碧く揺らめく外典にて   作:つぎはぎ

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段々と気温が暖かくなり、過ごしやすくなってきましたが皆様はどうでしょうか?
急な変化で体調を崩さないように気をつけましょう。

では、どうぞ




冷たい石の囲み

  動き出した運命が拍車をかけて疾く回りはじめる。この時、この場所で生まれ、この一瞬にて尽きる循環の中にいた。循環が狂ったのではなく、僅かな意識が目覚めただけ。立ち止まるほどの誤差ではなかった。だが、その誤差が疾い循環から抜け出し、一つの運命を動かすこととなった。

 

  人ではなかった。

 

  英霊でもなかった。

 

  造られた人工物だった。

 

  ()()()のだ。

 

  今の“彼”はなんなのだろう。

 

  前代未聞の存在。イレギュラー。闖入者。

 彼を現すには多くの言葉があろう。でも、今はこう言うべきなのだろう。

 

「生きてる…良かった。良かった、良かった、良かった…!」

 

  産まれて、生まれた。生きて、死んだ。また生まれた。

 

  彼は目覚める。

  名も無きホムンクルスの少年は、ここに誕生した。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 

 

  コツコツと階段を降りる足音が酷く遠くに聞こえる。薄暗く、肌寒い。洞窟かと間違えるほどの不気味な地下牢へと続く螺旋式の階段を降りていく。地下牢は永く使われていないのだろうか、藁や蜘蛛の巣ばかりだ。八つもある牢には現在二人のサーヴァントが使用している。一人は“赤”のバーサーカー、スパルタクス。そして、もう一人が…。

 

「やあ、ライダー」

 

「あ、バーサーカー。やっほー」

 

  “黒”のライダー、アストルフォ。彼は手足をランサーの杭で貫かれ、キャスターの流体式のゴーレムによって動きを封じられている。その姿にバーサーカーは申し訳無さそうにした。

 

「ごめんライダー。追手が来ないように見張っておくって言ったのに…」

 

「いいよいいよ。ちょろっと聞いたけどあっちのアーチャーが君の奥さんだったんでしょ? 結構ショックだったんじゃない?」

 

「…まあ、ね」

 

  あっけらかんとするライダーに私事ばかりに気を取られてばかりにいた自分が情けなかった。

  ライダーが何故、地下牢に閉じ込められているのか?それは彼が“黒”の陣営に大きな被害を与えたからだ。それはーーー

 

「…セイバーは、逝ってしまったのかい」

 

「うん。悔いが無さそうに逝ったよ」

 

  セイバーを自害させてしまったことだ。

 

  ライダーとホムンクルスの少年は城から逃げ出したはいいものの、ゴルドとセイバーの追手に捕まえられてしまった。必死の抵抗を試みたが、創造主を殺そうとホムンクルスの少年が反撃し、それに激昂したゴルドによって心臓を破壊された。セイバーはライダーの説得でホムンクルスの少年をゴルドに救うよう願ったが、結果は虚しく聞いてくれず、反抗したと喚き散らすゴルドを気絶させた。死にかけの少年を救うべく、セイバーが取った行動は自分の心臓を抉り取り、少年に飲み込ませた。

 

  少年は救われ、セイバーは死に、ジークフリートは聖杯大戦から脱落した。

 

  少年は救って貰ったジークフリートの名の一部を借り、『ジーク』と名乗り生きることを決意したらしい。

  この事を全て包み隠さずマスター、サーヴァント達に告白し、最後には『いや、実にスカッとした!』とまで言った。

  ランサー、ヴラド三世が怒り狂うのも当然だ。ライダーは投獄され、戦いの間以外はここで過ごすよう命じられた。

 

「マスターがあれだったけど、高潔な人だったんだね」

 

「それはボクも同感。マスターがあれじゃなければねぇ…」

 

  ゴルドはもはやあれ呼ばわり。稀代の英雄が小心者のマスターに召喚されたことすら悲劇だったのかもしれない。

 

「あの少年…ジーク君は大丈夫かなぁ?」

 

「大丈夫さ。ジークフリードの心臓を飲み込んだおかげか体格がガッチリになって、逞しくなってたよ」

 

  なるほど、とバーサーカーは納得の笑みを浮かべた。

 

「ジークフリードの心臓だからね。龍の血を浴びて不死身に近い肉体を手に入れたんだ。心臓はその血を巡らせる臓器だから、彼は竜の血を手に入れたことになるねぇ」

 

「いいな〜、竜殺し。僕もその称号ほしかったな〜」

 

  杭が突き刺さっている状態を前にして朗らかな会話ができるのは話し相手がライダーなのだからだろう。もう暫くそこでライダーの話し相手になると伝えると、暇潰しができた〜、と喜んでいた。

 

「…それでライダー?」

 

「ん?」

 

「さっき来た()()()()に何を訊かれたんだい?」

 

  バーサーカーはライダーが投獄された後、現れた鎧甲冑に身を包んだ聖女ーーージャンヌ・ダルクについて尋ねた。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

「…とにかく、普通の戦いでしたね」

 

  “赤”のライダー、アーチャーと“黒”のセイバー、バーサーカー、アーチャーの戦いの舞台となった森林に、一人の甲冑を身に纏った少女が周りの状況を確かめながら歩いていた。彼女の名前は“ジャンヌ・ダルク”。この聖杯大戦においてルーラーのクラスとして、フランスの少女に憑依したサーヴァントである。

  木々が薙ぎ倒され、地面が抉れている有様が普通とは思えないが、古代の英雄達が争ったにしてはまだ抑えられている方だ。

 

「…う。駄目…まだ…」

 

  ルーラーは少女に憑依したサーヴァント。それゆえ肉体があり、疲れれば眠くなり、動けば腹が減る。少女の肉体が疲れを教えており、ルーラーに眠気が襲いよろめいた。

  ルーラーの仕事を全うしなければならないため、頬をつねって意識を保った。

  一先ずサーヴァントの位置を把握しようと聖水を使った。問題が無ければ拠点として滞在している教会へ帰ろうとしたが…。

 

「一騎足りない…?」

 

  ミレニア城塞には六騎しかいない。“赤”のバーサーカーはマスター替えをさせられたはず。この戦いで消失したサーヴァントはいない。消失したなら感覚的に察知できる。ならば、どこへ…。捜索範囲を広げたが、どこにもいない。

  異常事態だ。

  ルーラーは“黒”の陣営のサーヴァントとマスターが在住しているミレニア城塞へと向かいはじめた。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

  この聖杯大戦の監視者であり、裁定者。サーヴァント一人に対して二つの令呪を宿す例外のサーヴァント。金色の髪にアメジストの瞳、甲冑を身に待とう姿は堂々たる者。四人のサーヴァントと戦斧を手にしたホムンクルスが待つ王の間に入ってきても臆する様子を見せない。

  ルーラーが何故かミレニア城塞を訪れてきた。ランサーとダーニックはルーラーを迎え入れ、王の間まで誘導した。

  玉座に座るランサーとルーラーが対話し、ルーラーが尋ねてきたのはセイバーのことであった。“赤”の陣営との戦い後、何があったかを尋ねてきた。セイバーの事を訊かれたランサーはからかい半分で不機嫌なフリをしたり、ルーラーをこちらへ誘ったりと色々あったが諍いになるようなことは起こらず無事にルーラーとの面談は終わった。

 

  だが、最後にセイバーについて詳しく知りたいとルーラーが言い出し、ルーラーはライダーが収監されている牢獄へ行くこととなった。

  ルーラーがライダーに会いに行っている間、バーサーカーは一応の警戒の為にカウレスの横で控えていたのでライダーとルーラーが何を話していたのか不明だった、のだがーーー

 

 

 

「え? 大丈夫なのそれ」

 

  ルーラーがジークへ会いに行く、それを聞いたバーサーカーは焦った。

  ジークはサーヴァントの心臓、しかも竜の心臓を持つジークフリートの心臓を持ったホムンクルス。下手すると『異常』と見做されて『排除』されてしまうかもしれない。

  そんなバーサーカーの心配をライダーはケロッと否定した。

 

「んー、大丈夫っぽいよ?ジークが望まぬ限り過度な干渉はしないー、だってさ」

 

  あくまで確認として会いに行くとのこと。ルーラー曰くサーヴァントの気配をジークが漂わせている。裁定者として見に行くとのこと。ライダー、バーサーカー、アーチャー、セイバーにとってジークは二度目の生を得て、残した証同様の存在だ。できるならば自由に生きて、彼なりの生きた答えを見つけてほしいと願っている。

 

「というかさー、本当にここ暇なんだけど。話し相手がバーサーカーかアーチャーしかいないし、マスターは倒錯的だし、“赤”のバーサーカーは喋れるけど会話にならないし」

 

「え? “赤”のバーサーカーは喋れるの?」

 

  自分もバーサーカーで理性を持っているが、まさか“赤”のバーサーカーも話せれるとは思ってもいなかった。ライダーは違うと首を横に振った。

 

「違うんだよな〜。…お〜い、“赤”のバーサーカーや〜い」

 

  すると隣の地下牢から声が返ってきた。

 

「なんだ圧制者の走狗よ。話すつもりはない。だが、この拘束を外してくれればちがうのだが…」

 

「それは今度ね。それよりもなんか楽しいことってないかな?」

 

「楽しいことは圧制者達を屠り、自由を掴み取ることだ。隷属を良しとし、弱き者を踏み躙る権力者をこの手で、腕で、剣で根絶やしにーーー」

 

「なんかずっとこの調子なんだ」

 

  “黒”のバーサーカーはライダーの牢から出て、隣の牢を覗いた。牢の中には“赤”のバーサーカーがライダー同様流体型のゴーレムに動きを封じられていた。それだけなら隷属された闘剣士だと思えたが、“黒”のバーサーカーが自分を見ていると気づく前から顔に笑みを浮かべており、視線が合うと笑みを深めた。

 

「どうした圧制者の走狗よ?」

 

  すぐにライダーの牢に引きつった笑みをしながら戻った。

 

「よく立ち向かえたね、あれに」

 

「もっと褒めてくれてもいいよ?」

 

「ライダー凄い!! さすがシャルルマーニュ十二勇士が一人、アストルフォだ!!」

 

「はっはー!! どうだいやるもんだろぅ!!」

 

  ははは、と閑散とし陰鬱とした地下牢に明るい笑い声が広がる。が、それはライダーの笑い声によってのみだ。

 

「ねえ、本当に大丈夫なの?」

 

「ははは、は、…はは、いやかなり、その、キツイね」

 

  渇き、乾き、燥ききった笑いを隠せなかった。無理をして、明るく振舞って、心の軋みを隠そうとしたが最後まで演じきれなかった。

  バーサーカーは牢獄の隅に寄り、壁に背中を預けて座り込んだ。

 

「…あーあ、なんでこうなっちゃったんだろうね」

 

  望んでいた事なのに、どうしてこうなってしまったのか。バーサーカーの頭の中は記憶や理性、思慕や役目、悲しみと小さな歓喜が渦巻いて、区切りを付けられずにいた。

  ランサーに戦うと、カウレスに裏切らないと言ったのだが、考えれば考える程に彼女にーーーアタランテに会いたいという気持ちが湧き上がってくる。

  裏切るつもりはない、そんな不義理な真似をしたくない、だがーーー

 

  髪を掻き毟り、また本日数十回目のため息をついた。

 

「ああ、それにしても…」

 

  思い出すのはアタランテと共にいたサーヴァント。“赤”のライダーとして現界した大英雄、アキレウス。“黒”のアーチャーのケイローンの弟子であり、トロイア戦争で輝かしい戦果を挙げた偉丈夫なのだが…。

 

「…次にあったら、踵を貫いてやる」

 

  アタランテの手を取った。撤退の時にアタランテの手を取ったあの男の事を思い出し、やけに大きい歯軋りを奏でる。

  補足するとバーサーカーだってアタランテの手を何度も触れた事があるし、常に無造作なアタランテの髪を何度も梳かして整えたことだってある。触れるということに対しては圧倒的にバーサーカーが上なのだが、何故だろうか、バーサーカーはライダーに負けたというより、こう、色々と危機感を覚える。

  主にアキレウスという英雄の経歴や女関係やらを聖杯から得た知識を思い返して。

  結局のところはバーサーカーは嫉妬している。戦いの途中だと分かっていても、軽々しく妻に触れる何処ぞの大英雄に対して苛立ちを隠せずになってきた。

 

「あーーーー!!大丈夫かなぁアタランテ!? 万が一の万が一だけど、もしも、もしも()()()()()()になったとしたらーーーっ!!?」

 

「あー、もしもーし?」

 

「いやあのアタランテだよ!? あの益荒男揃いのアルゴー船で一人女性にも関わらず、手を出そうとした男を悉く海へ叩き落としたって豪語した彼女だけれども!? あの踵だけが不死身じゃない微妙な男に誑かされたらっ!!」

 

「おーい、ヒッポメネスー?」

 

  最初の悲哀は彼方へと消えた。四肢に杭を打ち込まれたライダーは悲しげな面持ちで現れた筈なのだが、今は床に転がりながら悶えているバーサーカーを見て、うーんと唸った。

 

「いや大丈夫だ問題ない。アタランテだから問題ない。どうせ口説きかかっても適当にあしらわれるのが目に見えている。……だけど、大英雄だからなあ!? くそ、できることならばすぐにでもアキレウスがヘクトールにした仕打ちをアタランテに伝えて彼の好感度を!!」

 

「たぶんあったら弓で射られるんじゃないかな?」

 

  と、ライダーからの助言を耳にしてバーサーカーの動きが止まる。

 

「は、ははっ…、そうだよね」

 

  冷静になったら、また同じように不安と自らの嫌悪感に苛まれる。再び薄暗い思考に呑まれようとした時だった。

 

「まあ大丈夫だよ、気にすんな!」

 

  陽気に笑うライダーはとても楽しそうだった。その姿はいつもと変わらず、収監されているとはとても思えない。

  そんな姿を見て、一瞬怒りが込み上げて、すぐに落ち着いた。ここで怒るのは八つ当たりに過ぎない、バーサーカーは自らの感情を抑え込めた。

 

「大丈夫、かなぁ…」

 

「大丈夫、大丈夫! 君は大丈夫だよバーサーカー!」

 

  何をそこまで大丈夫と言い切れるのか。既に慣れたものだが、底ぬけの人の良さに流石のバーサーカーも疑問に思う。バーサーカーの視線に気づいたライダーは、ニカッて笑って告げた。

 

「だって君の願い、叶ってるんじゃん」

 

「ーーーーー」

 

  息を、止めた。

  そうだ。バーサーカー(ヒッポメネス)の切望は成就している。

  確かに悲劇的な形をしていようと、聖杯が完成していなくても、ヒッポメネスの元々の目的はこの時点で叶っているのだ。

 

「奥さんがあっちにいるのは悲しいことだけど、()()()()だよね?だったら次にあった時思いの丈はどーんとぶつけちゃえばいいんだよ。もしかしたらそれが原因で負けちゃうかもしれないけど、でも大丈夫! 君がいなくなっても僕が“黒”の陣営を勝たせてみせるさ。何故なら僕はシャルルマーニュ十二勇士が一人、アストルフォだからね!」

 

  そう言ったライダーの言葉に、不意に目尻に涙が溜まりそうになった。手で目元を拭い、バーサーカーは立ち上がった。

 

「君は…強いねアストルフォ」

 

「ん? 僕は弱いよ」

 

「いや、君は強いよ。僕が女の子だったら好きになる程に強くて、かっこいい」

 

「え? かっこいい? 僕ってかっこいい?」

 

「ああ、最高にかっこいいよ」

 

「そうかぁ、かっこいいかぁ…でへへへ」

 

  照れたように笑う彼の姿を見ていると、さっきまで悩んでいた自分が馬鹿のようだった。

  そうだ、そうだった。

 

  願いは叶った。

 

  順序は狂ったが、それでも成就している。敵だからなんだ。そんなの関係ない、ただ思いをぶつければいいんだ。

  恐らく、簡単ではない。アタランテとあった瞬間、彼女は自分を殺しにくるだろうけど、それでも言葉を伝える事と勝つことは別問題だ。

  裏切る必要なんてない。カウレスとの絆を断つ必要はない。

 

  やるべきことは最初から変わっていないのだ。

 

「よし、よし!!僕はもう大丈夫だ!」

 

「お、元気になったね!」

 

  陰鬱とした顔はなくなり、平穏そうな顔には活気が宿る。ライダーの手足が自由なら手を取って小躍りするぐらいに、バーサーカーの調子は戻った。

 

「じゃあやってやろうよバーサーカー! 僕達はやってやるぞーーー!!」

 

「ああ、やってやろう!」

 

  “黒”の二騎は相変わらず調子がいい。だが、その明るさは決して無駄なものではない。これからの悲劇にその明るさは光明となり、皆を導く光と成り得る可能性が秘めているのだからーーー

 

「ーーーああ、私はやれる。圧制者達に叛逆の狼煙を上げるのだ」

 

「「・・・・・」」

 

  隣の牢に幽閉される“赤”のバーサーカーの声に、二人の動きは思わず止まり、笑うのだった。

 

 




僕らの天使アストルフォ。ガチャに出た瞬間財を使い果たす覚悟は出来ているーーー!

結局式セイバーゲットならず。ほしかったが式アサシンさんで満足します。

BLはないよ? 魔境ギリシャでも、ヒッポメネスはアタランテ一筋なのです。

 
 一応、彼のイメージ画像です。

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