また数日程更新できないかもしれません。その間に修正や構成の手直しをしたいと思います。
では、どうぞ
竜殺しの帰還は、その場に居た全てのサーヴァントが知覚し硬直させるほどのものだった。
莫大な魔力が爆発したと思ったら、その魔力が形を取り、サーヴァントが誕生していたのだから。
“赤”のライダーと“黒”のアーチャーは一時的に戦いを止めた。
“黒”のキャスターはゴーレムの操作を中断した。
“黒”のランサーと“赤”のランサーは互いを牽制しつつ何かに視線を移した。
“赤”のキャスター、“赤”のアサシンは呆然と何かを見下ろした。
“赤”のバーサーカーも動きを止めた。
“赤”のセイバーは背後で起こったことに戸惑った。
“赤”のアーチャーはその現象は唖然としながらも、魔力に混じる神々しさに覚えがあった。
肌で感じる圧倒的な黄昏の魔力と神秘を纏う黄金の魔力。
二つの魔力が顕現したその瞬間、空を塞ぐ雨雲を散り散りに霧散させた。雨は止み、月と星が夜空を彩る。懐かしくも感じる黄金の魔力に“赤”のアーチャー、アタランテは魔力の中心点へと呟いた。
「
○ ○ ○ ○ ○
『…おい、バーサーカー!バーサーカー!!』
「…かふっ」
意識が目覚めると吐血した。“黒”のバーサーカーは限界に近い状態で目を覚ました。頭にマスターの声が響き、途切れ途切れに答える。
『…ああ、カウ…レス君。大丈夫、まだ…生きている……』
『…そうか、そりゃ良かったけどあのセイバーはなんだ!?』
「……セイバー?」
耳を澄ませると剣戟が響くのが聞こえてくる。重厚な剣同士がぶつかり、再びぶつかる音は零に近い。神域の剣士同士の戦い、首だけを動かしてそれを確かめる。
「…嘘だろ」
戦っていたのは“赤”のセイバーとーーー“黒”のセイバーだった。あの背中と胸元が開いた鎧に柄に青い宝石が埋め込まれた大剣、灰色の髪の青年を見間違えるはずがない。
あれは“黒”のセイバー、ジークフリートだ。
「なんで…彼が…」
「ジークがあのリンゴを食べたら“黒”のセイバーになったんだ」
「…ライダー?」
気がついたら直ぐ横に“黒”のライダーがいた。ライダーは不安そうにセイバー同士の戦いを眺めていた。
「…結局、ジークを助けられなかった」
「・・・・・」
「彼は戦うことを選んじゃった。とても過酷で、苦難の道を」
「…君が弱かったからじゃないよ」
「ううん。ボクが弱かった。強かったら彼を戦わせることなんてなかったのに」
「…今は自分の弱さを責めるべきじゃない。自分の強さをどう使うべきか…考えよう」
「…うん、そうだね」
珍しく落ち込んでいる、とバーサーカーは目を剥いた。ライダーの落ち込みように驚きながらも、セイバーの戦いに意識を戻した。
ライダーの発言からあの“黒”のセイバーはジークである。ジークは“赤”のセイバーに負けぬ剣技を披露し、“赤”のセイバーを押している。“赤”のセイバーも負けじと破天荒で豪快な剣術で対抗している。
ジークは“黒”のセイバーとなっている。生まれて一年も満たないホムンクルスが神域の技に達せれるわけがない。
バーサーカーはジークの様子を冷静に観察しながら、“黒”のセイバーへと至った理由を考えた。
ジークの心臓は“黒”のセイバーの心臓だ。恐らく、バーサーカーの宝具の一部である黄金の林檎を食した事により、サーヴァントに変貌することが可能となったのだろう。
バーサーカー自身、そうなるとは予想だにしなかった。最初は黄金の林檎を食べさせる事で肉体の治癒を計った。だが、それだけでは終わらなかった。
黄金の林檎は食した者を不老不死にする。
バーサーカーはサーヴァントとして召喚された時、宝具となった黄金の林檎を確認して分かった事があった。
それは
神々の秘宝であり、百の首を持つ竜ラドンによって守られていた黄金の林檎は聖杯によって再現されても、完璧には再現されていなかった。
ヒッポメネスの黄金の林檎はアタランテを出し抜いたという逸話を宝具としたことであって、りんご自体が宝具ではない。りんごはあくまで宝具を発動させる触媒だ。
故に、りんご自体の本来の効果は劣化していた。
それでも、黄金の林檎は不老不死の果実であった。ジークの肉体の治癒ならば容易だと低く見ていた。しかし、黄金の林檎の力は偉大だった。
不老不死へと至らない。だが、肉体を人類最高峰のものへと昇華させた。
ジークの心臓はジークフリートの物だ。心臓は全身に血を分け巡らせる人体において重要不可欠な臓器であり、血を多く含む臓器だ。
ジークフリートの血が混じるジークが劣化した黄金の林檎を食べればどうなったか?
結果はサーヴァント、“黒”のセイバーへと成った。
令呪と三分間という限定的な時間が必要だが、ジークは黄金の林檎の類を見ない回復能力の先にーーーサーヴァントへの昇華を成功させた。
恐らく、不老不死の劣化とはーーー進化。
肉体、器の限界を突破し続けて、更なる成長を促し続ける、頂点を見定めない概念の果実。
それが“黒”のバーサーカーの宝具の、
「…彼を戦いに引きずりこんだのは、僕の所為でもあるんだね」
最善を選んだつもりが、ジークに戦う選択肢を作ってしまった。あの時の決断は間違いだったのか、いや正しかったのか。選んでしまったことは変えられない。だからこそーーー
「彼を、どうやって助けていくのかを考えなきゃいけないか」
○ ○ ○ ○ ○
「剣よ、満ちろ」
“黒”のセイバー、ジークが持つ大剣に黄昏色の極光を放ち始める。それは“黒”のセイバーにとって最高の切り札を解放させる兆しーーー宝具の解放の合図だ。
「宝具を解放するか。…ハ、いいだろう!」
『いいぜ、セイバー。お前の宝具を見せてやれ!』
“赤”のセイバーも同様に宝具を解放させる。ライダーとバーサーカーを苦しめたあの一撃を、もう一度放つつもりだ。
白銀の剣が赤に染まり、形を変えて、赤雷が瞬く。
「仕置きの時間だ。紛い物に相応しい最後を遂げるがいい。“黒”のセイバー!!」
「…参る」
静かに呟くも、その瞳は決意を秘めている。紛い物、借り物、贋作。今の彼をどう呼ぼうと、心を除いた他の全ては伝説の竜殺し、ジークフリートだ。
ーーーそれでいい。だから、力を貸してくれ。
彼/ジークが手にしたのは伝説の大剣、名をーーー
「『幻想大剣・天魔失墜』!!」
彼女はかつて父、アーサー王が手に入れた『燦然と輝く王剣』を邪剣へと変貌させ、吼えた。
「『我が麗しき父への叛逆』!!」
黄昏の光と赤い雷が激突する。強大な力がせめぎ合い、喰らい合う。周囲へと被害は渡り、地面に亀裂を生み、破壊する。そこには何も残らない、巻き込まれた瓦礫は粉々となる。
そのせめぎ合いに勝ったのは“赤”のセイバーだった。勝利の決定打は宝具の性質。“黒”のセイバーの宝具は周囲一帯を殲滅するのに対し、“赤”のセイバーの宝具は直線上に存在するものを破壊する。
“黒”のセイバーが膝をつき、“赤”のセイバーは激怒する。
「貴様、何故生きている…!」
“赤”のセイバー、モードレッドにとって手に持つ白銀の剣/クラレントは父以外の誰にも敗北を許すわけにはいかない。それは父を致命傷に追いやったのだから、それで生き延びるのは父と同等という意味となる。それを許せないのだ、この少女は。
「そこを動くな“黒”のセイバー。オレが殺す、他でもないこのオレが、お前を殺してやる…!」
○ ○ ○ ○ ○
「…これは!」
どくん、どくんと脈打つ小山は“赤”のバーサーカー、スパルタクスだった。まだスパルタクスなのだろうが、既に原型を留めていない。ルーラーは空中庭園から降り注いだ魔術の弾幕はスパルタクスに集中した。
“赤”の陣営は“赤”のバーサーカーをここで使い潰すつもりなのだろう。彼の宝具はダメージを魔力へと変換できる。ダメージを臨界点を超えてまで与え続け、その結果溜められた魔力が解放されようとしている。
ルーラーから城塞へと視線を移した瞬間、彼女は二人のセイバーへと駆け寄った。
“赤”のセイバー、“黒”のセイバー、“黒”のライダー、“黒”のバーサーカー以外のサーヴァントは“赤”のバーサーカーの異常性に気づき安全圏へと退却している。
ルーラーは四人に退却するように呼びかける。
「逃げなさい!」
ジークにトドメを刺そうとしていた“赤”のセイバーは“赤”のバーサーカーの異常性に気づき愕然とした。ジークと“赤”のバーサーカーを交互に見るが、舌打ちした後霊体化してその場を去っていった。
実際に存在する者はレティシアに憑依したルーラーとジークのみ。この二人は霊体化して逃げることはできない。
「ジーク君!」
ルーラーの呼びかけにジークは首を横に振る。“赤”のセイバーとの戦いで肉体は痛み、損傷していた。
「…行け。貴女はここで滅びていいサーヴァントではない」
「馬鹿を言わないで下さい。…此処に貴方を連れてきたのは私です」
「戦うことを選んだのは、俺の意思だ」
「ぐ。頑固者にも程がありますね!」
「…人のことを言えた義理か、貴女が」
「……仲がいいねぇ」
二人のやり取りに微笑ましいような、苦笑するような声音で“黒”のバーサーカーが呟いた。ルーラーが“黒”のバーサーカーを見ると、以前見た真名を再度読み取った。
「貴方は…」
“黒”のバーサーカーの真名はヒッポメネス。先ほど会った“赤”のアーチャーの真名はアタランテ。妙な因果で英雄の夫婦と会ったことにルーラーは驚いた。
「……アタランテと会ったのかな?」
「はい。彼女は私に“赤”のバーサーカーを押し付けて去りました」
「アタランテらしくないなぁ」
くつくつと笑いながら、“黒”のバーサーカーは立ち上がった。左腕は折れて青く変色している。細かな傷が体中にあり、服は自身の血で滲んでいる。相当の深手を負っているのにも関わらず、バーサーカーはジークの横に立つとジークの腕を自分の肩に回し、ジークを立ち上がらせる。
「何を…」
「そりゃ逃げなきゃ死んじまうからさ」
「貴方はライダーと逃げろ。ここで死んでいいサーヴァントじゃ…」
「それは君も同じだ!」
ジークの逆の腕を掴み、自分の肩へと回したライダーがジークへと怒った。怒られたジークはライダーを見つめた。
「ライダー…」
「君も生きるんだよ!絶対生きるんだぞ!これ以上君が傷つくところなんか見たくない!だからさっさとこの場から去ろう!!」
ライダーが一歩踏み出すと、姿勢が崩れドミノ倒しのように三人が倒れた。一番下にバーサーカー、間にジーク、上にライダーという形で。
「わっ!」「むっ…」「あがぁ!?」
「何やってるのですか…」
ルーラーは二人の下敷きになり、激痛で悶えるバーサーカーを視界の端に追いやりながらため息を吐く。
「絶対に守ってやるんだ…」
「・・・・・」
ルーラーはライダーの姿を見て、後ろを振り返る。“赤”のバーサーカーが此方へと狙いを定めていることは分かった。
「ーーー分かりました。そこでじっとしておいて下さい。動くとか危険ですから」
彼女が三人の前へ立つのは“黒”の陣営に手を貸すのではない。サーヴァントは自らの意思でそこにいるのだ。これはジークを守る為、裁定者としての責務とは違うかもしれないが、裁量はルーラーに任されているから問題ない。
「…うぅ。……なに?カウレス君?」
苦しみバーサーカーにマスターであるカウレスから念話が届いた。バーサーカーはマスターからの命令を聞くと、ライダー達を見て悩み始めた。
何を迷っているのか察したジークはバーサーカーへ呼びかけた。
「マスターの元に戻ってくれバーサーカー」
「…しかし」
「俺達は大丈夫だ。貴方はサーヴァントの責務を全うしてくれ」
バーサーカーはルーラーとライダーへと視線を移すが、二人とも非難はなく、頷いてくれた。
「……ごめん。また会おう」
バーサーカーは霊体化してその場を去った。実はさっきからライダーもマスターであるセレニケから帰還するよう煩いぐらいに念話が来ているがすべて無視している。それよりもライダーは守るべきジークを抱きしめた。
その様子にルーラーは微笑みながら、力が最高潮に達しつつあるスパルタクスへと旗の先端を向けた。
○ ○ ○ ○ ○
ため息が漏れた。あまりに責め立てる痛み、絡みつく束縛、逃れ切れぬ服従がーーー快感のあまりにため息が漏れる。
スパルタクスは狂っている。それはスパルタクス自身が理解しているし、それを変えようとも思わない。生まれ持った時から持ち合わせているものだったのだ。この叛逆の性質は。
痛みが快感。蔑まれることが快感。被虐こそが己を満たすものであった。
故に笑みが止むことはない。
この快感が最高潮に達し、臨界点を越えようとした時こそ叛逆の狼煙。
二度目の生を得た今、スパルタクスは生前を超える生涯最高の一撃を放とうとしていた。
眼は潰れ、耳も塞がり、鼻も閉じている。
苦しいーーーだが得がたい快感だ。
この
「ああーーー」
感嘆の息を零し、最大最高の一撃を放つ。
拳だった肉塊を振るった後、肉体が粒子となって消えていく。
ーーーそれも悪くない。
消え去るその瞬間まで笑みを止めることがなかった“赤”のバーサーカー、スパルタクス。
ここに、二度目の生を終えた。
○ ○ ○ ○ ○
後ろには“黒”のライダーと、ジークがいる。視界に広がるは“赤”のバーサーカー最大の一撃。それは一直線に面で放たれた。
避ける気もないが、避けれるわけがない。
暴力的な魔力の光を前に、ルーラーは 旗を握りしめて、掲げる。
「『我が神はーーー」
その旗は聖女ジャンヌ・ダルクが剣の代わりに手に取ったもの。その旗が振るわれるごとに聖女に付き従う兵士は高揚し、先陣を切って敵に走る聖女を守護するため雄叫びをあげた。
「ここにありて』!」
その聖旗は宝具として用いられれば、ルーラーがもつ規格外のスキル『対魔力EX』を物理的霊的問わずあらゆる守りへと変換させる力を持つ。
“赤”のバーサーカーの一撃はルーラーへ触れることはない。光がルーラーの持つ聖旗から遮断され、別れていく。
戦場にいたホムンクルス、竜牙兵、ゴーレムは光に触れ粉塵となって消えていく。ミレニア城塞は光に触れ、半壊まで追いやられる。
それでもルーラーとその後ろにいた二人には届かない。光が収まると、ルーラーは旗を下ろし二人へと振り向いた。
「…無事ですね、良かった」
暖かで煌めく笑顔を浮かべて。
ご読了ありがとうございました。