ラブライブ! 若虎と女神たちの物語   作:截流

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どうも、截流です。

今回の話は、今後の物語において非常に重要な展開が出てきます。今回の話を読む前に、1話と28話を先に読むことをお勧めします。



それではどうぞお楽しみください!!


35話 若獅子の夏休み

μ'sの合宿も無事に終わってから数日が過ぎて夏休みも終わりに差し掛かって来たある日の早朝、音ノ木坂学院の近辺の町中をランニングしている少年の姿があった。その少年は片手に持った手帳と睨めっこして、何か考え事をしながら走っていた。

 

(7月の上旬までに我が校に蔓延る数多のスクールカースト(悪しき秩序)のほぼ全てを崩したはいいが、このままではカーストの上位に居座っていた連中が復権してしまうのは時間の問題だ。もしこのまま奴らの影響力と支配力が戻ってしまってはイタチごっこになるどころか、俺たちに対する対策を立てられて崩すことはおろか抵抗することすらままならなくなってしまうだろうな・・・。)

 

この考え事をしながら走っている少年の名は北村政康。志郎が音ノ木学院にやってくる前に通っていた音ノ木坂学院からさほど遠く離れていない場所にある神峰橋(かみねばし)高校の2年生である。

 

 

 

志郎が在籍していた頃には、今のように積極的な交流を持っていたわけではなく、互いに相手が転生者であったことを知らず、また自分の正体を明かすことは当然しなかった。だがそれでも時々学校のどこかで一緒に昼食を食べる位には関係は良好であったようだ。

 

だがしかし、志郎が親友である秋山を救うために彼を虐めていた神崎を筆頭としたクラスのスクールカースト上位の生徒たちを叩きのめし、それを咎められて退学処分を下されるという噂が流れた時に彼の運命が変わる。

 

「諏訪部くんは理不尽に人を傷つける人じゃないんです!!今回の事件は僕が暴力を振るわれているところを見て、それを助けるために諏訪部くんは暴力を振るってしまったんです!彼が退学にされるような理由はありません!!だからどうか諏訪部くんの退学を阻止するために署名をください!!」

 

志郎に救われた秋山は、こんどは自分が志郎を救う番だと言うかのように志郎の退学処分を反対するための署名を集める運動を始めたのだ。

 

(諏訪部にその身を救われたのであれば、この場は大人しくして今後いじめられないように爪と牙を研ぐべきであろうに、この男は必ず処罰されるであろう友人を救うために自ら火中に飛び込む気か。義を守りての滅亡、我が祖父が掲げた高潔な理想はこの時代にも息づいていたというわけか。ならば・・・。)

 

秋山の心意気に感じ入った政康は、いの一番に署名をして、

 

「お前だけではどうにもならんだろう。俺も協力しよう。」

 

と自ら協力を買って出た。署名自体はそれなりに集まりなんとか志郎の退学処分は撤回されたものの、志郎は音ノ木坂学院へと転校する事となった。

 

 

 

志郎が去って暫くすると、志郎に叩きのめされた神崎率いるグループは復帰後に校長から釘を刺されたにも関わらず、今までと変わらずカースト下層の生徒たちを虐めていた。しかも今までとは違い、表向きは改心して善良な生徒に戻った振りをして自分たちの本性を巧妙に隠すなどと更に陰湿さが増してタチが悪くなった。

 

もちろん秋山はこの現状を深く嘆いていたが、

 

「ただ嘆くだけなら誰にでも出来る。お前はこの程度で腐る凡俗な器では無いはずだ。諏訪部を救う為に行動した時の高潔な志を思い出せ!お前なら必ずここに蔓延る悪辣な輩を駆逐し、影で怯えていたか弱き者たちを救えるはずだ!!」

 

と政康は秋山に檄を飛ばし、

 

「俺と手を組もう。共に力を付け、スクールカーストなどという腐った秩序を崩そうではないか…!」

 

政康と秋山は同志となった。

 

それからは秋山がいじめられている生徒たちの相談に乗ったり、どのような対策をすればいいのかを教える事で心を救い、政康はいじめの現場に直接乗り込んで武力介入を行なったり、点在する数多のカーストを内側から切り崩したりと知略と実力行使を用いて直接的に救っていた。

 

そして反スクールカースト活動を始めてから2カ月ほど経った6月に、事態は急展開を見せた。

 

「何!?神崎たちの悪行の証拠を押さえただと!?」

 

実は秋山が相談に乗った生徒の1人が、ボイスレコーダーで神崎たちがいじめを行なっている様子の録音に成功させたという知らせが入った。

 

「これを教師たちに聞かせれば奴らは終わりよ!」

 

政康は秋山と共に職員室に駆け込み、教頭をはじめとした教師たちにその録音を聞かせたが、誰もそれを

 

「ははは、神崎くん達がそのような事をするわけがないじゃないか。」

 

と言って信じようとしなかった。神崎たちは元々、部活や勉強などで優秀な成績を残している評判のいい生徒だったというのもあり、それほど彼らの表向きの姿が教師たちにとって好印象だったのだ。

 

「どうしたものか、これでは奴らを崩せない・・・!」

 

政康は打つ手が無くなったと頭を抱えていたが、

 

「あまり使いたくなかった手だけど策がある・・・!」

 

秋山は神崎たちにターゲットにされていたことのある生徒に接触し、どこで彼らから暴力を受けていたのかを聞き出した。そして神崎と同じクラスであった秋山は常に彼とそのグループの動向に目を光らせ、ある言葉を発するのを待っていた。

 

「放課後、あの場所に来いよ。」

 

クラスの地味な生徒に神崎が声を掛けたのを聞き逃さなかった秋山は、すぐさま政康と連絡を取ってから行動を開始した。

 

「うぐっ、ひぃ!」

 

「おいおい、こいつ豚みてえな声出してるぜ!」

 

『ぎゃはははは!』

 

教室のドアの側で政康が来るのを待っていた秋山は、すぐにでも中でいじめられているクラスメートを助けたい気持ちでいっぱいだったが、策を成功させるために唇を嚙みながら政康を待ち続けた。

 

「ここの空き教室かね?」

 

「そうなんです!ドアの立て付けが悪かったのか友達が閉じ込められてしまって・・・。」

 

政康が教師を連れて戻って来た。

 

「ここはあまり使われてなかったからね。開けるのに力がいるんだよね。よいしょ!!」

 

そう言って教師がドアを開けると、

 

「な、何事だこれは!?」

 

閉じ込められた生徒ではなく、1人の生徒をいたぶって楽しんでいる神崎たちがいた事に教師は驚きを隠せなかった。これこそが秋山の策であった。神崎たちがいじめを行なっている現場を教師に直接見せれば絶対に信用するという物で、秋山がこの策を使うのを躊躇っていたのは誰か1人の善良な生徒を利用することになるからだった。

 

当然、そのことは問題になった。さらにこの事件がきっかけで神崎たちに今までいじめられた生徒たちが次々とその被害を訴え、神崎たちの悪行のほとんどが明るみに出た。それだけでなく今まで神崎たちにおべっかを使っていたカーストの2層目や3層目の生徒たちが飲酒や喫煙をしていたという密告や自首をしたことで、さらに事態は大きくなっていき、教育委員会にもこの話題が持ち込まれるほどだった。

 

神崎らの保護者達は校長に息子や娘たちの処罰の軽減を嘆願したが

 

「私は4ヶ月前の事件で恥ずかしながら本来罰するべき生徒たちを見逃し、暴力を振るったとはいえ友人を救うために戦った義侠心溢れる誠実な生徒を追い出してしまった。故に『二度とこのような事が無いように』と見逃した生徒たちに対して戒めの言葉を送ったが、それも無駄となってしまった。残念ながらこうなってしまった以上は彼らを見逃すことはもうできないし、厳しく処罰することが私の責任であり、けじめでもあります。」

 

と、校長は保護者達の言葉を取り上げることなく、神崎たちを退学処分にした。神峰橋高校において最も強い影響力を持っていたスクールカーストの最上位であった神崎とその仲間たちが退学になったことと、その一件に深くかかわっていた秋山と政康によってそれなりの影響力を持っていたカーストが複数潰されたことが重なって、その他の微小なカーストも自然消滅することになり、神峰橋高校からスクールカーストは事実上完全に根絶やしにされたことになる――――――

 

 

 

 

 

(とにかく今の神峰橋は無秩序状態と言っても過言ではない。新たなカーストが形成され、影響力が出てくる前に秋山が掲げる『いじめの無い、みんなが平等に安全に過ごせる学校生活』という志を生徒たちに普及させたいところだが、俺たちに恨みを持つ者もそれなりにいるからなあ・・・。)

 

政康の考えている通り、彼らに恨みを持つ生徒は複数存在している。その多くは秋山と政康に潰されたカーストの上位に位置してカーストの下層に位置する生徒たちに圧力をかけていた一握りの生徒たちであった。

 

(秋山の志を学校中に布くために俺たちに足りてないのは『正当性』だ。どうすれば正当性を得られるのだろうか・・・。)

 

政康は唸りながら曲がり角を曲がり、そのまままっすぐ道を走った。そしてしばらく走ると大きな和風の家の門に差し掛かった。

 

「う~ん、どうしたものか・・・冷たァ!!?」

 

唸っているといきなり足に冷たい感触がしたので、政康は普段の冷静沈着な姿からは想像できないくらい間の抜けた悲鳴を上げた。

 

「な、なんだ!?・・・み、水か?なぜ水が足に・・・。」

 

足を見てみると、足と足元が水浸しになっていた。

 

「あ、すいません!!打ち水をしていたらつい・・・!」

 

と、黒髪の少女が政康に頭を下げた。

 

(ん?どこかで聞いたような声だ・・・。)

 

少女の声を聞いた政康はそう思ったが、ふと我に返り、

 

「い、いやいやこちらこそ考え事をしてたもので不注意でした!どうか頭を上げてください!」

 

と謝る少女を慌てて宥めた。

 

「本当にすいません、何か拭くものを持ってきますので少しお待ちください!」

 

と言って少女が顔を上げた瞬間、

 

「あ、え・・・?いきなりですいませんが・・・もしかして園田海未さん、ですか?」

 

と政康はその少女の顔を見ると、少女の顔があまりにも彼が推しているスクールアイドル、μ'sのメンバーの中でも一番の推しメンである海未にそっくりだと思い、狼狽えながらたずねた。

 

「え、はい。園田海未は私ですが・・・?」

 

海未がきょとんとした顔で答えると、

 

 

 

「ああああああああああああ!!!?本物の海未さんだああああ!!!申し訳ございません!とんだご無礼をおおおおおおお!!!」

 

 

と、地面が濡れているにも関わらず土下座を始めたのだ。

 

「な!?どうしたんですかいきなり!?濡れてしまいますよ!」

 

海未はどこからどう見ても変人にしか見えない政康を律儀に宥めようとする。

 

「ただでさえスマホ越しとはいえお話しできたという身に余る恩寵を受けたというのに、この俺の不注意のせいで海未さんの頭を下げさせてしまうだなんて俺はなんて不遜で不敬な男なんだあああ・・・!!」

 

政康が頭を抱えながら自分の行動の罪深さ(?)を嘆いていると、

 

「スマホ越しで話・・・?もしかして、あなたは合宿の時に志郎たちが通話をしていて、穂乃果や私とも話をした、志郎の友人の・・・、確か北村さん、でしたっけ?」

 

と海未は合宿の夜の出来事を思い浮かべながら政康の名を思い出した。すると、

 

「まさか・・・まさか海未さんに名前を憶えててもらえてたなんて・・・!!」

 

と政康は涙ぐみ始めた。

 

「いえそんな、そこまで喜んでいただけるようなことは・・・。」

 

海未は政康の喜びっぷりに少し困惑していたが、

 

「いえいえ!自分が推しているアイドルに名前を憶えてもらえるというのはファンからすれば一生ものの栄誉なのですから!」

 

と政康は笑顔でそう言うと、

 

「それと、この前も言わせてもらいましたが、海未さんの事本気で応援してますので!!」

 

と言って走り出した。海未も、

 

「こちらこそ、いつも応援してくださってありがとうございます。次にライブを行う時は是非とも来てくださいね!」

 

と手を振りながら政康を見送った。

 

「はい!!その時は是非とも伺わせていただきます!!」

 

政康はそう答えると全力疾走で走っていった。

 

「なんと言うか、少し変わってはいますが悪い人ではないみたいですね。」

 

海未は走り去る政康の背を見送りながらクスッと笑って呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の昼頃――――――

 

 

「まさか本物の海未さんと朝から話せただなんて・・・。この幸福感だけで何でもできそうな錯覚に陥ってしまいそうだ。」

 

政康は朝の出来事を思い返しながら、日差しが照りつける街中を歩いていた。

 

 

「いやー、今日の学校の講習会大変だった~!」

 

「雪穂の苦手な科目だったもんね~。」

 

 

(見たところ中学生か?そうか、もう夏休みとなると受験勉強に本格的に身を入れ始める時期だもんな。実に勤勉な娘たちだ、感心感心。)

 

すれ違った中学生の少女たちを横目で見ながら微笑ましそうな顔でうんうんと頷きながら歩いていると、

 

 

―――――ちゃりん

 

 

という音が政康の後ろの方から聞こえた。政康が音がした方を見てみると、地面にキーホルダーが落ちていた。

 

「はて、先ほどの娘たちが落としたか?」

 

引き返して拾ってみると、それはスクールアイドルショップで売られていた海未の写真が描かれていたキーホルダーだった。

 

「おーい!そこの中学生のお嬢さん方~!!キーホルダー落としてるぞ~!」

 

政康は多分落とし主だと思われる少女たちを追いかけながら声を掛けた。

 

「え、私たちですか?」

 

政康の声に答えたのは、赤みがかった茶髪の少女だった。

 

「ああ、君たちとすれ違った後にこれが落ちた音が聞こえてね。」

 

政康がキーホルダーを差し出しながらそう言うと、

 

「あれ、これ亜里沙のじゃない?」

 

「あ!ほんとだ!!ハラショー、ありがとうございますお兄さん!」

 

と、金髪の少女が自分の鞄にキーホルダーが付いていなかったことに気付いて、拾い主である政康にお礼を言った。

 

「いやぁ、例には及ばないよ。君もμ'sの・・・園田海未さんのファンなのかね?」

 

「はい!!」

 

「へえ~、お兄さんもファンなんですか?」

 

金髪の少女、亜里沙は無邪気に返事をして、茶髪の少女が政康にたずねると、

 

「ああ、俺もファンなんだ。俺は北村政康、神峰橋高校の2年生だ。」

 

と、政康は自己紹介をした。

 

「神峰橋ってあの進学校ですか?」

 

「雪穂、知ってるの?」

 

「うん、音ノ木坂に受験するって決める前の志望校の候補だったからね。」

 

亜里沙にたずねられた雪穂がそう言うと、

 

「ほう、君たちは音ノ木坂学院が志望校なのか。」

 

と政康がたずねた。

 

「音ノ木坂は私のおばあちゃんやお母さん、そしてお姉ちゃんが通ってる学校なんですが、私はちょっと迷ってるんです。」

 

茶髪の少女、雪穂は政康の言葉に少し苦笑いをして応えた。

 

「亜里沙のお姉ちゃんも通ってるんだ!だから私も通いたくって!!」

 

金髪の少女がそう言うと、政康は微笑ましそうに、

 

「ははは、君はお姉さんのことが好きなんだな。」

 

と言った。

 

「はい、自慢のお姉ちゃんです!」

 

「そう言えば、君たちの名前聞いてなかったな。なんて言うんだ?」

 

政康が思い出したように2人の名前をたずねた。

 

「あ、そうですよね。お兄さんが名乗ったのに私たちも名乗らないと失礼ですよね!私は高坂雪穂って言います!」

「私は絢瀬亜里沙!お姉ちゃんは絵里って言うの!」

 

「ん!?絵里・・・絢瀬・・・。もしかして、君はあの絢瀬絵里さんの妹さん!?」

 

政康が驚いた様子で尋ねると亜里沙は、

 

「うん!あと雪穂は穂乃果さんの妹なんですよ!」

 

と返事をした後に、雪穂が穂乃果の妹であることを紹介した。

 

「これは驚いた。まさかμ'sのメンバーの御姉妹だったとは!確かによく見ると面影はあるな・・・。」

 

政康は穂乃果と絵里の写真と雪穂と亜里沙の顔を見比べながら言った。

 

「そんな驚かれるようなものじゃないですよ~。」

 

雪穂は大げさな振る舞いを見せる政康にそう言うが、満更でもないようだった。

 

「いやあ、まさか今日は海未さんと偶然であったとはいえ直にお話しできたうえに、穂乃果さんや絵里さんの妹御とも知り合うことになるとは色々運に恵まれすぎている気がするな!」

 

政康はまさに有頂天といった様子であった。

 

「あの、政康さん!」

 

「ん?何か用かな亜里沙さん。」

 

「あ、私たちは年下なので呼び捨てでいいですよ!それよりももしよろしかったら連絡先を交換していただけませんか!?」

 

亜里沙は意を決したかのように政康に連絡先の交換を申し出た。

 

「え゛!?亜里沙ってばもしかして政康さんのこと・・・!?」

 

それを聞いた雪穂は驚きのあまりに目を丸くしながらそう言うと、

 

「違うよ雪穂!政康さんも海未さんのファンだって言うから、もっとお話ししたいな~って思っただけだよ!」

 

と亜里沙は頬を膨らませながら説明した。

 

これに対して政康は、

 

(オイオイ、これは大丈夫なのか!?別に連絡先を交換するだけなら法律上は何の問題も無いはずだが、現代では家族や顔見知り以外の年下の女性に声を掛けただけで罪人扱いされかねんという話を聞いたがこれは大丈夫なのか・・・?いやしかし、雪穂や亜里沙とは今この時を以て顔見知りにはなったわけだし、恐らく彼女たちも穂乃果さんや絵里さんの親族であるからして海未さんとも知り合いだろうからいざという時は弁護してもらえるか?いや、それにしても絵面的に大丈夫かこれ・・・。)

 

と、内心では凄まじく葛藤していたが、同じく海未のファンである同志を得た喜びが勝り、

 

「ああ、分かった。ただし受験勉強は怠らないようにな?憧れの姉と同じ高校に入れなくては本末転倒であろう?」

 

と、受験も頑張ることを条件に亜里沙の申し出を聞き入れた。

 

「はい、頑張ります!あ、もし勉強で分からないことがあったら聞いてもいいですか?」

 

亜里沙が笑顔で返事をした後にそうたずねると、

 

「あー!亜里沙ずるい!!絵里さんもいるのに勉強教えてくれる人もう一人増やすなんて!うちなんかお姉ちゃんが頼りにならないってのに!」

 

と雪穂が亜里沙に抗議した。政康はそれを見ると笑って、

 

「ははは、なれば2人そろって勉強のサポートをしてやらねば不平等になってしまうな。」

 

と言って、雪穂とも連絡先を交換した。

 

 

 

 

 

 

「では長く引き留めてしまって済まなかったな。2人とも、音ノ木坂に入れるように励めよ!!」

 

『はーい!!』

 

こうして政康は雪穂と亜里沙と別れを告げた。そして2人の後ろ姿が見えなくなったのを見届けると、

 

 

 

「コソコソと覗き見とは感心せんな。姿を見せたらどうだ『下郎』。」

 

 

 

と、さっきまでの和やかで紳士的な雰囲気とは打って変わって威圧感と殺気が入り混じった表情で言うと、政康の後ろの曲がり角から、政康と同い年と思われる男子と女子が1人ずつ出てきた。

 

「いつからそこにいたかは知らんが、俺を相手に盗み聞き盗み見の類を働こうとはいい度胸だな。」

 

政康は身体を2人組の方には向かせず、顔を少しだけ動かし横目で見ながら語り掛ける。

 

「あの子たち音ノ木中の子たちよね?中学生相手にデレデレするなんて、あんたロリコンだったのね。」

 

「散々偉そうなことを俺たちに言いたいだけ言ってやがったくせにロリコンとか冗談でも笑えねーよな。まるで生徒に手を出す教師みてーだな!」

 

2人組の男女が政康を嘲笑すると、

 

「ふん。貴様らのような自らの行いを悔い改めず、その結果自分たちの行いの報いで退学となった下衆(・・)どもに嘲笑われるような(いわ)れは無いのだがな。なあ、木下に三沢よ?」

 

と逆に2人を嘲笑った。人生を一度経験しているだけあって、普通の高校生ならば怒って掴みかかろうとしかねないが、政康にとってはこの2人の発した悪口は子供の戯言にしか感じられなかった。

 

『・・・!』

 

政康を嘲笑うはずが逆にしてやられた木下と三沢は怒りに顔を歪めるが反論することは出来なかった。

 

「して、今さら何の用だ?まさかただ俺に嘲笑われに来たなどというドМのような真似をしに来たわけじゃないだろう?」

 

政康が海未や後輩である雪穂や亜里沙の前では決して見せないような意地の悪い笑いを浮かべながら2人に問いかけた。

 

「なんですって・・・!」

 

2人組の片割れである女子、三沢は政康の言葉に不快感を露わにする。

 

「まさかとは思うが退学になったことで俺を逆恨みして復讐に来たなどという戯言でも言いに来たか?冗談も大概にしてくれ!志郎に直接復讐する気概も持たない貴様らが俺に勝てるとでも?フハハハハハ!こいつは傑作だな、そんじょそこらの売れない芸人の漫才よりは面白いな!!」

 

政康はそう言って1人で爆笑し始めた。

 

「この野郎・・・!ふざけんじゃねえ!!」

 

2人組の片割れの男子の木下は、そう言うや否や政康のもとに走り寄って思い切り彼のわき腹を蹴り飛ばした。

 

「・・・!?」

 

政康は木下の行動が予想外だったのか蹴りを受け止めきれずによろめき、近くにあった電柱にぶつかってそのまま倒れた。

 

「だいたいなあ!お前や秋山が余計な事をしてくれたせいで俺たちの人生が滅茶苦茶になったんだ!!陸上部でインターハイに出られるはずだったのにお前らの・・・!いや、元はと言えば諏訪部の奴のせいで!!」

 

木下は倒れ伏した政康を何度も蹴りつけながら、憎悪のこもった罵声を浴びせた。

 

政康と秋山の手で退学に追い込まれた神崎らカースト上位グループは、勉強や部活と言った何かしらの分野で優秀な成績を修めており、今まで犯してきた悪行が暴かれ、退学処分を下され学校を去ることになったことでそれらの功績がほとんど無駄になった。

 

そんなわけで彼らは自分たちの栄光への道を台無しにした政康や秋山、そして自分たちが没落するきっかけを作った志郎に対して憎悪を抱いていたが、彼らが退学になった理由は自業自得と言っても過言ではないので同情する価値は皆無と言って良いほどである。

 

「はあ、はあ・・・!この程度で終わると思うなよ。てめーはもっといたぶってやらなきゃ気が済まねえんだ!!」

 

木下はそう言ってもう一度足を振り上げた―――――が、

 

 

「なんだ、この程度か。」

 

 

今までただされるがままだった政康はそう言うと、今まで蹴られていたのがどうって事ないと言わんばかりにすくりと立ち上がった。

 

「な!?」

 

木下は政康がピンピンしているのに驚きを隠せず、口をポカンと開けていた。

 

「流石は陸上部のエースの1人なだけあって蹴りは見事だったが、これじゃあ拍子抜けだな。」

 

政康は体中をはたきながらそう言った。

 

「ふざけんな・・・。ふざけんじゃねえええええええ!!!」

 

木下はそんな政康の様子を見て馬鹿にされたと思い込み、政康の顔面に殴りかかり拳を左頬に打ち込んだが、

 

「やはり、志郎に直接復讐を挑む気概の無い輩の力などこの程度か。」

 

それも通用しなかった。

 

「ひっ・・・!」

 

木下は拳を引こうとするが政康に右腕を掴まれた。勿論抵抗しても彼の拘束を抜けられる気配は全くなかった。

 

「ふふふ。志郎のものには劣るが・・・この俺が本物の、魂のこもった(・・・・・・)拳を教えてやろう。」

 

政康はそう言い放つと、木下の鳩尾(みぞおち)に拳を叩き込んだ。

 

「うっ!?」

 

政康の渾身の一撃を受けた木下はその場で腹を押さえて蹲った。

 

「さて、木下は無事返り討ちにされたわけだが貴様はどうする?」

 

政康は三沢の方に視線を移し、余裕綽々な様子で語り掛ける。

 

「・・・れ。」

 

「は?」

 

「黙れええええええええええ!!!」

 

三沢は激高したかと思えば、ナイフを構えて政康に突っ込んできた。

 

「・・・!」

 

志郎と互角に戦える政康ならばそれを避けるのは容易い。だが政康は避けなかった。敢えて避けることなく三沢の怒りのこもった刺突をそのまま腹に受けた。

 

「はっ!ざまぁないわね!!こうなったのも全部あんた達が」

 

「俺たちのせい、というわけか?」

 

「!!?」

 

なんと政康は腹にナイフを突き立てられているというのに、何事もないかのように三沢の言葉に答えた。

 

「な、なんでよ・・・!?なんで腹を刺されたのにあんた、平然としてんのよ!?」

 

三沢はひどく狼狽えながら平然としている理由を尋ねる。

 

「生憎だが、俺は実力行使を好まない秋山に代わってスクールカーストを潰して回っていたおかげで貴様ら以外のスクールカースト上位に位置している連中・・・総じて2、30人ほどの生徒からも恨みを買っていてね。だからいつどこで刺されるか分かったものではないからな・・・。」

 

政康がそう言いながら服をたくし上げると、

 

「ああ!?」

 

三沢は政康が平気だった、あまりにも単純過ぎる理由に驚いた。

 

「だからこうして雑誌を腹と背中に仕込んでおいたのだよ!もっとも、ジャ〇プやマ〇ジンのような週刊誌では分厚すぎて色々不便だし不自然だから手頃な厚さのヤン〇〇ガジンを使っているがな。しかしお前が女で助かったよ。お前が男だったらもう3センチほど食い込んで腹に刺さるところだった。」

 

政康はナイフで真ん中に穴を開けられたヤン〇マ〇ジンをひらひらさせながらそう言った。

 

「・・・っ!!」

 

打つ手が無くなった三沢はそのまま逃げようとしたが、政康は難なく彼女に追いつき立ち塞がった。

 

「お前にしろ木下にしろ、貴様らはいつもそうだ。自分が今まで積み重ねてきた行いを省みることなく全て他人のせいだとのたまう・・・!先月に下校中の秋山を襲ったが失敗した村本や、この前俺を闇討ちしようとして返り討ちにされた遠藤、金田、大島・・・。あの件で退学となった連中は揃いも揃って馬鹿の一つ覚えのような恨み言しか言えんのか!!だいたい貴様ら、そんなに自分の功績が大事だったなら最初っからいじめなどとくだらない事をせずに部活や勉学に励んでいたらよかっただけの話だろうが!!」

 

政康は三沢の言い分に対して一喝し、

 

「・・・だが解せん事が1つだけある。どうして貴様らは退学させられてからしばらく経った頃から俺と秋山を狙いだした?それに何故あれほど憎んでいる志郎に手を出さない?」

 

と、自分たちを狙う理由をたずねた。

 

「・・・そんなの私たちの勝手でしょ。」

 

三沢はそっぽを向き、政康の質問に対して答えようとしなかった。

 

「答えないか、まあこっちはもう予想が付いてるから別に構わん。恐らく神崎の差し金だろうからな。」

 

政康が自分の推測を口にすると三沢は何故知っていると言いたそうな表情で政康を見た。

 

「ふん、やはりか。だが奴の事だ、貴様らは捨て駒に過ぎんだろ。」

 

「神崎くんがそんなことするわけ無いじゃない!!神崎くんは私たちと一緒にあんたや秋山、そして諏訪部に復讐するために計画を立ててるのよ!」

 

「ほう?」

 

「精々余裕ぶっこいてなさい、後で痛い目に合って惨めに泣く羽目にあうのはあんた達なんだから!!」

 

三沢は勝ち誇ったようにそう言って笑っていたが、

 

「盛り上がってるところを悪いが、神崎が何やらきな臭い動きを見せていることぐらいとっくに予想できてるんだよ。」

 

政康はそう言って三沢の顔にアイアンクロ―をかました。

 

「な・・・がっ、何するのよ・・・!女の顔に手を出すなんてあんた正気!?」

 

三沢は政康に抗議するが、

 

「くだらん。俺は関東の王、関東に住まう万民を平等に愛し慈しむ事こそ我が使命だ。しかしだからと言って甘やかすと言うわけではない。罪を犯した者がいればたとえそれが男であろうが女であろうが平等に裁くことも王たる俺の責務なのだ。今時の歪み切ったフェミニズムがその崇高な使命を揺るがせられると思うな!」

 

政康は堂々と自分の持論を語りあげる。

 

「は・・・あぁ!?王?何言ってんの、頭イかれてんじゃないの!?」

 

三沢は政康が唐突に言い放った言葉に困惑する。

 

「ともかく、奴がどの様な下劣でくだらない策を弄するかまでは知らんがこれだけは言っておいてやる。関係のない者を巻き込むような真似をしてみろ。その時は貴様らを全員八つ裂きにして血祭りにあげてやるからな!!」

 

そう言い放つと、政康は手を離して獅子のような眼光で三沢を睨み付けた。

 

「女の顔に手上げるなんてあんたの方がよっぽど下劣よバーカ!覚えてなさい!!」

 

「ぐぐ・・・、この借りはいつか返してやるからな・・・!」

 

三沢と木下は捨て台詞を吐いて逃げるように走り去っていった。

 

「やれやれ、下郎は失せたか。」

 

2人が立ち去ったことで、政康はため息をついた。

 

「しかし、神崎のグループのメンバーであるあの2人がああ言っているという事は神崎のあの噂(・・・)は本当なのだろうな。であるならば俺も少し早いが『あの計画』を実現させ、戦力を早いうちに整えておかねばならんな。」

 

政康は深刻な表情でそう呟き、更に戦略を練る必要性を感じながら歩き出した。

 

 

 

 

神峰橋高校に安寧をもたらさんとする、志郎がかつて救った秋山とその同志であり志郎の盟友でもある政康。そして志郎たちを恨み、復讐を果たすために裏で暗躍する神崎一派。

 

志郎と幸雄、そして穂乃果たちμ'sの知らないところで、2つの影が水面下で動き始めた。

 

 

そして、本来ならば無関係であるはずの幸雄やμ'sまでもがそれに巻き込まれることになろうとは、この時はまだ誰も予想していなかった。




いかがでしたでしょうか?

今回はアニメ1期11話に突入する前の幕間と、2学期編の山場に向けての導入、そして志郎の盟友である政康がどんな人物なのかを掘り下げるのを兼ねて今回の話を書きました。

とはいえ、いきなり聞きなれない単語や名字がバンバン出てきて「なんじゃこりゃ?」と思ってしまう方がたくさん出てきてしまう可能性があるので、詳しい設定等は活動報告に投稿するので、そこを見てくださると幸いです。

さて、次回からはいよいよ1期最大の山場に向けて物語が動き出します!志郎と幸雄は果たしてどのように乗り越えるのか・・・!?



それでは次回もまたお楽しみください!!
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