少しずつですがヒッポメネスの能力を開示していきますが、一応ネットで調べた上でできるんじゃね?とか、こういうのが作者は好きとか入ってくるのでどうか温かい目で見てください。
では、どうぞ
「あれ、ライダー何しているんだい?」
「あ、バーサーカー」
深夜、マスターであるカウレスが眠ってしまったためする事もなく、ミレニア城塞の廊下を訳もなく歩いていたバーサーカーは肩にマントで包んだ少年を担ぐライダーを見つけた。ライダーはバーサーカーの姿を見つけるなり、笑顔で近づいてきた。
「ねえねえバーサーカー、悪いけど君の部屋借りていい?」
「僕の部屋? すまないけど僕用の部屋は無いよ」
「え、そうなの?」
バーサーカーはカウレスが寝ている時は霊体化して部屋の隅で待機したり、城塞の見張り台で雲の流れを眺めている。昼間はカウレスと作戦を練ったり、ライダーに引っ張られて城下に遊びに行ったりとするため部屋を使わない。無論、バーサーカー自身が望めば与えられるのだが疲れも眠りもしないサーヴァントの肉体なので、必要ないと思っている。
「うん、城下へ行く時だって君の部屋で着替えていくじゃないか」
「そういえばそうだった。なら、アーチャーの部屋に行こう」
踵を返してアーチャーの部屋に向かいだす。バーサーカーは僕もついていくと、後ろからついていく。 よく分からないがライダーを一人にしておくと何かしらトラブルを起こす。この数日間、身を持って理解しているため肩に担いだ少年を案じ、ついていくことにした。そして、ふと思い出す。
「…そういえばホムンクルス達が何か探していたねぇ」
担がれている少年の顔を覗く。白い髪に白い肌、その外見は城でせっせと働きーーーサーヴァントの魔力供給のために鋳造されているホムンクルス達の容姿と酷似していた。
サーヴァントはマスターを楔に魔力で現界している。強力な宝具を使用するにも魔力は必要不可欠。真名を覚醒するための魔力が不足すれば、無理に覚醒させてもその後に消滅、敗退の恐れがある。魔力の消費が少ない宝具であれば、連続で使用できる。
サーヴァントが勝つには魔力が必要で、魔力無くして勝機を見出すのは難しい。
マスターの持つ魔力保有量が多ければ多いほど、有利になる。しかし、ユグドミレニア一族は発想を変えた。
魔力を他のところから引っ張り出し、サーヴァントへ供給しよう。
それは魔力の経路を分割し、ホムンクルスから魔力を搾取すればいいという残酷な提案だった。
その提案は通り、ユグドミレニアの一族はホムンクルスの鋳造へ取り掛かり、魔力をサーヴァント達に供給させることを実現した。
ホムンクルスは名の通り、人造人間。錬金術で作られた人間だ。感情に乏しく、魔術回路を軸として肉体を形成されている。短期間で成長するため、短命。倫理的な問題は度外視し、聖杯を手に入れるために必要な手段として鋳造され続ける生命体。ひどい言い方をすれば電池だ。魔力を生み出すための電池。
そのことに思うことがないわけない。必要だと割り切ることは可能だ。マスターに勝利と聖杯をと誓った以上、あらゆる手段を持って戦いに挑むつもりだ。だが、目を背けていいものではない。
(彼らの命を食い散らかしているのは僕達だけどなぁ…)
だからこそ勝たなければならない。彼らが生まれた意味を無駄にしない。そのためにも勝とう。バーサーカーは勝たなければならない理由を増やす。それが心を押し潰すことになるかもしれないと分かっていても。
「アーチャー。ボク、ライダーだけど。部屋に誰かいるかい?」
「ライダー?いえ、誰もいませんが」
ライダーが扉をノックし、帰ってきたのは青年の返事。ライダーは扉を開く。扉の向こうには広大な森のような清廉な気配を持った青年、“黒”のアーチャーとして召喚された大賢者ケイローンがいた。
「おや、バーサーカーもいたのですね」
「失礼します、アーチャー」
バーサーカーは敬意を忘れず頭を下げる。無理もない。バーサーカーことヒッポメネスが生きた時代にて、かの大英雄達が師事した大賢者だ。生前会ったことなくとも、その聡明さは広く聞き及んでいる。
バーサーカーの振る舞いにアーチャーも頭を下げて返す。礼には礼を。丁寧な返しにバーサーカーが逆に戸惑うも、ライダーが知ったこっちゃないとアーチャーの部屋にホムンクルスの少年を担いで入る。アーチャーは即座にそれを察して、三人をベッドに案内した。
「キャスターが追っているホムンクルスですね」
「そうだと思う」
ライダーはホムンクルスをベッドに載せると、ホムンクルスの少年を包んでいたマントを剥いだ。気を利かせたアーチャーがライダーにタオルを渡すと、ライダーはホムンクルスの少年の体を拭き、借りたローブを着せてやる。
バーサーカーはライダーの一通りの作業が終わると、ホムンクルスの少年の額に手を乗せた。
「バーサーカー?」
「ーーー
延々と澄み渡る魔力の鼓動。
浸透し、把握する。血、血流、血管、骨髄、骨格、肉、筋肉、臓器、魔術回路。一から十へと順番に。一粒の雫が水面に落ち、波面が広がるようにわかっていく。他者の流れを知る。血を水と考え、血流を波として把握。
そして至り、“治癒魔術”を発動。ホムンクルスの少年の破れた血管を修復。血流を正し、肺の活動を補助する。
荒々しい呼吸をしていたホムンクルスの少年は徐々に穏やかに呼吸が整っていき、次第に落ち着いて眠りはじめた。
「…うん、これでとりあえず大丈夫かな」
「バーサーカー、貴方は魔術が使えるのですか?」
アーチャーが目を見開いて驚いている。バーサーカーは少しだけ恥ずかしそうに頬をかく。
「まあ、嗜み程度…、と言えば魔術師達が憤慨しますがキャスターのクラスには当てはまらない程度には扱えますよ」
「それよりも彼はどうなんだい? というより魔術で何をしたの?」
ライダーはバーサーカーが魔術を使えることよりホムンクルスの少年の方が気になるようだ。
「僕がしたのは体の内部の状態を調べたことと、魔術回路が暴れて傷ついた血管の修復さ。
見た限りでは使用された彼自身の魔力が自分の体に耐え切れず破裂した、って感じだね。そして何よりも、虚弱だ。産まれたての赤ん坊のように肌も血肉も骨も柔らかい。人造人間なんて見たことないけど…うん、強く造られていないの、かな?」
魔術でホムンクルスの内部を調べ、傷ついた箇所を治癒した。内部を調べた際にホムンクルスの肉体が如何に虚弱であるか悟った。このホムンクルスの少年は魔力供給用として鋳造されたのだろう。戦闘用に鋳造されたホムンクルスとは違い、歩くことを必要されていないため、皮膚も筋肉も赤子並みに弱い。だが、それとは真逆に魔術回路は一級品。それを活かせる肉体ではないため、魔術を使うと体が傷つく。
「そうか…、彼は赤子なんだね」
「バーサーカー。そのことを踏まえ、彼は何年生きていけると考えますか?」
「…そうですねぇ。よくて…三年かな? 肉体は脆いし、元々短命ですから」
残酷な程に短い余命。三年という短さにライダーも肩を落とす。しかし、ライダーは重くなった空気を振り切らんばかりに口を開いた。
「…ベッドを汚したね。申し訳ない」
「それは構いません。…ですが、一つ。何故、助けたのですか?」
それはバーサーカーも疑問に思った。何故ライダーは彼を助けたのだろう。アーチャーの問いに、ライダーは当たり前のように答えた。
「助けたかったからだけど?」
「彼はキャスターが追っているようですが?」
「あはは、知ったこっちゃなーい」
「…まあ、いいのかなぁ?」
ライダーのシンプルで英雄らしい行動には好意を持てる。助けたかったから助けた。なんとも英雄らしく、誇らしい。しかしその行為はライダーとホムンクルスの少年以外にどのようなことに繋がるとは一切考えていないらしい。
アーチャーも似たような考えに至っているらしい。ため息をついているも、その行為は間違いではないとも思っている。戦いに勝つのも重要だが、英雄の本分を忘れるほど窮地ではない。彼を見逃すことぐらい許されるだろう。
「…少し、この部屋を空けます。人が訪れることはないでしょうが、ノックをされても返事はしないように」
「ありがと。じゃ、しばらく居させて貰うね」
「すいません。色々迷惑かけてしまい」
部屋を去ろうとする寸前、アーチャーはライダーに問いかけた。
「君は、最後まで責任は持つつもりですか?」
ライダーはベッドで眠るホムンクルスの少年に視線を注ぐ。寿命は三年。キャスターが追っている。もし、キャスターと城塞の追っ手から逃れても脆弱な肉体で生きていけるのか。責任を持つことは彼の人生に責任を持つこと。聖杯大戦という短い期間で彼と関われるのは僅か。どう責任を持つか。どうやって彼を『助ける』のか。
ライダーには分からない。分からない時は心赴くままに決める。
「ボクはボクが、納得いくまでは助けるよ。見捨てるなんて、できない」
ライダーの混じりっけのない言葉に厳かに頷くと、アーチャーはバーサーカーへと視線をズラす。アーチャーの瞳の奥にある考えを汲み取り、バーサーカーは首を縦に振った。
「僕も付き合うよライダー。ここまで来て知らんぷりするのもできないしね」
「え、本当!? さすがヒッポメネス〜!!」
「ははは、まあできるのは治療ぐらいだけどね」
ーーーここで一人の少年の運命が廻り始める。この聖杯大戦において、周りの運命さえも捻じ曲げる存在として。
ーーーそして、また一つ。運命が加速していた。
○ ○ ○ ○ ○
時間は朝。ライダーがホムンクルスの少年を救った前日のことである。
シキジョアラ、トゥリファスに最も近い都市である。そのシキジョアラの山上教会の内部、祭壇にて一人のマスターと一人のサーヴァントがいた。
マスターは神父服を身に纏う二十歳にも届かない神父。サーヴァントは暗闇のドレスを纏った退廃的な美女。どちらとも黒の陣営と敵対する“赤”の陣営のマスターとサーヴァント。
マスターの名は“シロウ・コトミネ”
サーヴァントの美女は“赤”のアサシンである。
マスターが先ほど訪れた人物、“赤”のセイバーのマスター獅子刧界離とセイバーは他のマスターとサーヴァント達の共同戦線を断り、単独で行動すると言われた。
断られたなら断られたでいい。こちらもこちらで動くのみ。二人は聖杯大戦をどう動かそうと画策しているところにとんでもない知らせを耳にした。
「バーサーカーがトゥリファスに移動ですか?」
シロウはその報告を中世ヨーロッパの洒脱な衣装を身に纏った伊達男ーーーキャスター、シェイクスピアに聞いた。
「ええ、どうやら仕留めるべき相手を見定めたようで」
へつらいの笑みを浮かべて申すキャスターにアサシンーーーセミラミスが苦々しげな表情を浮かべる。
「お主…笑い事ではないぞ」
「大丈夫ですぞ女帝殿。アーチャーが追っています。押しとどめれるかは五分五分でしょうが…まあ、恐らく失敗に終わるでしょうが」
「やれやれ…、それは困りましたね」
その割にはのんびりとした口調である。黒と赤、両陣営サーヴァントは揃ったものの戦争の準備が整った訳ではない。ユグドミレニアにはサーヴァントが待ち受けているというのに、バーサーカーが突貫しても返り討ちにあうだけだ。サーヴァントは替えが効かない。それが例えステータスが劣る二流だとしてもだ。現代の魔術師が勝てる存在ではないのだ。
「如何とする、マスター? まだ、我の宝具は準備ができておらぬ。この状況で攻め入るのは愚策。バーサーカーは見捨てるしかないぞ」
「『災厄よ、やっと動き出したか。後は汝の思うがままに!』…という訳ですな」
「ふむ、つまり、唆したのはキャスターですね?」
ピタリとキャスターの動きが止まる。アサシンは激昂しキャスターに吼えた。
「トゥリファスの場所を教えたのか!!」
「ああ、このシェイクスピア、彼の狂戦士の満ち溢れた苦悩を見ていられずに、何もせぬわけにはいきませんでしたので」
言い訳も悪びれもしない。バツの悪そうな顔をしたがそれまで。シェイクスピアは作家である。それゆえそこにストーリーがあるのなら綴り残さねば気が済まない。なによりストーリーをこよなく愛している。ストーリーを求める故、時に味方陣営が窮地に陥るのも承知の上で事態を掻き乱す。
「このっ…! …はあ。相手するだけ無駄か…」
女帝も呆れずにはいられない。湧きだった憤怒も呆れになるほどになってしまった。
「まあ、こうなった以上仕方ありません。アーチャーにはバーサーカーの後方支援を要請。ただし、状況が不利ならば即時撤退を。あのバーサーカーが止まることなどあり得ませんからね」
「わかった。使い魔を飛ばそう」
「お願いします。私はこれから監督官の仕事をせねばならないようなので失礼します。それとキャスター、貴方はじっとしておいてくださいね?」
そうしてシロウとキャスターと別れたセミラミスは鳩に伝書を持たせてバーサーカーを追うアーチャーへと指示を飛ばそうとし、ふとある事を思い出し、艶然と微笑んだ。
「運命とは残酷よな。互いに求めるものがあるとはいえ、殺しあうこととなるというのは」
こちらのアーチャーとあちらのバーサーカー。シロウから教えられたことが正しければ、バーサーカーにより齎される戦闘の最中、殺しあうこととなるのだ。
あの弓兵は知らない、だが知ることになるであろう。如何に戦争が残酷か。聖杯が冷酷か。運命が酷薄か。
いや、残酷なのはあの“女狩人”かもしれない。存外あの弓兵は淡々と矢を“黒”のバーサーカー目掛けて放つかもしれない。
「さて…、
腕を振って鳩を飛ばす。青い空へ羽ばたいた鳩は翠緑の女狩人へと飛んでいく。
赤のアーチャーは何処の獅子耳なのか…。