「ま、参った・・・」
実戦稽古で氷雨丸の切っ先を向けられ右手に握っていた剣を落とすギーシュ。
「少しマシになったな、ソードマンらしくなってきたじゃないか」
刀を収め、手を差し出し彼を立ち上がらせる。
「見事な稽古だね、まさか平民がメイジを鍛えているとは」
「文句あるのか?」
「なかなか見られない光景だからね。つい見ていたんだ」
「本当は用件があるんじゃないか?」
「ここなら、決闘受けてくれると思ってね」
レイピア風の杖をハジメに向ける。
「・・・ギーシュ、下がっておけ。俺はこの面に傷をつけたいんだ」
「え・・・兄貴、相手はワルド子爵ですよ。いくらなんでも」
「これは俺の喧嘩だ、だからお前は下がれ」
上段の構えを取り、勝負を決めようとする。
「想像以上だ、僕も本気で」
ワルドは最初、ライトニング・クラウドで一気に勝負をつけようと考えたが、前回のレオンとの決闘で実行したらロングスライトで呪文を唱える隙を与えもらえず、あげくの果てにスピアインボルブで倒されたことを思い出した。しかも自分を倒したレオンと同等の実力を有した人物との決闘だ、したがって最初の案は却下。
「行くぞ!」
ハジメの土俵である近接戦に持ち込む。不意をつけたため左肩に傷をつけることに成功したが、案の定押し返され衣服と数センチ髭が斬られた。
「僕の負けだ、まさか二度敗北するとは・・・」
「学院の教員の比にならんほどいい腕だったぜ。隊長を名乗るだけある」
刀を収め、そのまま宿に帰ろうとする。
「よかったらギーシュに稽古つけてくれ。魔法だけは専門外でな」
「わかった。約束するよ」
ギーシュはメイジとしての経験値も稼いだ。
朝食を終え、気分を良くしたハジメはトキオ、タバサ、ギーシュを連れて街を歩くことにした。最初に向かったのは交易所と呼ばれる、いわば何でも屋みたいな場所だ。ハジメは先日宿に輸送してもらったオークからの戦利品を手に鑑定してもらっている。
「兄ちゃんよぉ、オーク殺して奪った品持ってくる人間初めてだ。これらは全部改めて加工すれば良い武器作れそうだぜ」
「アクセサリーや防具は?」
「アクセサリーは無理だ、さすがに宝石の一つや二ついるな」
60スゥ受け取ると、店の男は工房に籠り武器を新調した。剣を握り指で刃をなぞると、鮮やかな血が流れる。
「トリステインの武器屋よりもいい仕事だ。ギーシュ、この剣を鍛えてもらう」
新調された剣は装飾こそないが、実用性の高いブロードソードに鍛えられ、さらに彼にあるものを買い与えた。それは肩に装備するタイプの盾、タージェ。冒険慣れしていないソードマンやパラディンの誰もが扱う軽くて扱いやすい盾だ。
「それとこのグリモアを与える」
「これは?」
「ショックガードのグリモアだ、風や雷の魔法を一度だけ無効化できるスキルだ」
その言葉を聞いたタバサは驚いた。トキオを通じてグリモアの存在を知っていたが、まさかそのようなものまであるとは想像つかなかったのだ。
「ハジメ兄さん」
「なんだ?欲しいのか、グリモア」
「欲しい」
「ならこれだな、ほらよ」
彼女に与えたのは予防の号令のグリモア。これは毒や麻痺といった異常状態を予防するスキルらしい。
「これは知り合いの姫が使っていたスキルをグリモア化したものだ、大事に使ってくれると嬉しい。ところで、大丈夫か?」
彼女が少し動揺していたことに気がつき、頭を撫でる。
「思いつめないでくれ。俺もトキオも、お前にそんな顔されたら悲しい」
「・・・ごめんなさい」
「さて、しんみりは終わり。昼飯食いに行くか」
昼飯を食べ終え、夕方になった。
部屋に戻ると、さっそくショックガードについての講義を始めた。守りに長けた騎士、パラディンのスキルであり、彼に渡したものは竜のブレスも無効化できるレベルであること、強力な分、一度しか守れないため要所要所で使うべきだということ、盾はハイランダーも使えることを教えた。
「兄貴、質問があります」
「なんだギーシュ?」
「もしヴェルダンデにショックガードのグリモア持たせたら、盾を装備できますか!?」
「そうだな。質問の答えはイエス、だけどペットには別に守りに長けたスキルがあるから蛇足かもな」
「もしかして・・・体を張るとか?」
「そうだ。体力は人間の倍あるとはいえ、ちゃんと回復役のサポートあってこそだから忘れるなよ」
ギーシュの膝の上に座るヴェルダンデは頭をかしげる。
「ペットはすごいぞ、盾役以外にも爪を使って戦える」
「メイジとは違う意味ですごいですよね、冒険者って」
「そうは言うがな、結局は自分で技術を磨くしかない。魔法だってそうだろ?」
ハッとしたように納得するギーシュ。
「よし、今日はここまで。明日もあるから遊びはほどほどにな」
彼と入れ替わるように、今度はルイズが入ってきた。
「ねぇ二人とも、ちょっと相談があるの」
「どうした、そんなにかしこまって?」
「実はね」
彼女の口からとんでもない言葉が出てきた、それはアルビオンにてワルドと結婚式を挙げるということだ。戦場と化している場所で結婚式だなんておかしいと判断した二人はもちろん延期するよう言う。
「理由は聞いたか?」
「今までほったらかしにしてたから、その分、側に寄り添うって言ってたわ。でも・・・」
「「?」」
「本当にそれでいいのかな・・・だってまだ16だし、歳も離れてるし」
「ハジメちゃん・・・」
「あぁ。悪い予感がするな」
ルイズに聞こえないほどの声で相槌を打つ。
「ルイズ、これだけは言わせてくれ。怪しいと思ったら、すぐに逃げろ。いいな?」
「に、逃げろってどういうことよ、ワルド様がおかしいって言うの!?」
「結婚するかは自由だ、ただし、後で俺やトキオに文句言ったらお前を斬る。遠慮なくな」
「それと・・・私があなたの立場ならしないわ。彼の甘い言葉に惑わされてるだけよ」
「何よ、まるで子供ように扱わないでよ!決めたわ、ワルド様と結婚する、式に来なくていいわよ!」
乱暴にドアを開け出て行ってしまった。言い過ぎたかと思ったものの、箱入り娘にはちょうどいいお灸だと考えることにした。
「やれやれ。任務そっちのけにしないか心配だ、レオンが帰ってきたら先ほどまでのことを話そう」
窓から見える風景を眺めていると、やたら外が明るいことに気がつく。火矢や松明を持った傭兵達がこちらに向かっていた。
「敵か?」
呑気に眺めていたら、火矢の雨が宿に向かって降り注ぐ。
「全員に避難指示だ、あの傭兵達は俺達で片づける」
廊下から悲鳴が聞こえてくる。どうやら別にいたらしい。
「まずは宿にいる敵を排除するぞ」
氷雨丸を抜き、敵中に突貫しゲイルラッシュで大方片づける。倒し損ねた敵は呪言でテラー状態にし、仲間割れをするよう操り難なく撃破した。炎の廻りが想像より早く、急いで脱出する。外ではレオン、ギーシュが前衛に立ち、戦っていた。
「シングルバースト!」
槍の一薙ぎで五人倒し、敵の士気を下げる。
「うぅ・・・レイジングエッジ!」
弱気になっているがギーシュも精一杯剣を振るっていた。まさかメイジが剣を取って戦っていると思っていなかったため、傭兵達に動揺が走る。そんな主人よりも活躍してたのがヴェルダンデで、飛んできた矢等の攻撃を必死に受け止めながら、傷舐めで癒す。
「ヴェルダンデ、無理はダメだよ」
「チー」
余裕であるとジェスチャーで会話する。
「危ない!」
雷の槍がギーシュを襲うが、夕方の講義で習ったショックガードのスキルを用い無効化してみせた。その性能の高さに唖然とする。
「うそ・・・グリモアってすごいな・・・」
生き残った傭兵達は叶わないと判断したのか、急いで撤退していく。しかし、メイジらしい白い人影だけは逃げずにこちらに杖を向けていた。どうやら彼が雷の槍を放ったらしい。
「レオンと俺、ハリモグラは前衛、二人は後衛でサポートに回ってくれ」
「了解!」
この世界でのFOEと戦うことにした即席パーティーは、果たして勝利できるのであろうか。
ご当地FOEとして、アレを採用してみました