不本意ながら奴隷を買うことになった《凍結》 作:こめぴ
さて、久しぶりの投稿だから、というわけじゃないんですが長めです。
いつもは3000文字と少しくらいですが今回は4000文字と少しです。
でもアイラは出てきません。
ではどうぞー。
ガシャン!
その日の朝はもはや聞き慣れた音で目を覚ました。確認するまでもなく皿の割れた音である。おそらくあのメイドがやったんだろう。身の回りのことがままならなくなってきたので少し前に初めてのメイドを買ったのだが、そのメイドがこれでもかというほど家事ができない。安いからって金をケチって買ったのは間違いだったかな?と何度思ったことだろう。
時計を見るとまだ5時40分ほど。いつもの起床時間よりかなり早く起きてしまった。一度起きたのだからもう一度寝るのはどうかと思い、固まった筋肉をほぐすようにしながらベットから起き上がる。体の節々からポキポキと音がしてなんとなく心地いい感触がする。
さて、台所に行くか。
さっきの音からして割った皿の数は一枚じゃないだろうしな。なんだってパリンじゃなくてガシャンだからな。
まだ電気がついていない薄暗い廊下を歩く。まだ早朝なので日もそんなに強くない。進んでいくと台所の電気がついているのが見えた。やはり台所だったか。
ドアを開けるとそこにいたのは、せっせと皿を片付けるメアだった。
メア。俺が少し前に買ったメイドだ。メイドを探していると知り合いの貴族に相談したところ、メアを紹介された。この時はかなり安いし得したなと思ったが、今までのこいつを見ると押し付けられたと見て間違いないようだ。
「ジ、ジン様!すいません!起こしてしまい。」
ドアが開く音で俺に気づいたメアは慌てて俺に頭をさげる。
「いやいいよ。いつものことだし。」
申し訳なさそうな顔をして俺に一礼すると、皿の片付けを再開した。
……手伝うか。
まった枚数は五枚か。結構割ったな。今までに何枚ダメにしたんだろうか。そんなどうでもいいことを考えながら皿を片付けた。
「で、なんでまたこんなに朝早くから?いつも一緒に作ってるじゃないか。」
「……一人で作ってジン様を驚かせようかと思いまして。」
こいつのセリフからわかると思うが、俺はこいつに料理を教えている。
なぜかって?理由は単純。俺の方が料理ができるからだ。……まあ、あいつには負けるけどな。
初日にそのことが分かった途端メアは俺に料理の教えを頼んできた。
それから俺たちは二人で毎朝朝食を作っているというわけだ。
「まあ、そのチャレンジ精神は褒めてやりたいが結果がこれだとな……。」
そういうとメアは説教を受けた子供のようにシュンとしてしまった。別に責めたつもりはないんだけどな……。こいつは今まで怒られすぎてかなりネガティブになっている節がある。
「はぁ……まあいい。さ、朝食作るぞ。」
「は、はい!」
説教しててもしょうがない。朝食でも食べて仕切り直しといこうじゃないか。
「お前また砂糖と塩間違えてるぞ。」
「卵の殻入ってるから。」
「ダメダメ。まだ全然焼けてないだろ?」
「これ入れ忘れてるぞ。」
今日も今日とてダメ出しのオンパレードである。
これでもましになった方なのだ。よくもまあこれで今までやってこれたものだ。いや、やってこれてないのか。
本人が言うにはこれでも努力はしているらしい。練習してなんでこれなのか不思議でしょうがない。
「ふぅ、なんとかできたか。」
「すいません、いつもいつも。」
やっとの事で完成である。3回ほど最初から作り直した。こいつが来てから材料費がバカ高くなっているのは気のせいじゃないに違いない。
「いいさべつに。その代わりさっさとうまくなって俺顔負けの料理を食わせてくれ。」
「はい!」
そう意気込む彼女の目には強い決意を感じた。
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「それがここまでになるんだもんなぁ」
「どうかしましたか?お口に会いませんでしたか?」
俺は仕事の休憩の合間に何か食べたくて軽くメアに作ってもらっていた。スプーンですくい取り一口食べる。
うん、相変わらずうまい。高級レストラン顔負けのうまさだ。俺なんてもう到底及ばない。
どんどん箸がすすむ。5分もしないうちに食べ終えてしまった。
「いや、相変わらずうまいよ。ごちそうさま。」
「お粗末様でした。」
「いや実は来たばかりの時のお前を思い出していてな。あの時はひどかったな。」
「あの頃ですか。忘れてください……。恥ずかしいですから……」
自分自身でもあの頃は黒歴史なのだろう。メアは言われて顔を赤らめて俯いた。彼女がこういう反応をするのは珍しい。たまにからかわれた仕返しに誉め殺そうとするけどまったく反応しない。アイラとかならすぐに反応するのに。まあ、確かにあれは恥ずかしいしな。
実際割った皿の枚数だけで数百枚はあるしな。
「あんな失敗ばかりだったやつがこんなすごいやつになるなんて俺も驚いたよ。」
「いえ、わたしなんてまだまだです。」
「いや、まだまだのやつがこんなにもらえるかよ。」
そう言う俺の机の上には十枚近くの手紙。内容は簡単に言うと
「おたくのメアが欲しいので後日交渉に伺う。」
というものだった。
改めていう必要もないがメアはかなり優秀だ。昔こいつはダメダメだったなんて誰も信じないだろう。
家事もでき、普通の仕事もでき、容姿もいい。少し愛想がないが、またそれもいい。
そんなこいつはかなり人気がある。このような手紙も来たのは初めてではない。元々俺もメアを買った身なのでメイドの売買については何も言えないが、やはりメイドを売りに出すというのは抵抗がある。
まあ、そんな抵抗関係なしに全て断ってきているんだが。
メアをもらいに来る貴族の男を追い返すって東洋の物語のあのシーンみたいだ。娘の彼氏に向かって父親が「娘は誰にもやらん!」っていう場面。メアはもう家族のようなやつなのであながち間違いでもないが。
例によって今回手紙を送ってきたやつも一人、また一人と来たが断っていった。あと手紙を送ってきたやつは一人。だが名前を見る限り今回はそう簡単にはいかなそうだった。
その最後の一人と今俺は応接間で向かい合っている。メアをちゃんと横にいる。だが今回はいつもと違って少し緊張しているように見える。まあ、相手が相手だからな。
そいつの名前はルーカス・カレン。
こいつには俺も昔はかなりお世話になった。具体的に言うと資金援助。
商売も流れに乗ってきて金も増えてきたが何か大きな一手が欲しい。でも金がない。そんな時に金を貸してもらった。そのおかげで今こんなに金持ちになったと言える。だが、正直この恩はもう返したと思っている。こいつをいくら優遇したかわからないし、借りた分の金はもうとっくの昔に返している。
そしてこいつはメアの前の主人でもある。
「お久しぶりです、ルーカスさん。」
「ああ、久しぶりだねジンくん。」
とりあえずは挨拶を交わす。
「じゃあ本題に入るけど、そちらのメアくんが欲しい。売ってくれないか?」
今までの奴らと同じ要求。面識のある人物が相手だが、答えはもう決まっている。
「すいません。お売りすることはできません。」
「金なら出す。ほら、これだけだ。」
そう言ってルーカスさんが提示してきた金額は今までの奴らの2倍近い値段だった。あまりの値段に目が飛び出そうになる。隣のメアも緊張は完全に吹き飛び、普段感情をあまり顔に出さないにも関わらず驚愕で目が丸くなっている。
「……どうしてこんなにも高額なんですか?」
「ジンくんがどんどん断るせいでメアくんが欲しい奴らの中で軽いオークションみたいになってるんだよ。あいつはあの値段でダメだった。なら俺はそれより高いこの値段でねってね。」
全然知らなかった。確かに思い返してみれば提示される値段がどんどん高くなっていた気がする。となるとルーカスさんは勝負をつけにきたということか。
ルーカスさんの本気度に緊張が走る。
だか俺はメアもそんな大物になったんだなぁと場違いなことを考えていた。
「で、返事を聞こうか。メアくんを売ってくれるのか?」
こいつはもう売ってもらえることを確信しているのかすごく余裕な態度だ。うっすら笑みさえ浮かべている。
なぜこいつはこんなに自信があるんだ?俺が売るとでも思っているのか?
メアはもう家族も同然。恩があるとしても家族を売り渡すようなことはしない。
だから俺ははっきりと自分の意思を示した。
「お断りします。」
やはり自信があったんだろう、断れると思っていなかったのかルーカスさんの顔に驚きの色がでてくる。
「……理由を聞いてもいいかな。」
ルーカスさんは言葉を絞り出した。その声には怒気もこもっている。
「メアは家族のようなもの。売るなんて考えは全くありません。いくら金を積まれてもそれは変わりません。」
「……私は君にいろいろとよくしてあげたと思うんだがね。」
やはりこいつの自信の根底には俺のルーカスさんに対する恩があったようだ。
「確かに恩はありますね。しかし私はもう恩は返したと思います。借りた分の金は少し多めに返しましたし、数々の優遇もしましたよね?」
「ちっ」
ん?今舌打ちしたよね?とうとう本性表してきたよ。
「…もういい。帰らせてもらう。」
「ではメア、お送りを……」
「結構だ。」
そう言ってさっさと出て行った。
あれは完全にもうダメだと思ったから逃げていったな。かなり怒っているようだが怒られる筋合いはないと思う。
「それにしても……メアも大物になったなぁ」
「いえ…ジン様のおかげです。」
「いやなんか今の待遇が申し訳なくなってきたな。」
実際メイド長とか言っているがやることも給料も他のメイドと大差ない。
なのにメア自身は給料もないのに余分のことまでやってくれるし。
「なんか褒美あげないとな。なんでもいいぞ?給料あげることもできるし、長期休暇欲しいなら調節してやる。」
「いえ、別にいらないです。」
「別に遠慮しなくてもいいんだぞ?」
実際それくらいならできるからな。
「本当にいいんです。強いて言うなら……そうですね。これからずっとここで働かせてください。」
「そんなのでいいのか?」
まあ、俺としてもそうしてくれるなら本望だが、そんなにメア自身がここを気に入ってくれているというのは初耳なので少しばかり驚いてしまう。
「はい。だって……
私はジン様がいてくれればそれで幸せですから。」
驚きのあまり声が出ないとか、鳩が豆鉄砲食らった顔をするとはまさにこの事を言うのだろう。
何事もないように言っているが、その顔でそんな事を言われたら勘違いしてもしょうがないと思う。俺はしないが。
だが無茶苦茶おどろいているし、一応意味は気になるわけで。
「ちょ……お前……それはどういう意味だ?」
おそらく俺は今最高にアホ面をしているに違いない。
そんな俺の顔が面白いのかメアはクスリと笑う。
そして意味深な、どこか楽しそうな笑みを浮かべ言った。
「さあ?どういう意味でしょう。」
それだけいってメアは失礼しますと言って部屋から出て行った。
どうやらまたメアにやられたようだ。
「まったく……あいつには敵わないな。」
まず最初に言っときます。
メアにフラグは立っていません。
俺にラブコメなんて書けるかぁぁああああ!
ただ単に意味深な事を言って立ち去るメアが書きたかっただけなんです。
期待に添えずすいません。
コメント、評価待っています。