ラブライブ! 若虎と女神たちの物語   作:截流

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どうも、左京大夫です。

2時間ほど遅れちゃいましたが、今回は真姫ちゃんの誕生日記念の短編です!



それではどうぞお楽しみください!!


番外編 真姫の不安

μ'sの練習が休みの日の放課後―――

 

 

「しっかし真姫がいきなり呼び出すってのはなかなか珍しいな・・・。」

 

志郎は廊下を歩きながら独り言を呟いていた。そんな彼の視線は手の中にあるスマホの画面に映っていた一通のメッセージであった。

 

 

『ちょっと相談したいことがあるから音楽室に来て。』

 

というものであった。志郎は、

 

『相談?凛か花陽じゃダメなのか?』

 

と返信したが、

 

『今回は志郎に相談したいのよ。』

 

とだけ返って来たので志郎も何かを察して、

 

『分かった。』

 

と返信して音楽室へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

「・・・そうやって考えてるうちにもう音楽室か。」

 

志郎はピアノの音楽が聞こえてきたことで音楽室に着いたことを実感した。志郎自身はもうこの学校に慣れているので音楽室の場所が分からないわけではなく、音楽室というと『練習がない日や昼休みに真姫がピアノを弾いている場所』という認識があるため、音楽室からピアノが聞こえてくるとほぼ無意識にそう実感するのだ。

 

「入るぞー。」

 

志郎がそう言って扉を開けると、

 

「あ、来たわね。」

 

「おっ、志郎も呼んでたのか。」

 

真姫と幸雄が志郎を出迎えた。

 

「なんだ、幸雄も来てたのか。」

 

「なんだとはご挨拶だな。俺だってμ'sの補佐役の1人なんだぜ?」

 

「どっちかって言うと今日の本命は志郎なんだけどね。」

 

「真姫さん!?じゃあなんで俺を呼んだんですかね!?」

 

真姫の言葉に納得いかないと言った様子で幸雄は抗議したが、

 

「本命は志郎だけど、幸雄にも話を聞いてほしいって思ったから呼んだのよ。」

 

「なんだ、それならいいや。」

 

真姫が幸雄を宥めるような口調で言うと、幸雄はそれをあっさり承諾した。

 

「それで、話ってなんだ?」

 

幸雄と真姫の掛け合いが終わるのを待ってから志郎が話を切り出した。

 

「そう言えば俺もまだ相談内容聞いてねえな。作曲に関することだったら俺たちはド素人だから役に立てる保証はないぜ?」

 

どうやら幸雄も志郎よりは先に来ていたものの内容自体を知らされているわけではなかったらしい。

 

「別に作曲で悩んでるわけじゃないわよ。それに作曲で悩んでたらあんた達じゃなくて凛と花陽を呼んでるわ。」

 

「お、辛辣ゥー!」

 

「つまり俺たちが相手だからこそ話せる内容ってことか。」

 

「ええ、そうね。」

 

「まさか彼氏ができたとか!?」

 

「んなわけないでしょ!イミワカンナイ!」

 

「茶化すのはやめてやれ・・・。」

 

志郎が幸雄をたしなめると、真姫はため息を一つついてから語りだした。

 

「私の家が病院の経営をしてるのって知ってるわよね。」

 

「まあ、俺たちの間じゃあ周知の事実だよな。」

 

「私は将来、病院を継ぐ後継ぎとしていろいろ勉強して、大学も医学部に入るつもりなの。別に特に不満があるわけじゃないわ。私はパパとママを尊敬してるし、そんな2人の期待にも応えたいとも思ってるの。だけど・・・。」

 

そう語る真姫の表情は少しずつ暗くなっていく。

 

「・・・不安なのか?」

 

志郎がそう真姫にそうたずねる。

 

「ええ、たまに私は本当にこれでいいのかな・・・とか色々もやもやすることがあるのよね。」

 

「なるほど。自分の在り方ねぇ・・・。」

 

幸雄はため息をつきながら呟いた。

 

「なんていうか、志郎たちも昔は私と同じように家の後を継ぐ立場に立っていた人だから、2人に聞けば何か答えが出せるんじゃないかって思ってここに呼んだの。」

 

「う~ん。少しぶっちゃけてもいいか?」

 

「ええ、別にいいわよ。」

 

「真姫は俺と幸雄を同じ立場に立ったことのある人間だと言ったが、厳密に言うと俺たちはお前とはだいぶ違う立場だったんだぞ。」

 

志郎は真姫の言葉に反論し始めた。

 

「志郎の言う通りだわな。真姫、たしかお前一人っ子だったよな?」

 

「ええ、そうよ。」

 

「そう、お前さんは一人っ子にして生まれながらの嫡男ならぬ嫡女なわけだ。だが俺たちは他にも兄弟がいたし何より・・・。」

 

「俺も幸雄も本来は家を継ぐ立場ではなかった。」

 

「志郎の方は正体をバラした時に言ったが、こいつは元はと言えば四男で側室の子で、しかも生まれながら諏訪家の養子として武田の子として扱われてこなかった。俺の方はというと側室の子ってわけじゃあなかったが兄貴が2人いたから真田の家を継ぐ権利は一切なかったってわけだ。」

 

「俺の方は義信兄上が父上と対立して廃嫡され、信親兄上は盲目、信之兄上は既に夭折と後を継げるような状態では無かったので俺にお鉢が回って来た。」

 

「そして俺はお屋形様の命令で武藤家の後を継いではいたんだが、長篠の戦で兄上が2人ともおっ死んじまってな。それで真田家を断絶させまいとした志郎の命令で真田家に出戻って後を継いだってわけよ。」

 

志郎も幸雄も、真姫とは違って本来家を継ぐような立場には無かったのだ。

 

「まあだからといって、真姫が不安に思ってることが理解できないわけではないな。」

 

「円滑に真田家を継承できた俺とは違って、色々と面倒ごとがあった志郎なら分かるだろうよ。」

 

「俺も武田の後を継ぐように言われた時は戸惑ったものさ。」

 

「嬉しくは無かったの?」

 

真姫は首を傾げて志郎にたずねた。

 

「何せ武田の者ではなく、諏訪家の者として育てられてきたもんだからな。俺なんかに義信兄上の代わりが務まるのか不安だったよ。あとはもう知ってると思うが・・・。」

 

「お父さん・・・武田信玄を超えられるか、でしょ?」

 

「父上を超えようと志したのは、そこにいる幸雄含めて父上を崇拝レベルで尊敬してる者が多かったってのもあるんだがな。」

 

志郎が笑いながらそう言うと、幸雄は苦笑いしながら目を逸らした。

 

「真姫はご両親から医術の手ほどきを受けているうえに後を継ぐための基盤や時間はそれなりに与えられてるから志郎が如何にハードモードだったかが分かるよな・・・。」

 

「おまけに父上が外交で周りに喧嘩売りまくったりしてバトンをトゲまみれにして渡してくれたりな。」

 

「なんか恨み言に聞こえてくるわね・・・。」

 

「別に俺自身は父上を恨んでいたわけじゃないぞ。父上は人としては色々どうかと思う部分はあったが武将としては尊敬していたのはまぎれもない本心だからな。」

 

そう言う志郎の顔は爽やかな笑顔であった。

 

「おっと、話が脱線してしまったな。で、真姫は何が不安だって言ったんだったか?」

 

志郎は改めて真姫に質問した。

 

「将来の不安とかは今の志郎と幸雄の話を聞いてたら吹っ切れたわ。あとは私の在り方ね・・・。」

 

「真姫の在り方・・・か。」

 

「ええ。私は小さいころからパパやママに勧められて色々な習い事や勉強に励んできた・・・。でも他の子たちはそうやって私が将来のための勉強とかに打ち込んでる間に友達を作ったり遊んだりしてるのを見てて羨ましいな・・・って思う事があったの。」

 

「でも全くいなかったってわけでも無いんじゃねえの?」

 

「ううん。どんな風に声を掛けたり話をしたらいいのか分かんなくって友達は全然いなかったわ。」

 

「なんつーかお前らしいっちゃお前らしいよな・・・。」

 

幸雄は苦笑いしていた。

 

「だから私を誘ってくれた穂乃果や、μ'sに入るきっかけをくれた凛と花陽には感謝してもしきれないわね。あ、これ誰にも言わないでよね。」

 

「言わない言わない。」

 

「あ、凛と花陽で思い出したんだけど・・・、不安があるのよね。」

 

「お、また新しい不安かね?」

 

「ええ・・・。きっと凛と花陽とも進む進路が違ってくるのは分かってるんだけど、それが怖いのよね・・・。もし私が跡取り娘じゃなかったらμ'sが終わって高校を卒業しても変わらずに今みたいに一緒に過ごせたかもしれないと思うと・・・。」

 

「真姫・・・。」

 

「医者として頑張っていきたいとも思うわ。でもこうやって家や生まれた家に決められた道を進むんじゃなくって自分で自分の道を開きながら人生を進んでいきたかったって思う事もあって・・・。どうしたらいいのか分からなくって・・・、うぅ・・・。」

 

語っているうちに真姫は徐々に涙声になっていき、しまいには泣き出してしまった。

 

「ま、真姫・・・。」

 

志郎は真姫が泣き出してしまったことに動揺して、どんな言葉をかけてあげればいいのか分からなくなってしまった。

 

「ここは俺に任せな。」

 

「幸雄・・・。」

 

幸雄は自信ありげにそう言うと、真姫の肩を優しくたたいて、

 

「気持ちは分かるぜ。お前さんはあいつらと一緒にいたいんだろ?」

 

と声を掛け、真姫はそれに対して無言で頷いた。

 

「確かに将来の道が決まっちまってるお前さんとそういうものが無いあいつらとじゃあ高校を卒業した後も一緒にいられるって保証がないのは事実だがよ、それでもお前とあいつらが友達だっていう事に変わりは無いと思うんだよな。」

 

「うん・・・。」

 

「確かに医者に、それも親の後を継いで院長にでもなっちまったら友達に気軽に会える機会なんて全然なくなっちまうだろうなって事は分かるが、それでも絶対会えなくなるってわけじゃないんだろ?だったらそのわずかな時間を活用すればいいと思うぜ!院長なら一年に一度くらい好きな時に休んだってバチは当たらんだろうしさ!」

 

「それに、真姫はまだ1年生なんだ。卒業するまであと2年も残ってるからその2年でμ'sのみんなでやりたい事を出来るだけたくさんやって思い出を作るのも悪くないと思うぞ。」

 

志郎も幸雄に続いて真姫を励ました。

 

「そうよね・・・。まだ2年もあるんだからくよくよしてられないわよね。」

 

真姫はそう言いながら涙をぬぐった。

 

「そうそうその意気よ!人生は楽しまなきゃ損損!」

 

「幸雄ははっちゃけすぎだっつの。真姫、あの時お前に言った言葉覚えてるか?」

 

「あの時?」

 

「お前たち1年生がμ'sに入る前の日に花陽と一緒に真姫の家に生徒手帳を届けた時に言ったやつだよ。」

 

志郎がそう付け加えると、

 

「ええ、覚えてるわよ。『義務を言い訳にして自分のやりたいことを諦めないでほしい。』よね。」

 

と真姫はウインクしながら答えた。

 

 

 

 

 

「ふぅ、なんか色々言いたいことを言ったらスッキリしたわ。2人とも、相談に乗ってくれてありがとう。」

 

学校からの帰り道を歩きながら真姫は2人に礼を言った。

 

「いいって事よ。」

 

「こうやって相談に乗るのも俺たちの仕事だからな。」

 

志郎と幸雄は満更でもない様子で答える。

 

「じゃあ私はこっちだから。」

 

「ああ、また明日な。」

 

「じゃあな~。」

 

しばらく歩くと、真姫は志郎たちと別れて歩いて行った。

 

「しかし今日の真姫はやけに素直だったな・・・。何かあったか?」

 

志郎は今日の真姫の言動が普段とは少し違うような感じがするという疑問が浮かんだ。

 

「あ~、たぶんこれのせいだわ。」

 

幸雄はそう言うと鞄の中から箱を取り出した。

 

「なんだそれは?」

 

「これか。チョコだよ、親父の海外出張の土産さ。」

 

「まさかとは思うが・・・一つ貰うぞ。」

 

志郎は真姫がやけに素直だった理由がこれにあるのではないかと思い、それを確かめるために一つ貰って口に入れた。

 

「・・・これ、酒入ってるな。」

 

チョコを食べて少しすると志郎はそう言った。

 

「いや~、まさか真姫が酒に弱いとは思わなんだ。」

 

「いやいや!なんでウイスキーボンボンなんて与えた!!というか学校に持ってきた!?」

 

「えー、だって親父が『これ友達にあげてやれ』って言うんだもん!だから穂乃果たちに食わせて反応を見てやろうと思ったら今日練習休みとかタイミング悪すぎなんだよ!」

 

「言うに事を欠いて逆ギレかよ!!」

 

志郎と幸雄はギャイギャイ騒ぎながら帰り道を歩いて行った。

 

 

 

「そう言えば真姫のプレゼントは決まったか?」

 

しばらく騒いで疲れた志郎は違う話題を切り出した。

 

「たしか明後日か。俺は決まったが、お前はどうなんだ?またいつもの誕生花シリーズか?」

 

「シリーズって言うな。しょうがないだろ、これくらいしか気の利いたものが思いつかないんだから。」

 

志郎は憮然とした表情で幸雄に反論する。

 

「4月19日って何の花なんだ?」

 

「デルフィニウムだな。花言葉は『清明』と『高貴』だ。」

 

「へえ、『高貴』ってのは真姫にしっくりくるな。」

 

「そういうのも考えてるからな。」

 

「志郎もなかなか気が利くやつだよな。」

 

「不器用なりに知恵を絞っただけさ。」

 

「素直じゃねえなぁ。真姫のめんどくさいのが移ったか?」

 

「はは、そうかもしれんな。そういえば桂も真姫のように気難しい性格だったな。」

 

「んでしょっちゅう機嫌を損ねては俺や釣閑斎どのに愚痴ってな。」

 

「そのことはもういいだろう!」

 

 

 

2人は昔の話に花を咲かせながら、真姫の髪のように赤く染まった夕陽に照らされながら帰っていった。




いかがでしたか?


いやー、ツンデレキャラは難しいですね・・・。自分が書くとツンの部分が消えてるように思えて四苦八苦しました。だからって最後のウイスキーボンボンは流石に卑怯な手を使っちゃったな、と反省してます。

今回は真姫ちゃんが抱いているであろう葛藤について触れました。上手く表現できただろうか・・・。

とりあえずメンバーの誕生日記念の短編9人分書ききりました!!9人分書くにあたってそれぞれ違うネタを考えるのが大変でした!毎年それぞれ違うネタを考えて誕生日ネタを書く絵師さん凄いと思う今日この頃です・・・。

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