不本意ながら奴隷を買うことになった《凍結》 作:こめぴ
「よし、じゃあ感動の再会も終わったことだし本題に入ろう。時間は限られてるからな。」
さすがにここまで時間がかかりすぎた。もう10分くらい経っている。感動の再会ということを考えると短い方かもしれないがそんなのは向こうにとって関係ない。もうそろそろあいつも侯爵がいないことに気づいて俺たちを探し始める頃だろう。さっさと済まさなければ。
「本題……とは?」
「ああ、アイラがなにか話したいことがあるんだと。」
ほら、と手で背中を押して前に出す。いきなり振られたものだからアイラの体がビクッと反応する。なかなか口に出せないのか少し口をもごもごさせ、やっとの事で声に出した。
「えっと、お母さんを、助けて…あげたくて。今日久々に見てなんだか元気ないし、辛そうだったから。まだ方法は思いついてないけど、絶対に助けてあげる!」
最初は自信なさげだったが、話すに連れ口調は強くなり、表情も凛々しくなる。普段は物静かなアイラがここまで強い口調で断言していることからこいつの決意の固さがにじみ出ている。
「…………」
だが帰ってきたのは無言だった。
「お母さん?」
「…ごめんなさいね。自分の娘の逞しい顔を見たら成長したなって思って。」
だが言葉とは裏腹に娘、アイラの顔をどこか悲しそうに見つめる。
「そう……。私を助ける。強くなったわね。でもね、ありがたいのだけれど、遠慮するわ。」
母親の出した答えは拒否。
言葉自体は柔らかく拒否しているが、エディスの声色にはどこか有無を言わせない力強さがあった。
「な、なんで?辛くないの?助かりたくないの?」
さすがに予想外だったのだろう。珍しく慌てている。
「もちろん辛いし、助かりたいって何度思ったか。でもね、これは罰なの。私があなたを巻き込むような形で奴隷になったのはまだ話すことはできないけど、私にも原因があるの。」
「そんなこと関係ない。助かりたいんでしょ?素直になれば良いの!」
「あなたも私のために時間を使う必要はない。自分のために使いなさい?」
この後何度も何度もエディスを説得するが首を縦に振ることはなかった。ただあるのは絶対の拒絶のみ。だがアイラの決意も並ではなく何度も何度も食いさがる。その度にエディスは拒絶していく。だが先ほど言ったように時間は多くあったわけではなく、いつまで続くかわからないこのやり取りは終わりを迎えた。
「おーい。ジン様?どこですかー?」
なんて扉越しに聞こえてきた。エディスの主人の声だ。俺たちを探しているらしい。……頃合いか。
「二人共、残念ながら時間切れだ。」
「ジン様!」
「あいつが俺たちを探している。早く出て行かないと面倒なことになる。」
「ですが!」
なおも引き下がらない。俺だってもうすこし一緒にいさせてやりたい。が、正直いくら説得したところでエディスが考えを変えるとは思えない。
「アイラ、これは命令だ。」
「っ!」
さすがのアイラもこれを出されたらどうしようもできないのだろう。引き下がりながらも悔しそうに歯を噛み締め手を強く握っている。
「ありがとうございます。」
「いや、たいしたことはしていない。」
「では失礼します。……リーナのこと、よろしくお願いします。」
「……ああ、任せろ。」
俺の答えに安心した顔をして先に出て行った。外では殴られているのであろう、あいつの怒鳴り声とエディスの声に、殴られた音がしている。それを聞いてアイラはますますギリギリと奥歯を噛み締める。
「はぁ……」
自然とため息がでる。
正直に言うと最初の方のエディスを見ていてアイラの申し出を断るだろうなと予想していた。エディスがどれだけアイラのことを思っているか見ていてよくわかったからだ。そんなエディスが自分のために時間を使うなんて許すはずがない。別にアイラに負け試合をさせようとしていたわけじゃない。アイラの説得で考えが変わる可能性も十分にあった。
だが予想以上にエディスの決意は固かった。さしずめ母親の子を思う気持ちの勝利といったところか。
今回のことはどちらもお互いのことを思い、どちらも正しかった。
だから今アイラにかけられる言葉を俺は持ち合わせてなかった。
「アイラ、そろそろ行くぞ。」
「…はい。」
その日、アイラは終始無言だった。
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「ジン様……この間のパーティーで何かありましたか?」
あれからしばらく経ったある日、バーリルは俺にそんなことを尋ねてきた。
「どうしてまた?何かあったか?」
「いえアイラがあの日からなにやら元気がないようなので……」
やはりアイラは元気がないようだ。確かに断られたが会えたのだ。これからいくらでも挽回のチャンスはあるから別にそれほど凹むことでもないと思うが、アイラからしたら結構なことだったんだろう。俺からしてみたらいい母親を持って羨ましいものである。
「そうだな……まあ、あったといえばあったんだろうか。」
「まさか前の主人がいたのですか!? すいませんでした!」
「いや、お前の調査は正しかった。別のことだよ。」
自分に非があったわけじゃないとわかって安心したようだ。ホッとしている。だがすぐにその表情は暗くなってしまった。
「……やはりあのパーティーに連れて行ったのは失敗でしたか?」
「一門着あったが得るものもあったし……失敗ではなかったかな。」
いろいろあったがエディスと出会えたのは大きい。失敗どころかむしろ成功と言えるのではないだろうか。アイラが元気をなくしておいて成功というのも考えものだが。だがプラスマイナスでいうならプラスだ。
「そうですか……。なにかできることがあるなら遠慮なく申しつけください。」
「ああ、ありがとう。」
それだけいってバーリルは仕事場から出て行った。
俺はこれからどうするべきだろうか。やはりエディスを助けるのを手伝う?でも本人が否定してるし……。望んでもいないのに救うのはただのエゴの押し付けだ。それは間違っている。だかアイラの悲しむ顔も見たいわけでもないし……。そもそもこれはあの親子の問題であって他人の俺が割り込むのはどうなのか?
助けてやりたい、手助けしたいという気持ちと、そんなことしてはいけないという気持ちがグルグルとら頭の中で回っている。
アイラもエディスもお互いのことを思っているが故にお互いに譲らない。どちらも間違っていないのだ。
「『賢者の贈り物』みたいだな……」
「なにがですか?」
「うわっ!」
いきなり現れたメアに驚いて思いっきり後ろに倒れてしまった。椅子ごと倒れたから背もたれが背中にぶつかってクソいてぇ……。
「メア……驚かせるなよ。ノックくらいしてくれ。」
「しましたが返事がなかったものですので。それよりどうかしたんですか?ずいぶん考え込んでいたようですが。」
どうやら俺はかなり集中していたらしい。入ってきたメアに気づかないとか相当だな。
「いやまあ、いろいろとな。」
相談しようと思ったがこれはアイラのプライベートな問題だ。おいそれと他の奴に話せない。
「そうですか。」
メアもだいたい察しているのか追求はしてこなかった。こいつはいつもこんなかんじだ。人によっては冷たいとか思うかもしれないが、俺としてはかなり助かっている。
「なにがあったかはわかりませんが、ジン様はジン様のお好きなようになさっては?」
いや、それができないからこんなに悩んでいるんだが……。
「なにがあろうとジン様に私たちはついていきますよ?それはこの屋敷の召使いの総意でございます。」
この言葉に俺は思わず目を見開いてしまった。そんな俺とは反対にメアは「どうしました?」と首を傾げている。
メアは何てことない顔で言い放った。いつも通りの顔で、挨拶をするかのような軽さで、当たり前のことを言うかのように。
現にメアの表情はなにも変わっていない。
こんなに当たり前のように言われたらよくある物語の感動シーンのように感動するなんてことは起こらないが、そんな風に言えるのはメア達が本当に当たり前と認識しているからだろう。
俺はそれがとても嬉しかった。
「ふっ。そうだよな。お前らはそういうやつだもんな。」
いやはや感動を通り越して呆れてしまった。
そうだよな。アイラは言うなれば家族のようなもの。家族のために動くのは当たり前のことだよな。
エディスが奴隷でい続けることが罰というなら、アイラを助けるのがアイラの人生を変えてしまった俺の罰だ。
ここへきて俺はようやく自分のすることを決めることができた。
ジンがエディスの気持ちをそれほど重視しないのは、ジンは無意識に身内とそれ以外で壁を作ってしまっているからです。もちろん優しいことに変わりはありませんが。
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