不本意ながら奴隷を買うことになった《凍結》 作:こめぴ
「アイラちゃんはさ…ジン様のことどう思った?」
しばらくの沈黙を破ったのはメアさんのそんな質問でした。
「どう…とは?」
「ほら、やさしいとか、こわいとか。まあ思ったことをそのまま教えてくれればいいわ。」
熟考。
「そうですね…。いろいろ思うことはありますが、一番強いのは『わからない』でしょうか。」
「わからない?」
「はい。彼はわたしが今まで経験してきたものすべてに当てはまりません。わたしが不快に思うであろうことをしないのです。
たしかにそれはわたしにとってはいいことなのでしょう。でもいつかそれが帳消しになるほどひどいことをされるのではないか。それがなんとなくこわいのです。
なんなら前のご主人様のようにぶってくれたほうが落ち着きます。」
「………」
「すいません。失言でした。」
今のは明らかにわたしの失言だ。ジン様のことを悪く言ってメアさんがいい気分になるはずがないのに。
「いいのよ。今までの扱いはおこがましいけどある程度は予想できるしね。そう思うのは変なことなんてことない。
でもこの屋敷のメイド長としてはジン様のこと信じて欲しくはあるわね。
ジン様はそんなことはしない。少なくともわたしはそう信じてる。」
そういうメアさんの目はとても強く、輝いていました。わたしには眩しすぎる。そのまま消えてしまいそうです。
メアさんには悪いですが、わたしはそんな信じるなんてキラキラしたことはまだできそうにありません。
ジン様がどうとかではなく、誰も信じれそうにないのです。
「どうして、メアさんはそんなにジン様を信じられるんですか?」
「そうね…。アイラちゃんには特別に教えちゃおうかな。」
そういってどこからか数枚の紙を取り出しました。
どこから出したんでしょう。
「あ、これ?東洋の島国にある紙芝居ってやつらしいの。
それじゃ話すね?『わたしがジン様を信じるようになるまで』
始まり始まり〜」
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わたしは最初からジン様のところにいたわけじゃないの。
メイドってねもちろん最初は自分からメイドとして働きたいって思ってメイドになるんだけど、なった後は奴隷と似たような部分もあるのよ。
それはメイドの売買。
奴隷ほど顕著じゃないけどね。
奴隷みたいに商売じゃなくて、あくまで個人間の転勤みたいなものかしら。
やっぱり優秀なメイドには価値が出てくるの。そんなメイドはいろんなところから引く手数多になる。他の屋敷が金を払うから譲ってくれっていったりね。
逆になんの役にも立たないメイドはその屋敷の主人自ら売りに出す。給料を出すのがもったいないってね。そこまでできないメイドは逆に珍しいけど。
わたしはその一人だった。
なにその顔、驚いた?
わたしも昔はほんとにポンコツだったのよ?
それはもう今思い出しても恥ずかしくなるくらいにはね。
料理をすれば焦がす、塩と砂糖を間違える。
運ぼうとすれば皿は割るし、ぶちまけるし。
洗濯をすれば部屋は泡だらけ。ベチャベチャのまま干しちゃって乾かなかったり。
こんな感じのミスばっかりしてた。
そんなわたしが売りに出されるのは自明の理。
売られ買われ、また愛想を尽かされて売られまた買われをいくらか繰り返した。
それだけ売買されても上達しなかったわたしってなんなんでしょうね。
そんなときにわたしを買ったのがジン様。
当時はまだ仕事がやっと波に乗ってきたあたりであまりお金がなかったから安いわたしを買ったんですって。
不満はないのか?
まあ理由だけはかなり悲しい理由よね。でもそのおかげでジン様と会えたから、わたしがポンコツであったことになんの後悔もしていないわ。むしろ感謝してるくらい。
そしてジン様の屋敷で働き始めた。
はじめはそれはそれは緊張した。
きちんとできるのかっていうのもそうだけど、ジン様はわたしが初めてのメイドでほかに誰もいなかったの。だからわたしが失敗したら大変なことになるんじゃないかってさらに緊張した。
それで家事、確かあの時は夜ご飯を作ろうとした時、ジン様なにしたと思う?
一緒に作り出したのよ?
わたしも唖然としちゃって。それなのにジン様ときたらそれが当然とばかりの顔でどうした?とか聞いてくるの。思わず笑っちゃったわ。
今までどれだけ周りが忙しくてご主人様が暇でも手伝ってくれるなんて一回もなかったものだから。
でもやっぱりポンコツでもメイドの端くれ。それ相応のプライドはあったから断ったんだけど、やっぱり失敗しちゃって。結局一緒に作ることになったの。
ジン様わたしより料理とか他の家事うまいのよ?
わたしのプライドはズタボロ。もう立つ瀬がないから恥を忍んで教えてもらったの。そんなダメダメなわたしをジン様はちゃんとできるようになるまで付き合ってくれた。自分の仕事もあったでしょうに。
そんな教えてもらったり一緒に過ごしたりして
ああ、なんて優しいお方なんでしょう。
この先ずっとこの人に仕えていたい。
って思うようになった。
チョロイと思う?
でもね、結構精神的に参ってたわたしにとってそれほどのことだったのよ。
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「まあ、そんなこんなでわたしはこんなにもジン様を信用するようになったのでした。おしまい。」
一通り説明し終えて満足そうな顔でメアさんは紙をしまいました。
だからどこにしまったんですか?
「ちなみに言っておくとここのメイドや執事は大抵こんな感じでジン様のことを信用してる。
やっぱりジン様の使用人だからって雑に扱わないところが最近の貴族には少ないから好感を持たれてるのね」
「……」
「どう?参考になった?」
どうなんでしょう。
メアさんの話を聞く限りジン様のあの態度は別に嘘というわけではなさそうです。でもやっぱりそんな簡単には信用できない。でも…
プシューー
「アイラちゃん!?顔真っ赤よ?のぼせたのかしら…。
じゃあそろそろでましょうか。」
頭がなぜか全く回らないわたしはメアさんに連れられて浴室からでていきました。