不本意ながら奴隷を買うことになった《凍結》   作:こめぴ

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今回はちょっと不快に思う人が出てくるかもしれません。


第10話「初めてのお食事」

食道にやってきました。

だだっ広いテーブルに料理がどんどん並んでいきます。

よくあるフルコースみたいに一人一人別々に配られるのではなく、一種類の料理がたくさん載っている皿から各々が好きなように取って食べるという平民スタイルです。

せっかく貴族なのにここまで平民のような生活スタイルなのはどうなんでしょうか。

 

しかも驚くことにほかのメイドや執事も席に座っていきます。まさかとは思うのですが、一緒に食べるのでしょうか。

 

「今君が思っている通りだよ。ここでは飯はなるべく一度に取ることになっている。食べれるのにわざわざ時間をずらすのもめんどくさいしね。実験ばっかで飯をほとんど食べないマッド先生とか例外はあるけど、それ以外は仕事がなければなるべく一緒に食べることになってる。」

 

「はぁ…」

 

なんか知らない人に話しかけられました。いつの間に隣に来たんでしょう。なんというか…目つきがすごいです。この人もこの屋敷の執事なんでしょうか。

 

「ああごめん。自己紹介がまだだったな。

俺はバーリル。ジン様の執事をやってる。

アイラだったよな。話は聞いている。これからよろしく。」

 

そういって手をさし出してきました。これはどういう意味なんでしょうか。

その手を見ながら首を傾げていると

 

「ああ、握手だよ」

 

といってきました。

 

「握手?握手とはなんですか?」

 

「握手を知らないのか?

握手ってのは「よろしく」って意味で俺みたいに差し出された手を握るんだよ。」

 

なるほど。そういうものがあるんですね。

わたしは言われた通りに握りました。

 

「こちらこそよろしくお願いします。」

 

バーリルさんはなぜか満足そうに「うん」といって手を離しました。

 

 

「バーリル、アイラ。喋ってどうしたんだ?はやく席に着いたらどうだ?」

 

そう言われたバーリルさんは席に着きました。

 

「どうしたアイラ。席に着かないのか?」

 

「わたしは…」

 

「いいんだよ。ここは今まで君がいたところとはちがう。別にご飯を食べたっていいんだよ。」

 

「しかし…」

 

「…わかった。じゃあ命令だ。座って俺らと一緒にご飯を食べよう」

 

「…わかりました。」

 

命令には逆らえません。わたしも縁の方の席に着きました。

 

自分がかなりめんどくさいというのは重々承知しています。しかし長年で体と心に染み付いた奴隷精神のようなものが甘えるのを許さないのです。

 

わたしが席に着くとそれを待っていたかのように皆さんが食べ始めました。

食べている間も皆さんそれぞれ談笑していて楽しそうです。ジン様もやっぱり人気があるようで、結構話しかけられています。

メアさんとバーリルさんはあまり食事中は話さないタイプのようで黙々と食べています。

わたしはひとり料理も取らずだまって座っていました。

 

「アイラちゃん食べないの?」

 

隣に座っていたメアさんが話しかけてきました。

 

「もしかして、あまりお腹空いてなかった?」

 

「いえ…そうではなく…」

 

「ほら、これとか美味しいよ。栄養失調なんだから、たくさん食べないと。」

 

わたしの皿の上に料理がいくつか載せられていきます。

べつにお腹が空いていないとかではないのです。

見たこともないものに戸惑っているといいましょうか。

ご飯を食べるときより、ご飯を食べないときのほうが多かったので、食事というのはわたしにとって珍しいことなのです。

 

他の人の見よう見まねで皿に乗っていた肉を一口サイズにナイフで切って口元に持っていきます。

途端に肉の香ばしいにおいが漂ってきます。肉とはこんなにいい匂いだったんですね。

その匂いにつられて唾液もいつもの5割増しで出てきます。わたしの体がこの肉を欲しているのが強く感じられます。

 

今わたしの胸がドキドキしているのは未知の経験への緊張や恐怖か。もしくは初めてのまともなご飯を食べることへの歓喜か。はたまたその両方か。

 

そんなのどっちでもいい。

はやく食べたい。はやく味わいたい。

 

 

思い切って口に入れる。

 

途端に体に電流が流れたかのような感覚がしました。

一口一口この肉の全てを味わうようにゆっくりとゆっくりと咀嚼します。

ジン様は平民の料理を好むと言っていました。

ということはこの料理は普通の人からすると特別美味しいというわけではないのでしょう。これより美味しいものはいくらでもあるのでしょう。

 

しかし今この時わたしはこの肉はこの世で最も美味しいだろうと思えるほどに美味しく感じました。

 

もうそろそろ飲み込んでもいいくらいでしょう。

この味に名残惜しさを感じますが、まだまだたくさんあります。しかもこれから毎日食べられるのです。その事実はわたしを別人のように喜ばせます。

 

わたしは肉を味わいながら飲み込みました。

 

 

 

_________________

 

俺の眼の前ではアイラが初めての飯を食べようとしている。

 

アイラは目の前まで持ってきた肉を凝視している。

アイラから感じられる真剣さをみんなも感じたのか、この場にいる全員がアイラを見守っている。

 

初挑戦をする子供をハラハラしながら見守る親の気持ちがわかる気がした。それはみんなも一緒だろう。

ハラハラしながら固唾を飲んで見守っている。

 

アイラ自身は肉に夢中なのだろう。周りの視線に全く気がついていなかった。

 

ついにアイラが肉を口に入れた。

 

その途端にアイラの顔が溶けた。

もちろん比喩だが、そう表現できるくらいに破顔した。

屋敷に来てからずっと無表情だったアイラが見せた年相応の幸せそうな表情にみんな微笑ましいものを見る目でアイラを見守っている。

実際俺自身も幸せな気持ちになってきた。

 

おそらく、いや確実にアイラはまともなご飯を食べたことがなかったのだろう。

そんな彼女が食べた初めてのまともなご飯。その喜びや美味しさは俺たちには到底理解することができない。

しかし幸せそうなアイラを見ることができてよかったと心から思えた。

 

 

そう思いながら俺たちは幸せそうに肉を咀嚼するアイラを眺め続けた。

 

 

 

 

しかしアイラがその肉を飲み込んだ時だった。

 

 

 

「うっ!」

 

突然アイラは口を押さえうずくまった。

 

どうしたんだ?そう思った途端

 

びちゃびちゃとなにかがこぼれ落ちるような音がした。

 

「アイラちゃん!?大丈夫!?」

 

途端に隣に座っていたメアがアイラの背中をさすり始める

 

 

「どうした?アイラに何かあったのか?」

 

「そこからでは見えないんですか。

それが…どうやら吐いちゃったようで…」

 

「…なに?」

 

吐いた?あんなに幸せそうに、美味しそうに食べていたのに?

確かになんとなく吐瀉物の独特な酸っぱいような匂いが微かにする。

周りではメイド達がその吐瀉物をいそいそと片付けていた。

どうやら本当のようだ。

 

「とりあえずメアはアイラを医務室に連れて行ってくれ。掃除はこっちでしておくから。」

 

 

「いえ、ジン様も行ってあげてください。掃除は私たちでしておきます。」

 

「…すまんなバーリル。任せた。」

 

掃除を彼らに任せて俺、アイラ、メアの3人は医務室に向かった。

 

連れて行かれるアイラの顔は先ほどの幸せそうな表情など嘘だったかのような悲しい顔だった。

 

 

 

 

「ん〜。アイラちゃんの体に特に異常はまりませんね。」

 

場所は医務室。マラードにアイラを見てもらっていた。

入った時は相変わらず実験をしていて、すこし時間がかかったのだがその時のやり取りは割愛。

 

「きっと急にきちんとしすぎたものを食べて体がびっくりしちゃったんでしょう。口に入れるだけならよかったんですが、胃とか食道がまだ慣れてなかった。」

 

なるほどたしかにそれなら納得だ。

 

「なあ。答えたくなかったら答えなくていいんだが、今までどんなのを食べてきたんだ?」

 

 

「……ご主人様がご飯をくれることはありませんでした。なのでわたしは自分で調達するしかなかった。でも牢屋から出ることはできなかったので牢屋の苔や、時々現れる虫やネズミとかを食べてなんとか生き延びてきました。」

 

そう説明するアイラは苦悶の表情をしていた。

辛い過去を思い出して、というのもあるだろう。

しかし俺には俺たちの食事を中断させてしまった。手間をかけさせてしまった。不快なものを見せてしまったことに対しての申し訳なさによるものとしか思えなかった。

 

「ここまで奴隷の扱いがひどいとはさすがのわたしも思いませんでした。そりゃ栄養失調の一つや二つなりますよねぇ。

とりあえず、これを直すために体を慣らすとこから始めましょう。」

 

「というと?」

 

「最初は汁物。次におかゆ。というように食べるものを柔らかいものからだんだん硬くしていくんです。

味は二の次になってしまいますがね。

もちろん栄養失調も治していかないといけないので栄誉面も重要視してね。」

 

「たしかに俺もそれが一番だと思う。メア、明日からこいつの飯作ってやってくれないか?」

 

「承知しました。」

 

「アイラもわかったか?」

 

「…わかりました」

 

そういうアイラの顔には明らかに落胆していた。

普通のご飯の美味しさを知ってしまい、それなしばらく食べられないとなったんだからしかたない。

 

「そのうちまた美味しいものたべれるようになるから。それまで慣らしていこう。」

 

そういってアイラの頭を撫でてやる。サラサラとした髪が心地いい。

 

それでもやはり悲しそうにしていたが、すこし治まったように俺は感じた。

 




最初は吐く時の声も入れるつもりでしたが俺の文才ではうまく表現できなかったし、単純に気持ち悪いなと思ったので自重しました。

不快に思われた方、すいませんでした。
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