頑張って毎日更新しようにも、体力が追いつきません。
しかしアタランテが可愛いから頑張ります
では、どうぞ。
#文を修正しました。すいません。
背後に立っていたのは優しく微笑む
青白い肌に、拘束具と思える鎧を着込み、溢れんばかりの筋肉が盛り上がっている。
“赤”のバーサーカー、スパルタクスだ。
「おお、圧政者の走狗らよ。見つけたぞ」
“黒”のキャスターが叛逆者である彼を解き放ったのだろう。彼は手に持つ小剣とは思えぬ大きな剣を躊躇いなく振り下ろした。
「な!?バーサーカー!」
「…っ!やはり腱を撃ち抜いておくべきだった!!」
“黒”のバーサーカーと“赤”のアーチャーはそれぞれ左右に分かれ、触れるだけで肉体をバラバラにされる一撃から逃れた。
“赤”のバーサーカーは“黒”のバーサーカーをアーチャーごと殺すつもりだった。
キャスターに隷属された身となっていても、思考回路を固定する狂気は健在らしい。
「ははは、さあ私の腕の中で眠りなさい」
剣を地面に食い込ませたまま手放し、両腕を広げて突進してくる。やはり狙いは二人。味方という概念は既に消え去っている。
「くそっ!期待した訳じゃないがやっぱりバーサーカーか!」
「汝もバーサーカーだがな!」
軽口を叩きながら大振りの攻撃を避け続ける。アーチャーは避けざまに一瞬で複数箇所を矢で貫く。だが、“赤”のバーサーカーの笑みは絶えない。
「まだまだまだああああだああぁ!!」
「!アタランテ!」
“黒”のバーサーカーが“赤”のアーチャーの手を引いて、鉄槌と見間違えるほどの拳撃から躱させる。
「だから何をしているのだ汝は!?私と汝は敵であろう!!」
先ほどのバーサーカーとのやりとりでは現を抜かしたが、考えれば可笑しかった。
二度の助力行為。一度は生かされ、二度目も助けられた。何の為に二度目の生があるのかを理解しているとは思えない“黒”のバーサーカーの行動にアーチャーは激昂する。
「分かっているさ!!愚かで馬鹿だってことぐらい分かっている!罵倒すればいいさ!サーヴァントの本分を果たせれないできそこないさ、僕は!!それでも、僕は、君を!!」
「ーーー頭を下げろ!」
地面を抉り、石飛礫を飛ばす“赤”のバーサーカーの拳を次はアーチャーが“黒”のバーサーカーの頭を押さえて回避させた。
満面な笑みで二人を見下ろす
「…ああ、もう。とにかくだ、どうするヒッポメネス」
「…とにかくもこうも、あれじゃ味方として数えられるわけもないよ」
「そうだな。元はこちらのサーヴァントだが、こうなればどちらでもない。つまり…」
顎を動かし、こちらへとゆっくりと歩み寄る小山のサーヴァントへと指す。
「汝もアレを野放しはできんだろう。さっさと始末して、続きを再開させる。…どうだ?」
つまりーーー共闘の提案。
常に暴走する“赤”のバーサーカーだが、形だけは“黒”のサーヴァントとして働いている。“黒”のバーサーカーにとってあの暴走する筋肉は一応は同じ軍門だ。
「ーーー乗った!!」
だが、そんなこと“黒”のバーサーカーには知ったことではない。提案したのが“赤”のアーチャーでなければ、彼は“赤”のバーサーカーという囮を持って敵対するサーヴァントを倒そうとしただろう。しかし、提案したのは、“赤”のアーチャーだ。彼にその手を跳ね除ける思考はない。
了承と共に、二人は同時に駆けだした。
「ぬううううううぅぅぅん!!」
小剣という名の大剣を持ち直し、“赤”のバーサーカーは地面を抉り返す。再び石飛礫が二人へと飛来するが、“赤”のアーチャーは構わず推進し、逆に“黒”のバーサーカーは大きく下がり、小剣を地面へと突き刺す。
「
詠唱、魔術発動。雨により平原に満ちつつある水分を掻き集め、バーサーカーは水柱を地面より湧き立たせた。水柱の形成と共に新たに魔術を詠唱。
「
瞬間に水柱が凝縮され、鉄柱のような硬度へと昇華する。その柱達は全て、“赤”のアーチャーが走る先々へと形成されていた。
「ーーーフッ!」
“赤”のアーチャーは跳ぶ。飛来する礫達は彼女の肉を抉ることはなく、彼女は水柱を
「ぅはあ!!」
水柱ごとアーチャーを潰そうと腕を振るうが、緩慢かつ豪快な一撃は掠ることなく、“赤”のバーサーカーが振り終わった後の腕に着地したアーチャーは、腕の上を駆ける。
矢が“赤”のバーサーカーの両目へと突き刺さり、視界が遮られるが“赤”のバーサーカーは構わずアーチャーがいた腕の箇所を殴るがーーー
「外れだ」
“赤”のバーサーカーの降り下ろされた腕の手首に十数本の矢が突き刺さる。的確に健へと狙われた矢はバーサーカーの握力を奪い、握っていた剣が地面へと落ちた。
傷つけられたことにより、
「
耳元で聞こえてきた声に“赤”のバーサーカーの首が動くが、振り返った先には何もない。
しかし、両足に走った違和感に“赤”のバーサーカーが眼球を下へと降ろすと、そこには“赤”のアーチャーが“赤”のバーサーカーの剣を拾い右足の甲に突き刺し、“黒”のバーサーカーが左足の甲へと槍を突き刺して地面へと縫い付けていた。
「Woooooooooooo!!!!」
視認した二人の圧政者へ叛逆者の鉄槌が振り下ろされるが、女は一歩で距離を開け、男は叛逆者の両足の間を潜って叛逆者の後方へ移った。
「
“黒”のバーサーカーは手に持つ小剣を両手で持ち替え、呪文を紡ぐと刀身に水流が纏わりつく。深呼吸を二つと意識を集中させ、外界と切り離した直後にソレは起きた。
水流と刀身は一体と化し、刀身の丈は伸び、“黒”のバーサーカーの背丈の約三倍近くまで刃を成長させた。刀身となった高水圧、高密度の水流は常に流動し、回転している。さながらはそれはチェンソーのようだ。
“黒”のバーサーカーは意識を呼び戻し、同時に叫び、剣を振るう。
「
一太刀。
横薙ぎによる一閃は光の残滓を残しながら振り切られた。
ズルリ
生々しい音と共に斜めへとずれたのはーーー“赤”のバーサーカーの両脚。丁度足の健に位置する場所を同時に斬られると、足を失った“赤”のバーサーカーは前のめりに地面へと倒れる。
「ーーーはははははは!!!」
だが、肉体の損失など決して気にしていない嗤いが平原に再び広がった。
「脚を失った程度で私は止まらぬよ!!」
まだまだ笑みは止まらない。絶望?そんなもの知らないと言わんばかりに叛逆者は両手をつき、筋骨隆々の肉体を起こす。
這いずってでも、一人でも圧政者を屠らんと彼は進み続けるだろう。まずは脚を斬ってくれた圧政者を抱擁せんと面を上げるとーーー
「そうか。ならば次は頭を失え」
麗しき狩人が弓を構えて、正面に立っていた。
キリキリと弦が軋むほどに強く
彼女の弓、『天穹の弓』は強く引き絞られただけ威力を増すという特性がある。最高の威力は筋力Aの威力を誇り、下手な宝具よりも強力だ。
そして、その威力に至る分だけの時間は稼がれ、分かりやすいほどに当たりやすい的がある。
「おおおーーー」
咆哮と共に突撃しようとしたが、その前に顎を蹴りあげられた。脚を斬り落とし、赤のバーサーカーの頭部まで移動し蹴りつけた“黒”のバーサーカーの行動は一切の無駄がなく、迷いがない。
ただその行動は雄弁にーーー『黙っていろ』と告げている。
「ーーーふっ!」
放たれた剛力の一射。月女神より賜りし神弓の一撃は、“赤”のバーサーカーの眉間を貫いた。
「お…」
衝撃と共に眉間に突き刺さった矢の威力に“赤”のバーサーカーは仰け反り、そして再び地面へと倒れる。超重量の肉体が倒れた振動が地面へと波及する。
不意に訪れた静寂は“赤”のバーサーカーの終焉を意味する。それに“赤”のアーチャーは短く鼻を鳴らした。
「アタランテ!」
彼女へと駆け寄るのは“黒”のバーサーカー。手を挙げてこちらへと駆け寄り、近づいた瞬間に彼女の手へと振ろうとしたのだが。
「あれ?」
「何をしようとしているんだ汝は」
見事に空を切る。ハイタッチしようとした“黒”のバーサーカーはあっさり避けられたことに、少し残念そうに首を垂れたが。
ポン、と胸を叩かれて顔を上げる。
「でも、悪くなかったぞ」
呆れてはいるが、それでも賞賛しているように“赤”のアーチャーは微笑んだ。
その微笑みに“黒”のバーサーカーの顔は一気に赤くなり、今にも大量の汗が流れ落ちそうだった。バーサーカーは顔を大きく振り、表情を引き締めた。
「あ、あのアタランテ!!」
「なんだ?」
「さ、さっきはあのバーサーカーの所為で言えなかったけど、僕はーーー」
「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
「「!?」」
沈黙したはずの空気に響き裂く大咆哮。空気を揺るがし、地面の小石を浮かせる声量に二人は同時に振り返った。
そこには死んだはずの、いや、死んだと思った“赤”のバーサーカー、スパルタクスが
“黒”のバーサーカーが死線の隙に集中と魔力を籠めて振るった一太刀の傷が治っている。だが、その足はとても足と言うには奇怪すぎた。
足の甲が二つ。両脚に足の甲が四つあった。
無様な人形のほうがまだ可愛げがあった。微笑ましさもあったのかもしれない。だが、微笑みを絶やさぬ筋肉はどう見ても不気味以外の何物でもない。
しかもアーチャーによって貫かれた眉間も肉が盛り上がり、拘束具によって包まれた顔が酷く不細工になっている。
これには、“赤”のバーサーカーの宝具を知っているアーチャーと“黒”のバーサーカーも後ずさりたくなる。
受けたダメージを魔力へと変換し、治癒能力の向上とステータスの強化へと転用する宝具である。彼が元来持ち合わす耐久EXという規格外のステータスと合わさることで、死なず、死ぬまで暴れ回る狂戦士となる。
傷つければ傷つける程に強く、傷つければ傷つける程に治癒する。早々に倒すには霊核がある頭部と心臓を破壊するか、規格外の耐久値を一撃で超えるほどの威力をぶつけるしかない。
故に二人は前者である霊核の破壊を選んだのだが、その規格外の耐久を超えることができず、逆にバーサーカーを治癒させてしまった。
「この、筋肉達磨が…っ!」
「…異常が過ぎる、これでは獣以下だな」
片や苛つき、片や冷ややかな目で隆起する叛逆者を睥睨する。収めた矛を再び解き、次こそは仕留めようとした時。
遥か後方で雷光に似た光が照らされた。アーチャーと“黒”のバーサーカーが振り返ると空中庭園で高密度の魔力が爆発したようだ。
“黒”のバーサーカーが目を凝らすと、魔力の爆発により発生した煙の中から一人の少年とも少女とも思える中性的なサーヴァントが幻馬と共に、地上へ落ちていく姿を捉えた。
「ライダー!?」
“黒”のライダーが草原の向こうの森へと墜落する。消滅には至らなかったがあの様子では酷いダメージを負ったと推測する。
助けにいく選択肢が思い浮かんだがーーー
「ははははは!!!」
現在猛攻を止めようとしない“赤”のバーサーカーを相手するか否かのどちらかを迫られる。
“赤”のバーサーカーは味方ではない。このまま放置するとどう転ぶか分からない。“黒”のライダーの安否を確認しに行くか、“赤”のアーチャーと共に“赤”のバーサーカーを打倒するべきか。二者選択に迷い、歯噛みした。その様子を横で眺め、見守っていた者はーーー深く嘆息した。
「…ふん!」
「ぐぇ!?」
脇腹に鋭い蹴りが直撃した。蹴りを放ったのはアーチャーだった。彼女は“黒”のバーサーカーの前へ出て、迫ろうとする“赤”のバーサーカーへと立ちはだかる。
「行け。その様に悩み迷う者がいては背中を任すことなどできん。元々はあの化け物は敵となった身だ。私が倒すのが道理だろうよ」
裏切り者には粛清を。彼女はそれを実行する為に、戦へと赴く。協力関係は数分で瓦解してしまった。これからは再び敵対関係へと戻る。“黒”のライダーの元へ行くことを赦すのは、せめてもの協力の名残なのかもしれない。
「行け。あの化け物の次は、汝の命を貰い受ける」
それだけ言い残すとアーチャーは迫る“赤”のバーサーカーへと突貫した。一人でも“赤”のバーサーカーの猛攻を潜り抜け、あの筋肉を矢の筵へと変えていく光景に“黒”のバーサーカーは彼女が死なないことを確信し、森へと走り出した。
「ごめん!!アタランテ!!」
○ ○ ○ ○ ○
襲いかかる竜牙兵を打ち砕き、ホムンクルス達を助けながら進んでいくうちに草原から森へと入り込んだ。ライダーが墜落した地点までまだ距離があるとはいえ、人知を越えた英霊の脚力ならあと数分程度でライダーのところに辿り着くだろう。
“黒”のバーサーカーは荒れつつある戦場を横目に、樹木同士の間隔が狭くなる森へと足を触れていく。
森の中でもホムンクルスとゴーレム、そして竜牙兵の戦闘が及んでいるらしく、血の匂いが僅かに濃くなっている。
ライダーを探すべく、叫ぼうとした時
「ああ、貴方が“黒”のバーサーカー、ヒッポメネスですね?」
不意に声をかけられた。穏やかで敵意を感じられない声音。ゆっくりと振り返るとそこにはカソックを着た褐色の少年がいた。
屈託のない笑みを浮かべ、こちらを眺めてくるがーーーバーサーカーはその少年から漂う気配に気づいた。
「……君は」
「どうも初めまして。理性を保てているバーサーカーがいて驚きました。私の名はシロウ・コトミネ、此度の聖杯大戦でマスターとして参戦しています」
「は?マスター?」
可笑しい。可笑しすぎるだろう。マスターがこの戦場の前線へと出てくるのがまず可笑しい。
場違いなマスターの登場にバーサーカーの警戒心が頂点へ達する。構えた体勢を解くことなくシロウを睨み続け、シロウは苦笑する。
「ほらシロウ殿、やはりこうなるのです。マスターが直々に戦場へ赴くなど…面白いにもほどがありますぞ!」
シロウの背後からサーヴァントらしき男が現れた。男はバーサーカーに一礼する。中世の貴族服のような格好から好んで剣を振るうような男ではなさそうだ。まだ見てないキャスターかアサシンか?
しかし、ならばなぜ自分の前へ現れた。そんな疑問に答えるかのようにサーヴァントーーーキャスターは高らかに叫んだ。
「何を可笑しなことを! 我輩はサーヴァントですぞ?マスターに付いていて何が可笑しいのですかな!?」
「……随分と陽気な人だね?」
ライダーとどっこいどっこいか?いきなり現れて道化のように振る舞う男にバーサーカーは苦笑を隠せない。そんなキャスターを無視して、シロウはバーサーカーへと対面する。
「私はマスターですよ。この通り、ホラ」
シロウが袖を捲ると参画の令呪が腕に刻まれていた。シロウの言葉に嘘はない、と分かってもバーサーカーの懐疑の視線は止まないが、このまま睨み合っていても何も変わらない。
「なら、このまま剣を向けても構わないということだね?」
「その見識で構いませんよーーーしかし、話を少し聞いてくれませんか?」
「話?」
「ええ」
バーサーカーは僅かに悩むものの聞いてみても悪くないと判断し、首を縦に振る。肯定を得られたシロウは頭を下げると口を開いた。
「“黒”のバーサーカー、ヒッポメネス。どうでしょう?“赤”のバーサーカーと代わり、こちらへ来る気はありませんか?」
「…それは、無理な相談だね」
「おや、ダメでしたか?こちらには貴方の妻、アタランテがいますよ?」
バーサーカーは苦笑する。自分はアタランテがいれば付いてくると思われているのか。
「彼女がそちらにいることは凄く惹かれるさ。実際のところ行きたいという気持ちがあることを否定できないしね」
「ならばなぜでしょうか?戦力的に見てもこちらが有利ですよ」
「全くだ。だけどね…」
言葉を区切り、瞳に決意の色を浮かべてシロウへとぶつける。
「この命、マスターに選ばれ、聖杯によって与えられた。恩があるし感謝しきれない。そのマスターに唾を吐くような裏切りは、できないさ」
まあ、色々と命令に背くことばかりしているけど…と付け加えた。
「そうですか…」
交渉が失敗に終わる。シロウは少しだけ残念そうにしていたが、腕をだらりと垂れ下げると両手指の間に柄のような物を挟んだ。
「もしもこちらへ来る気がありましたら、いつでも申し出てください」
「その言葉、頭の片隅にでも置いておくよ」
喚び出した小剣と槍を構えた。“黒”のバーサーカーは小さく、息を吐くとーーー駆け出した。
○ ○ ○ ○ ○
「あー…いたたたた…」
痛む身体に鞭打って、なんとか“黒”のライダーは立ち上がる。“赤”のアサシンの魔術によって墜落させられても、なんとか自身の宝具で防げれた。
本来のヒポグリフの力を完全開放できていたのなら、あの魔術の弾幕を容易に回避できていたはずなのだがーーーやらないと決めたため、開放しなかった。
空中庭園に攻め込むのを急かし過ぎたと、若干の反省しながら周囲を見渡す。どうやら、森の中のようだ。草原から少し離れた場所で、あちこちで戦いが繰り広げられている。
「…ひとまず、他を探すか」
仲間の加勢をしようと、一歩踏み出したところでーーー戦場に似つかわしくない音が響いた。
キィィィィィーーー
「む?」
慌てて振り返ると竜牙兵やホムンクルスを跳ね飛ばしながら、爆走する赤いボディのスポーツカーがライダー目掛けて突っ込んできた。
「嘘ぉ!?」
咄嗟に回避行動を取るとライダーの脇を通り抜けて、激しく回転しながらスポーツカーは停車した。
しばらくするとスポーツカーがガタガタ揺れて、中からドアが蹴破られた。中から出てきたのは真っ赤なレザージャケットにチューブトップ、太ももを露わにしたカットジーンズを着た少女と、黒いブーツに黒いズボンの強面の大男だった。
「おいマスター、アメ車は頑丈じゃなかったのか?」
「…お前さんの運転に耐えられる車なんざ戦車しかねぇよ。というか、お前本当に騎乗スキルB?運転の意味分かってんのか?いや、やっぱりいい。こりゃ、お前の性質なんだな。うん」
疲れた表情で大男ーーー獅子劫界離は、少女ーーー“赤”のセイバーの質問に答えた。“黒”のライダーは驚く。“赤”のセイバーの力量を、一目見て分かったからだ。
「“赤”の、セイバー」
「いよぅ。“黒”のサーヴァント…だよな?」
「合ってるぞ、多分そいつがライダーだ。さて、セイバー。後は任せた、俺は逃げる」
「なんだ、マスター。残ってオレの勇姿を見届けんのか」
「戦場の真っ只中じゃなけりゃ思う存分みるがなぁ…」
そう言って獅子劫界離は車に戻り、去っていった。その後ろ姿を眺めながらセイバーはため息をついた。
「やれやれ。オレ抜きで開戦するとは、ふざけているにも程がある。…まあいい。主役は遅れて登場する、王は戦場に悠々と参陣するのが世の道理だ」
「あれ、王様なの?」
「応。降伏するなら、楽に首斬りで済ませてやるが」
「…いやあ、そういうのはちょっと」
ライダーは槍を構え、セイバーへと戦意をぶつける。構えの様子にセイバーは不審げにライダーを見る。
「おい、ライダー。騎乗すべき馬はどうした?」
「あー、ちょっと一休みさせてるとこ」
瞬間、戦場に殺意と怒気が満ちる。ライダーの態度が心底気に入らないらしい。
「ああん?騎乗兵が馬に乗らずしてどうする。ただでさえの弱兵が、それじゃあアマチュアだろうが」
「まあ、否定しないけど」
「いや、しろよ否定」
呆気らかんと応えるライダーに脱力してしまう。セイバーは舌打ちをしつつ聞きたいことを思いだし、ライダーに尋ねた。
「そういや、“黒”のセイバーが消えちまったっていうのはマジか?」
「マジもマジ、大マジだよ」
「原因は?」
「んー……傍目から見たら内輪揉め。彼からすれば己の信念を貫いた、かな」
「うわ、ダセぇ、“黒”のセイバーは田舎騎士か何かだったのか?信念貫いてくたばった?阿呆らしい!」
その言葉で、場の雰囲気は一転する。“黒”のライダーが変えたのだ。その雰囲気に“赤”のセイバーも慢心も油断も取り消した。
「これまた否定しないよ?しないけど、アイツのことを口にするな。たかだか不良風情の剣士が、アイツのことを口にするな!」
「ほう、よく吠えた。であればーーー」
“赤”のセイバーの手に、幅広の騎士剣が現れた。全身に鎧を纏い、兜を被る。白銀の鎧を身に付けた“赤”のセイバーの姿は威風堂々。セイバーの名に恥じぬ、轟然とした立ち振る舞いであった。
「ーーー世間話はこれにて終了。剣の錆に変えてやろう、馬無しの騎乗兵めが!」
ーーーあ、ヤバ。何かこれ死ぬな。
本気の剣の英雄を前にして、アストルフォは直感で己の死を悟る。
○ ○ ○ ○ ○
水が刃に、絡み手となってシロウへと襲いかかる。後方と右側から襲いかかるそれらを、シロウは刃ーーー黒鍵で対応する。
左手の指に挟んだ柄からは刃が生み出され、それらで払いのける。刃にやすやすと飛び散らかされた水の刃達は元の水滴となって周りの大地に浸み込んだ。
「
魔力の爆発で急接近する“黒”のバーサーカーに、シロウは黒鍵の刃を放出させる。槍を振り回し、刃を叩き折りそのまま槍を振り下ろそうと天へと掲げる。
「
シロウが告げると、叩き折られた刃はバーサーカーへ吸い込まれるように飛び出した。バーサーカーは振り向きながら小剣を逆手に持って刃を弾く。
「シッ!」
「っ!」
シロウは黒鍵を投げ捨て、右手に持っていった“刀”で真っ直ぐと刺突を放つ。
バーサーカーは小剣の剣脊で流すように刺突を逸らした。刀と小剣が合わさることで火花が散り、暗い森の中を仄かに照らす。
両者は一度距離を取り、息を整えた。
「…やはり強いですね。逸話は少なくとも神代に生きた英雄。海神の血が四分の一も流れるだけあって水を扱うことにも長けている」
「賞賛は素直に受け取るよ。それを言うなら君はどうなんだい?神代に生きた英雄とまともに渡り合える奴なんて少ないんじゃないのかな?」
「ははは、どうなんでしょうか?」
笑っているが弱みも隙も見せない。浮かべる笑みが胡散臭くなりつつあるが、身を引き締めて相手を見据える。
シロウの主力はあの刀。英霊を傷つけることを可能とする魔力を秘める刃は要注意だ。厄介なのは黒鍵。詠唱すれば再び襲いかかるように術式が組み込まれている。
ーーーしかし、それにしても何なんだ?
バーサーカーは明らかに
この時代にサーヴァントと、過去の英雄と渡り合える魔術師なんて存在するのか? カウレスから聞いた話では代行者と呼ばれる戦闘の専門家がいるのは聞いたが、それにしては何かが違い過ぎる。
胸の内の靄が晴れることがなく、また止まることもなく増え続けている。謎を解けることができない焦りが、バーサーカーを急かす。
(彼は、ここで殺さなければならない…!)
誰に指図された訳でもないが、そうしなければならない程に彼の存在感に気味の悪さを覚える。
人とは違い、もっとこうーーー自分達に近いような存在感に忌避する。
魔力を高め、突貫しようとした時。ふと彼のサーヴァントに目が行ってしまい足を止める。
「それにしても君のサーヴァントはなんなんだい?さっきからこちらを眺めるだけで何もしないなんて、可笑しくないかな?」
シロウの後ろで控えるキャスターは先ほどからマスターであるシロウに助力もせず、ただ眺めていた。シロウとの戦闘中、キャスターの存在を忘れずに注意していたが何もしてこないことは流石に不審に感じた。
「失礼。我輩、戦うつもりなど毛頭ありません」
「はい?」
「なんせ我輩、戦う力など皆無に等しく、竜牙兵にもやられるかもしれぬのですからな!!」
自身満々に宣言するキャスターとシロウを見比べる。シロウは肩をすくめるだけ。内心バーサーカーは自分より弱い奴がいたのか…、と安堵していいのかどうか迷っていた。
「そういうわけなので、どうぞ心行くまで戦ってください」
「いや、だからと言ってはいそうですかって…」
同意を求めようとシロウへと目配せするが、シロウの様子がおかしくなっていることに気付いた。渋い表情となり一度舌打ちすると、後方へと飛び退いた。
「キャスター、撤退です」
「な!?」
突然撤退を選ぶシロウにバーサーカーは驚愕を露わにした。
「思っていた以上に、
彼女?誰のことを指しているのだろうか?シロウはキャスターと幾つか話し、踵を返すとその場から去ろうと走り始めた。
「待て!!」
ここで逃すわけには行かない。キャスターと共に退散するシロウを追おうとしたのだが。
『待ったバーサーカー!』
「カウレス君!?」
マスターであるカウレスから念話が届き、その場で立ち止まる。シロウは既に距離を開けている、だが急げば間に合わないこともない。上手く理由を説明できないが、直ぐにでも追うことを進言しようとしたが。
『ライダーがあちらのセイバーと接触して戦闘になった!そちらへ急いでくれ!』
その報告で立ち止まり、完全にシロウと距離が空いてしまった。あの最優クラスが、ライダーと戦闘?
かなり不味い。あのセイバーのステータスはバーサーカーとライダーとは比べられない程に高く、スキルの隠蔽がされており、どの時代、神話、逸話などまったく知れていない。
“赤”のセイバーとの戦闘で“黒”のライダーの勝利の確率はーーー低い。
「クソっ!」
『場所を案内するから急げ!』
舌打ちと共にその場から駆け出す。
今は直ぐにでもライダーへの助力が大事だ。バーサーカーは先ほど会ってしまったマスターの少年のことを思い出し、ライダーの元へと急いだ。
彼から感じたーーー人の領域を離れた存在感を、忘れることを出来ずに。
すいません。読み直して、色々と気に入らない部分が出来てしまったのでかなり修正しました。一度読んでいただいた方々に迷惑かけてしまい、すみませんでした。