突如志郎たちの目の前に現れた少年はいったい何者なのか!?
それではどうぞお楽しみください!!
「それは私がお教えしよう。」
にこが志郎たちに結果を覆した理由を教えようとしたその時、人だかりから人をかき分け1人の少年が4人の前に現れた。
その男は非常に顔立ちが中性的で整っており、言うなれば町を歩けば誰もが振り返るといったところだろうか。その証拠に、今も周りにいる女子は黄色い歓声をあげ、男たちはそのイケメンぶりに恐れおののく者さえもいるほどだ。
また、体格も線は細いが痩せぎすというわけではなく程よく肉が付いており、まさに古代ギリシャやローマ、ルネサンス期の彫像のような美しさを感じるくらいだった。
「げっ、なんであんたがここにいんのよ・・・。」
周りの女子たちが少年に向けて歓声をあげる中、にこだけはげんなりした表情で彼に声を掛ける。
「にこちゃん、この人と知り合いかにゃ?」
「こんな奴と知り合いって言われるのは背筋が凍りそうになるくらいムカつくけど事実よ・・・。」
凛の問いに対してにこはため息交じりにそう応えた。
「凛ちゃん、この人がにこちゃんを破ってこのゲームの店内大会の1位を取った『レオン』さんだよ・・・!」
「この人が!!?」
花陽の言葉に凛は驚き、
「おや、久しぶりだね。君とはあの店内大会以来かな?μ'sの小泉花陽さん。」
と『レオン』と呼ばれた少年が花陽に声を掛けると花陽と凛に向かって歩み寄り、凛の前で立ち止まった。
「そして君は星空凛さんだね?ふふ、写真や動画で見るより可憐で美しいね・・・。」
「にゃ!?り、凛が!?」
少年が凛の顔と体を値踏みするようにじっくりと見回した後にかけた言葉に凛は顔を赤くして困惑した。凛もれっきとした女の子だ。ただでさえ凄まじい美少年に目の前に立たれた上に、間近で可愛いと言われれば、顔を赤くするのは当然の理である。
それに凛は男子の心無い言葉で女の子らしさに欠けるというコンプレックスを抱えているから『かわいい』と男子に言われた事で更に混乱してしまった。
「う、うーん・・・。」
「凛ちゃん大丈夫!?」
花陽は顔を真っ赤にして倒れた凛を抱きかかえ、
「なに私の後輩を口説いてんのよ・・・!」
にこは彼の胸ぐらを掴んだ。
「ふふ、誤解しないでいただきたいものだ。私はあくまでも美しいと認めたものを愛でただけさ。君もスクールアイドルだろう?だからその腕を離してもらえると嬉しいんだが・・・。」
「その軽薄さ、微塵も変わって無いな
志郎はようやく身を起こすと呆れた様子で少年に声を掛ける。
「変わって無いのはお互い様だろう?諏訪部志郎、君も相変わらず華の無いむさ苦しい男のままじゃないか。女子高に入って多少はそのむさ苦しさも無くなったかと思えば余計にむさ苦しくなってる気すらするぞ?」
少年改め松坂玲央も志郎の言葉に挑発的な言葉を返した。
「あの・・・、志郎さんはレオンさんとお知り合いなんですか?」
「レオン?ああ、ゲームで使ってる名前か。花陽の言う通りこの男、松坂玲央とは面識がある。何故ならこいつは俺が音ノ木坂にやってくる前に通っていた神峰橋高校で同学年だった男だからな。」
志郎は花陽とにこに自分と玲央の関係を教えた。
「あんたがこんな男と知り合いだなんて意外ね・・・。」
「そこまで交流があったわけではないがな。まぁ、神峰橋の生徒であればこいつの名前と顔を知らない者はいないくらいの有名人だからな。それにしても、運動部に文化部に様々な部活の助っ人で大忙しのお前がこんなゲーセンに入り浸っているとは珍しいな。」
「部活の助っ人は2年になってからは飽きてやめてしまったよ。入り浸るという表現は癇に障るがまあ事実だな。にこさんと会うのは大体このゲームの筐体の前だからね。」
玲央は志郎の言葉に苦笑いで答えた。
「そ、こいつとはあの大会以来このゲームやってる時に会う事が多いのよね・・・。」
にこは厄介そうな表情で玲央の言葉を補足する。
「部活の助っ人は辞めてしまったけど、私は今ある目的のために動いてるのさ。」
「ある目的?」
「そう、私は今ある男の美しい志の実現のために力を貸しているのさ。」
玲央が誇らしげな表情でそう言うと、
「お前がそんな動きをするとは意外だな。」
志郎は目を丸くしてそう言った。どうやら志郎からすれば玲央がその様な事をするのは非常に珍しいらしい。
「ふふふ、勘違いしてもらっては困るな。目に見えないものでも美しいものは美しいという事に変わりは無いのだよ。」
「そうか。」
「さて、だいぶ話がそれてしまったな。なぜにこさんがわざわざ自らの勝利を手放し、君に譲ったかを教えるとしようか。」
玲央は軽く咳払いするとようやく話の本題を切り出した。
「何故お前ににこの意思が分かる。」
志郎が訝し気に玲央に問いかけると、
「別に彼女の思考を読み取る必要も理解する必要もないよ。何故ならこれから話すのは今の君の戦いを見ていた者たちが必然的に抱いた感想を述べるだけなのだからね。」
と玲央は答えた。
「必然的に抱いた感想だと?」
「そうだとも。結論から言わせてもらうと、にこさんは君の踊り・・・いや、戦う姿に魅せられたとだけ言っておこうか。」
「見せられただと?にこが俺に?」
「ふふ、君が疑問に思うのも無理は無い。何故ならさっきの君の踊りは、はっきり言ってしまえば華が無く、見苦しい、ただの悪あがきにしか見えないからね。」
「・・・。」
志郎はバツの悪そうな顔をしていた。
「あんた、いつから見てたのよ。」
「君たちの戦いは途中から見せてもらってた。正直に言わせてもらうと志郎が転んだ後の踊りには、美しさや技のキレといった具合のものは微塵も感じなかった。だがそれでも君の踊りには何か惹きつけられるものがあった。多くのギャラリーを生むほどにね。」
「確かに、途中からたくさんの人が見に来てました・・・!」
花陽は玲央の言葉に頷きながらそう言った。
「さて、じゃあ志郎の踊りにはいったい何があったのかを明かすとしよう。それは『気迫』だよ。」
『気迫?』
志郎と花陽、そしていつの間にか目を覚ましていた凛が玲央の言葉に首を傾げる。
「そう、君の踊りには華が無かったけど見ている者たちの心に訴えかけてくるものがあったんだよ。言うなれば鬼気迫るってヤツだね。まさに真剣、命を懸けんと言わんばかりの踊りっぷりに私をはじめとしたギャラリー、そして対戦者であるにこさんは魅せられてしまったというわけだよ。」
「そうだったのか、にこ?」
玲央の解説を聞いた志郎は目を丸くしながらにこに真意をたずねる。
「ええそうよ、ムカつくけどそいつの言う事は大体合ってるわ。でもそれだけじゃなくて他にも理由があるの。」
「理由・・・?」
「あたしはあんたと対等に戦って、そして勝つために策を練って万全の状態であんたに戦いを挑んだ。普通ならあんな条件に対して文句の一つぐらい言うと思ってたけどあんたは不満一つ漏らさないであたしが出した条件をすべて受け入れてあたしたちと戦った・・・。」
「・・・。」
「正直あんたのそんな態度を見て最初は『そんなものはハンデにもなりゃしない』って感じの余裕を見せられてるような気がしてムカついたけど、あんたの戦いぶりを見てたら『ああ、こいつは本当にあたしたちと真正面から向き合って戦ってるんだ。』って思ったの。」
「にこちゃん・・・。」
「それであんたが転ぶのを横目に見た時は勝ったと思ったのと同時に、こんな勝ち方でいいのかって想いが浮かんできた。そりゃそうよ、あたしたちと真正面からぶつかってくれてる相手がこんな形で負けるなんて後味が悪すぎる。でもあんたは最後まで戦い抜いた。玲央の言う通り、見苦しくても悪あがきにしか見えなくても最後まで踊り抜いて
「にこ・・・、そんな風に想いながら戦っていたのか・・・!」
「そういう意味じゃ玲央の言う通り、あたしはあんたに魅せられていたのかもしれないわね。とにかくあたしはあんたの戦いぶりを見て、このまま勝ちを拾うのが恥ずかしくなっちゃったのよね。」
にこは苦笑いしながらそう言うと志郎の元に歩み寄り、
「あんたの覚悟は確かに見せてもらったわ。だからあたし達3人はあんたのμ's復活作戦に協力する。いいえ、協力させてちょうだい!」
と、はにかみながら志郎に手を差し伸べた。
「にこちゃん・・・!」
花陽は、そんなにこの言葉に目に涙を浮かべながら喜んでいた。
「ホントは最初っからそうするつもりだったくせににこちゃんってば素直じゃないにゃ~。」
「うっさいわね!」
凛の軽口に対してにこは怒鳴ったものの、その顔は満更でもないといった様子であった。
「すまんにこ、かたじけない・・・!!」
志郎は感極まったのか男泣きしながら声を震わせてにこの手を握った。志郎にとって、このにこの手はまさしく『救いの手』に見えたのは言うまでも無かった。
「まったく、あんたもいい歳した男なのにそんなメソメソすんじゃないわよ。泣くならやり遂げてから泣きなさいよ!」
「す、すまん。」
にこが笑いながら志郎の背中を叩くと志郎は慌てて涙を拭った。
「それにしてもあんた、かたじけないなんて時代劇じゃないんだから、普通にありがとうって言いなさいよ。」
「そう言えば志郎さんって時々言葉遣いが古風になりますよね。」
「でも志郎くんって大人っぽいから不思議と似合ってるにゃ!」
「ははは、そうかな・・・。」
にこと花陽と凛がそう言って談笑してるのを志郎は苦笑いしつつ見守っていた。
「・・・。」
「さっきからあんた生暖かい目でこっち見てるけど何なのよ。」
「いや、何でもないよ。ただこういう泥臭い友情というのも悪くないと思っただけさ。」
玲央は何か腹に一物抱えていそうな表情で4人のやり取りを見ていたところをにこに指摘されるとそれとなく流した。
「―――そうか、君たちは彼の
玲央はにこの背を見ながら小声で呟いた。
「さて、そろそろ行くか。」
「は?行くってどこに行くのよ?」
タイミングを見計らったようにすくっと立ち上がった志郎ににこがたずねる。
「決まってるだろう、学校に戻るんだよ。海未と絵里と希を説得するためにな。」
志郎はそれに対し、ブレザーを着直しながら答える。
「もう少し休んでった方がいいと思いますよ・・・?」
「そうにゃ、まだ終わってから10分も経ってないよ?」
そんな志郎に対して花陽と凛が心配そうな表情で言った。
「ああ、確かにそうかもしれないが。お前たちには勝負という手に出る事ができたが絵里たちにはその手は使えない。それに俺は幸雄に比べて口下手だし機転も利かないから必然的に説得に時間もかかる。だから今の俺は1分であれ1秒であれ無駄にできないんだ。」
「でもここと学校は少し離れてるわよ。どうすんの?」
「決まってるだろう、最短ルートを全速力で走って戻るだけだ。」
「はぁ!?」
志郎の言葉ににこは愕然とした。
「あんた正気!?さっきまで体力使い果たしてへばってた奴がここから学校まで全速力で走るなんて狂気の沙汰でしかないわよ!ぶっ倒れたいの!?」
「そうにゃ!流石に凛でもそんなのきついにゃ!」
「無理して倒れちゃったら元も子もないですよ!!」
にこたち3人は志郎を諫めようとするが、
「彼がそれを聞くと思ってるのかい?少なくとも私はそう思えないがね。」
と、玲央が3人に口をはさんだ。
「それは・・・。」
にこたちは玲央の言葉に反論できず口をつぐんだ。3人とも志郎の一本気と頑固さを知っていたからこそ何も言えないのだ。
「ふふ、それにしても君はいつも自分の身を削るような道を進むんだね。あの事件を思いだ―――」
玲央が皮肉るように笑いながらそう言うと―――
「それ以上ここでその事について喋るのは辞めてもらおうか。」
何と志郎はそう言い終わるよりも速く玲央の顔前に拳を突きつけた。
「やれやれ。君は相変わらず口で話すよりも、頭で考えるよりも先に手が出るのが早いね。少しは丸くなったと思ったんだが。」
と玲央は白々しくおどけてみせた。そんな飄々とした態度をとりつつも、玲央も志郎が自身の眼前に拳を突き出しているように玲央もまた志郎の首元に貫手を突き付けていた。
(あの事件?ていうかあんなにキレてる志郎初めて見たわ・・・。)
にこは玲央の発言の中にある1つの言葉に何か引っかかるものを感じると共に、初めて見た志郎の怒りの表情に圧倒されていた。本当はこの場でそれについて追及しようと彼女は考えていたが、今はそのような事をやっている暇は無いと考え、言葉を飲み込んだ。
「ねえ志郎、学校に戻る前に1つ聞いてもいいかしら?」
その代わりににこは今まで口にすることのなかった疑問を志郎にたずねる。
「なんだ?」
志郎は拳を引くと、何事もなかったような表情でにこの方を向いた。
「あんたはなんでそこまでしてあたし達のために尽くすの?」
「・・・。」
にこの問いを聞いた瞬間、志郎はぴくりと動きを止めた。
『にこちゃん?』
「μ'sが活動を始めた頃からあんたが幸雄と一緒に穂乃果たちのサポートに力を尽くしてきたのは知ってるわ。ファーストライブの時も、挫けそうになった穂乃果たちに激励を送った事もね。あんた自身はそう思ってないかもしれないけど、私たちメンバーの間じゃあんたは穂乃果たちに並ぶμ'sの最古参のメンバーだって思ってる。だからあんたがμ'sに対して強いこだわりと執念を見せるのはよく分かるつもりよ。」
「・・・。」
志郎はよどみなく語られるにこの言葉を黙って聞いていた。
「でも、今のあんたを見て思うの。あんたちょっと異常よ?」
「にこちゃん!」
「そんな言い方しなくても・・・。」
にこのストレートな物言いを凛と花陽がたしなめるも、
「あんたたちもさっきの戦いぶりと、疲れ切ってぶっ倒れるかもしれないのに無茶な事を躊躇いもなくやろうとするのを見て何も感じないの?」
にこは逆に2人にそう問いかけた。
「そ、それは・・・。」
「確かに、上手く言えないけど志郎さんはなんかμ'sのためなら命を投げ出しちゃいそうな・・・、そんな風に見えちゃいます・・・。」
「なるほど、そう見えるか・・・。」
花陽の志郎のμ'sへの強すぎる想いに対する印象を聞いた志郎はどこか穏やかに見える表情で彼女の言葉に頷いた。
「お前たちからすれば俺の想いというのは確かに強すぎるかもしれん。だが、俺にとってμ'sとはそれほどの想いを懸けるに相応しいと感じるものなんだよ。だからこそ、μ'sの存亡がかかっている今この時こそが、俺の正念場・・・。俺が死力を尽くしてお前たちの未来を切り開くべきだと思っているんだ・・・。」
子供を諭すような優しい声と、穏やかな表情で志郎はにこたち3人に自分のμ'sに対する想いを語り、その目は音ノ木坂学院のある方角を見据えていた。
『志郎(くん)(さん)・・・。』
そして、彼女たちは志郎の瞳にその強すぎる意志が煌々と炎のように燃えているのが見えていた。
「・・・そこまで言うなら止めるだけ無駄って事ね。」
「すまん。」
「別に謝る必要ないでしょ?あんたはあんたなりにμ'sを、あたしたちの事を思ってくれてるんだから。」
にこは謝る志郎に対して微笑みながらそう言った。
「ほら、時間が惜しいんでしょ!さっさと学校に戻りなさい!」
「ああ。」
志郎はにこの言葉に短く応えると全速力で学校に向かって走り出していき、その背中はあっという間に小さくなっていった。
「行っちゃったにゃ・・・。」
「うん・・・。」
凛と花陽はそんな志郎の背中をただ見送る事しかできなかった。
「さてと。玲央、あんたにも1つ聞きたいことがあるのよね。
志郎が走り去るのを見届けたにこは、玲央に先ほどの会話に出て来た『あの事件』という言葉について聞きだすために彼のいる方に振り返ってみると、
「――ってどこに消えたのよあいつは!!?」
いつの間にか玲央が姿を消していたのだ。
「多分志郎くんが学校に戻っていく時に帰っちゃったんだよ。」
「ぐぬぬぬ・・・。なんかモヤモヤするわね・・・!」
「そう言えば、あんなに怖い顔をする志郎さん初めて見たなあ・・・。」
「凛も志郎くんのあんな表情見たことないにゃ。」
3人は先ほどの玲央とのやり取りで見せた志郎の憤怒の形相について話していた。志郎はμ'sのメンバーの前ではほとんど怒った事が無かったので、彼女たちにとってはある意味新鮮な感覚であった。
「そんな事より、あたしたちも行くわよ!」
「え!?どこに?」
にこが突然言い出したことに花陽は困惑していた。
「どこって、学校に決まってるじゃない!あたし達も志郎を追って学校に戻るのよ!!」
にこは凛と花陽にそう言うと、学校のある方角に向かって走り出した。
「待つにゃにこちゃ~ん!」
「ピャ!?にこちゃんも凛ちゃんも待ってぇ~!!」
凛と花陽もにこの後を追って走り出して行った。
ことりの出立まで今日を含めてあと二日。志郎は散り散りになっているメンバーの協力を得るために奔走している。
果たして、志郎は海未、絵里、希の3人を引き入れる事ができるのだろうか―――?
いかがでしたでしょうか?
今回はいずれ来たるμ'sへの志郎たちの正体明かしと、2期編に向けての布石を話にちりばめました。上手く表現できたかな・・・。
新キャラの松島玲央は一体何者なのか、それが明らかになるのはもう少し先になりますw そして次回はいよいよ幸雄が動き始めます!!
それでは次回もまたお楽しみください!!