宇佐木時麻の短編集   作:宇佐木時麻

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ペルソナ5 前歴持ちで屋根裏に住んでるゴミが探偵だったら1

 雨宮蓮は今でも夢に見る。

 自分の失敗で死なせてしまった憧れの人物を。自らを庇い銃弾の雨を浴びて血に染まりながら床に倒れたその姿を。足手纏いであるはずの自分を庇いさえしなければ、一人だったならば簡単に生き残れたはずなのに。

 何の役にも立たない餓鬼が我が儘を言って無理矢理付いてきた結果に後悔と涙が溢れ出す。そんな子供に、あの人は死ぬ直前であっても不敵な笑みを浮かべてそっと自らの帽子を被せてきた。

 

『まったく、お前はいつまで経っても半人前(ハーフボイルド)だな……その帽子が似合う、いい男になれ』

 

 どこまでも気高く、心強い憧憬はそう遺言を言い残して、そっと息を引き取った。

 ただ無力な餓鬼でしかなく、冷たくなったその身体を抱き締め泣き叫ぶしか出来ない自分を、ただただ赦せなかった――

 

 

 

 

 

 雨宮蓮は探偵見習いである。

 風都にある鳴海探偵事務所の所長である鳴海荘吉に憧れ弟子入りし、高校入学と同時に事務員として働いていた。

 厳しくも面倒見の良い荘吉から探偵のイロハを学び、いつかは荘吉のように帽子の似合う“ハードボイルド”な探偵を目指して日々努力に励んでいた。

 そんな生活が一変したのは蓮が探偵事務所の世話になって一年の月日が経過した頃。

 荘吉は蓮には教えなかったが長年追い続けていた事件の足取りを掴んだらしく、一人で事件に向かってしまった。

 もし運命のターニングポイントが存在するならば、きっとここなのだろう。

 留守番を頼まれていた蓮は、半人前から脱却し荘吉に一人前として認めて貰うために後を追い掛けてしまった。

 そこで見たのは学生には想像も出来なかった社会の闇――蓮自身それが何なのか分からなくとも、それが危険なモノだという真実だけは見抜けた。

 そして、追い掛けてきたことに荘吉は激怒し、逃がそうとする最中に現場を見られた黒スーツの男達によって、鳴海荘吉は亡き者にされた。

 その後、彼らが何を思ったかは分からない。蓮がまだ子供だったから甘く見たのか、それとも好都合だとでも思ったのか。

 

 雨宮蓮は――鳴海荘吉の殺害容疑者として警察に捉えられた。

 

 現実的に考えれば遺体を検査すれば犯人が蓮でない事など簡単に特定できる。だが、彼等は証拠も碌に調べもせずただ雨宮蓮を犯罪者へと仕立て上げて、証拠不十分の事から傷害として保護観察処分の身とした。

 地元の高校は退学処分、両親からも避けられるように上京を半ば強制され東京に引っ越すこととなった。

 その日、蓮は全てを失った。憧れの人物も、居場所も、何もかも。

 残ったモノは、この胸を駆け巡る恩讐と――死に往く際、探偵の小道具を隠す秘密ポケットに荘吉が隠した“J”と描かれたUSBメモリに似た物と、片面のみスロットが付いており不釣り合いなバックルだけだった。

 

 

 

 

 

「――がッ!」

 

 背中に叩き付けられた衝撃と、身動きが取れない事実に蓮は気を失っていたことに気付いた。

 痛みで顔を歪め、混乱する記憶を必死に整理する。

 今日は新たに通う私立秀尽学園高校に初めて登校する日で、その最中出逢った同じ学園の男子生徒と共に学園に向かった所、本来高校が存在したはずの場所に何故か城が建っていた。

 驚愕しながらも城内に入ると、そこにはまるで中世のように騎士の鎧を着た者達に囲まれ、牢屋に無理矢理入れられたのだ。そして、そこに城の主と告げる鴨志田という男に同級生が処刑を言い渡されて、それに反抗したところ周りの兵士達に取り押さえられたのだ。

 

「やめろ、死にたくねぇ……ッ!」

 

 人為らざる力で抑え込まれ、苦痛に顔を歪ませていると、目前で金髪の少年が恐怖に声を震わせながら床に這いつくばっている。

 自分も恐怖していたのにも関わらず、たった数分出逢ったばかりの蓮を助けようとして兵士達に特攻を仕掛けた心優しい少年。

 目の前で、また誰かが死のうとしている。

 結局、自分はまた繰り返すしかないのか――?

 

「あぁ? なんだこの汚ねぇ帽子は」

 

 理不尽に絶望し、嘆き自らの無能さに奥歯を噛み締めていると、ふと鴨志田は床に転がっていた帽子に目をくれた。

 それは、あの人がくれた形見。鳴海荘吉が雨宮蓮に託してくれた帽子だった。

 

「やめろ、その帽子に触れるなァ!!」

 

 思わず声が荒々しくなる。その必死の様子に鴨志田は頬を三日月の如く歪ませると、大きく足を振り上げて、

 

「こんな汚ねぇ帽子(ゴミ)はな、こうやるんだよ!」

 

 容赦なく踏み潰した。

 

「ハッハッハ! これでおまえみたいなクソ餓鬼にお似合いのものになったなぁ!」

 

 グリグリと、何度も擦り付けるように足で踏み潰す。

 その行いに、正しく宝物に泥を塗りたくられた行いに、探偵ならば常に冷静であれという信条は、一瞬で灰と化した。

 

「――ふざけるな」

 

 ――絶望が裏返る。

 憤怒が、嚇怒が、正しき怒りが吹き上がる。

 それは正しくあの日荘吉を失ってから張り付いていた仮面が剝ぎ取られた瞬間でもあり、その思いに強く共鳴するものがあった。

 

 刹那、蓮を押さえつけていた兵士達はまるで見えぬ力に弾かれたように突如吹き飛んだ。

 突然の事態に誰もが驚く中、蓮は兵士達を吹き飛ばした正体であろう物を掴んだ。

 

《ジョーカー!》

 

 切り札は正に自分なのだと誇示するように、音声が鳴り響く。それに共鳴するかのように反対の手はあの日荘吉に託されたもう一つの不釣り合いなバックルをいつの間にか掴んでおり、導かれるようにそれを腰に装着した。

 

 さあ叫べ、過去の弱き自分と決別するために。

 さあ吼えろ、叛逆の翼を翻すために。

 

「変・身!!」

《JOKER》

 

 誕生の咆哮を上げ、蓮は手にした“切り札(ジョーカー)”のメモリをスロットに装填し開いた。

 紫の雷と光が放たれ、蓮の身体は足下から覆われていくように姿を変えていく。

 光が収まり、そこに佇んでいたのは黒と紫の装飾で覆われた人型。まるで虫を連想させる頭部は紫色のレンズで覆われていた。

 

「貴様……何者だ……!?」

 

 その異形の姿に誰もが言葉を失う中、鴨志田は後退り震える声で問い掛ける。

 その言葉に、蓮は胸の内に秘めし憤怒の炎を静かに、されど激しく燃やしながら告げた。

 

「――ジョーカー。仮面ライダージョーカーだ」

 

 これこそが運命の始まり。

 後の『心の怪盗団』と呼ばれるリーダーの最初の変身だった。

 

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