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「君の奥さんってさ、実際どれほど綺麗なんだい?」
聖杯大戦の初戦が始まる少し前、ミレニア城塞の城下にある洒落たカフェテラスで“黒”のライダー、アストルフォに“黒”のバーサーカー、ヒッポメネスは唐突尋ねられた。“赤”と“黒”の七騎両方が揃い、決戦の火蓋が切られる直前にマスターを放置して、紅茶を飲んでいるとはサーヴァント達はどうなのか? サーヴァントの役割を忘れているとしか言いようがないが、少なくともヒッポメネスはマスターに許可を得てアストルフォと城下に遊びに来ている。
「何人もの男が挑んで負けては死んだのに、それでも彼女を妻にしようと挑んだんでしょ? やっぱり絶世の美女だったの?」
単なる好奇心。理性が蒸発していると言われる彼だけあり、無遠慮に聞いてくる。それを不快だとは思わず、ヒッポメネスは正直に答えた。
「う〜ん、絶世の美女、とまではいかないかなぁ」
「ありゃ?」
アストルフォは椅子に座ったままずっこけた。
「自分の奥さんをそう言っていいの?」
「別に貶しているわけじゃないだけどねぇ。純粋に美しいと思える人だったのさ。アタランテはね」
町娘のような陽気な可憐さでも、王族のような煌びやかさでも、魔女のような妖艶さでもない。自然が生み出した強さを形にした美しさがあった。時代によって女に求められる美しさは変化する。翠緑の狩人には当時の男達が求めていたその美しさを秘めていた。だからこそ皆、彼女を求めて散っていったのだ。ヒッポメネスも、その一人になるはずだった。
「ふ〜ん、それってどれぐらい綺麗だったの?」
そうだな、と一間置いてから照れたようにヒッポメネスは笑いながら言った。
「彼女になら、殺されてもいいと思えるぐらいかな〜」
○ ○ ○ ○ ○
死ぬわけにはいかない。マスターであるカウレスに聖杯と勝利を届けるため。そして何よりも生前にしなかったことを、果たすため。当初はカウレスと共に聖杯大戦を生き残り、聖杯の力で
だが運命は微笑んでいるのか、嘲笑っているのか。
聖杯に叶えてもらう過程を、予想外の形で叶ってしまった。
最初からそのような事態があるかもと考えておくべきだった。アキレウスとケイローンが参戦した時に、もしかしたらとそうなるかもと想定しておけば、これほど心がざわめいたりはしていなかった。
槍を握る手に必要以上に力が入る。焦燥が、動揺が顔に出ないよう呼吸を整える。目の前に立つのは誰よりも再会を望み、声を聞きたかった妻ーーー“赤”のアーチャー、アタランテが冷厳な雰囲気を纏い、弓を構えている。
「アタランテ」
「否、“赤”のアーチャーだ。“黒”のバーサーカーよ」
苦虫を噛んだような、安堵したような感情が混ざった笑みを浮かんでしまう。やはり、今も昔も変わらず、彼女は彼女なんだと。
「“赤”のアーチャー。君に一つ、尋ねたい」
「何ぞや?」
「君の願いは何だ」
聖杯に臨む願い。この聖杯大戦に現界されたサーヴァントは大なり小なり願いを携えている。生前に叶えられなかった願い、ただ強者と闘うため、受肉を果たし二度目の生を謳歌するため。問われたアーチャーは少し不満げに応えた。
「それを問うかバーサーカー?生前最も私と共にいたのは汝であろう」
「…知っているさ。知っているからこそ、問わねばならないんだ」
バーサーカーは隠そうとしていた苦悶の表情を浮かべた。知っているからこそーーー自分の愚かさを思い知らされる。
睨み合いが膠着状態となり、肌がチリチリと焼きつくような緊張感が臓腑を引き締める。
どちらが先に動くか、二人の考えは皮肉にも重なっていた。だが、第三者によって膠着状態は引き裂かれた。
嘶きが空気を震わせ、車輪が大地を揺らす。威風堂々と空からかけてきたのは“赤”のライダーだった。騎手の名の通り、馬が三頭で牽く戦車に乗りったライダーが御車台から手を差し伸ばしていた。
「姐さん! 今回はこれでお開きだ!」
アーチャーはバーサーカーを一瞥し、大地を蹴ってライダーの手を掴み、ライダーと共に空へ駆けて行った。途中でライダーがバーサーカーへ振り返り、声高らかに叫んだ。
「さらばだバーサーカー! 次に戦場で合間見える時こそ、貴様の首を戴くぞ!!」
そうして“赤”のサーヴァント達は去り、聖杯大戦の二戦目は終了した。イデアル森林にはいつも通りの静けさが戻り、静けさと引き換えに戦争の傷跡が森中に広がっていた。バーサーカーはその場で一人、戦車が見えなくなっても空を見つめ続けていた。
「…そうするのが当然なんだろうけど、僕の目の前で他の男の手を握らないでおくれよ」
その呟きは届くはずがなく、静けさが虚しさを大きくした。バーサーカーはカウレスの念話が届いても返事をせず、迎えにきた“黒”のセイバーが肩を叩くまでずっと
空に消えた少女の背中を追うように仰いでいた。
○ ○ ○ ○ ○
ホムンクルスの少年が“黒”のアーチャーの自室で、体を鍛えるべく歩行の練習をしていた。“黒”のアーチャー曰く、体を鍛えれば魔術回路が耐えれるようになるであろうと。
生きるため、そしてどう生きていくかを決めるために生き抜く力を手に入れる。まずは歩けるようにと部屋内で歩いてみたが、すぐに疲労してしまう。少し休憩し、また始めようとした時、扉が突然開かれた。入ってきたのは“黒”のライダー。“赤”のバーサーカーの捕獲に貢献し、作戦が終わり次第ホムンクルスの少年の元へと駆けつけた。やや負傷していたが笑顔でホムンクルスの少年に近づき、手を差し伸べた。
「今が好機だ。さ、逃げよう!」
ホムンクルスは事情を理解し、差し伸べられた手を取り部屋を出た。城内を走り逃げている最中にホムンクルス達とすれ違うが誰も止めず、去る少年を見送った。すれ違う時、憐れみと希望が乗った視線を受けた。
だが、見逃さない者もいる。
手を出さずとも逃げる二人を監視する、キャスターのゴーレムだ。ゴーレムの眼窩に嵌められた宝石が、鈍色の光を帯びて逃げる二人の姿を捉え続けた。
○ ○ ○ ○ ○
「そうか、“赤”のアーチャーはそなたの伴侶であったか」
森から帰還した“黒”のバーサーカーは、“黒”のランサー、ヴラド三世の元に“赤”のアーチャーの正体を報告した。王の間の玉座に座る王はこの度の戦闘で判明した“赤”のライダーと“赤”のアーチャーの真名に顔を顰めた。
トロイア戦争の大英雄アキレウスと純潔の狩人アタランテ。
どちらとも“黒”の陣営のアーチャーとバーサーカーに深く関わる英霊だ。 片や師弟関係であり、片や夫婦である。聖杯大戦で選ばれたにしては皮肉なほどに劇的な人選だった。
その報告を王の間で聞いていたカウレスはどのような顔をしたら分からずにいた。少なくともこの場にいる“黒”のアーチャーと姉であるフィオレは微々たるものではあるが驚愕しているように見えた。王の横で臣下の如く控えるダーニックは事実をそのまま受け取っていた。
「バーサーカーよ。余はそなたに聞かねばならぬことがある」
ヴラド三世の睨みだけで王の間の空気が変わる。人間であるマスター達は首元に剃刀を当てられたような危険を感じる。小国でありながらもオスマントルコの大軍勢から国を守護した王の威圧はそれだけで武器とも成り得る。鋭い眼光を向けられたバーサーカーは怯むことなく、真っ直ぐと受け止めた。
「王よ。なんでしょうか?」
「そなたは自身の伴侶を殺せるか?」
聞くべきは生前の妻を殺せるか。これは戦争である。聖杯により覇を競った英雄達が集う人類史上類を見ない最大の大戦。サーヴァントは換えが利かない最大の兵器だ。しかし、武器ではなく人。兵士なのだ。戦場で情けや躊躇いが生まれた兵士は死ぬ。相手が家族や親しい者ならば躊躇いが生まれるのは必然。故にここで覚悟を問わねば、一騎のサーヴァントが失われる可能性がある。故にヴラド三世は、王は臣下に覚悟の程は如何にと問いた。
「殺します」
淡白な返事だ。考えるという時間がない程にあっさりとした返答であった。うむ、と一拍置いてからバーサーカーへ向ける威圧的な眼光を納めた。場の空気が静かなものとなり、マスター達は呼吸が楽になった。
「今宵の活躍ご苦労であった。体を休め、英気を養うがよい」
「はい」
「王よ、“赤”のアーチャー対策ですが」
「あぁ、分かっておる」
アーチャーとバーサーカーの主従が王の間から立ち去った後、ランサーとダーニックが今後のサーヴァント対策について話していた。玉座に座り、ダーニックの言葉を聞いたランサーは手で制し、その後の言葉を遮った。
「ダーニック、先に言っておくが余はバーサーカーを“赤”のアーチャーとぶつけるつもりはない」
「…それは」
ダーニックはバーサーカーとライダーを組ませ、“赤”のアーチャーを打倒する算段でいた。しかし、王の意見は違った。王ははっきりと宣言する。
「バーサーカーはアーチャーを殺せぬよ」
「バーサーカーが“赤”の陣営に寝返ると?」
「そうではない」
ランサーは首を横に振る。ランサーが思い出すのはバーサーカーの眼。虚偽の色はなく、悔いと悲哀の色が浮かんでいた。ランサーはあの眼を持つ者には覚えがあった。オスマントルコの大軍勢の前に、国で待つ愛する者を守ろうと槍を手に取る兵士達の眼と同じだった。帰る為に戦うのではなく、戦場で朽ち果てんと命を散らした儚き者達によく見た瞳。その瞳を幾度となく眺めたランサーにとって、その悲哀は理解できるものだ。
「あれは愛に生きた者の眼であった。あやつは自身が申した通り伴侶へと矛先を向けるであろう。だが、貫くことはできぬ。貫いてしまえば自我を保てぬほどの嘆きが心を蝕むだろう」
「では…、バーサーカーはどのように」
「彼の
「では、そのように」
○ ○ ○ ○ ○
王の間を出て自室へと帰る道中、古めかしい廊下ではいいようがない空気で満ちていた。歩くのはアーチャーの主従とバーサーカーの主従。フィオレは車椅子をアーチャーに押してもらい、カウレスは横に霊体化を解いたバーサーカーと歩いていた。
姉弟どちらも自身のサーヴァントにどう声をかけていいか分からない。まさか、顔見知りどころか家族同然の存在と殺し合うこととなるとは想像だにしなかった。
特にカウレスの方は頭を悩ましていた。バーサーカー、ヒッポメネスの願いはアタランテと共に一日現界すること。最悪“赤”の陣営に寝返ることだって考え得る。バーサーカーの人格から可能性は低いと思うが、伴侶があちらにいる限り寝返る可能性も否めない。
どうこうと考えている内に姉とアーチャーと別れてしまい、自室に着いていた。バーサーカーは何も話さない。カウレスはどうするべきか判断に困っていると、バーサーカーが頭を下げた。
「ごめんよ、カウレス君」
「…どうしたんだよ?」
「裏切るつもりはない。けど、そう思わせてしまっていることに謝る」
バーサーカーはカウレスが困っていることに気づいていた。はぁ、とカウレスはため息をつくと、椅子に座った。
「そんなことで謝るなよ。というかあのサーヴァントがお前の奥さんなのか」
「ああ、彼女が僕の妻、アタランテだ」
バーサーカーと視覚を共有し、彼女の姿を見たが美しい獣とはああいうものなんだなと、何故か納得のいく風貌だった。あれが純潔の狩人アタランテ。ヒッポメネスが策略で娶った女。そして、ヒッポメネスが聖杯に願い再会を望む英霊だった。
「…大丈夫か?」
「大丈夫さ。ランサーの前でも言っただろう?」
そういうことじゃないんだけどな、と言うのは止めた。ここで突き詰めても何も出ない。バーサーカーとはこの聖杯大戦の間だけの共闘関係なのだ。無理に深入りして、余計な諍いを生む恐れは極力抑えようと聞くのをやめた。
「そうか。…だがお前の奥さんは三騎士クラスの内の一人だ。無理に自分が討ち取ろうとはするなよ」
「了解しているよ。戦うとしても他の人と協力するさ」
それで話は終わった。カウレスは眠りにつき、バーサーカーは外に出ていた。
彼の顔は召喚された当時と比べれば、かなり無機質に見える。表情を変えている、内心を隠そうとしている。無理をして、逆に不自然に見えてしまう顔だった。
本来ならバーサーカーは考えるべきことを、今は放棄した。脳裏に浮かんでいた顔を掻き消し、今世の友と友が救った少年の顔を思い浮かべた。
今頃“黒”のライダーが上手くいっていればホムンクルスの少年を外へ連れ出しているだろう。短い期間で会う回数も少ないものの彼が世界で上手く生きていけることを願いつつ、いつも行く見張り台へと歩み始めた。
「…あ、その前に」
“黒”のセイバーにお礼を言うため、踵を返した。“赤”のライダーとの戦いでセイバーの助力がなければバーサーカーはライダーとまともに打ち合うことはできなかっただろう。信頼関係を築くという意味でも少しは会話ができたらいいと思いつつ、ゴルドの自室へと向かう。まあ…、ゴルドが話すことを許せばだが。
しかし、時は既に遅し。
あの決戦を機にバーサーカーは二度とセイバーと話すことも、会うことは無かった。
聖杯大戦で最初に脱落したのは“黒”の陣営最優のサーヴァント、ジークフリートだった。
普段メンタル『強』
アタランテが絡むとメンタル『瀕死』
現実逃避しないとやってられない。