不本意ながら奴隷を買うことになった《凍結》 作:こめぴ
帰ってきたと言いますか……他のを考えている合間に気分転換で更新しようかと思いまして。
なかなかきちんと考えるのも難しいものですね。
あれからというもの、私は自分の部屋でこもりっぱなしでした。
現在の時刻は何時でしょうか。
窓からの光は次第に弱くなり、もう今では真っ赤に染まっています。心なし、肌に触れる空気も冷たくなっているような。おそらく夜ご飯の前くらいでしょう。
あの後お母さん、メアさん、バーリルさん、他のメイドや執事の方数名が私の様子を心配して部屋に訪れました。
その人達に私は謝罪の言葉とまだ体調が悪いので夜まで寝ているという旨を伝えました。謝罪にはなんだか仕事をサボっているような気がして罪悪感があったので、そういう意味も含んでいました。まあ実際にサボっているわけですが。
罪悪感も感じましたが、もちろん心配してくれる人がいるというのは私にとって嬉しいこと。しかし不満があるとすれば、ジン様が来てくれなかったことです。
いつもなら一番に心配してきてくれるのに……。
そんなことを思ってしまい、さらに気分が下がりました。
私ってこんなに寂しがり屋だったでしょうか?
こんなにジン様のことが大好きだったでしょうか?
その間、私が何をしていたのかというと、なんというのでしょうか、ひたすら拗ねていました。拗ねていると自分では思いたくないのですが、今の自分を客観的に見るとまあ、そう映るのでしょう。
枕を腕に抱いて、布団にくるまっていました。
なんだか胸がモヤモヤするのです。今までに感じたことのないようなこの感覚。原因はわかっています。ジン様と奥様の姿を見たせいです。なぜかはわかりません。でもあの仲よさげに話している姿、ハグをしている姿を思い出すたびに胸が締め付けられるような感覚がするのです。
「もう……なんなの……」
そうひとりごちました。
初めて感じた、このわけのわからない感情にもう泣きそうになっていました。
私はこの屋敷に来て、いろいろなことを感じるようになったらしい。様々なことを敏感に感じるようになったらしい。
それ自体はいいことだろ思うのです。だってこんなにも世界が輝いて見えるのですから。
でも、こんなに弱くなるなんて思わなかった。
昔ならこんなことなかったのに。何も考えずただただご主人様に尽くす人形でいられたのに。
ジン様のことを恨むのではないですが、昔の何もない自分が少しうらやましくなりました。
「アイラちゃん入るよ?」
あれから少し経った頃、ドア越しでメアさんがどこか遠慮目にそう言い、ドアを開けて入ってきました。
私はモヤモヤのせいでゴロゴロとして乱れた自分の服や何やらが恥ずかしく感じ、身だしなみを整えベッドに座りました。
「いいのよアイラちゃん、寝てても」
「いえ、もう良くなりましたので、大丈夫です」
嘘。そもそも最初から体調が悪いわけじゃないし、とっくに体調はいいですが、このモヤモヤは全く消えることもなくずっと私の心を蝕んでいる。
でもメアさんにこれ以上心配をかけるわけにはいかない
「もうそろそろご飯だから呼びに来たんだけど……その様子だと大丈夫そうね。さっき来た時よりもだいぶ顔色も良くなってる気がするし」
「自分ではわからないのですが……そんなに悪かったんですか?」
「ええ、なんというか……本当に病人みたいでなにか見たくないものを見てしまった、って感じの顔だったわ」
まあ、あながち間違ってないですが。病人というのは良くわかりませんが、見たくないものを見てしまったというのは当たってますね。
「もう大丈夫です。夜はきちんと働けます。昼休んでしまった分を取り返さないと……」
「いいのいいの。もう今日は休んでなさい」
「でも……」
「もしものためよ。それに、あなたに何かあったらジン様に怒られちゃうし」
「……本当に怒るでしょうか」
「当たり前じゃない。あんなにジン様はアイラちゃんを大切にしてるのに」
「大切にしてるならなんで……」
ーーなんで来てくれなかったんでしょう。
そう言葉にはしませんでした。
だってこれは私のわがままだから。上司であるメアさんや主人であるジン様に聞かせるわけにはいかない。
「そりゃあ、、あの人が来た時はジン様はあの人にかかりっきりになるし……あまり責めないであげて?子供っぽいけど1年ぶりなのよ。ジン様がユリア様に会うのは」
メアさんはそんな私の言いたかったことがわかったのかそう言ってきました。
「ジン様は、奥様のことが本当に大好きなんですね……」
目を伏せ、どこか自虐的にそう言いました。
自分の口で言って、そう自覚すると胸のモヤモヤが強くなった気がしました。
口からは乾いた笑いが漏れました。
メアさんの顔を見ると、なぜかポカンとしていて
「アイラちゃんあなたもしかして、嫉妬してる?」
なんてことを言ってきました。
「嫉妬?なんですか?それは」
聞きなれない言葉に私はそう返しました。
「嫉妬っていうのはね、好きな人が他の人とイチャイチャしてたりして胸が締め付けられるようになることよ」
「確かに締め付けられるというか、何かモヤモヤとしますが……」
これは嫉妬というんですね。好きな人が他の人と……
「ん?ということは私はシン様が好きなんですか?」
「そうなんじゃ……ない?もしアイラちゃんがあの2人に嫉妬したならね」
私はジン様が好き……
そう自覚した途端にどこか恥ずかしくなり、顔がどんどん熱を持つのを感じました。
本当に熱い。この前熱を出した時のようです。
「そう……好きに、なっちゃったのね」
メアさんはそうどこか悲しそうに言いました。
奴隷と主人。絶対に結ばれることのないそんな関係。叶わないと知っていながらジン様に恋をした私をどこか憐れみ、同情するような眼差しでした。
奴隷は主人に恋してはいけない。そんなことは言うまでもない周知の事実。
この恋心は本来抱いてはいけないもので、さっさと消さないといけない。そんなことは重々承知してるのですが、この胸の高鳴りは抑えることができず私を混乱させるだけ。
「……すいません、また気分が悪くなってきて。今日は休ませてもらいます。確かもうすぐ夜ご飯ですよね?それも遠慮させていただきます」
今回は本当に気分が悪い。改めて自覚した事実に動揺し、頭がうまくは足らなくなる。
でもどこかそのことに納得している自分もいて、よくわからなくなってしまった。
「そう?わかったわ。何かあったら言って。お腹空いたらまた何か持ってきてあげるわ」
「わかりました」
「いらないこと言っちゃったかもね……」
そういうメアさんの呟きは私の耳に届くことはありませんでした。
「じゃあアイラちゃん。私行くわね?」
そう言ってドアに手をかけたときメアさんが開けるまでもなく、ドアは他の人によって開かれた。
「おいメア。アイラ大丈夫だったか?」
そこに本人、ジン様が登場しました。
「あ……ジン様」
メアさんもどこか気まずそうにしている。私とジン様を交互に見てどうしようか悩んでいる。
どうしよう。あれだけ来て欲しいなんて思っていたのに今は会いたくなかった。もう心臓がドキドキしすぎて破裂してしまいそう。
ジン様が好きと自覚してから目線を合わせることですら恥ずかしく感じてしまう。
「アイラ大丈夫か?顔が赤いようだが……」
そう言ってジン様は私に近づいてきた。そして私の額に手を当てる。親切心で、自分の娘を気遣うような感じでやってくれているのですが、今の私には正直まずいです。
ジン様に触れられていると思うと、どんどん顔が熱くなり鼓動が早くなる。ジン様の顔を見ることができずにうつむいてしまう。今まではこんなことなかったのに。どこか安心感さえ感じていたのに。
「おい大丈夫か?また温度が上がった気がしたんだが」
ジン様は心配してうつむいている私の顔を覗くべく、下から顔をのぞかせる。
「いえ、大丈夫ですので……その、離れてください」
そう言って私は2、3歩ジン様から距離をとりました。
ジン様はなにやら傷ついたような、ショックを受けたような顔をしていますが、そんな顔をしないで欲しい。
嫌っているわけじゃないし、むしろ好きすぎて困っているくらいだから。
なんてもちろんジン様に言うことはできないのですが。
「そ、そうか。じゃあ俺はもう行くな?何かあったら言ってくれ」
「はい……ありがとうございます」
「私も行くわね?」
「はい。仕事休んじゃってすいませんでした」
そう言ってジン様とメアさんは出て行きました。
私はベッドにダイブして枕に顔を埋め、足をバタバタとしました。もう恥ずかしくて、ジン様の顔を正面から見ることすらままならない。
「どうしよう……」
明日からきちんとできるのか、きちんと接することができるのか。
そんな不安を抱えながら私の意識は闇に沈んでいきました。
クオリティが落ちてないといいのですが……
それと今後ですが、これは完全に気分転換で書くことになるので不定期更新です。