それでは、お楽しみください
女神の杵亭と呼ばれるラ・ロシェール一の宿に泊まることになった。宿に着くなり桟橋にて乗船の交渉しに行ったワルドとルイズを待つために一階にある酒場でくつろいでいた。一日中馬を走らせていたためか、ハジメの隣に座っているギーシュは疲れて伏せ寝していた。
「あの二人、奇妙よね」
「奇妙?」
「うん。特にワルドはあの子を本気で愛してる感じがしないのよ・・・」
「そうか」
そっとハジメの手を握り、何かを語りかけて欲しそうな目をするトキオ。
「俺はトキオをそんな目では見てないよ。ここじゃ言い辛いから難だけど、ほら、少なくとも変に着飾ってないだろ?」
「そうね。杞憂だったわね」
普段笑わないトキオが笑っている。ハジメも自然に笑みがこぼれた。
「熱いわねぇ。会ったときからそうだったの?」
熱のある二人にチャチャを入れるキュルケ。
「初めて会った時は誰も信じてない感じだったな。とても冷たくて、怯えた目をしていた」
続きを喋る前に交渉に向かった二人が帰ってきた。苦虫をつぶしたような顔をしている。
「明後日の朝に出港らしい」
「急ぎの用事なのに・・・」
任務のことを忘れていなかったらしい。ワルドによると明日の夜は月が重なる『スヴェル』の夜らしく、明後日にはアルビオンに一番近づくらしい。
「まるで潮の満ち引きみたいだな」
「確かに似てるわね」
「さて、もう休むとしよう。ギーシュはもうダウンしてるが」
ギーシュの近くに鍵を置く。
「キュルケとタバサ、ワルドにルイズ。そして他多数が相部屋か」
レオンは心中穏やかではなかった。幼女大好きな老け顔男が密室で許嫁の幼女と二人きり。エトリアでも大犯罪であるだけでなく、倫理的にまずいからだ。
「ダメよワルド、まだ結婚してないじゃない!」
「いいじゃないか、僕達は婚約者同士だし」
「おい・・・大声でのろけるな」
「す、すまないレオン。もうとんずらするとするよ」
ワルドとルイズは自室に戻っていく。レオンはギーシュを担ぎ上げ部屋に向かう。
「さて、俺とトキオの馴れ初めの話をしようか。聞くか?」
「聞きたい」
「どんなどんな?」
「あれは、十数年前。俺が三番隊隊長に任命されてから数日経った雨の日だった」
懐かしそうに話すハジメ。トキオは世界樹のない小さな国、ワカマツという国の出身であり両親は有力な豪族だった。しかし、産まれてきた娘の色白く血の気のない顔を見た父は激怒し、妻ごと屋敷の離れにある牢獄にぶち込み記憶の片隅に消した。それから長い時間経ち、母親が獄中で亡くなり一人ぼっちになったトキオは夜な夜な泣き出し、いつしか幽霊のうわさが街中に流れ出し、人さらいも同時に流行するようになったという。豪族からの手紙を読み、怪異と判断したミズガルズ図書館はシンセングミのハジメを派遣し、調査に当たらせた。
「と、ここまでで質問は?」
「じゃあ私が。ただ怖いだけで自分の娘を消そうとするのも腹立つけど、他に理由はあったの?」
「色白の肌はワカマツでは幽霊と繋がりがあると信じられているんだ。それもあるだろう」
証拠探しから数日後、夜の牢獄からすすり泣く声がすると、豪族から頼まれて牢獄の調査をしに行った。そこには肌と同じくらい髪の白い華奢な少女がおり、近くには女性の遺体があった。
「俺はすぐにわかった。この子が幽霊の正体だと、そして、人さらいは別にいるとな。だが父親は彼女を犯人と決めつけ極刑にしようとした」
「!?ひどい・・・」
「意地クソ悪い男ね」
「俺がどう説得しても聞かないから、証拠を探しに奔走した。そして犯人を追い詰めそいつの前に突き出した」
「解決したの?」
「あぁ。報酬もたんまりもらって、その少女を引き取ることにした。そこからだ、彼女が大変だったのは」
ミズガルズ図書館に着いてからも、トキオは人気を避けハジメの部屋に籠り動かない日々が何か月も続いた。無論、ハジメが任務でいない日はいろいろな意味で大変だったという。
「部屋のなかで暴れたり、時間単位で手紙が来たり、任務に行かせなかったり・・・今思えばさみしかったんだな」
「その後しばらくして転機がきたの。カースメーカーの男性がハジメちゃんと仕事の話をしてる最中に私を見るなり、才能があるから修行しないかって声をかけてくれたの。私は最初怖かったけど、おかげでこうやって街を歩けるから、感謝してるわ」
「トキオがカースメーカーとして一人前になったある日、あのクソ親父が来たんだ。娘に懺悔しに来たって言っていたが、俺は門前払いした。こう言ってやったよ、自分がしてきた仕打ちを忘れてノコノコやって来る暇があったら、最初から大事に育てろってな」
「あれから縁を切って、冒険を重ねる度に強くなって現在に至る。ハジメちゃんがいなかったら、今頃こうやって話もしてないわ」
とても幸せそうな二人。思わずキュルケは軽く嫉妬してしまう。
「素敵ね。私にも来るかしら」
「冷めやすい性格を受け入れられる男がいたら大丈夫だろう。もうお話しは終わりだ、部屋で寝よう」
こうして、長い夜は終わった。
翌日。何故か目が覚めてしまったハジメはデルフを抜き、手入れを始めた。彼はとてもうれしそうだ。
「相棒、俺っちうれしいよ。あそこじゃ手入れしてくれなかったんだぜ?」
「そりゃ大層苦労したな。お前に聞きたいことがあるんだが、ワルドをどう思う?」
「娘っこの婚約者って奴のことだろ?別に変わったところはないけどよ、なんか違和感あるぜ」
「俺もそう思う。最初にあった時から疑問に思ってな」
ノックの音が聞こえる。
「どうぞ」
「おはよう、使い魔君」
噂をしていた男、ワルドが入ってきた。
「何のようだロリコン髭。飯はまだ先だぞ」
「まぁ話を聞いてほしい。君、ガンダールブだってね」
「確証は?」
「左手のルーンが証拠だ。僕はそれを見たしね」
ハジメはデルフを置くと、左手に装着している籠手を見せた。
「・・・変だな、俺はお前に籠手を外して見せた記憶がないぞ。寝ている隙にと言うなら、とっくに気づいて氷雨丸の錆だ。正直に話せ」
「オスマン氏から聞いたんだ。実は、陰で行列の護衛していたから彼に会う機会があってさ」
「ほぅ。ジジイにか」
「それに僕は王立図書館の書物で伝説のルーン等を調べたりするの大好きでね」
「・・・建前はわかった。用件は?」
「僕と決闘し」
「断る。笑えん冗談だ」
白けた表情でワルドを見る。
「怖がっているのかね、僕と戦うことが」
「レオンに負けたお前の実力は知ってる。それともなんだ、意外と喧嘩っ早いのか?」
普段よりも多く殺気を放ち、牽制する。
「・・・すまなかった、僕は部屋に戻るとしよう」
ワルドが部屋を出て行こうとする。
「本気でルイズを愛してるなら、何故光鳥に気づかれるように動いたんだ?」
思わぬ問いかけに答えようにないワルドは急いで去っていった。その姿を見てハジメは思わず笑ってしまった。
「笑えるな、あれがグリフォン隊のリーダーとはな。まだアーサーがリーダーになった方がマシだぜ」
懐かしい後輩の名前を呟くと、再びデルフを磨くのであった。
「兄貴、アーサーって誰ですか?」
「ミズガルズ図書館の後輩だ。お前と姿形はやや似てるが、中身はデリカシーの無い能天気アルケミストだ。良い奴だけどな」
「なんというか・・・兄貴に勝てる人、いるんですか?」
「トキオを怒らせたら、生きて帰れないぞ。俺でも瀕死に追い込まれた」
磨きを終えたデルフを鞘に収めると、自分の氷雨丸を腰に差した。
「今日はトルネードの練習だ、どっかに広場とかないか?」
「それなら、練兵場がここから少し離れた場所にあります。今日も行くんですね」
着替えを終え、準備体操を終えたギーシュ。
「俺のあげた剣、大事してくれて嬉しい限りだ」
師弟は揃っ練兵場に向かった。その姿を確認したトキオは、こっそりとついて行くことにした。
FOEを避けるのって、意外に難しいですよね。気づいたら目の前にってことありますし