彼と彼女たちの、いちゃいちゃ短編集。   作:ペレオン

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今回は八結です! あまあまにしてみました。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6509156
Pixivにも投稿しています。

こちらに投稿する際は、多少の加筆・訂正を入れています。

それでは、どうぞ。


アップルパイ・プリンセス

 春眠暁を覚えず。寒さの和らぐ日が増え徐々に暖かくなってくると、うつらうららかとした陽気に誘われ、ことわざ通り起きるのがつらい日が増えてくる。

とは言っても、ついこの前までは寒さで布団から出たくなくて暁を覚えなかったし、暖かさが暑さに移ろいゆくと、暁どころか不倫揉み消し騒動も真っ青なぐらい真っ赤な炎上真っ盛りの寝床から寝苦しさのために起き上がれなくなる。

夏の暑さを忘れれば、研ぎ澄まされる刃物の放つ銀光のような寒さに震え、寝床と言う名の桃源郷でヘブン状態だ。とどのつまり。

 

 いつでも眠いって事だな。

 

 だがしかし、英気を養うだなんてありがたい言葉もある。

睡眠は必要なのだ。

一年中眠い事の何が問題だと言うのだ、俺は悪くない。

朝なんかに起きないといけない社会が悪い。もう昼になりそうだけど。

 

 千葉では珍しい、弥生にして未だ細雪の輝く窓の向こうを眺めて、低く分厚く垂れ込めた曇天の空に向かって脳内で愚痴を投げかける。

 

 さて、無駄に無駄の無い無駄な思考を重ねたお陰で、ようやく頭が冴えてきた。

こいつに向き合う時がきたか。

今日はいったい、何をしてくれたんだろうかね、あいつは。

 

 すっかりと頻度の減った空白の時間を埋める相棒、高速通信機能付き板チョコ型目覚まし時計を手に取り、発信者であろう女の子には全く似つかわしくない、規則正しい感覚で訴えかけるイルミネーションにリアクションを取った。

カタカナが連続すると意識が高くなってる気がしてなんだかなぁ……

 

 

 

 

 

 十時。朝かどうか微妙な時間だけど、今日はお休み。

ちょっとゆっくり寝るぐらいが心地よい。

 

 ベッドの上でゆっくりと半身を起こし、んーっと体を伸ばす。

 

 まだちょっと眠いけど、起きようかな。

カーテンを開けると、一気に陽光があたしに向かって差し込んで、おもわずきゅっと目を細める。

細めた目から窓から外を見ると、このままごろごろと過ごすにはもったいないぐらいの澄んだ青空が広がっている。

 

 よし、今日も元気にいこう!

 

 まずはリビングに降りて、大事な大事な彼と彼女と一緒に買いに行った、毎朝の登校前に使っているものより少し大きいティーカップを取り出す。

その時に教えて貰った紅茶の葉を戸棚から取り出し、網の上にあけてからポットに入れて、お湯を注ぐ。

軽くお湯に馴染ませてから、カップに向けてやけどしないように両手で持ち手と蓋を押さえながらポットをゆっくりと傾ける。

がんばるぞーって気持ちをこめて、ちょっと濃くした紅茶にミルクを注ぐ。

 

 お砂糖は…… そうだ! いい事思いついた!

入れようとしていたシュガースティックを袋に戻し、そのままティーカップを持ってソファへ座る。

ふー、ふー、っと冷ましながらゆっくりと一口。

 

 なんかこうやってのんびり飲んでると、お姫さまみたい!

 

 そう思ったけど、なんか目の前で言ったら、じとーっとした顔でため息つきながら「お前は姫は姫でもおてんば姫だな」とかって言われそうだなぁ……

よし、今日はさっき思いついたやつで見直してもらうんだもんね!

お姫様、までは無理かもしれないけど…… いいとこ見せる。

 

 最近は前よりお料理やお菓子も作れるようになってきて、何度か食べてもらったりしてるんだ。

食べてもらって感想を聞くと、上手に出来た時は「お、今日のは前のより旨いぞ」なんて褒めてもらえるようになってきた。

感想そのものより、ヒッキーのリアクションが見たくて毎回聞いてるようなものだ。

 

だってさ! さっきの感想言う時にびみょーに顔赤くして目をちょっとだけそらして、ほっぺた照れくさそうに指で撫でながら言うんだよ!

そんなの見せられたらついつい毎回聞いちゃうよね!

 

 でも、微妙な出来だった時も毎回食べてもらってる。

前にマカロンを初めて作った時は加減がわかんなくてミスっちゃったんだけど、ヒッキーは食べてくれた。

 

 その時はあたしの目をちゃんと見て、きりっとした表情で「失敗したやつでも、お前が俺の事を思って作ってくれたんだろ? 俺のために作ってくれたんだろ? なら食うだろ」って。

 

 でもさ、普通そんなに悪いところってあんまし言いたくないじゃん?

そう思って聞いたら「悪いと思ったところでも、遠慮なく言う。その方が絶対いいだろ。特にお前はちゃんと反省して真剣に聞いてくれるしな。だから、俺もお前には真剣に向き合う」とか言ってくれるんだよ!

 

 あたしのこと、そこまで見てくれてるんだな…… 嬉しいな……

って思うとじーんってなって、きゅんときた。

 

 ヒッキーとのやりとりを思い出して、ふへへーと思って時計を見ると、いい時間になっていた。

今日はちょっと難しいのに挑戦するし、今から取りかかろう!

そしたらお昼にはできるかな?

できたら、ヒッキー呼んでお昼に一緒に食べよ!

うん、がんばる!

 

 

 

 

「ヒッキ〜! アップルパイ上手く焼けない〜!」

 

 おてんば姫の元気な泣き声(なんだかおかしい気もするが)を聞いて、眠気の飛びきっていない朦朧とした意識が一瞬で覚醒した。

休みの日にいきなり電話かけてきて開口一番何言ってんだ、つか昼飯時なのに何でパイなんだよ……

あいつの泣き顔(正直かわいい)を思い浮かべたが、そもそもの大きな問題がある。

 

「お前なんでクッキーも焼けないのにアップルパイなんて作ってるの!?」

 

 この前貰った奴も味はまともだったけど、まだちょっといびつだったしダマになったのがそのまま固まってた所あったしな……

ま、スピーカーの向こうから「ぐすん、だって…… いいとこみせたくて……」とか健気に言ってるのが聞こえてきたから、もうそろそろ助け舟を出すかね。

 

 「あー、お前それ家で作ってんの?」

 

 『うん…… ゆきのんに教えてもらって練習して上手くいったから、一人で作ってみたんだけど、うまくいかなくて……』

 

 なるほどな。

由比ヶ浜の事だ、ちゃんと自分で作って、出来たら見せてくれるような心づもりだったのだろう。

普段からなんでもない事では甘え上手で、主に俺とかあいつはついつい由比ヶ浜には甘くなってしまうが、大事な所では人に頼らずちゃんとやる子なのである。

 

 それがわかっているから、本当に困っている時は手を差し伸べたくなる。

 

 「材料は? まだあんのか?」

 

 『うん、あるよ』

 

買い出しの手間は省けそうだな。

出来るだけ早く、行ってやりたいしな。

 

 「ん、わかった。 今からそっち行くわ。 家まで行って大丈夫か?」

 

 『え、来てくれるの? うーん、でも……』

 

 来ること自体は問題ないように感じるが、少し言葉尻が萎んでいる。

こう言う時に……

 

 「俺じゃ力不足かもしれんが、レシピとかは調べて行くから。 なんとか、やるだけやるわ」

 

 頑張る、と素直に言い出せない自分がもどかしい。

 

 『え!? いやそんなことぜんぜんないよ!』

 

 「そ、そうか…… んじゃ、行くわ。また後でな」

 

 それでも、何とかお姫様の許しを得た。

んじゃま、行きますか。

 

 『うん。 えっと、ありがとね』

 

 「気にすんな」

 

 画面をなぞり終話ボタンを押す。

そのままアップルパイのレシピをいくつか調べ、ブラウザのお気に入りに保存。

それが終わったら準備もそこそこに。

わずかばかりの勇気を持って、お姫様の城へと旅立った。

 

 

 

 

 

 ピンポーンと、玄関のチャイムが鳴った。

このタイミングで来るとしたら間違いなくヒッキーだろう。

でも、あんまり気分が晴れない。

ちゃんと焼きあがって上手に出来たのを食べて欲しかったのに。

考え込んでしまったせいか、再度チャイムの音が響いた。

いけない、とりあえず出ないとね。

 

 「ヒッキーごめんね、お待たせ!」

 

 ドアを開けると、朝とは違って曇り空で、少しだけど雪も降っていた。

 

 「おー、悪いな遅くなって」

 

 ぶっきらぼうな台詞だけど、ちょっと息が上がって、はあはあ言ってる。

上着も脱いで腰に巻いてるし顔も赤くなってる。

これはあれかな。

 

 「うわー、外すっごくさむいね…… ねえヒッキー、雪まで降ってるのになんで上着脱いでるの?」

 

 なんとなーく答えを予想しながら聞いてみる。

やっぱりというかなんというか「や、これは、ほらアレだよアレ」とかわけわかんない返事してくるけど、これってやっぱりあれだよね。

うわ、あたしまでヒッキーっぽくなっちゃった……

 

 「ふふっ、急いで来てくれたんでしょ? ありがと」

 

 寒いし上がってーと、彼を促して家に戻る。

その後ろから「え、あ、うん、はい」と納得できなそうな捻くれ王子様が、あたしについて来るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 寒さから逃れたい一心で由比ヶ浜家へ急ぐ。

断じてそれ以外の理由なんてない。

 

 一刻も早くあいつに会いたいとか、ちょっとでも安心させてやりたいとかは無い。

断じて無い、無いんだからねっ!

 

 走り疲れて上がった息を整えるために、一人脳内ツンデレを繰り広げている間しばし。

由比ヶ浜が出てきて家に招き入れられ「はいヒッキー、荷物こっちちょーだい」とか「上着こっちかけとくね」とか「はい、お茶。 来たばっかりだし一休みしよ」とかやってるうちにリビングへと通され、鎮座しているソファへ座らされる。

俺の分の紅茶をいつものカップに注いでくれた後、自身の分も用意して俺の隣に座り(すっごい近い。近すぎてヤバい。何がヤバいってマジでヤバい)はふー、と一息つく。

ついたところで、改めて由比ヶ浜をちろりと見やる。

どったの? と小首をかしげながら、くりくりっとしたつぶらな瞳でこちらを覗き込んで、たずねてきた(もうほんとにやばい)ので色々と耐え切れずに目を逸らす。

 

「お前、今日は髪、おだんごじゃないんだな」

 

 途切れ途切れだけど噛まずに言えたよ! やったねはちちゃん!

 

 そう、今日の由比ヶ浜は一味違う。料理の方は変わってなかったようだが。

料理をするためのものなのだろうか、いつもとは違って髪をポニーテールにしているのだ。

服装も部着とは思えない薄手のシャレオツなシャツだけだ。

字面が見にくいなこれ。

 

 「あ、動きやすくするためにねー。 ……どう、かな?」

 

 照れくさそうに目線を斜め下の方に向けつつ、俺と会う時は結構な頻度で使ってくれている、髪を纏めた青いシュシュをくしくしと撫でる。

いやもう正直たまりません。

 

 「お、おう、似合ってるぞ。髪型変えるのも、いいかもな。 ……あと、使ってくれてありがとな」

 

 何とかそれだけ伝えると、さっきから微妙に触れ合ってて暖かいのか暑いのかわからんぐらいのふともものほうから「そっか、似合ってる……ふへへ」とかぽしょぽしょ聞こえてきて、いい加減恥ずかしくなってきた。

 

 「ん、そろそろ作るぞアップルパイ」

 

 「そだね。うん、よしやろう!」

 

 アップルパイの作り方をお気に入りに保存したブラウザを立ち上げ、リビングからキッチンまでの短い距離を二人並んで移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 「1回分……だと? お前どんだけ本格的なの作るつもりだったんだよ」

 

 ヒッキーがキッチンに広げた材料を見て口をあんぐりあけてる。

 

 「多いかな? ちゃんとしたの作ろうと思って」

 

 「それにしたって気合入りすぎだろ、本当に何でこんなにいきなり難しいの作ろうと思ったんだよ」

 

 「……から」

 

 「え? なんだって?」

 

 「ヒッキーが読んでた本のキャラみたいな事いわないでほしいし! ヒッキーに会いたくて頑張ろうと思ったから! しっかり用意したの!」

 

 言い切った後に、はっとなってヒッキーの方を見る。

……真っ赤だね。たぶん、あたしも。恥ずかしすぎて焦げちゃいそう。

何を言おうかと迷っていると、そっと頭を撫でられる。

 

 「あわあわ言ってねーで、落ち着け。その気持ちがありゃ大丈夫だ。次は上手くいく。見といてやるから、頑張ろうぜ」

 

 ぽんぽん、っと最後に撫ででくれたあと、ヒッキーは真剣な顔つきで携帯を眺めてる。

レシピなのかな、あたしのために調べてくれたんだよね。

よし、今度こそ! おいしいアップルパイ作るもん!

 

 

 

 

 

 

 それからはあっという間だった。

 

 

 「包丁はこう持つんだぞ、手を丸めて、指切らないようにな」

 

 

 「おし、次は林檎を煮るぞ。 ……おい、どんだけレモン汁入れるつもりだ」

 

 

 「よっし、何とか焼くだけだな」

 

 

 「ふー、なんとか出来たよー」

 

 

 「おい、オーブンのタイマーは?」

 

 

 「あ」

 

 

 とかなんとか、色々あったけど。

どうにか後は焼き上げるだけ、その段階までたどりつけた。

 

 ……包丁の持ち方教えてくれる時、ヒッキーが後ろから手を押さえてくれた時に意外とがっしりしてて、やっぱり男の子なんだなぁって思ったり、食器の準備やレシピの確認をする時の真剣な目がたまにすっごく透き通って見えたり。

 

 あたし的にポイント高い(小町ちゃん風)調理タイムが終わり、今は二人でおとなしくタイマーが鳴るのを待ってる。

何をするでもなくソファの上で寄り添いあって待ってると、ヒッキーがこっち向いた。

 

 「前にも言ったと思うけど、別にお前の料理の腕なんて俺は気にしないぞ? 焦って頑張らなくてもいい。 そりゃ、頑張ってくれるのは嬉しいけど、こんなに難しいのにいきなり挑戦するのはまちがってるだろ。 いつもは簡単な奴で練習しててちょっとづつ上手くなってたのに、今日は何でだ?」

 

 うーん、上手く伝えられるかなぁ。でも、なんとなくなら言える。

 

 「最近は初めよりは失敗しなくなってたし、ちょっとづつ出来るようになってきたかなーって思ったから、ちょっとね。あと、ヒッキーにも色んなのを食べてもらいたかったし。これから先もずっと食べて欲しかったから。そう思うと、うん」

 

 「そ、そうか」

 

 ヒッキー、またなんか赤くなってキョドってる。

そういうところなおせば、もっとモテると思うのに。

……やっぱ、なおさなくていいや。

って、あ。

 

 「や、違くて! ずっとって言うのはその…… あ、違わない! 違わないけど!」

 

 わー! いつの間にかプロポーズみたいなこと言っちゃってたよー!

ソファの上でお互い隣同士真っ赤になって俯いている。

ヒッキーがこちらをチラ見して、目が合ったあたしが恥ずかしくなって視線を逸らす。

何度か繰り返して、いい加減何か喋ろうと思ったとき。

Pi Pi ピッとオーブンのタイマーができあがったよー、って呼んでいた。

 

 「お、出来たな。オーブンから出してくるから、皿とか用意してくれ」

 

 ヒッキーがソファから立ち上がり、一瞬だけ眩しそうにしてから、オーブンへ向かった。

あたしもわかったーと返事をしつつ立ち上がり、同じように目を細めた。

 

 ヒッキーに電話した頃、雲が出てちらほら雪まで降っていた。

二人でアップルパイを作っている間に雪がやみ、雲の間から朝に見たような青空が、高くどこまでも続いていた。

その青空が呼び込んだ日差しが、部屋に入り込んでいたのだ。

だからヒッキーも同じような表情を取ったのだろう。

 

 お皿とフォークを用意してキッチンへ向かうと、充実した表情で出来上がったアップルパイを見ていた。

最初はただのパイシートとりんごだったものが、パイに形を変えて美味しそうにふくらんでいる。

アップルパイと一緒にふくらんだあたしの気持ちも、あげちゃおうかな。

 

 ヒッキーになら。ヒッキーとなら。

 

 なんだって出来る気がするから。

 

 だから、あげよう。

 

 「おぉ、ちゃんと焼けたね!」

 

 「これなら大丈夫だろ。腹も減ったし、食おうぜ」

 

 「うん! あたしが心をこめて作ったからね!」

 

 「……やっぱなんか不安になってきたな」

 

 「一緒に作ったじゃん! 何でそういうこと言うし!」

 

 「冗談だよ。 いただきます」

 

 「うん、どうぞ! めしあがれ!」

 

 

 

         (おわり)

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