宇佐木時麻の短編集   作:宇佐木時麻

19 / 24
FGO 聖杯探索に星が混ざった結果2

 ――それは、ほんの些細な違いだった。

 

 一つ、目覚めた時にマシュがいなかった事。

 二つ、カルデアからの通信が無かった事。

 三つ、キャスターのクー・フーリンと合流できなかった事。

 

 どれも運が悪かったとしか言いようがない負の連鎖。誰が悪かった訳でもなく、誰かが意図的に仕組んだ訳でもない。正真正銘、間が悪かっただけだった。

 それでも、それは決定的に運命を変えてしまった。

 

「はぁ、はぁっ、ハァッ――!」

 

 焼け焦げ廃墟とかした街を駆ける。息切れを何度覚えたか、何度立ち止まって呼吸をしたいと思ったか。けれど()()がそれを許してくれない。

 走りながら僅かに振り返り背後を確認すれば、そこに広がるは無数の屍。

 だがそれは決して、この街の住人のものではない。何故なら、屍は屍でも躯と化した屍。骨のみで動くスケルトンが、群れを成して迫ってきていた。

 彼らの手には時代錯誤な剣や槍や弓。まるで中世の時代から蘇ったように、銃を主力とした近代の兵器とは似ても似つかない。

 

「……ッ! ホント、しつこい……!」

 

 何度この追いかけっこを繰り返したか。その時点で、彼女――藤丸立香は間違いなく優れた人物だった。

 並大抵の人間ならば、いきなりこのような状況に陥れば大抵が自暴自棄、仮に落ち着いても冷静な判断など出来るはずがないだろう。

 けれど、それでも立香は冷静だった。突如この状況に陥っても尚、一人ではどうしようもないと他のカルデアのメンバーとの合流するために行動していたのだから。

 

 それは、決して一般人がすぐさま実行できるはずがない事で。

 まるでそうしなければならないからという単純な理由からくる判断だった。

 

「あそこ……!」

 

 走っていて、咄嗟にちょうど死角となる隙間を見つけてそこへ潜り込む。息を整えつつ、口を手で塞いで呼吸音を極限まで抑える。

 高鳴る心臓。激しい運動をした直後もあってか激しく振動する鼓動が聞こえてしまうのではないかと思うほど煩く、生きた心地がしない。

 そうやって息を止めて数秒。幸い骨のみしかないから五感が鈍いのか、スケルトン達は特に気づくこともなく通り過ぎていった。

 

「……はぁ~、助かったー」

 

 安堵を零し、いそいそと隙間から出る。膝に付いた砂埃をはたき落としながら周囲を見渡して、生き残るために少しでも生存率を上げるべく足を踏み出そうとして――

 

 

 

 もしも、此処にいたのが幾つかの特異点を修復した後の立香だったら。彼女は諦めず何度でも立ち上がっただろう。

 もしも、此処にマシュがいたなら。後輩の前ではカッコ悪い所を見せられないと、掛け無しの勇気を振り絞ってでも足掻こうとしただろう。

 もしも、この場に彼女を守るサーヴァントがいたなら、彼女は絆を信じて立ち向かっただろう。

 

 

 

 けれど。この場にいたのはまだ何の特異点も修復していない彼女で。

 此処にいるのは彼女一人しかいなく。

 彼女を守護する者など、誰一人いない。

 

 故に――降臨した絶望に抗う術を、彼女は何一つ持ち合わせていなかった。

 

「■■■■■■■■■■■―――!」

 

 聞えてくるのは、絶望の呼び声。

 迸る咆哮に、全身の筋肉が硬直する。

 見たくない、知りたくないというのに。恐怖が、絶望が、彼女の眼を強制的にそちらへと向けてしまう。

 ギリギリと、それはまるで壊れかけの歯車のようで。拒否する意志と無視できぬ恐怖が競り合い、遂にその恐怖を眼に捉え――今度こそ、折れた。

 

 そこに佇むは、鋼の巨人。立香の二回りほどの巨躯な肉体は筋肉に覆われ、紅く光る瞳が彼女の姿を捉えている。

 

「あ、ぁぁ……ッ」

 

 その姿を見て、彼女の精神は、肉体は、魂は――完全に、抗う事を放棄した。

 理解してしまったからだ。猫を見て、これは獅子だと思う者がいないように。あの巨躯(怪物)を見て、藤丸立香はあれを“死”そのものだと理解した。

 彼女の心の直結するかのように、膝が崩れ落ちて尻もちを付く。失禁していないのがむしろ奇跡と言っても過言ではない。

 まだ、あの怪物が何なのか知っていればまだ対処ができたかもしれない。

 けれど、この場にあの巨躯を説明できる者はいない。

 そして、無知という事はその存在そのものをそのまま受け止めてしまうという事。

 

 そう――英霊などという、規格外の存在。その中でも最強と呼ばれるに値するヘラクレスをそのまま受け止めて、いったい誰が生き残れるという。

 

「■■■■■■■■■■■―――!」

 

 咆哮を挙げて突進してくる巨躯に、もはや立香は成す術がない。彼等の間に広がる十メートルの距離は、瞬く間に消え失せるだろう。

 死を確信してか、迫る巨体の速度が落ち肉体の感覚が鈍くなる。高速する意識の中で、もやは無意味な問答が無慈悲に繰り返される。

 どうする? どうすればいい? どうすれば生き残れる?

 

――今こそ完全な“勝利”を――

 

「無理だ」

 

 ――あんな怪物にどうやって?

 

――脇目もふらずに“逃亡”を――

 

「できない」

 

 ――死は既に寸前。もはや、好機はない。

 

――潔く“敗北”を受け入れよう――

 

「死にたくない……!」

 

 ――傷つくことは、嫌だから。

 

 何の覚悟も定まっていない藤丸立香は結局、ただ嘆くしか出来ない。もし、この場に英雄がいれば彼等は顔をしかめるだろうか。或いは無様と嘲笑い、或いは弱者ゆえに仕方がないと思うだろうか。

 そう、だからこそ。弱者でしかない今の藤丸立香だからこそ、此処がターニングポイントだった。

 

 もしも、この場に彼女以外の誰かがいたなら。きっと()は力を貸さなかっただろう。

 何故なら、彼女の本質は光の使徒ゆえに。当たり前の事を、当たり前に出来る者だから。けれどこの場で慟哭する少女の本質は今、闇に染まっている。

 だからこそ、これが最初で最後の奇跡。

 弱者の慟哭に、闇の冥狼が共感する。

 

 

 

「――ああ、まったく。つくづく無能だな、俺は」

 

 

 

 それは、どこか自嘲するような声で。

 こんなことを放っておけない自分の無能さに向けられた嘲笑と共に、その異変は起きた。

 

 ――空間が、裂ける。

 

 他にどう表現すればいいのか分からない現象が、彼らの間に広がっていく。まるで空間に亀裂が奔ったかのような跡が眼前に広がり、それに反応するように巨体も静止する。

 それと同時に背筋を這い上がっていく悪寒。先程の怪物を見たよりも、圧倒的な負の感情の濁流が震えとなって身体を駆け巡っていく。

 それは、言葉にしずらいが、“死”そのものが次元の壁を超えて現れてくるようで――

 

 

 

「天墜せよ、我が守護星――鋼の冥星(ならく)で終滅させろ」

 

 

 

 此処に、冥府より逃亡せし死者を捉えるべく冥府の番人が降臨した。

 冥府の瘴気が炎に包まれた街を冥府へと変えていく。空間の裂け目から現れたのは、鋭い鋼鉄の爪を四肢に身に着け、黒い外套を羽織り、狼面を被った者。瞳の場所から覗かせる赤い眸が、生者の全てを妬むように飢えている。

 本来ならば、そのような危険人物の傍にいれば恐怖ですぐさま離れていただろう。しかし、何故か今の立香には彼の存在を危険だとは思えなかった。

 例えるなら、それは月の光。夜道を何の灯りもなく歩いていて、不安がっている時にお月様の光を見てほっと安堵するような、そんな弱者に優しい光。

 その姿に、彼女は思わず茫然とし――

 

「■■■■■■■■■■■―――!」

 

 対極に、それを直視した巨体はもはや狂気さえも忘れてその存在を滅ぼさんと再度突撃した。

 これは星そのものだ。

 この地球とは違う法則の星。この場に存在してはならない、死の惑星。

 ゆえに、一秒でもはやく滅ぼさんと斧剣を振るい――

 

「邪魔だ」

 

 まるで、存在そのものを否定されたかのように、冥狼の纏う瘴気に触れた途端、斧剣は跡形もなく消滅した。

 それはまるで、悪い悪夢のようで。

 何かに激突したならば、その衝撃で反転することが出来ただろう。しかし冥狼はその衝撃を殺すことなく斧剣のみを滅したため、英雄は止まれない。

 踏み込み、殺す勢いで振るった斧剣は空振り、体勢は崩れてしまったために英雄は冥狼の元へ倒れ込んでしまい、

 

「もう一度、冥府の底に墜ちて行け、英雄」

 

 顔を掴んだ()が、英雄の終焉を告げていた。

 もし、この場にいたのが生者のヘラクレスならば。彼は伝承通りに冥狼を打ち倒せていただろう。

 しかしこの場にいるのはサーヴァントとして一時的に冥府より逃れた死者。冥王が許可していない以上、冥府の番人を司るケルベロスより死者が逃れられる道理はない。

 

闇黒星震(ダークネビュラ)全力発動(フルドライブ)

 

 紡がれるは、死の鎮魂歌。

 如何なる蘇生術を用いろうと、為すすべなく。闇の瘴気に包まれて、ヘラクレスは再び冥府の底へと堕とされていった。

 ……痛々しいほどの沈黙が辺りを包む。ビルの間を横切る風切り音さえも、いまや死の瘴気に包まれ届かない。

 冥狼は振り返り、腰を抜かしてただ見上げる少女と視線を交える。

 

 ――そう。この時、この瞬間こそが、全てのターニングポイント。

 ここに英雄譚は崩れ落ち、逆襲譚が幕を上げたのだった。

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。ケルベロス。おまえの慟哭に共感し参上した。

 ――問おう、おまえが俺のマスターか」

 

 これは、英雄達の物語ではない。

 人と、星が紡ぐ物語である。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

セリフ集

召喚「おまえの嘆きが本物だというのなら、力を貸そう。

   ……もっとも、君は光に愛されているようだから必要ないと思うがね」

レベルアップ「俺にか? つくづく変わったヤツだな、おまえ……」

霊基再臨1「少し力が戻ったか……だけど忘れるなよ、闇に焦がれてもいい事なんざ何もないんだからな」

霊基再臨2「懲りないヤツだな。こんなろくでなしに貢ぐなんざ」

霊基再臨3「……君に逆襲譚は似合わないと思うんだがね」

霊基再臨4「ああ、いいさ。俺の負けだ。こんな弱者の慟哭でいいのなら、力を貸そう。冥狼として、君を必ず守り抜こう」

スタート1「さっさと終わらせるぞ」

スタート2「狂い哭け……!」

スキル1「死に絶えろ」

スキル2「塵と化せ」

コマンド1「ああ」

コマンド2「いいぜ」

コマンド3「冥府に墜ちろ」

宝具カード「天墜せよ、我が守護星――鋼の冥星(ならく)で終滅させろ」

アタック1「邪魔だ」

アタック2「失せろ」

アタック3「消え失せろ!」

エクストラアタック「遠慮なしで、殺してやる」

宝具「超新星(Metalnova)――狂い哭け、呪わしき銀の冥狼よ(H o w l i n g K e r b e r o s)

ダメージ1「チィッ!」

ダメージ2「糞が!」

戦闘不能1「こんな、ところで……!」

戦闘不能2「俺はただ、帰りたいだけなのに……!」

勝利1「ようやく終わった、か……」

勝利2「とっとと帰るぞ。こんなところ、長居は不要だろ」

会話1「あぁ、女と酒に囲まれて食っちゃ寝してぇ……なんだマスター、何かようか? ……何の事だ? 空耳だろ」

会話2「ここの人々はいい連中ばかりだな。人が良いというか、魔術師らしくないというか。……ここにいると、あの喫茶店を思い出す」

会話3「……イイエ、人違イデス。僕ハ人狼トハ別人ナノデサラバァッ!!」チトセ所属時

会話4「あの二人は……そうか、特異点だからこそこういう奇跡も起こり得るのか。感謝する、マスター。あの二人を呼んでくれて」ゼファー・ヴェンデッタ所属時

会話5「――おいマスター。今すぐアイツを自害させろ。いや、少なくとも俺が殺す。光の英雄に首輪を付けるなんて不可能だ。アイツは、間違いなく暴走するぞ」クリストファー・カグツチ所属時

好きな事「好きな事? ……俺はある人の能力が自我を持ったようなものだから、これといってないんだが……そうだな、何気ない日常ってヤツかな」

嫌いな事「――光の奴隷共だ。奴等は決して許しはしない。何処までも何処までも過去を犠牲にする塵屑共……一人残さず、冥府に送ってやる」

聖杯「勿論あるとも。彼等を地上へ返したい。それが俺の……()の願いだからな」

絆lv1「どこもかしこも英雄だらけ……つくづく居心地が悪いな此処は」

 lv2「俺なんぞの顔色を伺っている暇があるなら、他の英雄様の面倒でも見ている方がマシだと思うがね?」

 lv3「つくづくお人好しだな、おまえ。俺なんぞの傍にいて何が楽しいのやら……」

 lv4「……本当に、厄介だ、君は。これならまだ英雄の相手をしていた方がマシだ。そういう期待は裏切り難いんだよ、昔からな」

 lv5「気が付いたら、此処は()じゃなく俺にとっての帰る場所になっていたんだな。こうならないよう心掛けていたんだが……あの二人には悪いが、少しだけ寄り道させて貰おう。君の旅路を最後まで見守ろう、マスター」

イベント中「あ? 何やら騒がしいな……様子でも見に行くか?」

誕生日「誕生日おめでとう、マスター。……って、冥府の番犬に祝われても嬉しくないか」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。