碧く揺らめく外典にて   作:つぎはぎ

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なんか急にエクストラがやりたくなった。
赤王ちゃまプレイするぜ。

では、どうぞ


黄金林檎

  それは、少し前のことーーー

 

 

  “黒”のバーサーカーは遠くからダーニックと“黒”のランサーの会話を聞き、漠然と何が起こっているのかは理解していた。焦る気持ちを抑えながらやっとサーヴァント達が集まる場所へと到着し眼を向けると、“黒”のランサーだった吸血鬼が“赤”のアーチャー、アタランテへと噛みつこうとしていた。

 

  その瞬間頭の中が沸き立ち、とにかく前へと飛び込んだ。煮えくりかえる激情は臨界点を越えて、冷ややかなものへと変わっていく。“黒”のランサーだった者に思う事は特に無くなった。

  誇り高き“黒”の陣営の王。吸血鬼に堕ち、哀れや同情といった感情は抜き去った。

 

  今、吸血鬼に思う事は一つ

 

 

 

  アタランテに触れるな、化け物。

 

 

 

  化け物の命を絶やす為、剣を取った。

 

 

 

  次に意識が戻った時には痛みと嬉しさで悶え叫んだが。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 

 

  カラン、と落ちた杭には血が付着している。右肩、左の脇腹、左大腿部に刺さった杭を引き抜く。前を見ると吸血鬼を抑える為に“赤”のランサー、“黒”のアーチャー、“黒”のキャスターが奮迅していた。

  “黒”のバーサーカーは痛みに耐えながら、身体が動くことを確認し、小剣と槍を持ち直した。

 

「よし、やれる」

 

「…先程のように狂気に呑まれぬのか?」

 

  “赤”のアーチャーの質問にバーサーカーは照れて、顔を逸らしながら答えた。先程手と胸に手を置かれたことを思い出したのだ。

 

「大丈夫だよ。さっきのは偶々だから」

 

「その図らずの狂化が不安なのだ。戦いの途中でああなってしまったら此方が危ない」

 

「いや、大丈夫だって」

 

「何が大丈夫なのだ」

 

「…え〜っと、とりあえず大丈夫なんだって!」

 

「此方が納得がいく言い分を言えと申しているではないか」

 

「…夫婦喧嘩は後にしてくれよ、お二人さん」

 

  “赤”のライダーは誤魔化そうとするバーサーカーと納得がいかないアーチャーの口喧嘩寸前の会話に苦笑する。

  仲裁によりアーチャーはバーサーカーを睨み、睨まれたバーサーカーは目を宙に泳がせる。やれやれと首を振るとライダーは二人を置いて戦いに加わりに行った。

 

「…万が一、狂うた場合は汝の命を先にもらうぞ」

 

「そんなことは無いから別に構わないよ」

 

  不承不承に納得したアーチャーは矢を番え、あり得ないと了承するとバーサーカーは小剣と槍を構える。狙いは多くのサーヴァント相手に戦う吸血鬼。息を合わせて飛び出そうとしたその時ーーー

 

  一人の少女が戦いの場へと参陣した。旗を手に、金糸を三つ編みに束ねたその美しき少女は、この聖杯大戦の調整者。

 

「ルーラー!」

 

  “赤”のアーチャーの叫びに全員がルーラーを注視する。聖旗を持ち、駆けつけたルーラーは吸血鬼を見て、顔を顰めた。

 

「ヴラド三世…いえ、吸血鬼であり、ダーニックでもある…」

 

  既にサーヴァントとして消滅しつつあるランサーの正体を一目で見抜き、ルーラーの持つ特権が通じないことを悟る。

  ルーラーは聖杯大戦で感じていた不安の正体をこの吸血鬼と認識した。

  この吸血鬼が聖杯を手にしたその時、世界がどうなるかを想像する。吸血鬼としての伝承と串刺し公としての伝説が混在する“無銘の怪物”は野に放たれれば、ルーマニアは一夜にして地獄と化すであろう。

  そうしてルーラーは決断した。

 

「聖杯戦争の調律のため、一時的ですが貴方がたには協力態勢を敷いて戴きます」

 

「…あの吸血鬼を討伐する、ってことだね」

 

  バーサーカーの言葉に、ルーラーは首肯した。

 

「はい。彼を倒すまでは、休戦をお願いします。この吸血鬼を聖杯に辿り着かせる訳にはいきません。…絶対に」

 

  それはここにいるサーヴァントが既に理解していることだった。この怪物に聖杯を触れさせてはならない。

  ルーラーの言葉に改めて、吸血鬼の討伐が決まった。それを合図するかのようにルーラーは左手を掲げ、朗々と告げた。

 

「ルーラー、ジャンヌ・ダルクの名において。この場に集う全サーヴァントに令呪を以って命ずる!かつてヴラド三世であった吸血鬼を打倒せよ!」

 

  それはルーラーというサーヴァントが持つ最大特権。各サーヴァントに対し二回ずつ命令できる絶対命令執行権、『令呪』を所有している。

  それを発動させた。令呪の呪縛はその場に集うサーヴァント達の動きを制限した。吸血鬼に立ち向かう者は力を増し、逃げる者には束縛を命じる。最も逃げる者などいない。

 

「いいだろう。私と“黒”のアーチャーで援護する。バーサーカー、ライダー、ランサー、汝らは好きに動くがいい」

 

「あいよ、姐さん。それでいいよな二人とも」

 

「構わない」

 

「問題無いよ」

 

「キャスター。“赤”のバーサーカーを捕縛した時のように、ゴーレムで枷を作れますか?」

 

「できなくはないが、“赤”のバーサーカーのときのようにはいかん。良くて動きを鈍らせるだけだな。それに、霧や蝙蝠に姿を変えられればどうしようもない」

 

  “黒”のキャスターが指を動かすと十体のゴーレムが滑らかに動き出す。指一本で一体のゴーレムを操作し、戦場にて自律で動いていたゴーレム達とは段違いの動きを披露する。

  ゴーレムが別々に動き、吸血鬼へと襲いかかった。ゴーレム達の攻撃を掻い潜り、反撃へと打って出るが、“赤”のライダー、ランサー、バーサーカーがタイミングを合わせて槍で襲いかかる。

  英雄殺しの槍と神から賜った神槍、普遍の槍。

  そして援護するように神域の弓使い達の矢が放たれる。

  その上で、吸血鬼が苦手とする聖旗を携えたルーラーの攻撃が加わり、吸血鬼に七体のサーヴァントが一斉に攻め込んできた。

  全員が慢心などなく、無銘の怪物を狩ることだけに集中する。

 

「また霧に…!」

 

  ヴラド三世ではなく、吸血鬼となった怪物は数多の力を宿すようになっている。蝙蝠、霧、杭、猛犬、鋭い爪、牙。一つ一つが恐怖の象徴として顕現し、七体のサーヴァント相手に猛威を振るう。

  肉体から再び杭を召喚し、連続で射出してくる。それぞれが回避行動を取るが、一つがランサーの足の甲へと突き刺さる。引き抜こうとした瞬間、吸血鬼が単純に怪力でランサーを殴り飛ばした。ダメージこそ大したことはないが、圧倒的な膂力にランサーが目を剥いた。

  ランサーが壁へと吹き飛ばされたのを見て、ライダーが反射的にそちらへと視線を移す。その隙を狙ったのか、吸血鬼がライダーへと襲いかかった。吸血行為で眷属を増やす魂胆なのだろう。だが、それを察知して吸血鬼の背後にバーサーカーが飛び込んだ。

  ズブリ、と背後から小剣が吸血鬼の心臓へと突き刺さる。吸血鬼が霧となって逃げようとするが、バーサーカーの口から魔術が紡がれた。

 

淵源=波及(セット)

 

  魔術が詠唱された途端、吸血鬼の青白い肌が波打った。ピタリと止まったと思った次の瞬間、吸血鬼の全身から血が噴き出した。

 

「ガァっ!?」

 

  血は全方向へと吹き出すやいなや、杭のように尖り地面へと縫い付けられる。吸血鬼の全身から出た血は硬い縄の様になり、締め付け、動きを止めた。

  止められた本人は霧や蝙蝠となって逃げようと試みるが、腕や足はできても胴体だけは変化させることはできない。

 

「えげつない手段だけど、あなたの心臓にある血を魔術で操り地面と固定させてもらった。あなたもサーヴァントだったんだ、この世に存在するための楔の一つが縫い付けられれば流石にどうにもならないだろ」

 

  “黒”のバーサーカーは海神の血を引くだけあり、水の扱いは“黒”のキャスターよりも長けている。加えて神代の魔術だけあり、その拘束力は怪物でも容易には解くことはできない。

  肉体の形成で重要な血の大部分を固定され、霧や蝙蝠となって逃げることも不可能となった。

 

「今です!」

 

  好機が訪れ、全員が最大の一撃を叩き込もうと構えた。

 

 

 

  しかし、何の前兆もなく、唐突に変化は起こった。

 

 

 

「ぐっ…!?」

 

「アタランテ!?」

 

  “赤”のアーチャーが苦悶の表情で膝を突いた。それは“赤”のアーチャーだけではない。この場にいる“赤”のサーヴァント全てが動きを止めたのだ。

 

「何が、起きた…!?」

 

「……っ!!」

 

  “赤”のライダー、“赤”のランサーの双方も苦しげに立ち尽くす。ほんの一瞬、ほんの僅かだが彼らの存在感が薄れた。

 

「おおおおおおおおっ!!!」

 

「しまった!?」

 

  バーサーカーが“赤”のアーチャーへ意識を逸らした為、肉体を膨大化させて吸血鬼は枷を破壊した。肉体を元の形へと修復させ、大きく跳躍し大聖杯へと走り出した。

  その後ろ姿を見て肉体に変異がないサーヴァント達が焦る。

 

「待ちなさい!」

 

  ルーラーと“黒”のアーチャーが同時に走りだそうと一歩踏み出した。

 

「待つんだルーラー、アーチャー!」

 

  だが、それを“黒”のバーサーカーが呼び止めた。

 

「バーサーカー!急がなければ大聖杯が吸血鬼の手にーーー!」

 

「だからこそあいつには()()()()()()()()

 

  その言葉にルーラーは訝しげに首を傾けたが、その言葉の真意にすぐに気づく。バーサーカーは息を吐くと、両手を前へと突き出した。

 

 

 

  ーーー突如、バーサーカーの両手に黄金の輝きが満ち溢れた。

 

 

  その光にその場にいた全サーヴァントは目を奪われた。神々しく、本能を掻き乱す豪奢な輝き。

  言葉を失い、光に釘付けになる。神性にして魔性。触れ難い尊さに甘く柔らかい誘惑。

  光の中央でありながら、光を放つ“ソレ”をバーサーカーは握りしめた。

  握りしめた瞬間、光はバーサーカーの手のひらに収束していき、人の目で認識できるほどの輝きに収まった。

 

 

 

 

「見よ、此れこそ運命の果実也」

 

 

「百の顎の守護と女神の寵愛により賜りしこの秘宝」

 

 

「三度投げれば麗しき狩人さえも振りかえる」

 

 

 

 

 ーーーその輝き/秘宝/逸話は零れ落ちた。

 

 

 

 

「さあ喉を鳴らせーーー『不遜賜わす黄金林檎』(ミロ・クリューソス)!!」

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

  正面から立て続けに放たれる細い糸のような光を、壁に激突しボールのように跳ねながら進み続ける。

  前へ前へと本能の赴くままに突き進む。吸血鬼はやがて、正面にある一つの扉を見つけた。

 

  ーーーああ!あそこに我が望みが!!

 

  “黒”のセイバー、“赤”のバーサーカーの二騎が既に小聖杯に納められている。世界を改変させる程の魔力はないが、限られた小規模の願いなら成就できる。ダーニックだったのか、ランサーだったのか。吸血鬼という存在はすでに両者どちらでもない。しかし、聖杯を手に入れ、願いを叶えたい時こそダーニックという存在がそこにいることは分かっている。

 

  吸血鬼が乾く喉に血を求めるように、眼を血走せて 扉を勢いよく開けた。

  開けた扉の先には彼にとって正に理想郷と言えたのだろう。煉瓦で組み上げられた幅色の階段、其処には無限、無尽の魔力が内包された超巨大構造物があったのだ。

  青白い光を漂わせるそれこそーーー

 

「ーーーああ」

 

  万物の願望機ーーー冬木の大聖杯だ。

 

  あと少しで手が届く、触れたその時こそ執念と渇望の願いは叶う…。

 

  だが、常に願いの前に障害は付き物だった。

 

「そこまでですよ、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア」

 

  大聖杯へと続く階段の途中、カソックを着る少年がいた。吸血鬼は即座に殺害を決意する。ここまで来て、誰にも邪魔をさせるわけにはいかない。

  殺そうとする。ーーーだが、殺そうとするのに何かが引っかかって立ち止まってしまった。

 

「…誰だ?」

 

  少年の肌は褐色、穏やかな笑みを浮かべ、一歩ずつ階段を降りてくる。

 

「あるいはその残滓と言い換えるべきでしたか。その執念には正直感服しました。ですが、貴方に聖杯を渡すわけにはいかない。まして、吸血鬼に成り果てた貴方などにはね」

 

  息が、荒くなる。その少年の顔を見た瞬間、吸血鬼の記憶にダーニックだった者の記憶が流れ込む。魔術師だった頃、第三次聖杯戦争によってすべてが始まった事。忘れられる筈が無いーーー記憶。

 

「……そんな、莫迦な」

 

「おや、貴方にしては真っ当で凡庸な台詞ですね、ダーニック。貴方が生きていたのだから、()()()()()()()()()()()驚くことはないでしょうに」

 

「そんな莫迦な!有り得ない!何故だ!何故()()()()()()()()!何故お前が生きている!?」

 

  吸血鬼の叫びを涼風でも受けるように聞き入れた少年は、肩を竦めた。

 

「ーーー無論、この聖杯大戦に参戦したからですよ。“赤”の側のマスターとしてね」

 

  驚愕が思考回路から神経、すべての肉体を支配した。硬直から抜け出せない吸血鬼を他所に、少年は高々に宣言する。

 

「この時を待っていたのさ、ダーニック!冬木の大聖杯は、()()()()()!魔術師、あるいは吸血鬼。どちらでもないにせよーーー世界を破滅に追いやるしか能の無い貴様に、この大聖杯は断じて渡すものか!」

 

「……ほざけェェェェェェェェェェェェェェェェっ!!」

 

  少年の叫びに反応した吸血鬼が駆け出した。目の前の存在がここにいることはどうでもいい。最後の障害を跳ね除ければ、成就するのだ。

  吸血鬼の腕が振るわれ、少年の喉へと伸びる。

  ーーーが、吸血鬼の鋭く伸びた爪は、少年の喉の一歩手前で止まった。

 

「なっ!?」

 

「ああ、バーサーカーの宝具が発動されたのですよ」

 

  変わらず、笑みを浮かべた少年は吸血鬼に起こった現象を丁寧に説明する。

  何度爪の先に力を入れようとも、そこから先には進まない。…いや、寧ろ下がっていっている。来た道をゆっくりと、しかも、徐々に力を増して後退しようと体が下がっていっている。

 

「…な、がっ、これは!?」

 

  まるで見えない鎖が肉体を雁字搦めに縛っている。その鎖の正体は本能。理性を突き破り、剥き出しになった本能が後ろへ戻り、()()()を欲している。

  眼前に広がる大聖杯を無視し、後ろにある()()()を奪い取れと本能が掻き立てる。

 

「ーーー恐ろしい宝具です。もし、そちらのセイバーが最初に脱落していなかったら、いち早く退場して貰おうと思いました。

  彼の宝具は()()()()()()()のような対軍宝具と組み合わされば、一撃で戦況を変えられることが可能なのですから」

 

  既に吸血鬼は扉の前まで下がっていた。それに合わせ、少年も足を進めて“黒”のバーサーカーの脅威性を淡々と語る。

  吸血鬼の耳に少年の言葉は届かない。理性が本能に抗おうとして必死なのだ。数十年の悲観の達成を無視する本能に打ち勝とうと踠いているのだ。

  その有様に自身に満ち溢れていた魔術師の姿はない。死しても生者を求める屍人だった。

 

「“黒”のセイバー復活という不測の事態はありましたが…、大聖杯を手にした今、関係無くなりました。…ダーニック、貴方は此処で退場です。聖女の祈りでどうか、安らかな眠りを」

 

「…待ってくれ。待ってくれ待ってくれ待ってくれ待ってくれ待ってくれェェェェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」

 

  遂には誰かに引きずられるかのように後ろへ下がる吸血鬼は床に爪を立てる。絶叫は庭園全体に広がる勢いで響き渡る。

  少年は指の間に挟んだ黒鍵から刃を生やし、ポツリと魔術師の成れの果てに呟いた。

 

「言っただろう?世界を破滅に追いやるしか能の無い貴様に、この大聖杯は断じて渡さないと」

 

  床に立てていた指を刃で斬り落とした。

 

「クソォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!」

 

  唯一の楔が無くなり、後ろにへ引きずられていく吸血鬼。望んだ大聖杯は遥か遠くになっていく。少年は同情も憐れみも含んだ瞳で消えていく吸血鬼の姿を捉え続けた。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

『不遜賜わす黄金林檎』

 

  その宝具の能力は単純なものだった。『相手を引き寄せる』それだけだった。サーヴァントを屠る力もなく、弱体化させるわけでもなく、守護を与えるものでもない。

 

  一つあれば、一騎のサーヴァントを引き寄せる。

 

  二つあれば、黄金の林檎の魅力を感じたもの全てを引き寄せる。

 

  三つあれば、距離や宝具の効果、対魔力の抗いを無視し、黄金の林檎の元へと引き寄せる。

 

  容姿と真名を知ってれば宝具の効果も向上し、魅力の効果に近いものとなり、自ら黄金の林檎の元へと向かうようになってしまう。

  それだけの力だがーーーそれがもし、“黒”のセイバーのような、“赤”のセイバーのような一撃で地形を変える程の威力を持つ宝具と組み合わされればどうなるのか?

  “赤”のランサーや“赤”のライダーのような守護宝具が無ければ防ぐ事は出来ないだろう。

 

  ゆえにダーニックと“黒”のランサーはできるだけバーサーカーに多くのサーヴァントを接触させて、可能ならば七騎全員をバーサーカーの元へ集め、“黒”の六騎の宝具で囲み一網打尽にするという作戦を立案していた。

  しかしそれは、“黒”のセイバーの消滅や“赤”のアーチャーの登場、“黒”のバーサーカーの作戦無視や単独行動により実現ができなかったが。

 

  林檎に引き寄せられた者を破滅へと導く神性にして魔性の果実。トロイア戦争の引き金となり、純潔の狩人が娶られる理由となったリンゴこそがーーー

 

 

 

「……“黒”のバーサーカーの宝具か」

 

  空中に浮かぶ“二つ”のリンゴ。黄金の光を放ち、その光で大聖杯へと走り出した吸血鬼を誘い込む。大聖杯へと続く道から絶叫が響き、全てのサーヴァント達の耳に入ってくる。それぞれが武器を構え、吸血鬼を待っている。“赤”のライダーも吸血鬼を倒す為、ルーラーが提示した作戦通りその時を待つ。

  吸血鬼が自分達の前に姿を現わすのも後僅かだろう。緊張が周囲を満たすなか、ライダーも視線をズラし、隣同士で立つ二人を見た。

  槍一つに持ち直して力を込めた一撃を狙う“黒”のバーサーカーと弓を限界まで引けるだけ引き絞り宝具の守護を貫く矢を放とうとする“赤”のアーチャー。

 

  ヒッポメネスとアタランテ

 

  二人が夫婦として結ばれる事となった逸話が眼前で再現されている。二人の心中は今、何を考えているのか。

  横顔からは何も読み取れない。ただ、やがて訪れるその時をひたすらに待ち続けている。

 

「ーーー来ます」

 

  永く感じた時間をルーラーが閉ざす。彼女の察知能力が、吸血鬼の接近を感じ取った。

  そうして吸血鬼は姿を現した。

 

「ーーーあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

  出現を見計らい、バーサーカーが黄金のリンゴを消すとルーラーが叫ぶ。

 

「ーーー今です!」

 

  まず放たれたのは“黒”と“赤”のアーチャーの矢。二つのは矢は吸血鬼の両足の甲を貫き、床と結びつけた。

  次は三つの槍と聖旗が吸血鬼の身体を貫く。聖なる気を帯びた旗の先端が刺さり、吸血鬼の肉体から焼けるような煙が漂う。

  そうして最後に“黒”のキャスターがゴーレムを操作し、流体となったゴーレム達が吸血鬼を拘束した。

  串刺しとなった吸血鬼の口から血が吐き出される。絶望と嘆きが表情に色濃く現れる吸血鬼を前に、聖女は祈るように聖言を紡いだ。

 

  “渇いた魂を満ち足らし、飢えた魂を良き物で満たす”

 

  “深い闇の中、苦しみと鉄に縛られし者に救いあれ”

 

  “今、枷を壊し、深い闇から救い出せる”

 

  “罪に汚れた行いを病み、不義を悩む者には救いあれ”

 

  “正しき者には喜びの歌を、不義の者には沈黙を”

 

  “ーーー去りゆく魂に安らぎあれ”

 

  シュウシュウと、肉体から煙が変わっていく。肉だけではない、存在までもが消え去ろうとしていた。聖言による浄化、かつては敬虔な信者で王だった者、望みに為に生涯を捧げた魔術師だった者も、空気に溶け、消えていった。

 

 “ーーーあぁ”

 

  その言葉を誰もが聞いた。その声の主は誰だったのか。救われたように、疲れが染み出したかのような安らかな呻きを確かに耳にした。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

  吸血鬼が空気となって消え、“黒”のランサーの消失をルーラーは己の裁定者としての感覚で確認した。これで、世界の危機を防げたはずなのに。

  不安が消えていない。吸血鬼を屠ったはず、だが己の啓示はーーーこれではないと告げている。

 

「……では」

 

  カンッ!

  振り返ると矢を放った“赤”のアーチャーとそれを払う“黒”のバーサーカーがいた。

  吸血鬼を倒すという共通の理由が無くなったいま、“赤”と“黒”の戦争は再開された。

 

「申した通り、汝の命は私が貰い受けるぞバーサーカー」

 

  “赤”のアーチャーの宣言に互いのサーヴァントが各々構えた。

  聖杯戦争のルール違反に抵触しないならば、ルーラーは中立として監視するのみ。一歩後ろへ下り、サーヴァントの戦いに巻き込まれない距離まで移動した。

 

「…あー、やっぱりそうなるよね?」

 

「当たり前だ。こうなるのが自然な形だ、何を迷うことがある?」

 

「…だよねぇ」

 

  バーサーカーも説得は無理だと槍と小剣を構えた。悠然とだが、轟然と空気を滾らせる。それに対するように“赤”のアーチャーも、他のサーヴァントも戦意を高めた。

 

  だが、バーサーカーの内心はすごく焦っていた。

  何故ならばこちらが明らかに不利な状況だ。“黒”のランサーが脱落し、“黒”のサーヴァントは三騎。相手も三騎だが一人一人が弩級の英霊達だ。こちらにも大賢者とゴーレム使いの魔術師がいるものの相手が悪すぎる。

  しかもバーサーカーは間違いなく、先ほどの草原の戦いのようにはアーチャー相手に戦えない。前は雨が降っていたため、自分のスキルがステータスの補正を行ってくれたが此処は庭園内。雨も水も少ない。

  確実にやばい。“黒”のアーチャーや“黒”のキャスターもそれに気づいているに違いない。

 

「…ああ、そういえばアタランテ」

 

  だからこそ、バーサーカーはせめてもの足掻きと時間稼ぎに打ってでる。

 

「そちらのキャスターのマスター君は何者だい?」

 

「キャスターの…マスター?」

 

  戦力差的に明確な問題があるならば、策略で対処すればいい。残念ながらバーサーカーにはそれほどの知略がないので“黒”のアーチャーに丸投げだが、そんなバーサーカーの意思を汲み取って“黒”のアーチャーは思考をフルスロットルさせて戦略を構築させてくれている。

 

「ああ…名前は、シロウ君だったかな?」

 

  とにかく話題を出す為に頭にこびりつく危機感を覚えた少年の名前を出す。

 

「…シロウがどうかしたか」

 

「いやぁ、あの子なんでかは分からないけど僕と一騎打ちできるぐらいに強かったからね。仮にも英霊である僕とだよ?どういう手品か分からないけど凄いなって」

 

「なに?」

 

  “赤”のアーチャー、いや、“赤”のサーヴァント達に衝撃が走る。それぞれが驚愕を顔に張り付けて、目を見開かせる。それは“黒”のサーヴァント達もだった。この場にいるバーサーカー以外の者達が驚きで声を失った。

 

「あ、あれ?」

 

  予想以上の効果にバーサーカーも戸惑う。普通ならそれは常識的に考えてありえないものだった。どれだけ現代に最強と謳われる魔術師が揃ってもサーヴァントに勝つことなど到底不可能なのに、それをやり遂げるマスターがいるということはあり得ないにも等しいことなのだ。

 

「ーーーバーサーカー、それは本当なのですか?」

 

  勿論、大戦のバランサーたるルーラーも聞き逃さなかった。いつの間にか問い詰めるように接近していたルーラーに驚きつつもバーサーカーは頷いた。

 

「あ、ああ…ちょっと前に森で戦ったけど、彼は魔術や技術で僕と対等に戦えていたんだ」

 

  ルーラーはバーサーカーの言葉に嘘偽りないと直感した。それと同時に啓示が舞い降りる。

 

  ーーー“黒”のランサーは脅威ではない。

 

  この聖杯大戦を、世界を狂わせる程の脅威を“黒”のランサーと勘違いしていた。彼ではない、もっと違う誰かを探せと、啓示していたのだ。

  ルーラーの目的は調停。聖杯大戦が通常通り動くように見定めるのが仕事だが、その仕事はまだ終わっていない。終わらせてはならない。

 

「バーサーカー、そのシロウという方のことをもっと詳しく」

 

 

 

 

 

「それ以上は、私本人からで結構ですよ」

 

 

 

 

  ルーラーの言葉を遮り現れた少年に、全員の目線が集まった。そして、バーサーカーを除く全員が絶句する。

 

「…そん、な」

 

  その少年が纏う雰囲気、それは間違いなく英雄としての霊格を露わにしていた。ルーラーは息を呑む。

 

 

 

  目の前の少年はーーーサーヴァントだ。

 

 

 

  それは特に問題はない。かなり珍しいことだがサーヴァントがマスターを務めていてもルールを逸脱しているわけではない。だが、彼のサーヴァントとしてのクラスが問題だった。

 

「ーーー初めまして、()()のルーラー」

 

「…十六人目の、サーヴァント…!」

 

  バーサーカーの言葉通り、マスターとして参加しているサーヴァントに“黒”のアーチャーも、冷静を保てない。それは“赤”の面々も同じだった。まさか、マスターと思っていた少年がサーヴァントだったとは夢にも思わなかっただろう。

 

「十六人目ではないんですよ、ケイローン。十六人目はそこにいるルーラーです。私は厳密に言えば一人目のサーヴァントです」

 

「アサシンのマスター…我らのマスターに何をした!?」

 

  怒り吼える“赤”のアーチャーの問いかけに少年は笑い、片腕を掲げて袖を捲りあげた。全員がそれを見て息を呑む。

  腕に刻まれた十八画の令呪。アーチャー、ランサー、ライダー、バーサーカー、キャスター、アサシン、計六騎の令呪が少年の腕にあった。

 

「平和的にマスターとしての権利と三画の令呪を譲ってもらいました。心配せずとも、貴方がたが現界するに当たって消費する魔力など、大聖杯が接続した現状では取るに足らない量です」

 

「平和的にーーー?」

 

  誰の呟きとも知れずにも、少年は頷いた。

 

「何しろ、“赤”のランサーは人の嘘を見抜くに長けた施しの英霊。だから、出来うるだけ嘘をつかず、尚且つ自分達の狙い通りにことを運ばねばならなかった。私の命令を、わざわざマスターに経由させていたのはそのためです。そう、マスターたちは嘘をついていない。彼らは己の判断で指示を出したと思っている、今も…ね」

 

「ーーーそう。私が知覚していたのは、神が警告していたのは貴方だったのですね」

 

「それはどうでしょうか。私は神に逆らっているつもりは毛頭ないのですが」

 

  ようやく落ち着いてきた頭脳でルーラーは全てを悟ることができた。人の身を借りての召喚。それから全てがおかしかった。十四騎という前代未聞の事態に、異例の召喚事体が問題だったんだ。だが、分かった。目の前の少年の正体を把握できたことから。

 

「貴方は…冬木において第三次聖杯戦争で召喚されたルーラーか」

 

「ええ。彼らの正式のマスターとなる前に、貴女と顔を合わせてしまっては全てが瓦解する。何しろ、貴女には令呪がある。俺の夢は、誰にも邪魔はさせない」

 

 

 

 

 

「何が目的なのです。天草四郎時貞」

 

 

 

 

 

「知れたこと。全人類の救済だよ、ジャンヌ・ダルク」

 

 

 

 




AUOもしようか。
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