宇佐木時麻の短編集   作:宇佐木時麻

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FGO 鋼の英雄に焦がれて2

 神代は終わり、西暦を経て人類は地上でもっとも栄えた種となった。

 我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの。

 人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理――人類の航海図。

 これを魔術世界では『人理』と呼ぶ。

 そして魔術だけでは見えない世界、科学だけでは計れない世界を観測し、人類の決定的な絶滅を防ぐために成立された特務機関。

 人類史を何より強く存続させる尊命の下に、魔術・科学の区別なく研究者が集められた。

 それこそが人理継続保障機関・カルデアの使命である。

 

「――というのがカルデアの目的なんだが、理解できたか?」

「うん、分かった――何一つ分からない事が分かったよ」

「先輩目がグルグル回ってますもんね」

「フォウフォーゥ……」

「あはは……」

 

 まもなくカルデアの説明会が開かれる時刻なので、会場に移動しながら素人である藤丸立香に簡易なカルデアの説明を行っておく。素人とはいえ何も知らないのは憐れだろう。

 もっとも、先の返答から無意味に終わったらしいが。

 

「まあ、無理もないさ。立香はつい最近まで魔術の事すら知らなかったんだろ?」

「うん、封筒が届いた時は宗教か詐欺かなって疑ってたんだけど、その時にお父さんが『あれ、言って無かったっけ?』とか凄い今更感で教えてくれて、私もちょうど長休暇だったしこりゃ行くっきゃねえ! という若気のノリでつい……」

「す、凄い行動力ですね……」

「自慢じゃないけど、中学の渾名が『怒りの暴走列車』だったからね、私。後先考えず行動して此処ぞという時に呪いみたいにドジっちゃうんだよね~」

 

 此処に来る時も飛行機のチケットを失くしかけて大変だったよー、と明るく笑う彼女に吊られて思わず俺達も笑みをほころばせる。なんというか、カルデア、いや魔術師ではあまり見ないタイプの人物だ。

 元来、魔術師という存在は優秀なればなるほど外道が多い。世界の始まりとされる根源を目指し代々研究を追究する魔術師は、世代を重ねるほどにその宿業が重くなり倫理を失う。目的を叶えられるのならば如何な犠牲を払おうと惜しまないというのが魔術師の基本である。

 魔術師が普段社会において大人しくしているのも、騒ぎを起こせば粛清を実行する組織が存在するため。もしただ一度で必ず根源に到達できる手段があり、そのために世界を滅ぼす犠牲が必要となれば、魔術師は迷うことなく世界を犠牲にするだろう。

 だからこそ、立香のように人間性溢れる魔術師をカルデアで見るのは非常に稀な事だ。普段一部の者にしか心を開かないマシュが初対面にも関わらずここまで距離が近いのもそのためだろう。

 

「う~ん、でもそうなると大丈夫かな?」

「何がだ、立香?」

 

 親しげに彼女の名前を呼ぶのは、彼女にそう呼ぶよう頼まれたからだ。最初は初対面の事もあって敬語で話していたのだが、壁を感じるから敬語は要らないし名前で呼んでと求められため、なら自分もアッシュでいいとマシュも交えて皆で名前を交換した。

 不安げに顎を親指と人差し指の半ばで挟みながら呻る立香は声を掛けられると苦笑いしながら後頭部を掻いて、

 

「いや、アッシュやマシュの話を訊いてると専門家ばかり集まってるみたいだし、そんなところへ素人の私なんかが来てもよかったのかなーって。それに、えぇっと、特異点だっけ? そんな凄いところに行くなんて危険じゃないかなーなんて思ったり」

 

 いや、ちゃんと詳しく説明も見ずに来ちゃった私が悪いんだけどね? と苦笑う彼女の表情から恐怖と不安の色が隠しきれていない。

 まあ、無理もない話だ。素人がいきなり専門家が集う場所に来れば尻込もるのは当然の事であり、ましてや命の危険に晒されるともなれば不安がるのは自然の摂理だ。

 だからこそ、彼女の不安を取り除くために俺とマシュは一度向き合うと頷いて、立香の不安を取り除くべく口を開いた。

 

「まあ、確かに人類の存続を計測していたカルデアスが人類の生活を表わす光を見えなくなってしまったのは非常に危険な事態だろうな。百年で人類の生活が崩壊したとなると、その原因を取り除く今回の事例は危険がないとは絶対に言えない」

「でも大丈夫ですよ。幾ら所長でも全く訓練を行っていない人をいきなり特異点に送ったりなんかしませんよ」

「そうそう、まずは俺達Aチームが特異点の調査、Bチームがその支援、Cチームは欠番が出た場合の補佐、Dチームは万が一の場合に備えて待機だろう。そんな心配しなくても大丈夫さ」

「うぅっ、その言い方だと何か役立たずと言われてるみたいで若干ショック……って、俺達って事はアッシュもマシュもAチームなの? 二人共凄いんだね!」

「そんな、わたしは少し例外ですし……でもアッシュさんは凄いんですよ! マスター候補の中でも常にトップクラスに入り続けて、期待のマスターなんですからッ!」

「ほぇ~、アッシュってそんなに凄かったんだ。ぜひ先輩って呼ばせて下さい!」

「あはは。そう言っても俺なんてまだまだだよ。今は経験の長さが結果に繋がってるだけさ。準備期間が俺は他のマスター候補と違って三年以上あったし、もっと精進しなくちゃな」

 

 そうだ、こんなところで満足する訳にはいかない。

 もっと遠く、果てなき理想へ羽ばたくためにも、歩みを止める訳にはいかない。

 

「強くなるんだ――今度こそ、守り抜くために」

 

 改めて決意を顕にしていると、ふと立香が傍から顔を覗き込んできて不意に思ったことを口にした。

 

「何だかアッシュって、英雄になろうとしているみたいだね」

「――――」

 

 その、本人からしてみれば何気なく言ったであろう図星に、思わず目を見開いてしまう。

 

「……アッシュさん? もしかしてその表情は……」

「いやまあ、なんというか……」

 

 まさに()()()()()()()()()()()()()からこそ、指摘された図星に思わず頬を掻く。おそらく直感なのだろうが、先の話からそれを推測するなど中々侮れない鋭さである。

 俺の反応に図星だったのだと理解して立香とマシュの表情が驚愕に染まる。まさか当たるとは思っていなかったのだろう。

 

「難しいのは分かってるよ。けれど今より少しでも、一歩でも近づきたいとは思っている」

「あ、でもさ。良く聞く話だけど英雄になりたい者はなろうとした瞬間に失格であるとかいうけど、アッシュはどう思ってるの?」

「ああ、だから俺は――その言葉が嫌いでな」

 

 吐き捨てるように、若干冷たい口調でその言葉を切り捨てる。

 

「最初から限られた人間しか頂点には至れない。そんな言葉を壊したいから、鋼の英雄になりたいんだ。成りたいものを目指すからこそ人は理想(ユメ)へと近づけるし、そのためなら頑張れる……当たり前のことじゃないか」

 

 曖昧な目標より確固たる願いに向かって進む方が順当に歩みが早いし結果的に大成する。少なくとも怠けてやっている者よりは確率が高いだろう。

 

「けれど、英雄を目指すという課題において返って来るのは毎度のように、先程立香が口にした訳の分からない理屈ばかりさ。夢に焦がれたその瞬間からおまえはまさしく偽物で? 成ろうと努力すればするほど資格が無くしてしまうだなんて――馬鹿を抜かせよふざけやがって、無茶苦茶だろうが、どうなっている」

 

 自然発生する人間にしか英雄(ヒーロー)の資格がないというのなら、後天的に足掻いた者はどれも皆無力なままだとでも? 冗談じゃない。

 

「理想に近づけるよう努力しているんだから。何もしないままでいる者より、何かが出来る人間になっているのは当然じゃないか」

 

 だからこそ、本物を目指す者は偽物止まりなんていう理屈が心底気に入らない。

 

「英雄になってやると頑張った人間は、仮に二流で終わっても誰かを救える存在へ少しは近づいているんだよ。その足跡まで馬鹿にするような風潮が俺はどうにも腹が立って仕方ない」

 

 始まりが憧れでも、嘘であっても、どれだけ無様であろうとも、辿り着こうと足掻く間に生まれる意味は決して嘘ではないのだから。

 

「だから俺は英雄を目指しているんだ。誰もが正道を歩めるように、その確かな道筋を俺は作ってみたいんだよ」

 

 自分でも餓鬼染みているなと自嘲しつつも、その意志に嘘偽りはない。()()()()()()()()()()()()ままならば、誰がその道を歩みたいと思えるのだ。

 誰だって痛みや苦しみが待っているならその道に進もうとは思わないし、楽な道に逃げるに決まってる。それが間違いだとしても、気分が乗らないだとか今日は調子が悪いとか理由を付けて楽な道を選ぶのが人の性だ。

 だからこそ、俺は英雄になりたいのだ。誰もが光を歩めるように、怒りではなく笑顔を以て明日へ踏み出せられる瞬間を、心の底から願っている。

 

「……とまぁ、偉そうに語ったけど実際暗中模索だけどな。手探りながらだから今できることを精一杯やってるだけで限界なんだけどさ」

「いいと思うよ? そういうの、私は好きかな」

「はい。アッシュさんの夢は、決して間違いではないと思います」

 

 柄でもなく自分の心境を語ってみれば、二人共煽ることなく真摯に受け止め笑顔で肯定してくれた。その微笑みにこちらが気恥ずかしくなりつい視線を逸らして頬を掻く。

 

「――おっと、此処にいたのかアッシュ、マシュ。そろそろマスター適正者のブリーフィングが始まるから管制室に移動するように。おや、そちらにいるお嬢さんはどなたかな?」

「あっ、はい! 本日よりここでお世話になります藤丸立香と申します! どうか宜しくお願いします!」

 

 ニコニコとこちらを微笑ましく見つめてくる二人にさてどうしたものかと悩んでいると、場の雰囲気を変えるが如く丁度いいタイミングで緑茶色のコートと帽子を着た男性が近づいてきた。

 彼の登場に感謝しつつも立香に彼の紹介をする。

 

「こちらはレフ・ライノール教授。近未来観測レンズ「シバ」の開発者であり、カルデアにおいて欠かせない人物さ」

「よしてくれ、アッシュ。私だけでなく、今回のミッションには全員の力が必要なのだから。それに、藤丸……ああ、No.(ナンバー)48、一般採用の。どうか悲観しないで欲しい。先程も言ったが、今回のミッションには君たち全員が必要なんだから」

「はい、未熟な身ではありますが、精一杯務めさせて頂きます!」

「おや、いい返事だ。どうやら私は余計な事を言ったかな? それとも既に君たちが励ましていたのかな、アッシュにマシュ?」

「いいえ、それは彼女自身の強さです。俺達は何もしてません」

「はい、先輩は凄い人です」

「あ、あの、あんまり持ち上げられると居心地が悪いといいますか……」

「ははは、仲が宜しくて大いに結構。さて、それでは管制室へ向かうとしよう。遅刻でもしようものなら一年は所長に睨まれるぞ?」

「「「了解ッ!!」」」

 

 レフ教授の指示の元、俺達は急いでブリーフィングが行われる管制室へと足を運び、そこで所長のマリーからありがたい御言葉を頂いて――

 

 

 

『――信じられない! 素人がわたしのカルデアに入れる枠なんてないわ! いいからこの新人を一秒でも早くわたしの前から叩き出しなさい!』

 

 

 

 最初のシミュレーションで半覚醒状態だった立香は案の定マリーの徹夜で考えていた口上に耐えきれず熟睡し、彼女の怒りを買ってしまうのだった。

 

「うぅっ……眠ってしまった私が悪いけど、何もそこまで怒らなくても……」

「あはは……まあ、時期が悪かったな。普段ならまだしも、今は余裕がないからあんなにも気が立っているんだ。少し経てばすぐに落ち着くよ」

 

 項垂れる立香を励ましつつ彼女の部屋へと案内しながら一応マリーのフォローを入れておく。確かにマリーは悪人だと思われがちだが、実際は責任感が強く誰にでも厳しいだけで根は真面目な女の子なのだ。

 もっとも、相手に対して容赦のないところは悪人と呼ぶに相応しいのだが。

 

「そういう言い方をするって事は、ひょっとしてアッシュは所長のこと詳しいの?」

「ん? まあね、これでも一応兄貴だから、彼女との付き合いは長い方さ」

 

 俺がそう真実を告げると、立香はこちらを見上げキラキラとした瞳で口にした。

 

「……もしかして、アッシュって貴族(ボンボン)……ッ!」

「いや、戸籍上兄であるだけで義理だよ。俺は前所長のマリスビリーさんに引き取られた養子だから、むしろ権利は低いよ。まあ確かに少なからず恩恵は貰ってるけどな」

「つまり、紐……ッ!」

「いや、違うからな?」

 

 なんて雑談を交えている内に彼女に用意された寝室の前まで来てしまい、道案内を終えたという訳で管制室に戻るため踵を返す。

 それと、この時間ならばきっとここにあの()()()()がいると思うから、

 

「じゃあ俺はこれで。ああ、それと立香。おそらく部屋に不審者がいると思うけど、危険な人じゃないから安心してくれ。きっと仲良くなれるさ」

「待って、え? 私の部屋なのに不審者いるの? ていうか警備ガバガバ過ぎない?」

 

 時間もだいぶ押しているため何か立香が言っていたがそれを無視して駆け出そうとしたが、その直前に大きく自分の名前を呼ばれたので立ち止まって振り返る。

 

「――頑張ってね、アッシュ」

 

 そう告げて笑みを浮かべる彼女に、何が起こるか分からない不安で震える腕を必死に押さえつけながらそれでも誰かのために優しい笑みを浮かべる立香に、俺も負けじと雄々しく笑みを浮かべて、

 

「――ああ、任せろ」

 

 女が格好つけたのならば、男も格好つけ返すのが礼儀だから。

 今度こそ振り返らず、皆がいる中央管制室へ足を運ぶのだった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 管制室へ到着すれば、先ほどブリーフィングで座っていた席には誰もおらず、その奥に佇む霊子筐体(コフィン)の前で皆おのおのカルデアから支給された礼装であるカルデア戦闘服に着替えており、擬似霊子転移(レイシフト)への準備をほぼ完了させていた。

 

「しまった、俺も急いで終わらせないと――」

「兄さん!」

 

 慌てて着替え室に向かおうとするところへ、マリーの声が掛かりそちらへ向き直る。視線を向ければマリーが慌ててこちらへ駆け寄り、その手には見慣れない服を掴んでいた。

 

「まったく、何処行くつもりなのよ、あなたは」

「いや、俺も自分の戦闘用の礼装に着替えようと思って……」

「兄さんのは、これでしょ! お父さんが何のためにこの礼装を用意したと思ってるの」

「あっ――」

 

 マリーに投げつけられるように手渡された物を見て、それが何なのかを理解する。それは義理父が残してくれた礼装の一つ。幼い頃、かつて自分がそれをみて憧れ、ならいつか時が来ればお前に譲ってやろうと言っていた父の形見とも言えるアニムスフィア家の正装だった。

 絹のように軽く、されど込められた神秘は半端者の自分でも一級品だと分かる物。それが今の自分用並びに戦闘用に改良されていた。

 持つ腕が震える。それは身に余る品物を渡されたからではない。

 

「……なあ、マリー。本当に、俺がこれを着てもいいのかな?」

「何を今更言うのよ。いいにきまってるでしょ? だってそれは――」

 

 それは、あの人の想いの形。

 

「――兄さんは家族(アニムスフィア家)なんだから。それを着る資格は十分あるわ」

 

 家族という、愛の結晶だった。

 

「ああ、そうだな。そう、だった」

 

 迷いは晴れた。

 俺は着替え室に雪崩れ込むと、着ていた衣服を脱ぎ手に取った礼装を着込む。軍服に近い黒の絹地と黄金の装飾は荘厳で、着ているだけで試されているように背筋が伸びる。

 だがそれはむしろ上等で、腰のベルトに剣型の魔術礼装を掛ける。これにて全ての準備は完了した。

 

「さぁ――往くぞ」

 

 これこそ始まりの一歩。

 コフィンに入り意識がレイシフトに向けて薄れていく中で、それだけは強く意識し続ける。

 世界を救うファーストオーダー。その始まりを今か今かと待ち望み、

 

 

 

 ――瞬間、爆音と衝撃と灼熱が全てを塗り潰した。

 

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