不本意ながら奴隷を買うことになった《凍結》 作:こめぴ
どーぞー
俺たちはまた外を歩いている。
さっきまではどちらかというと住宅街を歩いていた。
住宅街に慣れてアイラもキョロキョロしなくなったが、店が多くなってくるにつれまたキョロキョロしだした。
あのあと色々な店に入ったが、アイラがカフェのケーキほど興味を示すものもなかった。
服屋にも行き、いくつか手に取っていたがすぐに戻してしまっていた。本屋ではすこし楽しそうだったがほとんどうちにあるものだった。アイラは食べ物で大きな反応をするのでもうヤケクソだと思って八百屋にも連れて行った。意外と興味を持ってさっきまできゅうりをポリポリ食べていた。ちょっとアイラのキャラがわからなくなった瞬間だった。
「次はどんなところに行きたい?」
やっぱりこういうのは本人に聞くのが一番だな
「…………」
「ん?」
ふと横を見るとアイラがいない。
「アイラ?」
いつもみたいにすこし後ろにいるかと思い振り返るがいない。
もしかして迷ったか?あ、アイラがね?
慣れない場所だし、あんなに周りを見てなくても不思議じゃない。
どんどん俺の心に不安がこみ上げてくる。
奴隷だからってなにかされたらどうしよう。
あれでもまだ14歳だ。やはり心配になってしまう。
落ち着け落ち着け。とりあえず元来た道を引き返そう。
いました。いましたよ。店の前でショーガラスを凝視している。
「おい。」
「どうしたんですか?ジン様。」
「どうしたじゃないよ。店を見るなら言ってくれ。いきなりいなくなると焦るし、心配するだろうが。」
「…すいません。気をつけます。」
心なしか落ち込んだように見える。
そんな怒ってるわけじゃないんだけどな。
「いや、いいよ。次は気をつけろよ。」
アイラの頭に手を乗せてやる。
相変わらずアイラは不思議そうな顔をしている。
アイラは何を見ていたんだろうか。視線の先には猫のぬいぐるみがある。
……いやまさか。あのアイラがぬいぐるみ?
確かに最近こいつの年相応なところを見ることは多いが、かわいいものが好きというところは見たことがない。かわいいものが好きならハルにも反応するはずだ。あいつはかわいいし。完全に俺の偏見だが。アイラはハルと遊ぶ時もあるが、ただひたすらに無表情で撫で続けるだけだ。かなりシュールな光景になる。
ちなみにメアはその様子見るのが好きなようだ。
「欲しいのか?これ。」
「欲しいと言いますか……なぜか気になります。」
店を見るとぬいぐるみ専門店だった。
おおう……。男の俺にはすこし敷居が高いがメアのためだ、頑張るか。
「中にまだ色々あるから見てみるか。」
そう言って俺たちは店の中に入っていった。
見渡す限りぬいぐるみ、ぬいぐるみ、ぬいぐるみというファンシー攻撃に立ちくらみを起こしそうになる。が、なんとか堪えた。
そんな俺とは反対にアイラはお気に召したようで後ろ姿からでもわかるくらいキラキラしている。
回り込んで顔をさりげなく見てみるが無表情。でもキラキラしている。
案外アイラも普通の女の子なのかもな。奴隷だから表に現れることはなかったが本質的には女の子だったということか。
一人納得している俺をよそにアイラはヌイグムミを物色していた。もちろん無表情で。
いつものどこか濁っているように感じる目とは違う、澄んだ目でぬいぐるみを見つめていた。
あれはハルと遊んでる時の顔だな。本当は好きだったのか。俺もまだまだアイラのことわからないな。
一人考えながらぬいぐるみを弄んでいるアイラを眺め続けた。
「ジン様。これ、買ってもいいでしょうか。」
しばらくすると俺のところにアイラが一つのぬいぐるみを持ってきた。俺は手持ち無沙汰になって近くのぬいぐるみをもふもふしていた。
持ってきたのはさっきショーガラスにあった猫のぬいぐるみ。結局それにしたんだな。まあまあの大きさだ。手のひらサイズより大きくて、抱くのにちょうどいいくらいの大きさだ。アイラはかわいいものというより猫が好きなんだろうか。
「買っていいとか俺に聞かなくてもいいぞ。自分のお金なんだから。自分の使いたいと思ったものに使えばいい。」
「……確かにそうですね。わかりました。これにします。」
カッコいいやつならここで俺が買ってやるよとか言うんだろうが今日はあくまでアイラのお金の使い道のヒントになるために来ている。
だからそういうのはまた今度かな。
嬉しそうに猫のぬいぐるみを抱いてアイラは俺の隣を歩く。だんだんこいつがどんなものに興味を持つのかわかってきた。
こいつは変わったもの、初めてのものに興味をもつ。
今までは地下牢に、最近ではそんなつもりはなかったんだが俺の屋敷にずっといたから外の世界で目に映るのは知らないものばかり。
いうなれば今のこいつは好奇心の塊なのだろう。
俺はそんなこいつが興味を持ちそうなところを思いついたのでそこに連れて行った。
連れてきたのは雑貨屋だ。
ここには少年心をくすぐられるようなものがたくさんある。少女のアイラに少年心がどうとかいうのはおかしいと思うが、好奇心という点ではちょうどいいだろう。
中に入ると案の定キラキラアイラちゃんが登場した。あっちへこっちへ歩き回っている。今日はアイラのキャラ崩壊が顕著だな。ここの品揃えはなかなかよく、変な形したペン立てとか、ちょっとした仕掛けのある置物か、おしゃれな物入れとか色々ある。
俺もせっかくなので色々と見てみようか。
「おっ!この髪飾りメアに似合いそうだな……。買ってくか。ついでに他の奴らになにか土産でも……。」
視線を感じ見てみるとアイラがこっちを見ていた。
「どうした?」
「ジン様も何か買うのですか?」
「まあ、メアとかバーリルとかに土産をな。大したものじゃないけど。」
「お土産ですか。」
「そうだ。金の使い道に困ってるならプレゼントとかどうだ?普段世話になってるやつに。メアとかに色々してもらっただろ?」
「プレゼント…ですか。いいかもしれません。ありがとうございます。」
どうやら買うことにしたようだ。
俺のアドバイスが役に立ったのなら万々歳。
あとアイラ、目につくもの全部買おうとするんじゃないよ。後のこともきちんと考えな。
結局アイラは自分用に気に入ったものを数個とメアに髪飾り、バーリルにネクタイピン、マラードにはなぜあったかわからないがビーカーを買っていた。
外に出ると空が赤く染まっていた。カラスも鳴いてそこらで聞こえていた子供の声もなくなっていた。
「もうそろそろいい時間だな。帰るか。」
「はい。」
「どうした?」
ふと、アイラは横を見たまま立ち止まった。視線の先には路地裏があって数人のボロボロの男が座っていた。
要するにホームレスだ。
「……ジン様。あの方達はどうしてあそこにいるんですか?」
アイラが尋ねてきた。自分も同じくらいボロボロだったからシンパシーを感じるのだろうか。声色にもすこし同情の色が見える。
「あれは俗に言うホームレスだ。読んで字の如く、家のない人達のことだ。」
「ジン様は……ああいう方達はたすけないのですか?」
なるほど。どうやらアイラの中で俺は誰でも助ける聖人君子のような人間らしい。最底辺の自分を助けてくれたから誰でも助けると思っているんだろう。まあ、間違ってはいない。
だがその問いに対する答えはNOだ。
「助けない。俺が助けるのは理不尽な目にあったやつ、自分自身で助かろうとしているやつだけだ。
あいつらの横に掲示板があるだろ。あそこには1日だけの仕事の募集とかが貼ってある。なのにやっていない。あいつらにはほとんど元から働く気はないんだよ。」
アイラがすこし驚きで目を見開いて俺の方を見る。
アイラは明らかに理不尽な目にあっている。だから助けた。元は自分の身を守るためだったけどな。
それにここを朝通った時あそこの奴らは今と同じ場所にいたしな。
「確かに俺は平等を大切にしている。なるべく助けれるやつは助けたいと思う。だけどな、俺は自分で助かろうと努力をしないやつを助けるほど優しくないんだよ。」
それだけ言って俺は歩き出した。
アイラは後ろから付いてきているがその表情は見えない。失望されただろうか。ひどい人、無情な人と思われただろうか。
だがこれは俺にとって大切なラインなんだ。嘘をつく気はさらさらなかった。
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