読者の皆様、長らくお待たせしました!今回は遂に綾瀬絵里加入編の完結編です!
果たして志郎は絵里の心を開くことが出来るのか!?そしてオープンキャンパスでのライブを成功させることが出来るのか!!?
全ては我らが主人公の武田勝頼こと、諏訪部志郎にかかっている!!
今回は9話のファーストライブ回に並ぶ大作長編です!!
あと、総合UAが5000を突破しました!みなさんありがとうございます!!
それではどうぞお楽しみください!!
音ノ木坂学院の研究生、諏訪部志郎は今、生徒会長である綾瀬絵里を探すために廊下を歩いていた。普段なら彼は幸雄と組んで行動しているのだが、今回は二手に分かれた方が効率的だと幸雄に提案されたので志郎一人で絵里を探していたのだ。
「それにしても生徒会長はどこに行ったんだろう。」
志郎は目につく教室の扉をしらみつぶしに開けながら絵里が中にいないか教室の中を見ていた。
『ヴー!ヴー!』
突然ポケットに入っていた志郎のスマホが鳴った。
「ん?電話か。・・・幸雄からか。もしもし、幸雄か?」
幸雄からの電話と分かり出てみると、幸雄の声ではなく、
『学校を存続させようっていうのも生徒会長としての義務感やろ!?だから理事長は絵里ちの事を認めなかったんと違う!?』
希の叫ぶように絵里に向けて放たれた言葉だった。だが、スマホの通話するマイクから離れているのかやけに音が小さい。
(なんで希先輩が?あ、幸雄の奴ひょっとして希先輩と生徒会長の会話を覗いてるだけじゃなくて電話を盗聴器代わりに使っているんだな・・・。)
志郎は幸雄が何をやっているのかは大体想像がついているようだ。そして志郎は希と絵里のやり取りや、その後の幸雄と希のやり取りを黙って聞いていた。そして希とのやり取りが終わったところで通話を切ろうとすると、
『よお志郎、話は全部聞いたな?』
と幸雄が話しかけてきたのだ。
「ああ、全部聞かせてもらったよ。だが一つ聞かせてくれ。何故お前は先輩の説得に行こうとしない?さっきお前が言ってた通り俺はお前に比べると口下手だ。だからこそお前の話術を頼りにしてるんだが・・・。」
と志郎がそう言うと、
『話を聞いてたなら分かるだろ、俺みたいな舌先三寸が出ても拗らせるだけだって。』
「だが・・・。」
『だがもだってもねえよ。いいか?俺は確かに口は上手いが人をその気にさせることは出来ても人の心を動かすことは出来ないんだよ。』
「同じじゃないか?それって。」
『いや、違うんだなこれが。人をその気にさせるのは口先だけでどうにかなるが、意固地になってる奴の心を動かすのには『心』ってもんがいるんだよ。』
「心・・・?」
志郎は幸雄の言葉に首をかしげる。
『そうだ、さっきの話聞いてたよな。お前の言葉には情が通ってるんだよ、俺みたいに嘘や打算に塗れている言葉とは違う。とにかく真っ直ぐなんだよ。そこには口下手とか話し上手だってのは関係ない。』
「・・・。」
『それにこの前話したよな。昔のお前と生徒会長はどこか似ているってさ。似た者同士だからこそお互いに分かり合えるってもんよ。』
「似た者同士か・・・。」
『そういうこと。と言うわけで『勝頼さま』、生徒会長の事は任せましたぞ。俺は最後の仕上げの仕込みがあるのでこれにて。』
幸雄のその言葉を最後に電話が切れた。
「似た者同士だからこそ分かり合える、か・・・。」
志郎は幸雄の言っていた言葉を呟いた。そして両手で頬をパチンと叩いて、
「任されたのであれば全力で臨むのみだ。『武田勝頼』改め諏訪部志郎、推して参る!!」
志郎は自分を鼓舞して再び歩き出した。
一方、先ほどの希とのやり取りで高校生になってから初めて感情をむき出しにし、逃げるように彼女のもとから去ってしまった絵里は、一人教室で窓の外を眺めていた。
「私のやりたいこと・・・。そんなもの・・・!」
絵里が吐き捨てるようにそう呟くと、
『ガラッ』
突然教室の扉が開かれた。
「ふう、やっと見つけた。」
扉を開けたのは志郎だった。
「何か用かしら。」
絵里は泣いたことで目元が少し腫れたのを隠すように顔を背けながら志郎に何をしに来たのかをたずねる。
「特にこれといった用はありませんが・・・」
「なら出てってくれるかしら?私は今一人になりたいの。」
志郎がしゃべり終わる前に絵里が志郎を追い返そうとするが、
「ただ少しの間だけ、話をしましょうよ。」
と構わず志郎は続けた。
「・・・。」
絵里は志郎の方をちらりと見た。志郎は絵里を真っ直ぐに見つめており、目を逸らす気配は微塵も感じられず、志郎はどうあっても退く気は毛頭ないと感じた絵里は諦めたようにため息をついて、
「いいわ。」
と言った。そして志郎は絵里に向かって歩いていき、
「隣、失礼します。」
と言って絵里の隣の席に座った。二人の間に少しばかりの沈黙が流れたが、
「生徒会長・・・。いや絵里先輩、先ほど希先輩と話していたことなんですが、全部聞かせてもらいました。」
と志郎が口を開いた。
「あなた、さっきの話を聞いていたの?」
「聞いていたというよりは幸雄が聞いていたのを又聞きしただけなんですが・・・。」
志郎は絵里の言葉に苦笑しながら応えた。
「そう・・・。嗤いに来たのね。あの子たちを認めないとか言いながら今さらアイドルを始めようだなんて言う私を。」
と絵里は自嘲気味に言う。
「嗤いませんよ。俺は人がやりたいと思っていることを嗤うほど根性は腐ってませんから。それに、やりたいと思うならやってみればいいんじゃないですか?踏み出すのは難しいですけど、いざやってみると楽しいとお・・・。」
と志郎が言い終わらないうちに、
「あなたに何が分かるっていうのよ!!さっきの話を聞いてたんなら分かるでしょ!?好きな事だけやってそれで何とかなるならとっくにやってるわよ!!」
と絵里は志郎に向かって叫んだ。
「・・・。」
志郎は何も言わない。いや、言い返せなかったのだ。彼女の言い分は最もだと志郎は思っている。好きな事だけやってどうにかなるほどこの世は甘くないというのも既に分かっているし、何よりも現実の厳しさは既に経験済みだ。そして何より、悲痛な叫びをあげる絵里の姿に過去の自分が見えたのだ。
(ああ、やっぱりこの人は『昔の俺』そっくりだ・・・。しがらみの中でもがきながら生きているあの頃の俺に・・・。)
志郎は『武田勝頼』として生きていた頃を思い出した。常に偉大な父と比較され、それを超えることを強いられ、お世辞にも恵まれてるとは言えない環境で失敗しながらもがき続け、最終的には国も家臣も家族も、そして自分の命までも・・・。自分が背負っていた全てを彼は失った。
客観的に見れば、本当なら武田家の一家臣として生きていくはずだったのが、運命のいたずらにより一国の君主として人一人が背負うには大きすぎる物を背負ってきた志郎と、長き伝統を持つとはいえたかだか一つの学校でしかない音ノ木坂学院の廃校を阻止するために自らその身を投じて戦っている絵里とでは、背負っているものの大きさや環境の過酷さにおいては比べ物にならないほどの差があると、ほとんどの人間が断ずるだろう。
だが、志郎はそのような考えは持ち合わせていなかった。彼は彼女、綾瀬絵里に対して『敬意』を払っているのである。
志郎はわずか17、18歳と言うまだ大人になりきれてないうちから、廃校という個人の力では絶対に打ち払うことのできない、一人の少女が背負うにはあまりにも大きすぎる問題をどうにかしようと、一人で試行錯誤しながらも戦っている絵里に対して敬意を抱くようになっていたのだ。
そう、志郎にとっては背負うものの大きさや、その重さなどは関係なかった。ただ、自分と同じように大きすぎる脅威や難関を前に怯むことなく、自らの力を信じ、万死に一生を掴まんと戦い続けている絵里は、志郎にとっては志を共にした同志のように思える存在となっていた。
その一方で、志郎は彼女の限界も見えていた。本当ならば部活や恋愛、そして友達と共に過ごして思い出を紡いでいく高校生であるはずの絵里が、廃校という大きすぎる問題に一人で抗っていること自体が異常なのだ。大人でさえも一人で戦いきれる問題ではないのに、まだまだ子供である女子高生が戦いきれるかと問われれば答えは明白だ。もしこのまま彼女が一人で戦い続ける道を進んでいくならどこかで必ず、今まで溜めてきた心労や、本当に阻止できるのだろうかと言う不安が破裂してしまい、彼女は壊れてしまうだろう・・・。
志郎はそこまでは考えていた。だが彼女の心をほぐし、呪縛を取り払う方法は考えつかなかった。だがいつまでも迷っている暇はなかった。オープンキャンパスまであと2週間を切っており、これ以上時間を無駄に使うことは出来ない。自分は幸雄のように利口ではないから合理的な策を出せないことも分かっている。ならどうするか?志郎はほんのわずかの時間を使い、自らの思考をフル回転させた。
そして志郎は思いついた。意地という氷で心を閉ざした彼女の心を溶かし、温める
(思いついてみればあまりにも単純明快すぎるが、これが最初で最後の賭けだ!)
志郎は自らを奮い立たせ覚悟を決めた。勝負は一度、チャンスは万に一つ。これですべてが決まる。
「私は一体どうすればよかったっていうのよ・・・!」
絵里が志郎に向かってもう一度叫ぶと、
「物事には正解なんてありませんよ。」
志郎はそう静かに答えた。
「なっ・・・!?」
絵里は志郎の答えに言葉を失った。
「何が正解か間違いかなんていうのは、物事が全部終わった後に出てくる結果論でしかありません。先輩の場合は、廃校するかどうかが決まってからでないと論じることは出来ないと俺は考えています。故にあなたが今まで取ってきた行動は正しかったとも言えますし間違っているとも言えます。」
志郎は続けて自分の考えを絵里に伝えた。
「何よそれ・・・。そんなのただの屁理屈じゃない!!廃校が決まったら全部無意味って言ってるようなものでしょ!!」
絵里が志郎の考えに反論する。
「確かに俺の出した考えは屁理屈かもしれません。ですが・・・」
志郎が更に続けようとすると、
「だいたい、さっきからなんで全部分かったような風に喋ってるのよ!!あなたに、私の気持ちなんて分かるはずがないじゃない!!」
絵里が志郎の言葉を遮って叫んだ。彼女の声は途中から少し震えていた。
「確かに俺はあなたの気持ちそのものはまだあなたの口から聞いてないので全部は分かりません。それでも分かることもあるんですよ。」
志郎は絵里をなだめるようにそう言って、さらに続ける。
「俺も今の先輩みたいだった頃があるんですよ。」
「あなたが?とてもそんな風には見えないけど・・・。」
絵里は志郎の言葉を聞いて目を丸くした。
「俺も今の先輩のように、人を引っ張る立場に立っていた時期がありました。でも周りからは認められなくて、だから周りから認められたい一心でがむしゃらに突っ走ってたんです。でもある時、ものすごい大きな問題に直面するんですが結果は大失敗。それからもその失敗を埋め合わせ、そしてその大きな問題を解決するために戦っていたんですが、周りから次々と人が離れていって、最終的には誰もいなくなって問題も解決できずに全部おじゃんになってしまいました。」
絵里は志郎が自分の過去を語るのを黙って聞いていた。そして志郎の目を見て、
(なんだろう、とても寂しそうな目をしてる・・・。)
と感じていた。
「・・・そんな経験をしてるからこそ、先輩の気持ちを感じることが出来るんです。先輩を見てると不思議なことにその頃の自分が重なって見えるんですよ。」
と志郎は苦笑いした。
「そんな俺だから、先輩がこれから直面してしまうであろう悲しい現実の一つを経験してきた俺だからこそ、先輩がみんなに隠して一人で抱える不安が見えるんです。だからこそ先輩に言える言葉があります。」
志郎はそう言った後に目を閉じて深く深呼吸をし、目を開き、彼女を真正面から見据えてその言葉を放った。
「綾瀬絵里先輩。皆のために、そしてこの音ノ木坂学院のために戦ってくれてありがとうございます。」
志郎はそう笑顔で言ってお辞儀をした。
「ふふ、なにそれ。あなたまだこの学校に入ってからまだ半年も経っていないっていうのに・・・。」
絵里はいきなり感謝の言葉をぶつけてきた志郎に悪態をつこうとするが、
「まだ半年も経って無い編入生のくせに・・・、なのに・・・なんで・・・。なんで涙が止まらないの・・・?」
絵里の声は震え、彼女の目からは大粒の涙がこぼれ始めた。
「その涙は先輩が一人で抱えてきた不安や葛藤ですよ。人間って不思議ですよね、『見返りなんていらない』と言って自分の身を粉にして働いている人でも、誰かに感謝されると心が震えるんですよ。そうやって自分は見返りを求めないなんて言葉で言っても、心は正直なもんで、何かしらの見返りを求めてるもんなんですよ。」
「これが・・・、私の心のほんとの気持ち・・・?」
「ええ。そしてその涙で俺は、先輩が今までこの学校を守るためにどれだけ自分を削って戦ってきたのかを確信しました。先輩はもう十分戦いきりました。もう、『独り』で抱え込まなくて大丈夫ですよ。」
志郎は絵里に対して、優しくそう告げた。
「私は・・・、うう。うわあああ・・・!」
志郎の言葉で彼女の心の堰が切れたのか、子供のように泣き始めた。絵里の心を閉ざしていた氷を、志郎の同じ苦悩を味わって来た者としての『労わりの言葉』という優しい炎が溶かして、その溶けてできた水が涙となったのだろうか。
志郎はそんな絵里を胸に抱き、何も言わずにただ彼女の震える背中を優しく撫でていた。
「ぐすっ。ごめんなさいね、見苦しい姿を見せちゃって。」
散々泣き明かして心が落ち着いた絵里は、志郎に謝るが、
「いえいえ。弱いところがある方が人間らしさがあっていいもんですよ。」
志郎は笑いながらそう言った。
「ねえ、諏訪部くん。一つ聞きたいことがあるんだけど。」
「なんですか先輩。」
「あなたの胸の中で泣いていた時、まるでお父さんの胸に抱かれてたような雰囲気がしたんだけど、あなたは何者なの・・・?さっきの言葉も、高校生とは言えないほど大人びて聞こえたし・・・。」
「!!」
志郎は絵里の何気ない問いかけに内心でかなり動揺していたが、それを表に出さず、
「さあ?『今の俺』はただの高校生ですよ。それ以上でも以下でも、それ以外の何者でもない、ね。」
と答えをはぐらかした。そして話を逸らすために、
「それで、先輩はどうするんですか?」
と絵里に質問した。
「え?」
「やりたいことですよ!先輩にもあるんでしょ?やりたいことが!」
志郎は絵里の『やりたいこと』をたずねる。
「私のやりたいこと・・・?」
「はい!さっき幸雄が聞いていた話だと穂乃果たちと一緒にスクールアイドルを始めたそうにしてたみたいですが・・・。」
「そこまで聞かれてたのね・・・。でもそれは無理よ。今さら始めたいって言っても・・・。」
「あいつらに受け入れてもらえるか・・・ですか?」
「ええ、私はあの子たちに冷たく当たりすぎた。だから受け入れてもらえるわけないわ。」
絵里が穂乃果たちに対する不安を口にすると志郎は、
「あいつらとつるんできた俺から言わせてもらえば、あいつらはそんな理由で先輩を拒むほど、器の小さい連中じゃないと思いますがね。」
と言った。それでも絵里は、
「でも・・・!」
と不安を拭いきれない様子であったが、
「まあ、言葉で聞くよりは実際に試した方が早いし効果的か。」
と志郎は笑いながらため息をつき、
「そういうわけだ。あとはお前らに任せたぞ!」
志郎が教室の扉の方を見てそう言うと・・・。
なんと穂乃果たち、μ'sのメンバーと希が立っていたのだ。
「ありがとう志郎くん。」
穂乃果はただ一言そう言って、他のメンバーと一緒に絵里のもとに歩み寄り、彼女に手を差し伸べ、
「生徒会長。いいえ、絵里先輩、お願いがあります。μ'sに入ってください!」
と言った。
「え?」
絵里が驚いた表情をすると、穂乃果は続けて、
「一緒にμ'sで歌ってほしいです!スクールアイドルとして!!」
太陽のような笑顔で絵里に誘いの言葉を投げかけた。
絵里は、目の前の状況がまだ信じられないのか、
「何を言ってるの?私がそんなことをするわけないでしょ。」
と穂乃果から目を背けるようにして言った。
(流石にまだ穂乃果たちに対してはまだ素直な気持ちを出せないか・・・。)
と志郎は内心焦っていたが、
「さっき希先輩と幸雄から聞きました。」
「やりたいなら、素直に言いなさいよ。」
「にこ先輩には言われたくないけど。」
「お前さんら二人はどっちもどっちだったじゃねーか。」
「幸雄先輩は茶化さないでよ!」
と、海未たちも絵里の後押しをする。反対派であったにこと真姫が後押しに加わっているところを見ると、希と幸雄の説得が上手く行ったのだろうと志郎は確信した。
「ちょっと待って!私は別にやりたいなんて・・・!第一、私がアイドルなんておかしいでしょ!?」
絵里は穂乃果たちにもう一度反論するが、
「やってみたらいいやん?」
と希が間に入った。
「特に理由なんて必要ない、やりたいからやる・・・。本当にやりたいことなんて、そんな感じで始まるんやない?」
希は笑顔でそう付け加えた。
絵里が穂乃果たちを見回してみると、みんな笑っていた。嘲笑などではなく、心の底から彼女に対して歓迎の意を示している、輝かんばかりの笑顔だった。志郎と幸雄もまた、彼女たちと同じように心から笑顔を浮かべながら頷いていた。続いて海未が絵里の背を押すかのように、彼女の肩に手を置いた。
そして穂乃果が再び絵里に手を差し伸べた。絵里は少し戸惑いながら、それでもゆっくりと手を伸ばし、穂乃果の手を強く握り立ち上がった。その顔は心の底から笑えている、と誰もがはっきりわかるようなさわやかな笑顔だった。
「絵里さん・・・!」
穂乃果は歓喜の声を漏らし、
「これでμ'sは8人になったわけか。」
と志郎が感慨深げに呟くと、
「いんや、μ'sは9人だ。そこにいる副会長どのを入れてな。」
と幸雄が1枚の紙を手に持ってそう言った。
「なに?」
「え、希先輩も?どういうこと?」
穂乃果と志郎は希にたずねた。
「せっかくうちが言おうとしてたのに、それを盗っちゃうなんてゆっきーくんもイケズやんなあ。」
と二人に詰め寄られた希はいたずらっぽく笑いながら言った。
「最初っから気になってたんだよな。このグループに『μ's』という歌の女神の名前を授けてくれた奴の正体がよ。この紙に書かれた文字を見てどっかで見たことあるな~ってずっと悩んでたんだが、つい最近になってその字の主が分かったのさ。な、希先輩。この名前は最初っからこうなることを見越したうえで付けたんだろ?」
と幸雄が答え合わせをするかのように希に確認した。
「ゆっきーくんの言う通りや。でも見越してたんじゃなくて、占いで『このグループは9人になった時に未来が開ける。』って出てたから、9人の歌の女神の名前である『μ's』の名前を付けたんや。」
と希が言うと、
「「「「「「「「「えええ!?」」」」」」」」」
幸雄を除いたその場にいるメンバー全員が驚きの声を上げた。
「まさか希先輩が名付け親だったなんてな・・・。」
「さしずめ、女神たちの生みの親にして慈母星とでも言うべきかねえ。」
と志郎と幸雄が言うと、
「ふふ。」
と希は微笑んだ。そんな希を見て呆れたように笑って、
「希・・・。全く、呆れるわ。」
と言って廊下に向かって歩き出した。
「どこへ?」
と海未は絵里に問いかけると、
「決まってるでしょ、練習よ!!」
と皆を鼓舞するように言い放った。それを聞いた穂乃果たちは、
「「「「「「「「やったあ!!!」」」」」」」」
と歓喜の声を上げた。
そしていよいよオープンキャンパス当日、音ノ木坂学院のグラウンドに作られたステージに見学に来た雪穂や亜里沙を含めた中学生と、その保護者達が集まっていた。
「うわあ・・・。いざ本番となると緊張するなあ・・・!」
穂乃果はステージの裏側からステージに来てくれた人たちを見ながら呟いた。
「おいおい、今さら緊張してどうすんだよ大将さんよ!」
と幸雄が穂乃果の緊張をほぐすためか、おどけながらそう言ってみせた。
「幸雄の言う通りだ。お前らはこの2週間散々練習してきたんだ。恐れる物なんて何もない!」
と志郎は幸雄に続いて穂乃果たちを鼓舞するが、
「でも、これに廃校するかどうかがかかってるんですよね?」
と花陽が不安げに呟くと、
「大丈夫よ!それに、今回は私たちが9人になってから初めてのライブなのよ?そういう難しいのは全部忘れてこのライブを楽しみましょ!」
と絵里が励ました。それを見て志郎は、
(本当に変わったものだな。いや、彼女を縛っていたものが消えて彼女の本来の性格が露わになったというべきか・・・。)
と、感慨深げに思ってから、
「その通り!お前らはこのライブを目いっぱい楽しんで来い!!」
と穂乃果たちに言うと、
「「「「「「「「「うん(ええ)!!」」」」」」」」」
と応えてステージに出て行った。志郎と幸雄は彼女たちを見送った後、
「じゃあ、俺たちもあいつらの楽しんでいる姿を拝みに行くとするか。」
「そうだな。」
と言って観客のいるステージ前へと足を運んだ。
「しかし、よくあの生徒会長をおとすことが出来ましたな。俺は生徒会長の心は動かせませんでしたが、やはり勝頼さまに任せた俺の目に狂いは無かったようですな。」
「なんだ突然。」
「いや、あの勝頼さまが人の心を動かして活路を開いたという事実が嬉しいだけですよ。いったいどのようにして彼女の心を動かしたんですか?」
幸雄は志郎にどのようにして絵里の心を開かせたのかをたずねた。
「褒められてるのか貶されてるのか分からんな・・・。俺もお前に任された時はお前のようにどのようにして彼女を説き伏せればいいのかと考えていた。だがしかし、彼女の心からの叫びを聞いてそのようなものでは彼女の心は開けないと悟ったんだ。」
「・・・。」
「そして俺は彼女の顔を見て、今一度昔を、『武田勝頼』として生きていた頃を思い出したのだ。すると今まで燃えそうなくらいに頭をフル回転させていたのが馬鹿らしくなる程あっさりと思いついたんだ。」
「それは一体、何なのでしょうか?」
「それは、親身になって相手の心に寄り添うことだ。お前の言っていた、『似た者同士だからこそ分かり合える。』という言葉がカギだった。だから俺は彼女が今まで誰かを頼ることなく戦ってきたことを労った、ただそれだけだ・・・。」
志郎の言葉を聞いた幸雄は、
「本当に、あの頃から成長しましたな勝頼さま。それでこそ虎の遺志を継ぐ者です。きっとあの世でお屋形様や・・・。」
と志郎に賛辞を贈ろうとすると、
「よせよ昌幸。まだ俺たちの戦いはこれから始まったばかりなのだ。あいつらが全てを成し遂げる時までその言葉は取っておけ。」
と志郎が幸雄を制止した。
「はっ、これは失礼。」
「まあとにかく、今はあいつらを見てやろうじゃないか、『幸雄』!」
「そうだな、『志郎』。」
そう言って二人はステージの方に目を向けた。校庭のど真ん中にμ'sが立っており、さらにその中心に穂乃果はいた。
「皆さんこんにちは!私たちは音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sです!私たちはこの音ノ木坂学院が大好きです!!この学校だからこのメンバーと出会い、この9人が揃ったんだと思います。これからやる曲は、私たちが9人になって初めてできた曲です!」
穂乃果は観客にそう言うと、さらに一歩前に出た。
「私たちの、スタートの曲です!!」
「「「「「「「「「 聴いてください!『僕らのLIVE 君とのLIFE』!! 」」」」」」」」」
ライブは終わった。曲が終わると自然と観客たちから拍手が沸き起こった。
ライブを終えた穂乃果たちは汗をかき、肩で息をしていたが、その顔に疲れは無く、むしろ充実感とやり切ったという達成感が見えた。
志郎と幸雄も、観客と一緒になって拍手をしていた。
「見事なものだな幸雄!」
「ああ、今のあいつらの踊りは過去最高に輝いてたな!!」
「踊りもそうだがあいつらの顔、特に絵里先輩の顔を見てみろよ。」
志郎にそう言われた幸雄が穂乃果たちの顔を見回すと、
「ああ、確かにいい顔してやがるな。俺の『炯眼』にも何一つ混じり気が映らないほどの良い笑顔だ!!」
とにっかり笑って答えた。
一方、観客が拍手しているのを見て
「やったぁ・・・!」
「・・・ええ!」
穂乃果と絵里は自分たちがやり切ったことを実感していた。
(ありがとう、諏訪部くん。あなたが寄り添ってくれたから、一歩を踏み出す勇気をくれたから私はここに立って、全力で踊って、心から笑うことができた・・・。本当にありがとう・・・!)
絵里は心の中で志郎に対する感謝の気持ちを呟いた。
『みんな笑顔が眩しかったけど、中でも綾瀬絵里さんの笑顔はそれ以上に眩しく輝いていた。』
このライブを見て、音ノ木坂学院に入学したとある生徒は、のちにそう語ったという。
最初はバラバラだった9人の女神が今この時を以て一つの翼となり、二人の若虎と共に天空へと勇躍した。
のちに伝説のスクールアイドルとして語り継がれる、『μ's』の躍進はここから始まったのだ。
いかがでしたでしょうか?
綾瀬絵里加入編、決着ウウウウウウウゥーッ!!!
本当ならば今回の話はもう一つの拙作『Aqoursの戦国太平記』の新章第一話目と一緒に投稿しようと考えていたのですが、自分で納得のいく展開が上手く書けず、なんと半分スランプに陥るというアクシデントが発生し、予定より遅れての投稿となってしまいました。
しかし、今までの回を読み返して「志郎ならどうするか?」と考えた末、今回の展開が閃き、そうした経緯で今回の話が生まれました。現時点ではファーストライブ回に匹敵するほどの力作だと自負しております。(字数の多さも多分同じくらい)
今回の話で、一旦物語は一区切りがついたので、またしばらくは『Aqoursの戦国太平記』の執筆に力を注ごうと考えています。もちろんこっちの執筆を全く行わないというわけではなく、少しペースを落として、ゆっくり更新していこうと考えているので是非とも見守っててください。
そして、大事な事なので三回出させてもらいますが『Aqoursの戦国太平記』も是非とも『若虎と女神たちの物語』を読んだらついでに目を通してもらえると幸いです!
さて、次回からいよいよ9人となったμ'sが本格始動!そして新たな登場人物が登場するかも!?
そしてここから遂に物語に穂乃果たちのライバルとなるあの人たちの影がちらつき始めます・・・!
次回は志郎と幸雄が『伝説』に遭遇する!?
それでは次回もまたお楽しみください!!