静かな竹林の一角でレイセンはゼレイブの調整をしていた。
高高度からの落下にも関わらず、内部系にはあまり損傷が見られなかったのは
柔らかい大地がもたらした奇跡なのであろうか。
「・・・・ふう」
レイセンはふとため息を付いた。
ワカバから、自分がサーディスと戦った際にただならぬ気迫と攻撃でサーディスを圧倒したと聞いて
また自分の意識とは離れた別の戦闘意識的なものが発現したのだと気が重くなった。
コックピットの脇のパネルの蓋を閉じようとした時、外から甲高い叫び声が聞こえてきた。
「こらーっ!
まーた油売ってるのー!?」
レイセンはその声を聞いて慌ててコックピットから飛び降り、声の主の方へと走り寄った。
「てゐさん、すみませーん!」
レイセンの向かう先には、てゐと呼ばれた背の低い女性が馬に乗って待っていた。
「まったく、機械いじるヒマがあるなら
収穫の手伝いでもしたら・・・・」
てゐがそう説教しようとした矢先、レイセンは馬の左側にかかっていたバスケットを持ち上げ、そのまま走っていった。
「これ、ワカバの分の食料ですよね?
私が持っていきまーす!」
「あ! レイセンお前!」
レイセンはワカバのいる小屋に向かってさっさと走り去った。
プラズマ・シールドを使ってワカバとともに大気圏を突破し、幻想郷に落下したレイセンは
落下地点から近い場所に住んでいる因幡てゐという人物に助けられ、彼女のもとに身を寄せていた。
といってもタダというわけにも行かず、彼女がやっているニンジン栽培の手伝いが条件ではあるが
初日にやった作業の重労働さに音を上げ
数日経った今はのらりくらりとかわしているのであった。
「ワカバ?」
レイセンはワカバのいる部屋の扉を開けた。
レイセンに気づいたワカバはベッドからゆっくりと身を起こした。
「起きれるようになったんだ」
「まあ、なんとかね・・・・」
月圏生まれでコロニー育ちのワカバにとって
慣れない地球の重力というものは非常に重く
起き上がるのすら困難なほどである。
「レイは・・・・やっぱりすごいね」
「私は・・・・前にも一度来たことがあるし・・・・」
いつもなら二言目にはレイセンに悪態をつくワカバが
弱々しくレイセンを褒めたのでとっさにレイセンは謙遜をした。
「ううん、すごいよレイは。
強いし、重力にも負けないし、私を助けてくれるし・・・・。
私なんか、全然かなわないなぁ・・・・」
ワカバらしくない言葉遣いから弱気になっていることをを察し、
レイセンは黙ってしまった。
「目、まだ治らないんだ・・・・?」
黙ってうつむくレイセンの顔を見て、ワカバが言った。
「あ・・・・うん」
大気圏での死闘の際にサーディス相手に狂気の瞳が発動してからというもの
レイセンの目は赤いまま元に戻らなくなっていた。
血のような赤さを湛える目は、明らかに異質であった。
「そ、そうだ!
のど乾いたでしょ?
お水持ってくるね!」
レイセンは目のことについて深く突っ込まれたくないので
話題を切り、水を汲みに行った。
小屋の水道からコップに水をくみ、ついでに近くにあった空のボトルにも水を汲み
ワカバのもとへ運んでいった。
「はい、どうぞ。
飲みたくなったらこのボトルの水を飲んでね」
「あ、ありがと・・・・」
ワカバは渡された水をゴクリと飲み込んで、プハーと一息ついた。
「なんだか、ベッドでお世話してもらってると
小さい時にお母さんに看病してもらったことを思い出すなぁ」
そう、ぽつりとワカバがつぶやいた。
「お母さん、コロニーに住んでるの?」
「うん。デルタ14コロニーにね。
イオタ4の学生寮に入るときに別れたきりだけど、
地球とは反対側にあるコロニーだから戦争に巻き込まれてはいないと思う・・・・」
寂しげな表情でそう言うワカバの姿を見て、レイセンは天井を見上げて言った。
「いいなあ、お母さんお父さんがいるって・・・・」
「え?」
「私、小さいころの記憶が無いんだ・・・・。
お母さん、お父さんが誰なのかも、どこで生まれたのかもわからないの」
「そうだったんだ・・・・」
突然のレイセンの告白に、内心ワカバはとても驚いていた。
ワカバはレイセンの身の上を想像したことがなかった。
綿月様の側近であるという地位に甘んじているだけの娘・・・・と考えていたというのもある。
「でも、寂しくないよ!」
同情の目でワカバに見られていることに気づいたレイセンは笑顔で言った。
「綿月様は優しいし、ムーンライズ隊の人たちとも仲良くなったし。
それに、今は隣にワカバもいるからね」
ワカバもいるからね、と言われて照れくさくなって、ワカバは顔を赤くした。
赤くなった顔をレイセンに気づかれないように、ワカバは慌てて布団をかぶった。
「あ・・・・ゴメンね、疲れちゃった?」
突然布団をかぶったワカバを心配してレイセンが言った。
「ううん・・・・違うの。
でも・・・・」
「?」
「・・・・ありがと」
「どういたしまして」
その時、外からてゐの怒鳴り声が聞こえてきたのでレイセンは慌てて立ち上がった。
「じゃあワカバ、またあとでね!」
そう言ってレイセンは外へ飛び出した。
「こんなにニンジンを作って、どうするんですか?」
畑から収穫したニンジンをカゴに入れながらレイセンはてゐに尋ねた。
「機械に入れて加工して、月面軍の連中に売りつけるのさ。
『キャロットスティック』つって、あいつらには大人気なのさ。
お前さんも一本どうだい?」
そう言いながらてゐは懐の小箱からキャロットスティックを一本取り出し
レイセンに差し出した。
「け、結構ですよ・・・・まだ子供だし・・・・」
「タバコってわけじゃないんだがなぁ」
てゐは差し出したキャロットスティックをそのまま自分の口に運び、先端に火をつけた。
ブルルとてゐが乗っている馬もキャロットスティックを欲しがったので、
もう一本てゐは取り出して、馬に食べさせた。
「その動物、ウマって言うんですっけ?」
「お馬さんだよ。
農耕に移動に、便利なんだ。
こいつはちょっとデカイけど、こいつを見て腰を抜かしたのは初めて見たけどね」
「それって、私じゃなくてワカバだって!」
ワカバは幻想郷に降り立ってすぐ、初めて見た巨大な馬を怪物と勘違いして腰を抜かしてしまったのだった。
「ハハハ! 細かいことは気にするもんじゃないよ」
「細かくありませんってばぁ・・・・。
そういえばてゐさん、私たちのこと・・・・訊かないんですか?」
レイセンは前から思っていた疑問をてゐに投げかけてみた。
てゐはレイセンたちのことについて特に事情を聞くこともなく、
二つ返事で世話をしてくれていた。
「ふーっ・・・・。
聞いて何になるんだい?
月面軍に引き渡す?それとも幻想郷軍に?
バカバカしいよ、カネにもなりゃしないしね。
さ、余計なこと喋ってるヒマがあったらさっさと収穫の続きしな!」
「あ、はーい!」
日も沈み、夕食を済ませたレイセンは
収穫の疲れでクタクタになった身体を布団に投げ出した。
「ゼロさん・・・・ネイザンさん・・・・みんな大丈夫かな・・・・」
ムーンライズが大気圏突入の際、
ゼロやワカバの活躍もあって艦自体は妨害を受けなかったものの、
大気圏突入の時を最後にその後を確認していないため、レイセンは心配していた。
しばらく目をつぶっていたが、ムーンライズ隊のみんなや、自分の狂気の目について
頭のなかが考えでいっぱいになって、寝付けないでいた。
外の空気を吸おうと小屋の廊下を歩いていると、
ワカバの部屋の扉が半開きになっていることに気づいた。
「ワカバ・・・・?」
中を覗くと、部屋の中にはワカバの姿は見られなかった。
レイセンが小屋を出て辺りを見回すと、
小屋からそう離れていない小さな湖の近くにワカバが脱いだであろう服を見つけた。
パシャン、と水の音が聞こえた方を振り向くと、
ワカバが一糸まとわぬ姿で湖を泳いでいた。
ワカバは潜ったり浮かんだり、手で身体を洗ったり、一人で水浴びをしているようだった。
水が滴り月明かりを受けて輝くワカバの綺麗な肌を、レイセンはしばらく見つめていた。
「はぁ・・・・地球ってすごいなぁ・・・・」
浮力に身を任せて仰向けで水面にぷかりと浮かんだワカバがつぶやいた。
そして、服が風に飛ばされてないか確認するために振り向いて、
レイセンがじっと見ていたことに気づいた。
「っ・・・・!」
ワカバは顔を真赤にして潜り、水しぶきを上げながらすごい速さで
レイセンの近くの岸まで泳いできた。
「ち、違うの! 覗いてたんじゃなくてその・・・・」
「ば、バカ!
女同士で何であんたまで恥ずかしがってるのよ!」
ワカバは胸と股間を手で隠しながらレイセンに近づきながら言った。
レイセンはワカバに近づかれて頭が真っ白になってしまった。
「えっと・・・・」
「服っ!!」
ワカバは言葉が詰まったまま突っ立ってるレイセンが持ってる自分の服を
奪うように取り上げ、そのまま草むらの中に入っていった。
しばらくすると、濡れたまま慌てて着たからなのか湿った服を着たワカバが戻ってきた。
時間がなかったのか髪は束ねられておらず、濡れたままの赤く長い髪が風に揺れていた。
「・・・・何よ」
ワカバはムスッとした態度でレイセンに訊いた。
「あ・・・・立てるようになったんだ・・・・?」
「少しだけね・・・・あっ!」
突然バランスを崩して倒れそうになったワカバを、とっさにレイセンは支えてあげた。
「あ・・・・ありがと・・・・」
「どういたしまして」
不器用なお礼を言うワカバに、レイセンは笑顔で返した。
ワカバはまだ立ったままだと辛そうなので、二人は湖の岸に腰を下ろした。
ふぅー、と溜息をついたワカバは、レイセンから顔を逸らしながら
どうして湖にいたのかを話し始めた。
「何日も身体洗ってなかったから、汗だけでも流そうと思って・・・・」
「全然臭わなかったよ?」
「そういう問題じゃない!
ったく・・・・ホントあんたどこかズレてるわねぇ・・・・」
そう言って、少し黙ったあとワカバは夜空を見上げた。
「レイ・・・・地球って、すごいね・・・・」
「え?」
「知らない生き物がいっぱいいて、大きな生き物もいて、
空気や水にも匂いがあって・・・・。
さっき湖に潜ったらね、たくさん魚がいたの」
月の、それもコロニーの中は空気は作られたもの故に澄んではいるが匂いはなく、
水辺はほとんど用水路と下水なので、養殖以外で自然に生息している魚はすごく珍しい存在である。
「地上は穢れてるとか言われてたけど、私はこっちの方が好きだな・・・・」
「ワカバ・・・・」
ドシン。
突然地面が揺れ、湖の水面が波立った。
「何の揺れ!?」
「これは・・・・ワンダーアーマー・・・・!」
そう言うレイセンの目が、光を失っていくのをワカバは見た。
その後すぐにレイセンは立ち上がってゼレイブが置いてある方へ走り始めてしまった。
「レイ!? 待って!」
その後を追って、ワカバも慌てて走ろうとしたがうまく立てずに転んでしまった。
竹林の竹をなぎ倒しながら、WAの部隊が小屋に接近しつつあった。
隊長機から周囲の味方に通信が送られる。
「こちらセイラン、裏切り者を発見した。
グッドラック隊、攻撃の準備をしろ」
セイランは通信を送ったあと、クックッと笑いながらつぶやいた。
「連中のはぐれを捕らえる簡単な任務。
しかも機体は新型の『レゴス』ときた。
名をあげるにはちょっと物足りないけど・・・・!」
セイランのレゴスを先頭に、グッドラック隊のレゴスが次々とバーニアを吹かせた。
「おぉーい! 大丈夫かー!?」
馬に乗ったてゐが異変を察知してワカバの元へ駆けつけた。
「何が起こってるの・・・・?」
「あんたたちにお客さんだよ・・・・!」
てゐがそう言い終わらないうちに目の前の竹やぶがメキメキと音を立てて倒され、
WA・レゴスが姿を表した。
「ちいっ! 見つかったか!」
「どうするの!?」
「乗りな! 逃げるんだよ!」
てゐはワカバに手を差し伸ばし、掴んだ腕をおもいっきり引っ張って馬の背にワカバを運んだ。
しかし、その隙にレゴスはレールガンを二人に向け、今にも発射体制に入りつつあった。
「やられるっ!?」
ワカバがそう思った瞬間、ゼレイブがレゴスにタックルをして発射を阻止した。
そのままゼレイブはプラズマ・ライフルを倒れたレゴスに向けて発射した。
レゴスの頭部が爆発し、戦闘不能になったのを悟ったのかコックピットからパイロットが逃げていった。
「レイ、すごい!」
ワカバが歓喜の声を上げるが、その声はプラズマ・ライフルの発射音にかき消された。
「許さない・・・・許さない、許さない!!」
レイセンは叫びながらプラズマ・ライフルをひたすら打ち続けた。
何度も何度もプラズマ弾を撃ち込まれ、レゴスが原型を失っていく。
「レイ!? もうそいつは動かないよ!!」
レイセンの狂気じみた攻撃に、ワカバは恐怖を感じた。
「あの娘、ちょっとイッちゃってるみたいだね・・・・」
「レイが・・・・イッちゃってるって・・・・?」
「まるで戦いに取り憑かれているみたいだ。
巻き添えを食う前に離れるよ!」
てゐはそう言うと馬にムチを入れ、ゼレイブの遠くへ移動させた。
「レイを置いていくの!?」
「黙ってな、あの娘に殺されたくなけりゃね」
ゼレイブがプラズマ弾を撃ち尽くしてもなお引き金を引き続ける背後から、
別のレゴスがプラズマ・サーベルを構えて飛び出してきた。
「来るなぁぁぁ!!」
レイセンはその気配を察知し、レゴスがサーベルを振り下ろすより早く
居合い抜きの如きプラズマ・サーベルの早抜きと、
機体の横回転を組み合わせてレゴスを空中で胸部から横に両断した。
天井部分が切り取られた形となったコックピットからパイロットが飛び出し、そのまま湖に落ちていき水柱を立てた。
それと同時に今度は2機のレゴスが挟み撃ちの形でゼレイブに跳びかかったが、
バックパックから放たれたトマホークビットと、プラズマヘッドカノンによって
近寄る前に2機とも動かなくなった。
「レイ・・・・?」
ほんの数十秒という短い時間に鬼神のごとく近寄る敵を的確になぎ倒すゼレイブの動きを見てワカバは震えた。
「・・・・イッちゃってるって意味がわかったかい?」
てゐにそう訊かれて、ワカバは震えながら頷いた。
「レイは・・・・どうしちゃったの・・・・?
何があったの・・・・!?」
「恐らくあれは・・・・狂気の瞳の暴走だよ」
「暴走・・・・?」
馬を湖から少し離れた高台で止め、てゐはワカバの質問に答えた。
「戦闘による心身の高ぶりに、一種のPTSDが重なると
戦いたいという感情と、戦いたくないという感情がぶつかり合って
行き場を失った感情エネルギーがああいった形で表に現れる・・・・」
次々とレゴスを破壊するゼレイブが、てゐの説明を証明するかのようだった。
「って、あいつの受け売りだけどね」
「あいつ・・・・?」
『うわぁぁぁ! 脱出!!』
通信から聞こえてくる味方が次々とやられる声に、セイランは身を震わせていた。
まだ交戦を初めて2分と経っていないのだ。
その短時間にすでに味方を6機も失ってしまったのだ。
普通に考えれば退くべき事態ではあるが、実戦慣れしていないセイランには
その判断はできなかった。
むしろ、簡単だと思っていた任務を失敗するという不安に負けてしまっていた。
「あいつだけは・・・・潰す!!」
セイランのレゴスのみが持っている専用のプラズマハンマーを構え、
バーニアを全開に吹かせて一気にゼレイブに詰め寄った。
「もらったぁぁぁ!」
背後からゼレイブめがけプラズマハンマーを振り下ろすセイラン。
レイセンは超人的な反応速度でプラズマサーベルを構え、ハンマーを受け止めるが
質量とエネルギー量に勝るハンマーの方がサーベルの刃を貫き、
そのままゼレイブの左腕を叩き潰した。
左腕を失ったゼレイブは宙返りの要領でレゴスに背を向け、バーニアを吹かせて一旦距離をとった。
「逃がすかーっ!!」
セイランが再び距離を詰めようとしたところで前方から無数の竹が飛んできていることに気づいた。
ゼレイブが残った右腕で乱暴に竹を引き抜き、投げつけていたのだった。
飛んでくる竹を腕で防ぎながら、セイランは前進した。
「こんな程度の攻撃、効きは・・・・!」
そう言い終わらないうちにゼレイブの右足の飛び蹴りがレゴスに炸裂する。
ゼレイブは投げつけた竹にまぎれてレゴスに向かって突撃をかけていたのだった。
「うわぁぁぁぁ!!」
セイランはコックピットの部分を蹴りぬかれ、頑丈なコックピットの内壁に守られたまま彼方へと吹っ飛んでいった。
「だ、脱出!」
コックピットが地面に衝突する寸前に、セイランは脱出ポッドを起動した。
「な、何なのよあいつ・・・・全然話が違うじゃない!!」
脱出ポッドで逃げながら、セイランはレイセンに対しての憎しみをつのらせた。
指揮官であるセイランが敗れたことで、残ったレゴスは辺りをめちゃくちゃに攻撃し始めた。
流れ弾がワカバたちのいる高台の付近に着弾し、土が舞い上がった。
「っと・・・・ここも危なくなってきたね」
「レイは!? レイを止めなくちゃ!」
「今の私達に何ができるっていうんだい!!
・・・・ん?」
てゐが着弾した方を見ると、巻き上げられた土を被りながらうさみみの生えた少女が逃げ回っていた。
「あの娘は・・・・?」
「さっき湖に落ちたパイロットだよ。
そして・・・・」
てゐは馬を走らせ、片手でその娘を引っ掴んで辺りから離れた。
「て・・・・てゐ様・・・・!?」
てゐに掴まれた娘が驚いた表情でてゐを見つめていた。
「幻想郷裏切って意気揚々と月面軍に寝返った結果がこれかい。
情けないってレベルじゃないね」
「知り合い・・・・なの?」
二人のやりとりを見ていたワカバが尋ねた。
「知り合いどころか、昔の主従さ。
私らはあんたらで言う地上兎ってやつなんだが、
大勢が幻想郷の不利を見て月面軍に寝返ったんだよ」
「寝返り・・・・」
ワカバは、自分たちが月面軍を裏切ったことを思い出していた。
「話は後でじっくりと聞かせてもらうとして、
あいつをなんとかしなきゃな・・・・。
畑が潰されたら大損害だ」
今なお暴れ続けるゼレイブの方を見ててゐが言った。
「でも、どうやって・・・・?」
「もうすぐ来るはずだよ、奴がね」
「奴・・・・?」
ワカバがわからない表情でてゐに問いかけると、いたずらっぽい笑みを浮かべててゐが答えた。
「そう、お前たちも知っているあいつだよ」
竹林の中をものすごいスピードで何者かのWAが駆け抜けていた。
レゴスに乗ったパイロットがその気配を察知し、レールガンを放つが
着弾する前にそのWAは高くジャンプし、着地とともに的確にレゴスの両腕と片足を切断し一瞬で無力化していった。
そして、そのWAは次々とレゴスを破壊していき、ゼレイブの前に姿を表した。
「あれは・・・・ワンブ・ゼロ!?」
「遅刻し過ぎだよ、鈴仙!」
ワンブ・ゼロを視界に捕らえたゼレイブはプラズマサーベルを引き抜き、バーニアを吹かせ突進してきた。
ワンブ・ゼロはその攻撃を横に転がるように回避し、ゼレイブに向かってプラズマヘッドカノンを発射したが弾丸はゼレイブのサーベルで薙ぎ払われ防がれてしまった。
「くっ! 目を覚ましなさい! レイセン!」
鈴仙はゼレイブに向かって広域通信で呼びかけるが、レイセンからの返事はなかった。
再びプラズマサーベルで斬りかかるゼレイブの攻撃をワンブ・ゼロは間一髪で避けたものの
サーベルの刃はコックピットハッチを引き裂き、鈴仙の乗るコックピットがあらわになった。
「ゼロ少佐!!」
ワカバが思わず叫んだ。
鈴仙はその方向を見て瞬時に作戦を思いついた。
みたびプラズマサーベルで攻撃を放つゼレイブを、ワンブ・ゼロは今度はプラズマサーベルで受け止めた。
そして、サーベルを持ってない方の腕でゼレイブの腕を掴み、
重心をずらしそのまま横に・・・・湖に向かってゼレイブを叩き落とした。
激しい戦闘で若干変形したゼレイブのコックピットハッチの隙間から湖の水が入り込み、
思わず水を飲んでしまったレイセンは息ができなくなりやがて気を失った。
ゼレイブが動かなくなった瞬間ワンブ・ゼロはゼレイブを引き上げ、コックピットハッチを無理やり開き
鈴仙はレイセンを外に出した。
「ハァ・・・・ハァ・・・・乱暴な手で・・・・ごめんね・・・・」
鈴仙は息を切らしながらワンブ・ゼロから降り、気を失ったレイセンに人工呼吸を行おうとしたが
体力がもたずにその場にへたり込んでしまった。
「はやく・・・・蘇生しなきゃ・・・・」
「私が・・・・やります!」
てゐの馬からワカバが飛び降り、レイセンに駆け寄った。
「ワカバ・・・・」
「レイがこうなったのは・・・・私を守ろうとしたからだから・・・・」
ワカバはそう言いながら息を大きく吸い込み、レイセンに口づけし、息を送り込んだ。
「んっ・・・・ぷはぁっ・・・・」
もう一度息を吸ってレイセンの口から息を送り込むと、レイセンがゲホゲホと咳込み飲んでいた水を吐き出した。
「レイ!」
「後は任せな」
そう言っててゐはワカバの後を引き継ぎ、レイセンに応急処置を施した。
「・・・・これでもう安心だよ」
てゐがそう言ってレイセンから離れた。
急いでワカバが駆け寄ると、レイセンはすぅすぅと寝息を立てて眠っていた。
「よかった・・・・。
・・・・でもゼロ少佐、どうしてここを?」
ワカバは鈴仙に質問すると、てゐが立ち上がって言った。
「私が連絡したのさ」
「てゐさんが?」
「私とこいつは、まあ同じ屋根の下で暮らす間柄なもんでね」
「てゐさんが!?」
「あーもう!私が知り合いで悪いかよ!!」
あまりにもワカバに驚かれるので、思わずてゐは怒鳴ってしまった。
その様子を見て鈴仙から思わず笑みがこぼれた。
「フフ、幻想郷に降り立った次の日くらいに、
てゐからあなた達を見つけたって連絡があってね。
WAの修理が終わり次第、急いで駆けつけたってところね」
その話を聞いて、ワカバはとっさにムーンライズ隊の無事を訊いた。
「あ、そうだ! ムーンライズのみんなは!?」
「あなた達のおかげで、みんな無事に降り立つことができたわ。
といっても、着陸の時の衝撃でムーンライズはしばらく修理が必要だけど」
「よかったぁ・・・・綿月様やエーディンさんも無事だったのね・・・・」
安堵するワカバの表情を見た鈴仙は、ふとてゐの後ろで座り込んでいる少女に気づいた。
「ひっ・・・・」
鈴仙の鋭い目に見つめられ、少女は怯えた声を出した。
「てゐ、この娘って・・・・」
「ああ、ウチんとこの一人だよ。
WAに乗ってやがった」
「そう・・・・」
てゐの説明を受けて、鈴仙は少し落ち込んだような素振りを見せた。
「おーい!」
不意に空から声とブロペラの音が聞こえてきたので上を見ると、ヘリコプターからクライドが手を振っていた。
月面軍の地上基地に逃げ戻ったセイランは、ブリーフィングルームに呼び出されていた。
「レゴス14機に行方不明1・・・・ハデにやられたねぇ」
仮面をつけた月面軍の兵士、オーフェリアが報告書を読みながら言った。
「オーフェリア准将・・・・ごめんなさい!」
「敵を二人連れ戻すにしては、犠牲が大きすぎないか?
何かあったのか?」
「えっと・・・・敵の角つきのWAがとんでもなく強くて・・・・」
「ハハハハハ!」
セイランの言い訳を聞いて、オーフェリアは思わず高笑いした。
「おまえがバカのひとつ覚えみたいに真正面か突っ込むからこうなったんだろうが!」
「うぅ・・・・」
笑われながら正論を言われ、セイランは黙りこんでしまった。
オーフェリアは落ち込むセイランの肩に腕を回し、励ますように言葉を続けた。
「ま、過ぎたことを言ってもしょうがない。
現在、我々の置かれている状況は悪いわけじゃあない。
と言ってもムーンライズ隊の連中が敵軍に合流しちまったっていう懸念点もある。
連中の動きに合わせてこちらが叩きに行く感じでしばらく様子見するのが一番だろ」
「・・・・罰はないんですか?」
軽い調子で話し続けるオーフェリアに、思わずセイランは尋ねた。
「与えてどーすんのよ。
罰を与えたら本気を出すっての? 違うだろ?
そんなヒマがあったら失敗を取り返すつもりで働いたほうがいいって。
といっても、お前の機体は吹き飛んじまったからしばらくは雑務をしてもらうことになるだろうが。
次の指示が決まったらそんときゃ連絡するよ、じゃあな!」
オーフェリアそう言ってブリーフィングルームから去っていった。
「さーて、メシだメシだ!
あーあ、カレシに弁当作ってもらえるやつが羨ましい・・・・」
廊下に出ながらボヤくオーフェリアの声を聞いて、セイランはポカーンと立ち尽くしていた。
狂気の瞳の暴走を防ぐため、
ワカバ達によってレイセンは依姫とともにあてのない旅を始めた。
その旅の中で出会った、ジュンと妖夢という二人の女性。
この出会いが、レイセンに何をもたらすのだろうか。
次回、夢幻起動ゼレイブ 第11話「平和のコタえ」
君は、月の果てに何を見るのか。