄だって、言ってるでしょうが!!」

 

コブのように膨らんだ杖の先端部分がデイのガードしている腕を強かに打ち付ける。同じレベルならばまず通らないであろうその攻撃は、レベル差という度し難い差によって、がりがりとデイの体力ゲージを蝕んでゆく。それでもデイは耐え続け、プレイヤーに近づいていく。

 

(分かっている。こいつとの力の差くらいは。だが、俺の戦いとはこいつに勝つことが目的なのでは無い。……照らせ、怯えているこいつを。俺は、あんな奴に負けはしないと、言ってやらないと)

 

 

プレイヤーの攻撃は、言葉にしてしまえばただ素早く杖を突き、返すというものだが、想像を遥かに超える加速世界で鍛錬に費やした時間により、ひとつの技に昇華していた。

杖はまるで生きたヘビのようにデイに食らいつき、その命を食らい、削ってゆく。

 

━━あと少し、あと少し

 

だが、早くこの戦いを終らせようと焦っていたプレイヤーは故に、気づかなかった。

 

突如視界いっぱいに、銀が広がる。それが何なのか、疑問に思う間もなく、プレイヤーは吹き飛んだ。クリティカルヒットにより、プレイヤーの体力ゲージが5分ほど削れる。

 

「がっ?!あっ、えっ?!」

 

地面を転がったプレイヤーは訳も分からず、起き上がる。デイはそんなプレイヤーに手のひらを向け、くいっと手前に曲げた。

 

「ッ、舐めるなぁ!!」

 

動揺し単調になったプレイヤーの突きを腕の装甲で受け流し、デイは再びプレイヤーの顔面を殴りつけた。

 

「うぐっ…………!」

 

人間は常に集中出来る生き物では無い。その行動には波がある。それは行動を司る脳が常に一定値に活性化しているのではなく、常に変動している為だ。故にそれは現実世界に限った話では無く、息継ぎの必要がない精神だけがある加速世界でも同様だ。

 

嵐の様な攻撃をひたすら耐え、相手のブレる意識の一瞬の隙を突き、カウンターを仕掛ける。伝説の金属を纏ったデイだからこそ格上の相手であってもとれる戦法だった。

 

デイが腕を顔の前に並べ、ひたすらプレイヤーの攻撃を耐えていると、ふと攻撃が止んだ。

 

「……なんで分かってくれないの」

 

神速で動いた杖が、デイの顔面に向かう途中で突如軌道を変え、がら空きの腹に向かった。、ガードする間もなくデイの鳩尾が射貫かれる。気が緩んだ隙を突き、デイのガードが崩された。

 

「がっ?!な、に……を」

 

「わたしだって……。でも、もう嫌なの。キミは、もうキミは私達に関わらなくていい。楽になっていいの」

 

先程までの力が余分に篭った技ではなく、流水の様に滑らかな連撃がデイのガードを潜り、貫いていく。

それはプレイヤーが覚悟を決めた証。氷のように冷たく、固く、吹き飛ばされていくデイを見る。

体力ゲージがレッドゾーンに入り、デイは地面を転がる。

 

それでも立ち上がったデイは青いバイザー越しからでも分かる程、強くプレイヤーを睨みつけた。

 

「巫山戯るな。俺は、諦めたりなんかしない」

 

きっぱりとそう言い切ったデイを、雲間から見える太陽を見るように、眩しそうに見て、プレイヤーは淡く微笑んだ。

 

「……うん、そうだろうなって。キミならそう言うだろうなって思ってた。……だけど、それでも私は自分のエゴを貫き通す。例え嘗ての祈りを汚してでも」

 

片膝立ちのデイの前でプレイヤーが両手で握り締めた杖を天に向かって高く掲げた。

 

カッとプレイヤーの体がライトエフェクトを放つ。

 

デイは先程の攻撃で吹き飛ばされ、プレイヤーとの間には7メートル程の距離が開いている。

 

デイに連続で攻撃をし続けた為に、プレイヤーの必殺技ゲージはMAXになっている。

 

デイの体力ゲージは三割を切っている。つまりは、遠距離タイプのデュエルアバターの必勝パターンにデイは嵌り込んでいた。

 

(不味いッ……………………!)

 

遠距離タイプから狙われ、しかしデイは身に纏う鎧の重さで咄嗟には動けない。

 

「……皆、ごめんね。お願い、死を描く四の軌跡(フォーライン・レイヴンズ)

 

杖から四匹の輝く鴉が生まれた。彼らはプレイヤーの周りを旋回すると、彼女の振るう杖の動きに従い、デイに襲いかかった。

 

青い鴉が動きを封じ、赤い鴉がデイを焼き、茶色の鴉がデイの鎧を腐食し、緑の鴉がデイを吹き飛ばした。

 

赤かったデイの体力ゲージは減少し、遂にゼロとなった。

 

凄まじい勢いで背後に吹き飛んだデイは、そこにあった朽ちた拝殿が変わった崩壊しかけている古の神殿へと突っ込んでいった。

 

◆◆◆

 

 

(……よかったんだ、これで。これでもう、総司くんがワームに狙われることは無い。だけど、………ごめんなさい。貴女との約束は、叶えられないみたい)

 

達成感など無く、ただ胸に穴が空いたような虚無感に襲われながら、 "YOU WIN"のメッセージが出るのを待ち、プレイヤーは何故か霞む頭でぼんやりと、そう考えていた。

 

そのプレイヤーに離れた場所からおずおずと声を掛ける者がいた。

 

「……プレイヤー」

 

「黙ってよ、エンブレイサー。これは、私達の問題だ。キミが口出しすることじゃあ無い」

 

その目を見ようともせず、プレイヤーは固い声で、プレイヤーに差し出された優しい手を払い除けた。

 

そこで、ふと疑問に思う。頭上にはデュエルの残り時間を示す数が、未だ着々とその数を減らしていた。

 

デイの体力ゲージに目を凝らせば、あるかないか分からない程、僅かに、一本の細い針ほどにゲージが残っていた。

 

「……まだ、残ってたんだ。……じゃあ、行かないと」

 

そう言い聞かせるように口に出し、のろのろと拝殿に動き出した。

 

時間稼ぎするかのように、何故デイは私の必殺技を食らって生きているのだろうと考えながら。

 

 

 

フォーライン・レイヴンズ

 

それはプレイヤーが貯めた総てのポイントを捧げ、彼女の祈りと共に生み出したレベル1からの特殊な必殺技だ。

 

プレイヤーはレベルアップの度に新しい強化外装にも、必殺技にも目を向けず、ただひたすらにその技を強化した。

 

初めは一匹の雛だった小さな鴉は、やがてその翼を広げ、数を増やし、多くの喜びも怒りも、多くの感情をプレイヤーと共にした。

無制限中立フィールドの冷たい塔のてっぺんで、孤独に泣くプレイヤーを癒した。

 

この技はその鴉達に、物理属性として腐食、破砕、切断を付与し、特殊属性として火、水、木、金、土、光、闇からランダムで選ばれた属性を付与する技だ。

 

故にどんな耐性を持つアバターでも、確実にダメージを与えることが出来る。

 

 

(それで、倒せなかったってことは、ヒヒイロカネの性質って………)

 

ゆっくりと一歩一歩を踏み締めるように歩き、漸くぽっかりと空いた穴から拝殿の内部に侵入したプレイヤーは、

 

 

 

 

 

神殿の中央で、差し込む月の光に照らされて輝く、デュエルアバターよりも巨大な八面体を見た。

 

「え………………?」

 

その表面に、次々とヒビが入っていき、呆気に取られるプレイヤーの前で粉々に砕け散った。

 

破片が雪のように舞い降りていく中、輝く雪越しに、プレイヤーが目にしたのは、

 

 

今まさに羽化しようとする太陽だった。

 

 

 

◆◆◆

 

(……ここは?)

 

朦朧とする意識が、柔らかい光に照らされてゆっくりと覚醒する。

 

霞む視界に、有るかないか分からないようなデイの体力ゲージが映った。

 

(…………ああ、そうか。俺は鎧のせいであの攻撃を避けきれずに、そのまま吹き飛ばされたのか。)

 

状況を理解して尚、立ち上がる気になれず横たわったまま、ぼうっと裂けた屋根の隙間から見える青白い月を見た。

 

「楽になっていい、か。……馬鹿なことを。俺に倒れていい道理などある訳ないのに」

 

助けを求め伸ばされた腕を、嘗て握ってやれなかった。だから、俺は、足掻き続けなければ。もう一度その手を掴む為に、もう二度とあんなことが無いように。

 

「だから俺はまだ、諦めないぞ」

 

たとえ負ける事が確定しても、自分で倒れることはしない。最期まで、逆転を狙う。そうして初めて、手に出来る何かがあると、そう信じているから。

 

故に、

 

「ビフォア・エヴォリューション」

 

デイは初めて、その技を使った。

 

 

デイの周囲に青く輝く縦長の二等辺三角形のパネルが八つ展開し、回転しながらデイを閉じ込めた。

 

「これが俺の………」

 

必殺技か、そう続けようとした所で、急激な眠気に襲われ意識を失った。

 

──────────

─────

 

コポコポコポと泡が水を漂うような音がする。

 

胎児のように体を丸めていた天道は、柔らかなその音が自分を呼んだような気がして、そっと目を開けた。

 

視界いっぱいに広がるのは光の海。

 

目の前をゆっくりと昇っていく泡を掴もうとして、天道は自分の腕が無いことに気付いた。

 

いや、腕だけではない。足も、胴体もなく、デュエルアバターを失った剥き出しの己だけがそこにあった。

 

(これが俺の必殺技。アバターが無いのは再構成しているからか。………それにしても、体がないとこうも軽いものなのか)

 

まるで体に羽が生えたようだと思う。

 

これ程軽ければ、きっともっと、俺は。そう考えたところで、目の前の泡が何かを映した。

 

『安心しろ。俺が傍にいる。お前が辛い時は、ずっといてやる』

 

幼い自分が、しゃがみこんで泣いている少女を撫でている。

 

『……ずっと?』

 

『ああ、ずっと。約束する、何時だって傍にいるよ』

 

震えていた少女の肩がぴたりと止まり、顔を上げた。

 

その顔を見て、天道はずきりと胸が痛んだ。だがその胸は、

 

『……じゃあ、私も約束する。お兄ちゃんが辛い時は私も傍にいてあげるね』

 

泣き腫らした目のまま、そう言ってにっこりと笑った、その笑顔を見て固まった。

 

『……総司。お前にこのベルトを授ける。いつの日か、失われる命をその力で救う為に』

 

炎を背に、少年に語りかける者がいた。

 

『成程。それもありだろう。だけどね、覚えておきなさい。人が最も強くあれるのは何時だって━━』

 

俯く少年に優しく、けれど厳格に語りかける老婆がいた。

 

 

 

「……ああ、全く俺は、度し難い」

 

張り詰めていた息を吐き出し、思う。

 

そうだった。一体何を勘違いしていたのだろう。

 

デュエルアバターがバーストリンカーの心の傷から産まれると言うのなら、そこにあるのは、負の感情だけである筈がない。

 

羨望の裏には願いがあり、

 

過去の傷には、それを癒し、癒そうとした誰かの祈りがある。

 

だから、この鎧は、ただ俺を戒めるだけの鎖では無かった。

 

たとえ、この下に俺の劣等感が眠っていたとしても、この鎧はただそれを覆い隠すだけの単なるハリボテでは無かった筈だ。

 

対戦の時、これは確かに俺を守ってくれていた。

 

飛び立つ時を夢見て、すやすやと眠る雛を守る、卵の殻のように。

 

その鎧がどうして軽かろうか。なぜならこの鎧は、これまで俺を支えてきた人達の願いと祈りで出来ているのだから。

 

漸く理解した。

 

「……ああ、もう大丈夫だ。分かったから」

 

その答えを待っていたかの様に、デイを守る殻にヒビが走り、一気に砕け散った。

 

 

同時に見る間にデイの体力ゲージと必殺技ゲージが全回復する。

 

「な、何が……?」

 

ぽつりと、デイが零した。

 

「ああ、そうだったな………。ありがとう、日和。ああ、俺はもう、大丈夫だ」

 

肩膝を地面につき、座っていたデイがゆっくりと立ち上がる。

 

デイの放つ空気に、知らず、プレイヤーは後ずさる。

 

「…プレイヤー。俺は諦めない。例え、この下にどれ程醜悪な姿が眠ろうとも」

 

 

 

「行くぞ、キャストオフ」

 

その瞬間、今まで決して傷つく事のなかった桜色の鎧にヒビが入った。

 

鎧と鎧の隙間から紅の光が漏れ出し、その光量を増していった。

 

 

役目を終えた殻が、雛から解き放たれ、最後の役目を果たす。

 

━━Cast Off!!

 

雛を狙う敵を跳ね除けようと、四方に散らばった殻は、次々とプレイヤーと周囲に衝突し、神殿を吹き飛ばした。

 

 

 

対戦のルールにより、観戦アバター達は拝殿へと入ることが出来ず取り残され、やきもきしていた。自然、周りにいる者と話し始める。

 

「……なあ、めっちゃ気まずいんだけど」

 

「俺もだ………」

 

ドオォォン!!

 

「うおっ?!何だ!」

 

観戦アバター達が轟音に驚き、音がした方向を見る。

 

吹き飛ぶ神殿の中央に立っていたのは、プレイヤーと、

 

そして見たことも無い純白のデュエルアバターだった。

 

 

◆◆◆

 

「……ここは?」

 

キャストオフした天道は気が付けば真っ暗な闇にいた。

 

『ここはお前の精神世界。お前はリセットされたのさ、心傷殼を脱いだことでな。これまで存在していたメタルカラーのデュエルアバターの誰も出来なかった偉業だ。おめでとう』

 

「そうか」

 

『随分と淡泊な反応だな』

 

「……簡単な話だった。心の傷も、負の感情も、これまで俺を支え、作り上げてきた大切なものだった。太陽が光をもたらすが故に、影をももたらすように。人は明るい部分のみで成るのでは無いのだから」

 

『そうだな。だが、それこそが最も難しい。……さて、本題に入ろう。お前はもう一度デュエルアバターを創る機会を得た。今のお前は混じり気のない純白。故に何者にも染まれる。加速世界に君臨する純色にも、新たな金属にも。さあ、お前の望みを言え』

 

「決まっている。俺の望みはただ一つ。目の前で零れる涙を掴むこと、それが俺の望みだ」

 

『それは過去の贖罪と、お前に課せられた義務だからか?』

 

試すような声に、天道はゆっくりと首を横に振った。

 

「……いや、違うな。何かに強いられた訳でも、贖罪などという後ろ向きなものでも無かった。それが、俺の本当にやりたいことだったんだ。」

 

『そうか、それでお前は何になる?』

 

その問いかけに、天道はフッと笑い、頭上に右手を掲げた。

 

「何になる、だと?いいや、俺は既に成っている。俺は太陽。輝きを以て、人を照らす」

 

━━天の道を往き、総てを司る男だ

 

 

 

◆◆◆

 

「あれ、デイ、だよな………?」

「中で一体何があったんだよ……」

 

呆気に取られたまま、立ち尽くしていたプレイヤーは、観戦アバター達のどよめきで我に帰った。どこかで未だ躊躇する己を鼓舞し、残った必殺技ゲージを使って攻撃を放つ。

 

「これで……!スローレイヴン!」

 

炎となった鴉がデイに衝突し、炎で包んだ。

 

だが、デイは直立したまま、デュエルは終わらない。

 

「なんでッ?!」

 

動揺したプレイヤーは聞いた。炎の中から聞こえる声を。

 

「はあああ………」

 

地に響くような声に、プレイヤーは悟る。デイは燃えているんじゃない、燃やしているのだと。

 

デュエルアバターの内から湧き上がる炎が炎の鴉を食らい、その身を燃やしている。

 

「あああ………ハアッ!」

 

デイが右手を払うと、炎が弾け、中から羽化を遂げたデイが現れた。

 

 

攻撃をするのも忘れ、プレイヤーが呟く。

 

「醜悪、だって?……とんでもないよ。きれい、綺麗だよ、すごく」

 

 

古の栄光を踏み絞め、プレイヤーに近づいていくデイが身に纏うのは、輝く炎のような薄い鎧。それを纏い、王であることを示すような角を生やした、これまでとは一線を画す姿だった。

 

「行くぞ、プレイヤー。俺がお前を照らす」

 

青き瞳が月光を照り返し、静かにプレイヤーを見据えた。

 

「……うん。なら見せてよ。本当の太陽の輝きっていうのを」

 

今までの苦悩が嘘のように、プレイヤーは体から力を抜き、笑顔を見せた。

 

直後、プレイヤーがこれまで見せた事が無いような覇気を纏う。

 

流れる水のように距離を詰めたプレイヤーが神速の突きをデイに放つ。

 

一、二、三、…………。一突き毎にその鋭さと速さを増すプレイヤーの攻撃はしかし、一度としてデイにかすりさえしない。

 

紅い軌跡を残し、プレイヤーの背後に移動したデイが連続の突きからの蹴りを流れる様に行った。

 

だが、プレイヤーは仰け反りこそすれ、レベル差によって体力ゲージは微量にしか減少しない。

 

「……デイ。見せてよ、これだけじゃないでしょう?」

 

「何のことだ?」

 

「分かってるんだから。これはね、敗北宣言ではないよ。だけど、嫌なんだ。時間切れで勝ちなんて。そんな味気ない勝負は。キミの心が、私をそうさせたんだよ?……見たいんだ、キミの願いを」

 

あくまで、通常攻撃に拘るデイを、プレイヤーは諭すように言った。

 

「……分かった。ならば、覚えておけ。お前を照らす者の名を。俺は太陽」

 

「「天の道を往き、総てを司る男」」

 

デイのセリフに重ねて言ったプレイヤーが微笑んだ。

 

ビフォア・エヴォリューションはリスクと引き換えに体力ゲージと必殺技ゲージを全回復させる技。

 

故に、新たなデイのアビリティが解禁される。

 

「行くぞ。……クロックアップ」

 

━━Clock Up!

 

ガイダンスボイスを残し、デイが突如対戦フィールドから消えた。

 

 

「消えた?!」

 

観戦アバター達がざわめきながら、消えたデイを探そうとフィールドに目を凝らす中、

 

一瞬だけ、フィールド上を紅い軌跡が現れた瞬間、その線上にいたプレイヤーが吹き飛んだ。

 

ガッガガガ!!!

 

前後左右に連続で吹き飛んでゆくプレイヤー。それに合わせて、彼女の体力ゲージがあっという間に減っていく。

 

「はあッ?!おいおい、プレイヤーはレベル7だぞ!どうなってる?!」

 

信じられない物を見た観戦アバター達が動揺し、何人かは自身の所属するレギオンに報告することを決める。

 

フィールドの遥か上に飛ばされたプレイヤーは眼下に描かれる紅い軌跡を見た。

 

「……すごい。本当にすごい。これがキミの心の強さ?」

 

誰に尋ねるでも無く、そう呟いたプレイヤーは自身の落下地点に紅い線でクロスが描かれるのを見て、目を瞑り、殺されるのを待った。

 

ぼすん。

 

「ああ。これで分かったろう?」

 

目をそっと開き、自分がデイに抱えられていることを知ったプレイヤーは、目をぱちくりと瞬かせた後、くすりと笑った。

 

「案外、紳士的ってことをかい?」

 

「フッ、見直したか?……いや、アレはワームだったか」

 

天道が呟いたその言葉に、プレイヤーは居住いを正すと、デイの目をのぞき込んで尋ねた。

 

「……大丈夫なの?本当に」

 

再び不安そうな様子を見せるプレイヤーにデイははっきりと頷く。

 

「ああ。お前も親なら子のことを信じてみろ」

 

「……分かった。信じてみるよ、キミの輝きを」

 

「それでいい。さあ、リザインしろ」

 

「へ?ドローする為に攻撃しなかったんじゃないの?」

 

デイのあまりの発言に唖然とするプレイヤー。

 

「……実はついさっきまでお前に擬態したワームにポイントを絞られ続けてな。残り1ポイントだ」

 

「」

 

もはや二の句が告げないプレイヤー。

 

やがて、硬直が溶けると、クスクスと笑った。

 

「ホント、しょうがないなあ」

 

デイに抱えられたまま、どこか甘い空気を出しながら、プレイヤーはリザインを選択し、二人で仲良く、加速世界から退場していった。

 

理解不能になっている多くの観戦アバター達を置き去りにして。

 

「……なに?結局、俺達って痴話喧嘩に巻き込まれたの?」

 

「………さあ?」

 

実際はもっと修羅場だった訳だが。

 

「ふぇっくしょん!!」

 

現実世界に戻った日景は、ぶるりと体を震わせると盛大にくしゃみをした。

 

それを見た天道が呆れた様子で日景にハンカチを渡す。

 

「こんなところで雨に打たれているからだ」

 

「いやー、こっちの方が雰囲気でるかなって」

 

てへてへと笑った日景は天道に渡されたハンカチでちーんと盛大に鼻をかんだ。

 

「………おい」

 

「いやー、これ1回やってみたかったんだよね。渡されたハンカチで鼻をかむってやつ」

 

ふざけるな、そう言おうとした天道は、日景の腫れた瞼の中で光るものを見て口を噤んだ。

 

二人の間を和やかな空気が流れる。

 

 

「あーあ、結局こうか。まあ、今まで生きてきて俺の思うようにいった試しなんて無かったしな」

 

ザッと境内の砂利を踏みながら、狼のように粗野な女が現れた。

 

身を固くした日景の様子を見て、天道は彼女がワームだと悟る。二人の間に立ち言った。

 

「残念だが、お前達の思う通りにはいかなかったようだな。だが、これ以上俺達に関わるとZECTが動き出すぞ」

 

そう言った天道を、ワームは据わった目で睨んだ。

 

「ハア?ZECTも評議会も知ったことかよ。どうせこのままでもロクな目に合わないんだ。なら一人でも多く地獄への道連れにすべきだろ?」

 

そう言ったワームが遂に擬態を解く。

 

上半身が膨れ上がり、表皮が固くなる。

 

グチュグチュと肉をこね回すような音と共に、変化を終えた。

 

「天道くん」

 

くいくいと不安そうに天道の袖を引く日景に、1度だけ微笑むと天道はワームに向き直った。

 

「お前は一つ大事なことを忘れている」

 

右手を夜空に掲げ、落ち着いたまま続ける。

 

「俺は太陽そのもの。それが地獄などに向かうものか。俺が歩むのは天の道」

 

羽織っていたジャケットが翻ると、腰に巻いていたベルトが月に照らされて銀に輝いた。

 

……ブウウウゥン

 

その光に惹かれるように、闇から黒い機械の昆虫がやってきた。天道を確認するようにぐるりと彼の周りを動き、天道の手に収まった。

 

「さあ、俺に力を貸してくれ。………変身」

 

『なんで、テメエがそれを手に出来る?!ぜクターはとっくに消えッ?!』

 

━━Hennshinnn………

 

展開されていくライダーシステムから発せられる熱波が、グリロタルパワームを吹き飛ばした。

 

現実世界に降り立った太陽が黒く輝く。

 

 

 

 

 

目の前を過ぎる涙を掴む。そう誓った天道の戦いは、第二ラウンドを迎える。

 




明日から新学期なので更新が更に遅くなるかもです。

勉強量が多いと聞いてドキドキしてます
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