宇佐木時麻の短編集   作:宇佐木時麻

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僕アカ 「――無個性でも、君はヒーローになれる」『Kamen Rider Chronicle! Enter The GAME!Riding The END!』

 ——現実に架空が現れた時、この胸に浮かんだのは()()だった。

 

 人々が思い描いていた空想が空想でなくなり、子供の頃の夢だった超常現象を引き起こせる能力者と言える個性を持った者達が次々現れるのを知り、期待で胸が膨らんだ。

 きっと、世界は変わる。夢は決して夢では終わらなくなる。世界が追いつく時が来たのだと、待ち望んだ瞬間がやって来たのだと信じて疑わなかった。

 それが変わったのは、すぐ後のこと。

 結局――世界は変わらないままだった。

 “個性”と呼ばれる能力を持った者は変わらず“無個性”の自分たちとは違う存在を見下し、“ヴィラン”と呼ばれる個性を悪用する者はただの犯罪者でしかなく、これほどまでに胸を焦がれたはずの“ヒーロー”はただの職業へと成り下がった。

 本来、ヒーローとは誰かを助ける者全てに与えられた称号だったはずだ。しかし現在ではそれを名乗るには資格が必要となり、それでも助けようとした者でさえただの馬鹿呼ばわりだ。

 

 ——現実に架空が現れた時、この胸に浮かんだのは()()だった。

 

 現実にヒーローなど存在しない。誰かを助けるには理由が必要で、その資格を持たない者は助ける事すら出来ない。

 これが、待ち望んでいた未来? こんなものが、新世界だというのだろうか。

 違う、断じて否だ。ヒーローに成るのに資格など要らない。個性など関係ない。

 誰かを助けたいという気持ちが間違いなはずがないのだから。

 もしも、本当にその資格が必要不可欠というのならば、()()()()()()()()

 力が必要だというのなら、無個性でも成りたいというのなら。

 

 ——大事なのは、『変身』したいと願う思いの強さなのだと信じている。

 

 人は誰しも、変われるはずなのだから。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 昼下がりの公園。背中から翼や手から水を出したりして遊ぶ集団の子供達を遠巻きに眺めている少年が佇んでいた。

 少年は鞄を背負い、何か言いたげに口を開くが、結局何も言えず近くのベンチに座り鞄から携帯ゲーム機を取り出すと一人で遊びだした。

 ゲーム内ではコミカルに描かれたキャラクターが敵の攻撃を軽快に躱しながらゴールへと進んでいく。長らく遊んでいるのか突如出現する敵キャラさえも現れる前から攻撃して現れるのと同時に倒してしまっている。

 キャラクターを操作する動きには淀みはなく、一切のミスすらなく完璧にゴールする。出された結果はトータルSSS。ゲーム内では最高ランクの結果にも関わらず、しかし少年の顔は暗く沈んだままだった。

 

「そのゲームはつまらないかな、少年?」

 

 ふと、横から声を掛けられた。少年が顔を上げてみればそこには一人のスーツを来た男性が佇んでいた。

 黒髪の優しい笑顔を浮かべている男性は、傍から見れば子供に声を掛けてきた不審者だろう。一瞬学校で習った対不審者用対策を実行しようか悩むが、どうでもよくて画面に視線を戻した。

 

「別に、このゲーム自体は面白いよ。何度やっても飽きないし、お気に入りの作品だし」

「そうかな? そういうには落ち込んでいるように見えたけど、もし良かったらおじさんに話してみないかい?」

 

 なんで見ず知らずの人に、と一瞬思うが他人だからこそ普段溜め込んでいた愚痴を言えるのではないかと思い至り、本気にするわけでもなくただストレスを発散するためだけに口を開いた。

 

「……このゲーム、学校でもやってるの僕だけなんだ」

「へえ? じゃあ他の皆はどんなゲームで遊んでいるんだい」

「遊んでない。そもそも、ゲームを持ってるのが僕ぐらいだから」

 

 ふと自然とゲーム機を握る手に力が籠る。抑えきれない怒りがどうしようもなく溢れ出す。

 

「僕は、クラスで唯一の“無個性”だから」

 

 ギュッと目を瞑れば、思い出すのはクラスでの出来事。

 “無個性”という理由だけで皆のグループから外され、虐めの対象となる。少年が何か悪い事をした訳ではない。ただ無個性というだけで少年は仲間に入れて貰えなかった。

 それは架空が現実になろうとも変わらなかった社会構図。弱者は輪から外されるというどうしようもない現実だった。

 

「なるほど、もしかして彼らがクラスメイトなのかな?」

「……うん」

 

 男性が個性を駆使して遊んでいる子供達を指差して少年は一瞬視線を向けたあと、再びゲーム機に視線を戻しながら頷いた。

 

「“お前と遊んでてもつまらないからどっか行け”だって」

 

 だから仕方ないんだと自分に言い聞かせるように少年は呟く。それを見て男性は困ったように顎を人差し指と親指で挟みながら腕を組み、

 

「君はそれで本当に満足しているのかい?」

 

 ピクリ、と少年の指が止まった。

 

「……あんたに、何が分かる」

 

 零れるのは、怒りを押し殺したような冷たい声。だがそれは、どうしようもない現実に耐えてきた蓋が外れたようでもあった。

 

「何も知らないあんたに、僕の何が分かるってんだよ!!」

 

 爆発した鬱憤がゲーム機を手放して男のシャツを掴む。地面に落ちて画面に罅が奔るゲーム機にも目もくれず少年は今まで誰にも言えなかった傷を口にした。

 

「僕だって、個性が欲しかったよ! オールマイトのような強力な個性とかじゃなくても、自分だけの個性が欲しかった! だから努力したよ。無個性でも頑張れば何でもできるって! けど駄目だったんだ! どれだけ頑張っても、どれだけ結果を出しても全部無個性だからって理由で否定された! 無意味だって笑われた! ならどうしたら良かったんだよ!? どうしたら……どうしようも……ないじゃんか…………」

 

 シャツを握りしめていた少年の手は次第に力を失っていき、最後には俯いて目から零れ落ちる滴が坦々と公園の地面に落ちて染みとなった。

 それはまさしく少年の慟哭だった。感情豊かな心に出来た澱み。変えようと足掻きもがいた末に何も果たせなかった。だから全てを諦めたフリして塞ぎ込んでいた。もう、頑張ることに疲れてしまったから。

 シャツを握る手すら力が籠らず膝を付いて少年は泣きじゃくった。その姿を目前で見て男は懐に手を伸ばすとあるモノを取り出した。

 

「——変身、したいと思うかい」

「へん……しん……?」

 

 零れ落ちる涙を拭っていた少年が声に反応し顔を上げれば、男は少年と視線を合わせるように膝を地に付きながらそっと少年の手にそれを握らせた。

 

「そうだ、変身だ。今の自分ではない自分になりたいという願い。もしまだ君が少しでもその思いがあるのなら、私が君に力を貸そう。受け取るがいい、それが君の物語のゲームスタートだ」

 

 男の手が離れ、少年の手に渡された()()が顕わになる。

 薄いカード状のテレビゲーム用カセットに、黒と黄緑のメインカラーで飾り付けられたグリップ。指を通せば、親指の部分に上下する突起物が当たるように設計されていた。

 

「おじさん、これは……?」

「君のラッキーアイテムだ。もしも使う時が来たなら、そこのスイッチを押しながらこう言うといい。変身、とね。きっとこれは君の思いに答えてくれるだろう」

 

 男はふと少年の頭に手を置いた。そして優し気な声で告げた。

 

「職業のヒーローなんかじゃない、君の思い描いたヒーローになれ。——無個性でも、君はヒーローになれる」

 

 男はそう告げるとまるで役目を果たしたようにその場を去ろうとする。ふとその直前、何かを思い出したように振り返り、

 

「ああ、そういえば――()()()()()を遊んでくれてありがとう。ゲームマスターとしてそれが何よりの報酬だ」

「え……?」

 

 男性の言葉に呆然としている間に男は去っていった。その後ろ姿を見送ると、少年はそっと渡されたそれを握りしめる。

 

「……変われるのかな、今からでも。こんな僕でも」

 

 答えはない。それでも手放さないその手こそが何よりの答えだった。

 意を決してクラスメイト達の集団に近づく。近づいてくるその姿に彼らは気づくと訝しげに少年を見つめた。

 恐怖がない、といえば嘘になる。もしかしたらあの男の悪い冗談なのかもしれない。

 それでも——

 

(変わりたいって、思ったんだ。今のままじゃ、嫌だってまだ思えたんだ)

 

 だから、さあ始めよう。ここからが僕のゲームスタートだ。

 渡されたそれを眼前に突き出し、親指に掛ける。そして、今までの自分と訣別するために魔法の言葉を告げた。

 

「変身ッ!!」

 

 

 

『Kamen Rider Chronicle! Enter The GAME!Riding The END!』

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 幻夢コーポレーション社長室。大手ゲームメーカーである幻夢コーポレーションの一室で一人の男が社長室の椅子に腰かけて窓の外を眺めていた。

 その表情先ほどまでとは一変していた。子供に向けていた優しい笑顔は剥がれ落ち、邪悪な笑みが浮かんでいる。

 

「まるで詐欺師だな、クロト」

「……パラドか」

 

 ふと、クロト——檀黎斗が振り返れば、そこには先ほどまで誰も居なかったにも関わらず黒髪のくせ毛が特徴的な独特の雰囲気を持つ青年が机を椅子代わりに座っていた。

 扉が開いた形跡もなく、人がいた気配も先ほどまで無かった。まるでこの場にこの瞬間に現れたとでもいうような感覚。だというのに檀黎斗は何事もなかったように青年の名前を呼んだ。

 

「心外だな。私は未来溢れる子供に手を差し伸ばしただけさ。その力をどう扱うかはあの少年次第だろう」

「デメリットの事は何も言わなかった癖にか?」

「ああ、聞かれなかったからね」

「そういう所を言ってんだよ」

 

 パラドと呼ばれた青年は愉快そうに笑いながら机から飛び降りる。檀黎斗も彼がここに現れたのは呼びに来たのだと分かっていたため、椅子から立ち上がった。

 

「まあ、君らにも悪い話ではないだろう。被験者が多ければ多いほど計画はより膨大により精度が高くなる。君も楽しむならば最高のゲームを楽しみたいだろう?」

「そういうワリには計画は随分遅れているみたいだが?」

「フッ、痛い所を突かれたな。現実世界に実態を保てるバクスターは未だ四体。あと六体分の被験者が必要となる。それも、バクスターとして実体化できるほどの抗体を持ったゲーム病患者が。だがそれも時間の問題だろう」

 

 檀黎斗は机の引き出しからスーツケースを取り出し、鍵を外して開いた。中には十個の窪みがあり、その内六つには先ほど少年に渡したアイテムと似た形状のアイテム――白黒のガシャットが存在した。

 

「グラファイトとラヴリカ、ポッピーピポパポはどうしている?」

「グラファイトはいつも通りヒーローとヴィラン相手に戦いを挑みに行って、二人は人間態で情報収集に向かってるよ」

「そうか、なら彼らにこれを渡しておいてくれ。誰を選ぶかは君たち次第だと」

 

 残り数を確認し終え、鍵を掛けなおしたケースを渡せば、パラドは一瞬驚いたあとまるで子供のような挑戦的な笑みを浮かべ、

 

「へえ? いいのかよ、俺らが誰を選ぶのかわからなくても」

「構わないさ。それに――数少ない『仲間』の事くらい、大切に選びたいだろう?」

「……ハッ! いいぜ、心が躍るなァッ!」

 

 パラドとしては檀黎斗が枷を嵌めなくていいのかと挑発する目的の問い掛けだったが、それに対する檀黎斗は笑みを浮かべながらしかしその目はどこまでも見下し切っていた。

 お前たち如きが、神に叶うはずがないとでも言うように。

 ゆえに、パラドは笑いながらまるで消えるようにその場から壮絶な笑みを浮かべながら姿を消した。いずれ、決着を付けてやるとその身体から滲ませながら。

 

「……ようやくだ。ああ、本当に長かった」

 

 彼以外誰もいなくなった社長室。檀黎斗は感慨に耽るように呟きながら別の引き出しを引いてあるモノを取り出し机の上に置いた。

 蛍光グリーンと蛍光ピンクで装飾されたドライバー——ゲーマドライバーを眺めながら、懐に手を伸ばす。

 

「ようやく、時代が私に追いついたと思った。だがそれは錯覚でしかなかった。この世界は何一つ変わってなどいない」

 

 取り出したのは、紫のカラーリングが施されたガシャット。ラベルに描かれているマスコットキャラクターはまるで檀黎斗に影響されているように黒く染まっている。

 

「——ならば、私が新世界の法則となろう。無能共をこの私が導いてやろう」

 

 ゲームドライバーを腰に巻き付ける。そして手に持つガシャットの起動スイッチを押した。

 

『マイティアクションX(エークス)ッ!』

 

「さあ、人間(プレイヤー)の諸君、ゲームを始めよう」

 

『ガシャット! ガッシャーン! レベルアープッ!!』

『マイティジャンプ!マイティキック!マーイティアクショーン!エックス!』

 

 

 

「——この私こそが……ゲームマスター()だぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! ハーッハッハッハーーーーッ!!!」

 

 檀黎斗の身体は突如空中に出現したパネルに身体が通過した瞬間、そこに佇んでいたのは檀黎斗であり檀黎斗の姿ではなかった。

 黒と紫を基調としたデザインのパワードスーツ。まるでゲームの世界から飛び出してきたようなデザインは、しかし黒く染まる事でどこか不気味さを増している。

 檀黎斗——仮面ライダーゲンムは、笑いながら宣言した。

 

 

 

「さあ、最高のゲーム――仮面ライダークロニクルの始まりだッ!!」

 

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