それではどうぞ。
“赤”のアーチャーは徐々に民家から灯りが増えていく都市部を暗躍する。森と反する街の中は鉄と油、そしてあらゆる科学物質が混じり合った汚臭がするも、耐えながら懐かしき匂いを辿ってシギショアラの外れまでやってきた。
「なるほど、ここならば街の水を把握できよう」
彼女が辿り着いたのはシギショアラ都市部郊外に接する川だった。この川はシギショアラの中心にある排水路と繋がっており、辿れば都市部の水路全てと繋がる。バーサーカーはその水路を辿り、遠隔であの大水流を操っている。
それにしてもあの濁流に比肩すべき大水流を把握しているのだから膨大な魔力を使用しているのが分かる。あの量だと並みの魔術師なら干からびて、死んでしまうだろう。あれならば宝具を連発で解放したほうが効率がいい。
そして“赤”のアーチャーは“黒”のバーサーカーの居場所を突き止め、姿を目視した。
バーサーカーは“赤”のアーチャーが立っている建物の屋上から約100メートル弱離れた川のふもとに片膝をついていた。
アーチャーはバーサーカーの体から湯気のように立ち込める魔力の残渣を見ていた。それだけで必要以上の魔力が消費され、無意味に散っていると理解できる。
しかし…
「…見たこともない顔だな」
アーチャーが言う見たことのない顔とは、生前に見かけたことのない表情を指す。
バーサーカーの顔は、それはもう、酷い。
目が飢えた獣の如く開き、瞳孔が開いているのではないかと思う程だ。白目には血管が浮き子供どころか心が弱い大人でさえ泣いてしまうのではないかと思う。しかも、アーチャーが彼を見つけてから彼は一度も瞬きをしていない。
口の端から血が流れ落ち、深く深く歯を噛み締めているし、額には血管が浮き彫っている。
バーサーカーの周りは暴れたのか激しく荒らされており、己の獲物である小剣と槍が適当に捨てられていた。
激しい怒り、憤怒が撒き散らされている。
それは誰か? 言うまでもなく、“赤”のライダーに対してだろう。
(独占欲、か)
バーサーカーは夫であり、アーチャーは妻。妻とは夫の所有物であり、奉仕するべき者。古代のギリシャでもそういう風潮がなくは無かった。バーサーカーは妻を、所有物を取られて怒っているのではないかーーー
(…いや、あやつはそういった風潮に全く興味なかったな)
アーチャーはその考えはないと切り捨てる。
ならばなぜバーサーカーはあれほどに怒って、思いのままに力を振るうのか?
(ライダーが私に触れたのに嫉妬したから?)
そんな甘い少女のような考えを。
(馬鹿な、それこそあり得んな)
直ぐに切り捨てた。
ない、ありえない、あるはずがない。そう思った自分が馬鹿馬鹿しくなってしまうほどに妄想じみた発想だった。
それ以上の事は考えないと、アーチャーは弓兵のクラス通り弓を構えた。
以前にバーサーカーの願いを聞こうと考えたが、気が変わった。
これほどまでに距離が詰められているのに未だライダーを仕留めようと魔術に集中している隙を逃すには惜しすぎる。
アーチャーは最初の邂逅の時と同じく、そして生前と同様にーーー狩人となって矢を番えて、放った。
矢はまっすぐ飛ぶ。音を置いていき、風を纏って空気を抉る。必殺の矢が飛来するのにも関わらずバーサーカーは水流を操るのに夢中である。
その姿に、僅かに、ほんの僅かにアーチャーが嘆息し。
新たなサーヴァントの登場に目を丸くした。
○ ○ ○ ○ ○
肩を並べるべき英雄の姿を見たとき、“黒”のアーチャーは少なからず安堵した。
同郷の英雄である狩人の夫、“黒”のバーサーカー、ヒッポメネス。
“赤”のアーチャーがアタランテだと知り、トゥリファスにマスターの許可なく現れた時には裏切るのではないかと思案したが、そうではなかったらしい。
バーサーカーはトゥリファスの郊外近くにある都市の水路と直接繋がる川に手を入れて魔術を行使させていた。
恐らくはあれで現れたという“赤”のアーチャーと“赤”のライダーへ対応しているのだろう。声をかけ、撤退を伝えようとした時。
100メートルほど離れた建物の屋上から矢を射る少女の姿を見つけ、“黒”のアーチャーは駆けた。
偶然か必然か、捨てられていた“黒”のバーサーカーの小剣を拾い上げ、すぐさま黒のアーチャーは神域の矢を斬り落とした。
「…汝が“黒”のアーチャーか」
「貴女が“赤”のアーチャー、アタランテですか…」
声量を僅かに上げて、弓兵同士が会話する。“赤”のアーチャーにしたら前に自分の矢を矢で撃ち落とされただけあり警戒している。
「この場には何故貴女が? “赤”のセイバーの加勢に来たのでしょうか?」
「セイバーが此処にいたのは知らぬ。そこのバーサーカーに足止めを喰らっていたのだからな。汝は“黒”のアサシンの加勢か」
「…“黒”のアサシンのことは把握済みなのですね」
“赤”の陣営でもある魔術協会の魔術師が“黒”のアサシンに殺害され続けている。それに加え、神秘の秘匿をせずに連続殺人を行っている。“赤”の陣営はこれ以上自陣の被害を抑えるためにサーヴァントを動かし“黒”のアサシンの討伐を狙っていた。だから、セイバー、アーチャー、ライダーが“黒”のアサシンを追跡していると、“黒”のアーチャーは判断したのだが。
「…そうか、貴様ら」
赤のアーチャーの顔色が怒りに染まっていく。その目には絶対の敵意、相容れぬ仇敵へと向ける目そのものだった。
「この聖杯大戦も根本は所詮戦争。戦争である以上犠牲はやむ得ぬと見過ごしておったが…よもやここまで“黒”のアサシンを野放しにするとは、英雄の名が聞いて呆れるな」
「・・・・・」
“黒”のアーチャーは何も応えない。何故ならば、彼女の怒りに見当がつかないからだ。勿論、怒る理由は分かる。元々“黒”のアサシンはギャングや犯罪者の類を最初は殺害していたが時間が経つに連れて、魔術師へと狙いを定めた。だが、それに対して“赤”のアーチャーは怒るのだろうか?
“黒”のバーサーカーの話から彼女の思想は極めて野性に近いと聞く。無差別な殺人に嫌気が差しても、ここまでの敵意を向けられるほど“赤”のアーチャーは義に重んずる性格なのだろうか。
安易な言葉は致命的となる。今の自分は反撃はできるが弓を万全に構えれるほどに“赤”のセイバーから受けた負傷が回復していない。
“黒”のアーチャーが返答に思考していると、“赤”のアーチャーは今も黙するバーサーカーへと視線をずらした。
「バーサーカー」
彼女の呼びかけに彼は応えない。
…応えない?
彼が? 妻を溺愛している彼が妻の呼びかけに応えない?
“黒”のアーチャーは先ほどから全くもって動こうとせず、
「潰す、潰す、必ず潰す。彼女に触れた、彼女を誑かした、アタランテを口説き、アタランテの肌に触れた。奴は大英雄、だが、かもしれないが、そうなるかも、しかし、許すわけには、潰す、必ず、貫く、弱点は、抉り、捻り、踵を、この手で、いや、魔術で、勝てない。でも、僕が、いや、僕だからこそ、やらなければ。必ず、必ず、必ず、必ず、必ず、僕こそがーーー殺す」
バーサーカー。狂戦士のクラスを与えられたサーヴァント。それは狂った伝承を元に適正があると判断された英雄や弱小の英雄を狂化によりステータスの補正を入れるクラスである。
最初、“黒”のアーチャーであるケイローンは“黒”のバーサーカー、ヒッポメネスは後者だと思ったが話し、行動を見て、その慧眼で直ぐに見極めた。
彼は
同時に不味いと思った。狂化のランクが最底辺にあるとはいえ、この状況は間違いなく暴走している。理性が無いのではなく、これは
何が原因、いや間違いなく近くにいる“赤”のアーチャーが原因であるのは間違いないが、バーサーカーは彼女に対し敵意も殺意も滾らせていない。つまり、ここにいない第三者であるのだがーーー
“赤”のライダーだ、間違いなく。
己の弟子であるライダーがバーサーカーの琴線に触れる何かをした。それも“赤”のアーチャーに関連した。
大賢者は頭を悩ませる。それはもう色々と。
その悩みはとりあえず後回しとして、“黒”のバーサーカーをどうやって正気に戻すかだ。このバーサーカーの尋常ではない魔力消費量からするとマスターであるカウレスの様子も気にかかる。彼は姉と比べると魔力保有量が乏しすぎる。この調子では枯渇し、命にも関わってくるだろう。
慎重かつ、迅速に言葉をかけようとした時ーーー
「ヒッポメネス!!」
「え、はいぃ!?」
戻った。妻の呼びかけで、真名を呼ばれて、直ぐに戻った。それはもう呆気ないぐらいに。
大賢者が苦笑を隠しきれないぐらいに……ちょろい。
「え、え? アタランテ? っていうかアーチャー!? なんで此処に!?」
「…ようやく気付いたのですね」
隣に立つ“黒”のアーチャーの存在に気づき、“黒”のバーサーカーは驚いていた。というより“赤”のアーチャーの存在の方に驚愕し、困惑している。
「アタランテ!! 君はあの女ったらしの踵野郎に何もされてないよね!? 無いよね!?」
「黙れ!! ライダーの見え透いた挑発などどうでもいい!」
「挑発!? あの野郎、挑発とはいえアタランテにーーー」
「ヒッポメネス!!!」
「はいぃ!?」
妻の怒声に体を硬直させ、直立不動となる夫。上下関係を一瞬で理解した“黒”のアーチャーだった。
「汝は“黒”のアサシンの蛮行を知った上で見逃しているのか!」
「蛮行?」
“赤”のアーチャーの言葉にバーサーカーは首を傾げた。
「“黒”のアサシンが不逞の輩から分別なく老体から…子供までもを殺害していると耳にした!」
“赤”のアーチャーの叫びに、バーサーカーと“黒”のアーチャーが顔を合わせた。子供? どういうことだ?
「もしそうであるならば! 私はマスター共々子供を消費させんとする貴様らを射殺してやる!!」
決意、絶対の信条を胸に“赤”のアーチャーは弓と共に矢に魔力を籠める。獣に育てられた彼女から放たれる威圧は建物の影に隠れ住む小動物を刺激し、騒ぎ立てさせる。
“赤”のアーチャーの怒声に対し、バーサーカーは。
「…アタランテ、君ってマスターと仲が悪かったりするのかな?」
「なに?」
“黒”のアサシンの行動を懇切丁寧に説明することにした。
○ ○ ○ ○ ○
「…ということは、子供達は狙われておらず、魔術師共のみが標的か」
「う、うん」
“黒”のバーサーカーは“赤”のアーチャーの怒り、彼女が最も尊く大事にしている存在を知っているだけあり、彼女の怒りと“黒”のアサシンの行動が全く噛み合っていないことに気づき、アサシンの行動について打ち明けた。
そこには勿論“黒”のアサシンが“黒”の陣営から離別していることを隠すように、あくまで作戦の内と思わせるような“黒”のアーチャーからの補足が入ったが。
「そうか、そうだったのだな」
“赤”のアーチャーの戦意は一段落落ち着いた。子供の安全の保障、それが“赤”のアーチャーを動かしたのだ。それが確定された以上、彼女の怒りは消失ーーーするわけがない。
(あの道化師め…)
戦わず、口だけは達者で、戦況を掻き乱す傍迷惑な作家の英霊に怒りを募らせる。自分は彼の欲を満たすだけに走らされ、踊らされた。“黒”の陣営との決着が済んだら真っ先に消してやろうと“赤”のアーチャーはひっそりと決意した。
「あ、あのさアタランテ」
「“赤”のアーチャー、貴女に提案があります」
バーサーカーが落ち着いた“赤”のアーチャーへの呼びかけを遮り、“黒”のアーチャーが“赤”のアーチャーへ話しかけた。
「提案? なんだ、“黒”のアーチャーよ」
「貴女が“黒”のアサシンの情報を伝えられてないほどにマスターとの関係が定まっていないというならば」
「どうですか。“黒”の陣営へ来るというのは?」
「!!」
“黒”のアーチャーの提案にバーサーカーは目を分かりやすいほどに開き、反対に“赤”のアーチャーは目を細めて「ほう?」と呟いた。
「貴女も聖杯に願いを託すために呼ばれた者ならば、聖杯が近くにあった方がいいでしょう。それにそちらは“赤”のバーサーカーを失い、既に六騎となっております」
「そちらも“黒”のセイバーを失っているではないか」
「ええ、大きな痛手だと否定できませんがそちらに勝つということに支障はありません」
「言うではないか。 “赤”のライダー、“赤”のランサー、そして私と姿を現していないアサシンとキャスターがいるのにか?」
「ええ、貴女がこちらへ加われば勝利は確実になるでしょう。…なにより、貴方の悲願の成就も成功しやすいのではないですか?」
悲願の成就、その言葉に僅かだが“赤”のアーチャーが反応した。
“黒”のアーチャーの言葉は何一つ嘘は含まれていない。彼の頭の中の戦略は完成しておらず欠けているとはいえ、勝利の算段はついている。後は敵サーヴァントの全ての情報さえ揃えばーーー手段と手間を惜しまなければ勝てると見込んでいる。
遥か先を見据える戦略眼、そして千里眼から得られる自信は、一言で百の言葉に匹敵する。
「…そちらにヒッポメネスがいるから、ということか」
“黒”のアーチャーの自信による重みが加わった言葉に、“赤”のアーチャーは少なくとも虚偽で乗り切ろうとしていないことは察せれた。
“黒”のバーサーカーは“赤”のアーチャーの悲願を知っている。確かに彼ならば自分に協力してくれるかもしれない。その可能性は高いだろう。だがーーー
「彼の願いは叶っている」
ーーー心を見透かされたように、告げられた。
悲願が達成されやすくなるというのは同じ願いが二つに増えるというだけの単純な式なだけ。
しかし、バーサーカーも聖杯を求めて参戦している。彼も彼なりに悲願があり戦っているのだから、異なる願いならば争うしかない。
決して相容れない、だからこそ戦う宿命なのだから。
しかし、叶っているのなら話は別だ。
聖杯を求めていない、聖杯を必要しない。
聖杯に選ばれるのは一人と一騎だけ。
その一つの枠に当てはめる願いをーーー彼ならば、私の願いを知る彼ならば、協力して埋めてくれるのかもしれない。
“赤”のアーチャーは“黒”のバーサーカーへ目を向けると、彼は一瞬戸惑ったように体を揺らしたが直ぐに持ち直し、頑とした面持ちでまっすぐ
そして、口を開き
ーーーこちらへ急接近してくるサーヴァントの気配を感じて口を閉じた。
「“赤”のライダーか!」
先ほどまでバーサーカーの怒りの猛攻を捌き続けていたライダーがこちらの場所を特定し、援軍として駆けてきている。
ーーーこれは、不味い。
負傷と敵サーヴァントが二騎、こちらが不利と悟り、“黒”のアーチャーはバーサーカーへ呼びかけた。
「バーサーカー! 撤退を!」
これ以上の説得は無理だ。それはバーサーカーも理解した。バーサーカーも踵を返そうとしーーーその前に一縷の願いを掛けて“赤”のアーチャーを見ると。
「ふむ、だが寝返りはせん」
そう、勧誘の手を跳ね除けられた。“黒”のアーチャーの言葉に多少揺れたりもしたが、結局は裏切るような真似を彼女はするつもりなどないのだ。
「色々言葉巧みに惑わされたが、私の願いは私の手で成就させる。汝の手を借りる必要などない」
拒絶、というほど冷えたものではなかった。ただそれが当たり前で、そうするべきだと決めていただけで、“赤”のアーチャーはバーサーカーへ改めて告げるように言葉にしただけだった。
それにバーサーカーは、薄く微笑んだ。やっぱりそうなのかと、予想は出来ていた。
期待はしていたし、分かりきっていた結果を前に彼の心は砕けるどころか、胸に暖かな炎が灯るのを感じた。
こんな命を散らし合う戦況でも、生前と変わらないアタランテが嬉しかったのだ。
「ああ、そうだね。君は君なんだよね」
「汝は汝のままだ。戦場でもその浮ついた顔はやめておくがいい」
“赤”のライダーがもう直ぐこちらへ辿り着く。彼の存在感が、魔力が気配としてそれを伝えている。“黒”のアーチャーは後方で待機しているが、早急に、と気配だけでバーサーカーにその旨を教える。
バーサーカーは“黒”のアーチャーに申し訳ないと思いつつ、いつもの調子をできるだけ保ちつつ、告げた。
「次会った時、僕は君をーーー射止めてみせる」
「ふむ、汝は矢がてんで駄目であったが、出来るならやってみよ」
「ははは、やっぱり君は君だよね! …じゃあね!」
そう言ってバーサーカーはようやく踵を返し、先行する“黒”のアーチャーの跡を追った。バーサーカーが後ろへ振り向く時、何がおかしいのか満面の笑みをしていたのを“赤”のアーチャーは見ていたが、何が楽しいのかよく分からなかった。
既に去っていく“黒”の二騎を討つことはもはやできない、いや、しようとしたが二騎との会話で戦う気が失せてしまった。
変な疲労を背負った気がして、無駄足だったかと愚痴を漏らす。近づいてくるライダーを迎えようと思ったが、アーチャーは一つ不自然な物を視界に入れてしまった。
「む?」
バーサーカーが立っていた川のふもとに木で編まれた籠を見つけた。元々川の近くにあれがあったとは考えにくい、ならばバーサーカーの忘れ物か?
アーチャーは川の近くまで跳躍し、近づいて籠を手にとった。そして籠の中身を見てーーー
「姐さん!」
“赤”のライダーは執拗な水流と弾ける果実の猛攻をくぐり抜け、漸くアーチャーと再会した。彼の体からは甘い果実の匂いがべったりと漂っており、身につけている軽鎧には果実の皮や果肉が付着していた。
にも関わらず肉体には傷の一つもついていない。英雄最速の肩書きは伊達ではないが、果実臭がなんとも彼の勇姿を台無しにしている。
「む、ライダーか。大事はないようだな」
「当たり前だ。あんな小細工如きでこの俺がーーー」
彼はアーチャーの近くに駆け寄り近づいた時、少しだけ固まった。
「む、どうした?」
「え、いや。姐さん、その、それは…」
「これがどうしたか?」
アーチャーの手には大きな籠があった。現代ではバスケットと呼ばれているものには、生前でもよく見かけ、食べたことがある
「………普通に食べれるのか?」
「毒はないぞ。匂いで分かる」
「いや、そういうわけではないが…」
アーチャーはーーー
「それはそもそもなんだ?」
「ふむ、おそらくはバーサーカーが果実を破裂する為に持ち合わせていた物だろう。いらなくなって置かれていた物を手に入れたまでだ」
なるほど、あれは召喚の時に座から持ってきたものではなく、現代にある物だから籠などで詰めて持ってきたのか。しかし、何故りんごだけなのか? あれだけ大量の果物を攻撃に使用していたのにりんごだけは残していたのか。もしかするとりんごを持ち込んだはいいが、生前の出来事からりんごを使うのが居た堪れなくなったのだろうか?
…いや、そうじゃない。考えることが違う、話をズラすな。問題は彼女が普通に食べていることだ。
ヒッポメネスとの逸話からライダーはアーチャーがりんごを嫌っているのではないかと邪推したのだが。
「…ふふ」
ご満悦で食べていらっしゃる。普段からは考えられないくらいに頬を緩ませて、食べている。
…どうやら彼女はりんごが大好物のようだ。
「…やらんぞ」
「いらねえよ」
ライダーがずっと見ていることに気づいたアーチャーは自分の獲物と言わんばかりに視線を鋭くしたがライダーは手を振って否定した。
「…まったく散々だ」
そう呟いて、アーチャー達は本拠地へと帰還する。
単独行動を行っても成果は何一つなく、ライダーに至ってはバーサーカーを煽って果汁塗れになっただけ、唯一成果があったとしたらバーサーカーが何故かりんごのみを残した籠のみ。
ライダーは嘆息しながらも、上機嫌でりんごを持ち帰るアーチャーを見て「まあいいか」と帰路を駆ける。
そして、帰還した直後“赤”のアサシンとキャスターがライダーの顔を見た瞬間、大爆笑した。
曰く、果物から必死に逃げ続ける大英雄、と。
ライダーは本気で殺してやろうと追うが宝具と魔術によって結局捕まえることはできず、“赤”のランサーから「鎧についた果実を拭わないのか?」と善意で差し出されたタオルに沈黙した。
その頃、“黒”のバーサーカーは“黒”のアーチャー、“黒”のランサー、フィオレの三人から単独行動したことで説教されており、魔力の枯渇で疲労困憊のカウレスはバーサーカーが攻撃の為に購入した大量の果実の請求書を見て、膝から完全に崩れ落ちた。
サーヴァントの私用の出費は、マスターの自腹なのである。
妖怪テケテケ、怪談困るさん→浮気したら旦那オーバーキル
ヒッポメネス→浮気したら浮気相手の男をオーバーキル
この違い、かなり重要。
というか二人の関係上、浮気になるかかなり微妙なラインですけどね。