不本意ながら奴隷を買うことになった《凍結》 作:こめぴ
「助けたい……ねぇ。」
アイラの願いは聞けた。それを叶えるのは簡単だ。
あいつは俺より下の階級で、金も俺の方が持ってる。一番簡単な解決方法は俺があいつから買ってやるということだろう。またもや奴隷を買うのはどうかと思うが、それで救われるやつがいるなら別に問題はない。
だけどそれじゃ意味はない。
これはあくまでアイラの問題だ。俺は下手に口を出すことはしない。口を出したらアイラ自身が成長しないからだ。手助けはしてあげたいけどな。
「それで、どうやって助けるつもりだ?」
「え!?それは……まだわかりません。」
俺に詳細を聞かれたのが意外だったのか一瞬目を丸くする。やはりまだ決めていないようだ。
「まあだろうと思ってたよ。でもわからないのは問題ない。まだお前の願いを口にしただけだからな。」
アイラの頭に手を乗せすこし動かしてやる。くしゃくしゃと頭を撫でてやる。
「これから方法は考えていけば良い。それくらいなら俺が手伝ってやる。」
途端にアイラはどこか安心したのか顔が緩んだ。
「ジン様に手伝っていただけるなら百人力ですね。」
アイラのレアな微笑みと共にこう言われ、前言撤回して母親を買ってしまおうと思った俺を誰が責められようか。
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「さて、先の目標は決まったな。じゃあ目先のことに対処しよう。」
「目先のこと?」
「ああ。お前の母親を助けるのはなにも今じゃなくて良い。もう主人は誰かわかったからな。まあ、早いことに越したことはないが、今助けるとすると時間がなさすぎる。」
「そう、ですか……」
こいつ今日やるつもりだったのか……?さすがに買い取らないとそれは無理だぞ。
「それで目先のこととは?」
「ああ。結局お前は母親と会うのか?会わないのか?」
「会います」
即答。考えるまでもないということか。
「じゃあ善は急げだ。今から行くぞ。」
そう言って歩き出したが、急に袖を引かれ立ち止まる。
振り返ると俺の袖を掴んだまま固まったアイラがいた。
「いえ、あのですね、まだ心の準備が……じゃなくてそんなに急がなくてもいいのではないでしょうか。ほら、急がば回れと本にもかいてありましたし。」
いつもならここで「すいません」と謝られるところだがそれも忘れるほど動揺しているということか。
というか言い直さなくてもわかってるから。
「そうは言ってもいつ帰るかわからんぞ?もうパーティー始まってそこそこ時間は経ってるし。長くは待てないぞ?」
まあ、帰らないだろうけどな。昼間なら帰る奴もいただろうが今は深夜。わざわざ深夜に出てきてこれだけで帰るなんてことはないだろう。が、可愛いのでわざと焦せらせる。
それにそれとは関係なくもうそろそろ戻らなければならない。結構廊下に長居している。早くしないとまたどこぞの侯爵のようなやつが探しに来るかもしれない。
俺の考えをアイラは読めるはずもなく、心の準備をしているのだろうかブツブツとなにかつぶやいている。
「よし、できました。さあ行きましょう。」
そういって俺の先に行くアイラ。俺の先を行くという行為からこいつがいつも通りではないとわかる。それに加え同じ手と足が同時に出ていて、機械じみた動きになっている。これで緊張していないという方がおかしい。
「ちょっと待て。」
アイラの襟元を掴んで止める。
「お前まだ出来てないだろ。そんなに急ぐ必要はない。」
「でも……早く帰ってしまうかもしれませんし。」
「それで急いであって不信感を与えてもダメだろ。落ち着け。ほら、深呼吸深呼吸。」
深呼吸をしてアイラの胸が規則的に動く。よし、ちゃんと出来てるな。
さて、アイラが落ち着こうとしているうちにどうやって話させるか考えよう。といってもそんなに難しいことでもない。幸いあいつとは何度か話したことがある。適当なことをいってあいつを退場させ、別の部屋に母親を連れて行こう。なんだか拉致っぽいがまあ致し方ない。
さて、どいつの元に行かせようか。よし、あの侯爵にしよう。普段からあんな迷惑しているんだからこれくらい利用してもバチは当たらないだろう。
具体的な方法は決まった。アイラもちょうど落ち着いたようだ。
「それじゃ行くか。」
「はい、ジン様。」
見つけた。あそこだ。例のやつは誰かと話していたが俺が入るとちょうど話し終わったようでもう一人の方は去っていった。これは運がいい。早速始めよう。
「アイラ。向こうに動揺されると面倒だから俺の背中にいてばれないようにしろよ。」
「はい、わかりました。」
それだけいってアイラは俺の後ろに隠れる。さすがに思いっきり隠れると不自然なのである程度は見せ、でも顔だけは見えないようにしている。
「どうもお久しぶりです。」
「ああ、ジン様。この間はどうもお世話になりました。」
「いえいえこちらこそ。あなたもこのパーティーに参加していたのですね。」
「ええ。招待状が来たものですからせっかくですし参加させてもらいました。それよりもジン様がいることが驚きです。奴隷持っていたんですか?」
「ええ、まあ成り行きで買うことになりまして。」
怪しまれないように適度に普段の会話をする。
「ああそうだ。そう言えばあの侯爵があなたを探していましたよ。」
「あの方が?」
「ええ、どうやら折り入って二人で話をしたいとか。伺ったらどうですか?奴隷は私が見ておきますから。」
「そうですか、ありがとうございます。これは好きに使ってもらって構いませんので。」
それだけいって去っていった。実のところ侯爵は用事があると帰っていったのを先ほど確認した。この屋敷も広いし、話すくらいの時間は稼げるだろう。
アイラも話したくてウズウズしているようだしそろそろ移動しようか。
主人に置いていかれどこか不安そうにしている母親に声をかける。
「さて、お前にも話がある。ちょっとついてきてくれ。」
その言葉を聞いてアイラの母親は顔を青ざめさせる。まあ他所の貴族からこんなことを言われたら何か失礼なことをして酷いことされると思ってもしょうがない。
「そう身構えるな。別にたいした用じゃない。いや、結構重要なことか。どちらにしろ暴力的なことはしないから安心しろ。」
母親は見たところ恐怖を収めたようだが、その目には明らかな警戒の色が見て取れる。簡単に安心しないのはほとんどの奴隷に共通しているようだ。
だが警戒とかは今考えることじゃない。最悪ついてきてくれればそれでいいしな。
「こっちだ。ついてこい。」
奴隷二人を連れた俺は廊下を進み、突き当たりにあった部屋に入る。なんの部屋かはわからないが、しばらく使われてないのは確実だ。誇りをかぶっているものが多い。
「その……それで、お話とは……。」
「ああ、俺からは別に話はない。話があるのは俺の奴隷からだ。」
「えっ?」
まあ奴隷のために主人が時間を作るなんてありえないから驚いて当たり前だな。
「ほらアイラ、話したいことあるんだろう。」
「……アイラ?」
聞いたことがないとキョトンと首をかしげる母親。それはそうだろうな。アイラっていうのは俺がつけた仮の名前だし。
アイラは俺の後ろからゆっくりと、勿体振るように出てくる。姿を現し顔がだんだん見えてくるにつれ、母親の顔が驚愕の表情に変わっていく。
アイラは何の話さない。言いたい言葉が喉から出てこないのか口を開けるだけ。
そしてアイラの目から涙が溢れた。
「お母さん、わたしだよ。わたしのこと、わかる?」
やっとの事で言葉を絞り出した。アイラの声を聞いた母親も続いて一筋の涙を流す。
「…………リーナ?」
ネタバレですが、言っておかないと「は?」ってなりそうなので一応。
リーナとはアイラの本当の名前です。