道ばたクインテット   作:川内グレン

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とある場所で有名な路上パフォーマーの少女の話。



その少女、キーボーディスト

「ねぇLIMOやってる?」

 

「ごめんなさい、そういうのはお断りしてるんです」

 

※LIMO(ライモ)...この物語内での無料通話アプリのこと

 

大きな、というか、長い何かが入ったカバンを背負った少女は、見るからに遊んでいそうでチャラそうな青年にナンパされて困惑していた。

 

「それぐらいいいじゃん?じゃあさ、お茶飲みに行こうよ?」

 

「あの、用事があるので通してください…」

 

青年は全く引き下がらず、少女の行く先を塞(ふさ)ぎ続けている。

 

「仕事に行くのでどいてください!」

 

精一杯の大きな声を出したことで青年は怯(ひる)み、その隙を見て走りだし、なんとかその場を切り抜け仕事へと向かった。

 

 

*:,,:**:,,:**:,,:*

 

 

「はぁ…。なんとか間に合った…」

 

走り続けたせいで、かなり息が上がっているものの、歌ったり喋ったりするわけではないので特に問題はなかった。

 

彼女は手際良く準備をし始めた。

 

許可を得ているので電源を延長コードでつなぎ、背負っていたカバンを下ろし、中から台とキーボードを出して設置する。

 

いつも通りの作業を黙々と行い、定位置であるキーボードの前に立つ。

 

周りからの冷たい視線や、期待にも慣れた様子で、演奏を始める。

 

心地よく響く彼女の音楽は、冷たい視線を投げていた人ですら、驚きと笑顔をもたらすほどだ。

 

帰宅中、出勤中かかわらず足を止める人が多い中、周りには目もくれず演奏を続ける。

 

「あんなに可愛らしい子が、こんなに暖かい曲を…」

 

「ウソ、今日はここで聴けるなんて!」

 

「これが噂の…」

 

ギャラリーはそう口々につぶやきながら、LIMOで友人に連絡したり、Tmitterに書き込んでいった。

 

※Tmitter(ツミッター)... この物語内での140字で呟くSNS。画像、動画も投稿できる。

 

少女はこの界隈ではそこそこ有名な路上パフォーマーで、いつどこで開催されるかも公表されない路上パフォーマンスを、老若男女問わず楽しみにしている人が多いのだ。

 

その上、不機嫌そうにしていた人や、体調が優れなかった人がその演奏を聴いて楽しそうになったり、体調が良くなったりという現象が起きるともなれば、たちまちその噂は広がっていく。

 

ただその誰もが、パフォーマンス中に彼女の声を聞いたことがないと言う。

 

『きっと声が出ないんだ』

 

『実は男なんじゃないの?』

 

そんな憶測もTmitterでは飛び交っているが、誰もそんなことは気にしない。

 

 

*:,,:**:,,:**:,,:*

 

 

「ふぅ…今日もなんとか生活できるくらいには…」

 

演奏が終わり片付けながらぼそりと呟いていると、女の子が一人そばに駆け寄ってきた。

 

「写真、一緒に撮ってくれませんか?」

 

最前列で見ていた女の子にそう言われて、少女は驚いた表情をしながらも頷いてそれに応えるが、いつもの無言を貫いている。

 

「ありがとうございました!Tmitterにあげていいですか?」

 

その言葉に笑顔で頷いて見せた。

 

「喋らないのは…人付き合いが下手だからなのよ…」

 

立ち去る女の子の背を見ながら、またぼそりと呟いた。

 

「お前、結構有名なんだな」

 

「またあなたですか、LIMOの交換もしませんし、お茶にも行きませんよ」

 

適当にあしらいながら、電源コード、キーボードを片付け、来る前と同じようにカバンを背負った。

 

「いや、それはもういい」

 

「じゃあ何故ついてくるんですか?」

 

少女は電源を貸してくれた店舗に挨拶に行った。

 

「や…何と無く…?」

 

「動機が不純ですね。…本日は電源をお貸しいただいてありがとうございました」

 

「いやいや、いいんだよ。ウチとしても店の宣伝に多少はなるしね。よかったらまた言ってくれよ?」

 

「ご丁寧にありがとうございます。また機会がありましたら」

 

深々とお辞儀をした後、また街に向けて歩き出す。

その後ろを青年がついていく。

 

「ねぇ、君さ名前なんて言うの?」

 

「知りたいならあなたも名乗るべきではないですか?」

 

「あーごめんごめん。俺はグース。ただの音楽事務所の人間だよ」

 

「そんなチャラそうなあなたがまともな仕事をしているように見えませんね」

 

「あーもう、これで信用するかい?…そんなチャラいかな…」

 

青年はぼそりと呟きながら自分の名刺を差し出し、ショーウィンドウのガラスを鏡代わりに髪を弄(いじ)っていた。

 

少女はその名刺を受け取りながら、そんなことをするからチャラく見えるんですよ、と呆(あき)れた表情をしていた。

 

「ふーん?本当なんですね。私はノエルと申します」

 

「でさ、有名な君に俺からの誘い。5人組ユニットに参加しない…」

 

「考えておきます」

 

「即答!?しかもその言い方じゃ本気で考えてくれないだろ…」

 

「用はそれだけですか?」

 

「え、あ、まぁ」

 

「では、失礼いたします」

 

ノエルはそのまま人混みの中に消えて行った。





次回「その少女、ボーカリスト」
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