碧く揺らめく外典にて   作:つぎはぎ

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生存報告とリハビリとこの間のアポアニメを見ての投稿

エタっていてすみません。近々再開させようと思ってます。


何処かでいつかのアフター

「…むぅ」

 

 カルデア、そこには一人のマスターにより様々な時代、神話、逸話より英霊の座へと導かれたサーヴァント達が集まっていた。

 人理焼却という世界の危機に多くのサーヴァントたちがマスターの召喚に応じ、カルデアの特殊な機構により籍を置くサーヴァントの数は優に三桁を越えている。

 ゲーティアを打破し、無事未来を取り戻した世界は彼等の残党を排除すべく急ぎ足で駆け回り、されど一時の平和を享受していた。

 

「……むぅ」

 

 そんなカルデアの地下施設の一つ、地下庭園。

 職員のセラピーの目的で作られた地下庭園は今や食料の確保の為の農作業やキャスター達の魔術触媒の確保地にされてはいるが、原型を留めているところもある。

 世界各地により集められた花々が咲き誇る花畑だ。太陽に近い光を放つ照明や空調機による空気の換気により自然が育つ最適な環境を保持できている。

 お茶会や昼寝、多くの用途で使われているそこに不穏な空気は流れず、穏やかな一時を過ごせれることは間違い…なかったはずだった。

 

「………むぅ」

 

 花畑より少し離れた木の陰に、不機嫌そうに唸る少女が一人。

 翠緑の服に獅子の耳と尻尾が特徴なアーチャーのサーヴァント、つまり純潔の狩人ことアタランテが眼光を鋭く光らせていた。

 この長閑な庭園には似つかわしくない棘つく雰囲気を全身から放ち、目線の先にある光景を睨んでいた。

 

「……なんだね〜」

 

「……ぅ、そうそう」

 

 花畑の真ん中で仲良さげに話す二人の男女、碧の髪に獅子の耳を生やすアサシンのサーヴァント、ヒッポメネスとオッドアイと身体の所々に機械が組み込まれているセイバーのサーヴァント、フランケンシュタインだ。

 

 先日行われたとある女神によるレースによって、バーサーカーからセイバーへと霊基を変える謎理論チェンジを果たしたフランケンシュタインはセイバーになったことによりバーサーカーの時には不可能だった会話が可能となった。

 それにより、今まで閉鎖的だったコミュニティが解放され、今では解放的なコミュニケーションが可能となったのだ。

 

 まあ、それはいい。アタランテにとってそれは些細なこと。会話ができるようになったのならそれはいいことだ。進んでやるべきだ。神代の人物ゆえ、近代の油や鉄の匂いが漂う彼女に対して苦手意識はあるがそこまでの忌避感もない。

 

 彼女にとって問題なのは、その彼女とヒッポメネスが二人っきりでいることだ。

 

 ヒッポメネスがアタランテ以外の女性といることもそう珍しいことはない。

 

 時にアルトリアに頼まれて甘いリンゴを持っていき、アルトリア・オルタにパシられ、ネロに侍るよう命令され、ステンノとエウリュアレにパシられ、ジャックとナーサリーの遊び相手になり、モードレッドにパシられ、ナイチンゲールに消毒され、メイヴにパシられ、スカサハに死にかけにされ、イシュタルにパシられ、ケツァルコァトルに関節技を喰らい、ペンテシレイアに殺されかけ、アルテミスに何度もパシられている。

 

 カルデアに来て以来から何度も走り回る姿を見るゆえ、全くもって気にしていなかったが今回は他のソレと違う。

 ふらっとヒッポメネスを見つければ他の女性陣とは違い、何やら違う雰囲気でフランケンシュタインと歩き、ここに到着していた。

 

「………むぅ」

 

 話す様子はまさに楽しげで、こちらのことに気づいている様子はない。アタランテの訝しい視線はますます強くなるが、ヒッポメネスがそれに気づくことはない。

 

「……ああ、これだこれ」

 

「……ぅ、これー」

 

 花畑に手を伸ばし、花を一輪摘み取ったヒッポメネス。その花を見たフランケンシュタインは同意するように何度も頷く。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとー」

 

「……………むぅ」

 

 そのままフランケンシュタインに花を渡す行為に唸りが大きくなる。

 一輪の花を貰ったフランケンシュタインは嬉しそうに花を掲げている。

 

「じゃあねー」

 

「うん、バイバ〜イ」

 

 その花を受け取ると、フランケンシュタインは手を振りながら去っていった。若干ゆるふわ気味な彼女が去るのを見送ったアタランテはジトッと一人残ったヒッポメネスへと視線を戻す。ヒッポメネスは未だそこに留まり、腰を深く落とし休息していた。

 

「・・・・・」

 

 

 

 そんな背中を見ながら、アタランテはそっと動いた。

 

「おい」

 

「うわっとぉ!?」

 

 ビクッと肩を跳ね上がらせながらヒッポメネスが振り返ると、そこにはアタランテが立っていた。

 

「アタランテ? どうしたの?」

 

「…私が用もなく此処にいたら何やら不味い事でもあるのか?」

 

「いや、ない…ですけどぉ……」

 

 あれ?なんか怒ってません?

 

 ヒッポメネスは額から汗を流しながら仁王立ちするアタランテを見上げた。立ち位置的な関係からアタランテはヒッポメネスを見下ろしているのだがその圧迫感が凄まじい。顔の陰が妙に濃く、空気がピリついている。

 これはアレだ。オリオンの浮気が発覚し、天罰を下さんとせんアルテミスのアレと同じだ。

 

「あの、アタランテ「なんだ」…様」

 

 やばい、感じたことのない恐怖を覚える。ヒッポメネスは生前にも感じたことのない恐怖に冷や汗が脂汗へとチェンジしかけていた。

 

「…随分仲がよろしいのだな」

 

「へ?」

 

「あの機械混じりのバーサーカー、いや、セイバーと」

 

「フランちゃんの「ん?」…フランケンシュタインさんのことですか……」

 

 ちゃん、のところでNPが増量したような気がする。今宝具を喰らえば星を大量生産されそうな予感だ。戦々恐々と、いつの間にか正座となってアタランテと向き直っている。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

 そうして会話が途切れた。アタランテからの言葉を待っていたヒッポメネスはチラリと彼女の顔を覗き見るが、アタランテは口を開けては閉じていた。何やら何か言いたい、というよりかは何を言えばいいのか困っていた。まるで衝動的に行動してはみたものの、その行動した理由がアレだったから己に説明がつかなくなったような、そんな様子だ。

 

「……すまん」

 

「え?」

 

「…いや、その」

 

 そういって、アタランテはヒッポメネスから顔を背けたまま座った。

 

「…何を言えばいいのかわからなった、というか頭を働かせたら自分が何をやっているのか分からなくなって、何を言えばいいのやら…」

 

「…えっと、ごめんなさい」

 

「なぜ、謝る」

 

「こういう時って、大抵僕が悪いんじゃないかなって?」

 

「……いや、うん、まあ。多分…私もか?」

 

「そこで疑問形なのかい? ふふっ」

 

「…む」

 

「いてっ」

 

 くすっと笑ったヒッポメネスにアタランテはペシっとチョップする。

 

「茶化すでない」

 

「ごめんごめん。じゃあ、君はなんで僕に謝ったのかな? そこから考えようよ」

 

「……………あのセイバーと、二人っきりで何をしていた」

 

 長い葛藤があったが、ギリギリ聞こえる小声でそう答えた。

 

「あぁ、花を探していたんだ」

 

「花?」

 

「うん、思い出の花を。僕も心当たりがあったし、無関係でもなかったから」

 

 そこでアタランテは首を傾げた。無関係ではないとはどういうことなのだろう。フランケンとヒッポメネスの仲は良好ではあるがよく行動を共にするほどではない。フランはよく“赤”のセイバーだったブリテンの騎士とよくセットで見る。特異点の探索でも頻回に組む事もない為、それらしいことはなかったと思うのだが。

 

 そんなアタランテの疑問に気づいたのか、ヒッポメネスは笑って答える。

 

「君は僕がバーサーカーになった時のことを、覚えていてくれているかい?」

 

 

 

 

 

「ん? どうしたんだよフラン」

 

 ざわざわと賑わう食堂で、水着姿のモードレッドことサモさんはせっせと手を動かすフランを見つけた。

 

「ぅ、押し花」

 

「押し花?」

 

 マスターか、それとも他の職員かサーヴァントに貸してもらった工具を使い、失敗しないようにゆっくりと作業する。

 

「さっき、ヒッポメネスとはなしておもいだしたの」

 

「あん? あの嫁バカか?」

 

 嫁バカと聞いて、インドとエジプトの王が振り返ったが気にしないことにした。

 

「うん、これ、大事なおもいで」

 

 そこで完成した押し花をサモさんに差し出した。受け取ったサモさんは何処かで見たような、でもそうでもないようなそんな気になったが「へぇ」と答えた。

 

「これ、マスターとなんかあったのか」

 

「うん、あったんだ」

 

 サモさんは今のマスターのことを頭に浮かべた。

 だがフランは違うマスターのことを頭に浮かべた。

 

 今のマスターと同じくらい平凡で、最初は苛立ったけど歩み寄ってくれて、最後には悲しみを潜ませて私の悪足掻きに全力で付き合ってくれた、最高のマスターの事を思い出した。

 

 フランは、満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

「…くっしょん!!」

 

 少年は鼻をすする。ここ最近、空気が冷たくなってきたせいかやたらくしゃみが出てしまう。そろそろ冬用の服を出さねばと心に決め、そっと席を立ち上がる。

 鞄に次の講義の為の教本と飲みかけのリンゴジュースの蓋を閉めて押し込む。

 

「あっ、と」

 

 そこで机から離れようとした時、忘れものを思い出す。それは机の隅に置かれていた。きっと無くても、問題はないがあったらあったで役に立つ。

 

 トゥリファスに咲いていた、白い花の押し花は。

 

「ーーーじゃあ、行ってくる」

 

 少年しかいない空間で少年は何処かにいるはずの誰かに言う。そして、振り返る事もなく少年は外へと歩き出した。

 

 

 

 かつて確かにあった、誰も知らない戦いの終わりと同じように。

 

 





「そうか、そういえば汝も奴も()()だったな」

「ああ、懐かしい記憶さ。…ところでさ、アタランテ」

「なんだ」

「僕がフランちゃんと一緒にいて怒ったってことはさ。それって…」

「・・・・・」

「あ! 待ってよアタランテ!」

「・・・・・!」

「早い! 早いってー!置いてかなんでぇ!!」
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