不本意ながら奴隷を買うことになった《凍結》   作:こめぴ

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第12話「職場見学にて」

どうも。馬車に揺られている私です。

今日はジン様に言われて職場見学とやらに出かけています。

馬車慣れしていない私は馬車がガタガタ揺れるせいでお尻が痛くてうんざりしています。早く着かないのでしょうか。

そもそも今日は昨日の失態を補うためお仕事を頑張ろうと思っていたのですが、出鼻をくじかれたようですこし不機嫌です。

向かい合って座っているジン様はなにやら本を読んでいます。私も持ってこればよかった。読みたい本が何冊かあったので。

なにもすることがないので窓から流れる景色を見てみます。なんだかんだで外の世界をちゃんと見たのは初めてかもしれません。今まで外に出る機会は奴隷売場と屋敷の移動だけでしたし、その時もそんな余裕はありませんでした。

 

 

綺麗ですね、外の世界は。日差しも人々もみんなキラキラしています。お店から呼びかけをするおじさん、雑談に花を咲かせるおばさま方、元気に走り回って遊んでいる子供達。みんな笑顔で生き生きとしています。

私のような人は誰もいません。

わたしも奴隷として生まれなかったらこの人たちの仲間になっていたのかとついつい考えてしまいます。

 

 

「アイラ、着いたぞ。」

 

ハッとしました。ついつい熱心に見てしまったようです。

 

「そんなに外の景色が珍しかったか?今度連れて行ってやろうか?」

 

「いえ、大丈夫です。」

 

さすがにそこまでお世話になるわけにはいきません。

 

「…そうか。最初の場所はここだ。」

 

扉を開いてはいったのは大理石で作られた建物でした。

大部分は待合室みたいになっていて、奥には受付窓口と書かれた場所がいくつかあります。

 

「ジン様、ここは?」

 

「ここは銀行だよ。」

 

「銀行?」

 

「そう。簡単に言うとお金を預けるところかな。場所は言えないけどこの建物のどこかにある金庫に預かったお金を入れておく。泥棒とか強盗が強くて家に大金を置いておけないって人とか、貴族みたいに金がありすぎて置くスペースがないとかいう人に使われるな。」

 

「それだと平民の方達は使う人少なそうですね。」

 

「そうでもないんだよ。仕組みはアイラには難しいから言えないけど平民には預けるとすこし得があるような仕組みになってるんだ。まあ、そのおかげで貴族の奴らにはあまりいい顔されてないけどね。」

 

苦笑いで答えるジン様。大丈夫なんでしょうか、同じ貴族にいい顔されないのは。

そらにしてもさすが平等なジン様です。この場合すこし平民を贔屓しているようですが。

 

「ここは結構難しいことが多いから次行こうか。」

 

 

ここは海沿いの建物です。ここは……倉庫でしょうか。

かなり大きいです。

 

なかに入ると油臭くてつい顔をしかめてしまいました。

何か大きなものを作っています。あれは……船でしょうか。カンカンとか作業している音がそこらじゅうから聞こえてきます。

 

「ここはなにをつくっているんですか?」

 

「ここでは船を作っている。」

 

「船、ですか。どうしてまた?」

 

「最近この国では貿易が盛んになってきてね。船がたくさんいるんだよ。今までは船といえば貴族が旅行用にもつ個人の船だけだった。でもそんな船で遠くまで行くとほとんど嵐とかで大破してしまうからね。

俺のところでは貿易用の他の船より頑丈な船を作っている。」

 

なるほどたしかに頑丈そうです。今まで見たことのある船はすべて貴族用の装飾がすごいキラキラした船でした。

ですがこの船は素人のわたしでも頑丈そうだなとわかります。

 

「つくるものがつくるものだからな。金は一番かかる。その代わり売れた時の利益も一番大きい。」

 

一生懸命汗をかきながら作業をしている人もいれば、休憩中なのか休憩場所で仲間と談笑している人もいます。いい職場だと思います。だれも無理やり働かされている様子が全くしません。

 

 

「まあここも大して紹介することもないからな。次に行こうか」

 

 

 

次に来たのは大きな木でできた建物でした。屋根には煙突があってもくもく煙が出ています。

 

ここは何の建物でしょうか。周りの建物がすべてレンガ造りなのでこの建物だけ違和感があります。

 

建物の中に入ると木のいい匂いがします。それとなんだか湿度が高く感じます。他には髪が少し濡れた人たちがいて、奥につながっているであろう廊下には男、女と書かれた布がぶら下がっています。

これは…まさか!

 

「お風呂屋さんですか?」

 

「お、よくわかったな。そうここはお風呂屋さんだよ。東洋では温泉っていうらしいけど。」

 

「温泉…ですか。」

 

なるほどたしかにお風呂は暖かい泉ですね。言い得て妙です。

 

「貴族になって初めて湯船に入ったけど、むちゃくちゃ気持ちよかった。他の平民にも味わってもらいたい。平民は体を洗う習慣しかないからな。だから東洋の温泉とか古代ギリシャを参考にして作ったんだよ。なかなか好評なんだ。」

 

たしかに湯船の気持ちよさは計り知れません。昨日入った時も溶けるかと思いました。

 

「貴族は自分の屋敷にあるからくることはないけど、平民はよく来るんだ。銀行とか造船は時々によって利益がかわってくるけど、ここは結構安定した利益を取れている。」

 

この場所を歩き回って色々と見ているときでした。

 

「おい!むっちゃここ広いな!来てよかったよ!」

 

「だろ?だからいったじゃん!温泉はここらでここだけだからな。」

 

今日初めて来た人たちでしょうか。話を聞くところここの温泉はかなり広いらしいです。

わたしも入ってみたいです。

 

しかし周りの方々からの視線が気になります。何というか……汚物を見るような視線なのです。

 

いくつか張り紙があるのに気がつきました。

 

『タトゥーある人お断り』

 

『のぞきダメ 絶対』

 

 

 

 

『奴隷お断り』

 

 

 

「……………」

 

 

わかっていました。世間での奴隷の扱いなど。基本的に奴隷は平民にもよく思われていません。ゴミのように扱われるのです。

ジン様の屋敷の方々がおかしいのです。奴隷のわたしを分け隔てなく接してくれるなんて。

 

そんなことわかっていたはずなのに……。たしかにこれなら周りの視線の理由も納得できてしまいます。みなさん視線で早く出て行けと言っているようです

期待してしまうなんてらしくないですね……。

わたしも入れるのかな?なんて思ってしまった自分が憎い。

 

 

「……ジン様。もう行きましょう。」

 

「……ああ、わかった。」

 

馬車のなかでジン様はわたしに気を使っているのか何も話しませんでした。

 

「ごめんな……」

 

「いえ、ジン様が謝ることなんてありません。」

 

このことにジン様は関わっていない。

聞くところによるとジン様は職場それぞれにほとんど委託しているらしい。なのであの張り紙は、あの注意書きはジン様が命令してやったものではない。

 

温泉を出るとき、ジン様がここの経営者であろう人に何か言っているのが見えました。おそらく先ほどのやつを取るように言っていたのでしょう。

 

先ほどまでの知らない世界に胸をドキドキさせていたわたしはどこへ行ったのやら。ここにはただうじうじとしているアイラしかいませんでした。

 

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