エチュードの終わり   作:落窪よしお

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前篇

 

 始まりのテーマ:エチュード第三番

 

 

 窓から見える通りの木樹には新芽が疎らに息吹いているが、風が割合に強い。そっと左手で窓に触れると一瞬で全身まで広がりそうな冷たさを感じて、すぐに手を離して右手で持っているカップに押し付けて温めた。白い、何らの装飾が施されていないカップには淹れたてのコーヒーが入っている。一口啜って、今日は上手く入れられたなと思う。壁に掛けられた時計を確認すると、もうそろそろいつもの時間である。これから来る客人が自分の作った朝食を食べる姿を想像して、微笑する。料理――と言っても簡単なものだが、他人の為に作った料理が上手く出来た、というのは嬉しい。何故なら、相手が食べる前から相手の喜ぶ顔が想像出来て、こちらまで嬉しくなるから。

 イリス・シャトーブリアン――彼女を知る者は皆「アイリス」と呼ぶ――は自身とその友人、二人分の朝御飯を作る為にいつもより早起きをしていた。あとはスープを温め、料理を皿に盛り付けるばかりである。

 

 

 そうこうしているうちに待ち人が来た。誰かが扉を叩く音のする玄関口へアイリスは急いだ。扉を開けると、そこにはアイリスよりもやや背丈の小さい、革のジャケットを着た少女がいた。少女はまだ寒さの残る巴里の空気に、血色の良い笑顔を見せて言った。「えへへ、おはよう、アイリス!」

 アイリスも笑顔で応じる。「おはようコクリコ!さあ入って」アイリスは片腕をリビングの方に向け、歓迎の意を示した。

「お邪魔しま~す」

 アイリスはコクリコが朝から来る日には、もはや定番となった遣り取りを繰り返した。「コクリコ、ご飯は?」

「家でパンだけ食べてきたよ。でもアイリスが作ってくれたならありがたく頂くよ!なんてたって成長期だからね」

「ふふふ、そう言うと思って作っておいたわ」

 コクリコはジャケットを脱ぎ、これももはや定位置となったテーブルの席に腰を下ろした。背もたれにジャケットを掛けて言う。「うう、しかし寒いね」

 アイリスはコクリコにコーヒー――これまた、今やコクリコ専用のカップだ――を注ぎながら言う。「もう、コクリコがこの前、蒸気ストーブはもう仕舞っちゃってもいいんじゃないかって言ったから、うちでは仕舞っちゃたのよ。私は厚着しているからいいけど、コクリコももっと着込んでくればよかったのに」コクリコの上着は、ジャケットの下は白いシャツ一枚の様であった。

「ははは、でもアイリスの朝ご飯を食べればすぐ暖かくなるさ。この部屋にももうじき陽が射すしね。あ、コーヒーありがと」カップを受け取ったコクリコはうやうやしくそれを撫で暖を取った。「はああ、暖かい……じゃあ、頂くねアイリス」

「はいどうぞ。私も頂くわ」

 コクリコはコーヒーを一息に飲み込んだ。喉と胸とがほっと、一気に熱くなる。「……ふう」吐いた息は白かった。「コーヒー、美味しい」

「だったらもっとゆっくり、味わって飲めばいいじゃない。せっかちなんだから」アイリスは苦笑して言った。

「ちゃんと味わってるよ…ほら、僕の鼻腔に広がるこの香り…」アイリスは鼻を膨らませてアピールした。

「ふふ、そんなことしてもコクリコがどう感じているかなんて、私には感じられないから!」そりゃそうだ、とコクリコは笑顔で返す。

「ところでアイリス、今日の予定は?」コクリコは胡椒の効いた白菜のスープを飲んだ。まるで体の内側に蒸気機関があるかの様に汗が滲む。熱いのはコーヒーと同じだが、この熱さは体に長く留まるかの如き感覚だ。

「八時から十時までシャルロット先生の講義。十時半からお昼挟んで一時までシャノワールで戦闘訓練。それから二時間自由時間で、三時から開演までレビュウの打ち合わせと練習、六時半から開演。今日はエリカとロベリアの日ね」

「僕達、今日レビュウないならちょっと楽だね」

「ほんの少しだけじゃない。私はレビュウよりもシャルロット先生の講義がずっと疲れるケド…このスープちょっと辛く味付けしすぎたかな」

「いやあ、僕はこれくらいが好きだよ。パンによく合う。それとシャルロット先生の講義が疲れるって、僕も同じだね。でも頭の疲れと体の疲れじゃ疲れの方向が違うよ」

「体を動かしたくなくなるから、頭の疲れも体の疲れみたいなものじゃない?あ、ベーコン美味しい」

「厚く切りすぎじゃないの?贅沢な」

「ふふん、私達はブルーカラー労働者なんだから精を付けなきゃね。これくらい食べる権利はあるよ」

「またそんな…まあ美味しいからいいけど。とってもとってもガストロノミ…」コクリコも厚く切られたベーコンを、ナイフでこれまた大きく切って、頬張った。忙しなく動くコクリコの頬を見て、アイリスは――手が込んだものはないとは言え――甲斐があったと思った。自分が作ったものを相手が次々に、しかも美味しそうに食べてくれるというのは、見ていて何とも心地良いものだ。

「そういえば春の新しいレビュウが始まるのって四月からだっけ?」

「うん。四月の…二日から」

「確か四月からはメルとシーのレビュウが増えるんだよね。その分僕達のレビュウはちょっとずつ減る」

「巴里防衛の新計画の為に、私達の負担を少しでも減らすのが目的らしいけど。でも、そんなのメルとシーに悪いよ」

「うん。今の人数のままシャノワールを回そうとしないで、早く新人を補充すればいいんだよ。確かそれってアイリスの担当じゃなかったっけ?それとコーヒーのお替わりある?」

「あるけど一杯までね。私も飲みたいから。新人の調達に関してはこれがなかなか難しくてね…。確かに私もちょっとだけ仕事をやっているけど、何せ光武を動かせる位霊力が強い人間を見付けるのは簡単じゃないから――それに今、巴里華撃団に必要なのは光武パイロット級の霊力を持つ人間ではなくて、それよりはやや劣っても常人よりは霊力の強い人間だわ」

 コーヒーポッドはガス台に置かれていた。コクリコは立ち上がってポッドからカップへとコーヒーを注ぐ。湯気と共に広がるコーヒーの香りを目を瞑って楽しんでいると、勢い余って明らかにポッドに入っていたコーヒーの半分以上を注いでしまった。それどころか今は元あった量の三分の一くらいしかないかも知れない。コクリコはしまったと思い、ちらりと後ろを見るとアイリスは気が付いていない様で、こちらに背を向けて座ったまま食事をしている。このまま食卓に戻ったらアイリスに怒られる…!

 コクリコは然りげなく窓の方へ行き、壁により掛かって窓から見える景色を眺めている風を装った。この位置ならばコクリコの体でカップの中のコーヒーの量を知ることは出来ない。

「うわ、あんなに樹の枝が揺れてるよ。僕が来る時も強かったなあ…で、光武パイロット級の霊力云々って?」

「ほら、今技術部の人達が光武の他にも霊力をエンジンとする幾つかの兵器を開発しているでしょ。ああした兵器を扱うのに光武パイロット級の霊力を持つ人間は必要なくて、そうした圧倒的な少数者よりはもうちょっと人数の多い、やや霊力の強い人間が新しい計画上必要なのよ。あ、でも光武パイロット級の強霊力者の調査をしていないわけじゃないわ。同時進行ね」

「あれ、でもジャンさんが前にそんな道具を作っていなかったけ?カメラの様な機械で、人間に向けるとその人の霊力が分かるっていう」

「うん。あれは今も、新人探しで実際に動いている人達が使っているらしいよ。けれど大きな欠点として、あれは光武を、私達みたいに動かせる強い霊力なら認識することが出来るんだけど、逆に言うとそれに満たない弱めの霊力は測定することが出来ないの。つまり閾値が高いのね、判定の」

「それで何か問題があるわけ?」

「巴里防衛の新計画上、重要視されているやや霊力の強い人間を発見することが出来ないのよ、あれじゃあ。帯に短し襷に長し…」

「今の機械じゃ見付けるのが難しいのに、見付けなくちゃいけない…」

「そう。だ~か~ら~」アイリスは残っていたレタスをフォークでまとめて口に押し込んだ。「新隊員の調査は前途多難なの…私に出来ることといったら、新人探しで実際に動いている人達が作成してくれた書類にちゃあんと目を通して、目ぼしそうな人を吟味することくらい。何だかやるせないわ。今、一番華撃団が必要としている仕事に協力出来ないなんて」

「そんな…アイリスは副隊長として出来ることをよくやってくれてるよ。難しい技術のことはジャンさん達に任せるしかない」

「それじゃあ私の気が収まらないの!あ、コクリコ、コーヒーポッド取ってくれない?私もコーヒー飲みたい」

「エ!」

「いいじゃない、ポッド取るくらいしてくれたって」

「ああ、勿論取るとも。あ~あ、僕まだ眠いなあ」コクリコは如何にもわざとらしく大きな声で言った。そしてポットを取って机の上に置いた…アイリスの向かい側、コクリコの座席の方に。

「ちょっとコクリコ。なあんでわざわざ取り辛い所に置くのよ」

「眠いから僕、顔洗ってこよーっと」これまた大げさな動作でコクリコは洗面所へ向かおうとした。すかさず違和感に気が付いたアイリスはポッドに手を伸ばし、残されたコーヒーの少ないのに気が付いた。

「あーコクリコ!私の分も残していおいてって言ったじゃない!」

「ぼ、僕顔洗わなくちゃ!」

 コクリコはもはや演技染みた動きは止めて駆け足でリビングから去ろうとした。しかしアイリスの「力」は人が動くよりもずっと早い。

「コクリコの、馬鹿ーっ!」次の瞬間コクリコの髪の毛は四方八方に逆立ち、絡み合い、巴里中探してもここまで寝癖が酷い者はいなかろうという頭になった。コクリコは髪がぐしゃぐしゃに引っ張られるのを感じて青ざめて叫ぶ。

「ギャーっ!ごめん、ごめんよアイリス~、わざとじゃないんだ、だから止めて~」両手で自身の髪の毛を触ってみて再び声を上げる。「うわああ!ぼ、僕の髪が!」

「ふふん、じゃあコクリコがコーヒー淹れて。そしたら許してあげる」

「えー、僕、シャルロット先生の講義の前に数学の復習したいんだけど」敢えて、コクリコは恰もアイリスの発言が不当であるかの様な口振りで答えた。

「コークーリーコ!」再びコクリコの頭髪は大きくうねり、太陽から放たれる光線をかたどったかの如き形となった。

「ウソウソ!僕がアイリスの為にコーヒー淹れますから!お願いだから止めて!」

「ふふふっ、コクリコ、今の髪型の方がいつものより似合ってるよ。だからこのままの方がいいんじゃない?」駄目押しに、アイリスは念力でコクリコの髪を毛筆の様に仕上げた。その可笑しさにアイリスは思わず吹き出した。コクリコも洗面所の鏡で自身の髪の毛を見てみて、大笑いする。

「も~アイリスなんだよこれ~、前衛的すぎ」

 部屋には二人の笑い声が、いつもの様に響いた。

 

 

「今日は、アイリスは何やったの」

「オデュッセイアと国語はバルザック!」

「へえ。僕は二次関数とユーゴー。ユーゴーは面白かったけど、やっぱ数学はよく分かんないや」

「ふふふ。私も数学嫌い!ほら、急がないと!」二人は慌ただしく必要なものをバッグに詰め込んでいた。

 時計の短針は既に四の字を過ぎていた。集合時間は十時半であるから、このままでは遅刻しかねない。最近、グランマは遅刻に厳しいのだ。

「走らなきゃ駄目だね、アイリス」

「勿論、さあ行きましょうコクリコ!」

 二人は突進する様にして扉を出て、アパートの二階から落ちる様にして階段を下り、弾丸列車エクレールが行く様に街路を駆けた。幸い、巴里に吹く名残惜しそうな冬の風は二人の背中を押していた。金色と栗色の翠髪が揺れる。

「もう!シャルロット先生、沢山教えてくれるのは嬉しいけど全く時間に無頓着なんだから!この頃僕達がシャノワールへ行くのに走りっぱなしなのは、半分以上は先生に原因があるよ!」

「全くね!宿題も多いし、私達が文句言うと、いつも「あなた達は女である前に一個の理性人でなければならない!」だし!」

「ハアハア…ははは、今の先生の真似似てた」

「ふふふ…ハアハア…今、二十九分…二十秒くらい、コクリコ頑張って、あと六十メートル!あそこのマロニエまで!」アイリスは少し先にある、いつも華撃団の仲間と行っている菓子店の横に植えられている、マロニエの木を指差した。その木を目掛けて二人は猛進する。先にコクリコが、思わず抱きつきそうになりながらマロニエに着き、その後からアイリスがやってきた。

「コクリコ、手を!」アイリスはコクリコに、あと数歩でぶつかるというところで手を差し出した。

「うん、アイリス!」コクリコもすかさず手を伸ばす。

 二人の掌が触れ合った時、二人の体と影とはその香を残してその場から消えた。店の前を掃除していた菓子店の店員と、この近くで似顔絵画家をしている男はその光景を、さもありがちなことの様に微笑ましく見ていた。

 

 

「集合時間十七秒前…二人共ギリギリだぞ!」

「凄い汗ですねえ、コクリコにアイリス」

「また例の教師かい?時間になったらとっと出てきちまえばいいのに」

「そんなロベリアさん、ものを教えて下さる方にそれは失礼ですわ」

 マカロニから数区画を隔てたテアトルシャノワールは作戦司令室に、コクリコとアイリスは弱い閃光と共に現れた。部屋には既に他の隊員、そしてシャノワール総支配人であるグランマが集まっていた。

「ハアハア…グランマ、副隊長シャトーブリアン只今到着致しました…ハアハア…」呼吸と服装が大きく乱れ、大粒の汗が流れている為に格好はつかなかったが、それでもアイリスは直立し上官に敬礼をする。

「こ…コクリコっ、同じく到着しました…」コクリコもそれに倣った。

「時間通り全員揃ったね…よろしい」ワイン色のドレスに身を包んだ壮年の女が、隊員全員を見渡す様にして言った。

「今日の訓練はこれより一時間程基礎体力作り、その後は休憩を挟んで光武による仮想演習だよ。仮想演習は巴里防衛新計画に基づく新訓練計画のJの七を行う」

「怪人によってエッフェル塔、パルティーユ広場などが同時多発的に攻撃を受ける想定ですね」赤の戦闘服を着たエリカが言った。

「むう、それはまた難関そうな状況だな」

「今日アンタ達に伝えなきゃならないニュースは二つ。一つは華撃団の予算についてだ。新計画を今年中に大きく前進させる為に昨年から各方面へ様々な働き掛けを行っていけど、今になってようやくこっちへ実際に金を動かしてもらえる様になった。予算の増額自体は去年の冬には決まっていたことだけど、方々のお偉いさん方がアホな所為で、実際に予算を使える様になるまで随分掛かっちまった。これにはグリシーヌの功績が大きい。皆、感謝をし」

 青い戦闘服を纏ったグリシーヌが歩み出て言う。「何、私は自分が出来ることをしたまでだ。この巴里華撃団の中で政府に影響力があるのは、グランマに次いでこの私だからな」

「グリシーヌったら、ここのところ政府の高級官僚相手にかなり熱く議論していた様なんですよ。お屋敷の使用人にまで噂は聞こえていたんですから」

「花火、その話を悪くとってはいけないぞ。奴ら官僚が私を小娘と馬鹿にするからつい口調も荒くなってしまったのだ。まあ、腹蔵ない討論が出来た御蔭で奴らも奴らなりに巴里、そして国のことを考えているということは分かったがな」

「へ…何にせよ、使える金が増えたことはいいことだ。ありがとよ、グランマにグリシーヌ」

「あ、ロベリアが素直だ」

「うるさいチビ!遅刻ギリギリの分際で無駄口きくんじゃないよ」

「なっ、僕もうチビじゃないよ!」

「あたしよかチビだろ」

「はいはい、アンタ達、二つめのニュースだ。これは華撃団の新隊員についてだよ。折から新隊員を補充するということは話してあったけど、ついに人物を選定し入団の可否を決める段階へと入りつつある」

「え、そうなんですかグランマ。随分と早いですね」アイリスが言った。

「いや」右手でグランマがアイリスを制した。「この隊員は「基幹戦闘員」のことで「支援戦闘員」のことじゃない」グランマは敢えて、まだ華撃団内でもあまり使われていない言葉を使った。

「基幹戦闘員」「支援戦闘員」――これは巴里防衛新計画内でグランマが提出した新しいアイデアで、基幹戦闘員がアイリスやコクリコなど、先天的に強力な霊力を持ち、シャノワールを中心として生活をし、光武に乗り戦う少数の戦闘員、支援戦闘員が霊子兵器を扱える程度には霊力を有し、かつ巴里各地で分散して存在し、平時には巴里の霊的治安への協力、非常時には基幹戦闘員の戦闘支援を行う多数の戦闘員のことを指す。この言葉はグランマが首都警察及び王国政府に提出した報告書内で用いられ、その文書は一応、巴里華撃団隊員にも配布されたが、何せ百数十ページある専門的な報告書であった為、隊長であるエリカと副隊長であるアイリスしかまともには読んでいなかった。グランマはそれを見越して、取り敢えず全体ブリーフィングで時間を取らない様に、アイリスにだけ分かる表現で手短に説明したのだった。

 エリカが口を開く。「新隊員の最終的な決定はグランマと私が相談の上でしますが、皆さんにも意見は伺いますのでご心配なく!」

「取り敢えず、現段階で判明している新隊員候補の簡単なレポートを見せておこう。エリカ、これを皆に回しとくれ」

 隊員に一人二、三枚のレポートが回された。そこには候補者に関する極基本的な情報――すなわち出生地、生年月日、体力、学歴、家庭環境…そして霊力の高さを裏付けるデータ(と彼女らについての「噂」)が記載されていた。

「……!グランマ、新隊員探しはフランスのみならず外国でも行われているのか!」レポートを読み、グリシーヌが真っ先に声を上げた。

「そうだよ。それがどうしたんだい、日本の帝撃もウチも、元々国際色豊かな組織だろう。何か不満なのかい」

「いや、勿論そうではない。頼もしいと思ったのだ、国境の向こう、海の向こうでも我々の仲間を探すなどという、容易ではない仕事を展開している人々の存在が」

「この仕事はウチの技術者、巴里市警、内務省、国の研究機関、そして民間の貿易商社からの出向者が集まってチームを結成し、動いてくれている。彼らがいなければ、光武パイロットという圧倒的少数者を見つけ出すのは困難を極めただろうね」

「巴里華撃団の存在は色んな人々によって支えられているということですね」花火が言った。

「しかし凄いね。アルジェリア、上海…マリ…」レポートを見ながらコクリコは目を丸くしていた。「こんなに離れた地域じゃあ、調べに行くのがまず大変だよ」

「こっちの奴はフランス出身ばかりだがな…」緑の戦闘服を着たロベリアもレポートをめくった。「シャンパーニュ――おいアイリス、アンタと同郷だぞ――、アルザス、ブルターニュ、プロヴァンス。まあでも、随分デカい仕事には違いない」

「そしてその隊員候補の中から、二ヶ月以内に最大で五人まで調達を行う」このグランマの言葉にはアイリス以外の全員が驚いた。

「いきなりそんなに人数を増やすんですか、支配人」

「そうだよ花火。でも最大で、だから五人きっかり採用するとは限らない。けど、何れにせよ新人が入ってきたらアンタ達には総出で教育してもらう…忙しくなるよ」

「忙しいのは慣れっこだが、隊員の人数が倍近くなると、作戦などを根本から見直さなければならなくなるのではないか?」

「人間が増えるんだから、見直すというよりは発想の転換が可能になるんだよ、自分達のしたいことに合った発想の転換が。パーッと展開出来る様になるのさ、アタシ達を」

「でも最大で五人増……アイリス、計画上の予算はどうなってるの?」コクリコは隣にいるアイリスに問うた。

「予算がちゃんと追加されれば…少なくとも計画上は大丈夫。何故って、今年の増額分予算はその殆どをこの新人関連に割かれる予定だから。大雑把な計算だけど、新人を調達する為に掛かる費用と、新人に実際使わなきゃいけない費用とは前もって想定されているのよ」

「ふーん、そうなんだ。いや、始めの予算を大きく上回って、全然関係のないところからも出費が迫られているのかと思っちゃた」

「うん…実を言うと今の華撃団に、仮に新人を五人入れたとして、五人全員に新しい光武を与えられるだけの余裕はないの。グランマとグリシーヌの御蔭で予算増額、そして政府内部でも巴里華撃団への予算を底上げすべきとの声は高まっている…らしいけど、まだまだカツカツね」

「やっぱし」コクリコは肩を落とした。華撃団が予算獲得の苦労から解放されたことを、一瞬期待したからだった。

「済まないねアンタ達…こっちでもお偉いさん方に働きかけて、出来るだけ早期に予算の底上げを実現してみせる。現場で戦ってくれているアンタ達にひもじい思いはさせないよ」

 隊員全員がグランマの顔を見つめる。その表情は信頼に満ちていた。

「――今朝までに、巴里市内に怪人が出没したとの通報はない。以上でブリーフィグを終わる。各員、気合を入れて訓練にあたれ!」

「了解!」

「それと、エリカとアイリスは残っておくれ。正副隊長として伝えておかにゃならないことがある」

「え、分かりましたグランマ。それではグリシーヌ、私の鞄に今日の訓練メニューをメモしたノートが入っていますから、それに従って先に始めていて下さい。コクリコは急いで戦闘服に着替えて下さいね」

「承知した」「はーい」

 二人以外の隊員は足早に作戦司令室から立ち去った。エリカとアイリスはグランマの側に行く。

「グランマ、お話とは?」

「まあ座っておくれ。立ったまま聞いてほしいことじゃないんだ」グランマの表情から楽しい話題とは言えなさそうだった。二人もそれを察知し心を引き締める。

「二人に話しておきたいのは、巴里防衛新計画に関連することだ。あれの有用性が政府内で認められ、フランス全体の規模で同様の防衛計画が組まれる運びとなった。といってもまだ文書化はされていないんだけどね」

「巴里のみならずフランスの霊的防衛――ですか」アイリスは浮かない顔になった。国家全体という大規模での霊的防衛機関の組織に成功したという話は――元よりそれ程沢山の事例を知っている訳ではなかったが――未だ聞いたことがなかったからである。それは光武を始めとする霊力兵器の数々、その研究開発には多額の資金が必要である上、そもそもそれを操れる人間が少なく、しかも発見自体が困難であるという事情に起因する。

「それって…凄く大変そうですね」エリカが言った。

「勿論簡単なことじゃない。だからこそ、政府が本腰を入れてやらなきゃならない事業なのさ。――というよりも、金食い虫だが重要な任務だからこそ、本来的に政府が担うべき仕事なんだ、当然にね。これまで政府のお堅いエリートはアタシ達のことを色物扱いしていたみたいだけど、最近になってようやく考えが変わった様だよ。全くどうして国家組織ってのはああも腰が重いんだか」

 アイリスが言う。「でも…グランマ、自分で言うのも何ですけど、これから私達の様な組織がもっと必要なんですか?「巨樹」を打ち倒した今もなお?」

「そこが問題となる」グランマは二人に十数枚で組まれた書類を渡した。そこには蒸気タイプライターで文章が長々と印字されていた。

「それはちょっと分量のある論文だけど、二人には数日中に目を通しておいてほしい。今要点だけを述べると、これからもフランスは霊的な脅威にさらされ続けるって話さ」

「ええっ!」エリカが声を上げた。「ま、また強力な敵が現れたのですか!」

「慌てるんじゃないよエリカ、そうじゃない。問題は、アンタ達の様に強力な霊力を備えた人間が犯罪組織に加わり、国家全体に脅威を及ぼすという事態だ。

 強い霊力を持った人間が、その力を使って犯罪に走るということは以前にもあった。ロベリアがその典型例だね。だけどその論文で警戒されているのは、そうした単独犯による霊力を使った犯罪ではなく、一人にしろそれ以上にしろ、霊能力者を有する犯罪組織による、組織的な国家への攻撃だ。

 周知の通り、高い霊力を有した人間というのは人々の間で確率的に発生する。これの意味するところは、霊能力者が生まれる条件は社会的な要因に左右されないってことだ。生得的なもんだからね。

 政府の官僚達はその事実に注目し始めたって訳さ。貧民窟などの、人々が犯罪に走りやすい環境で育った霊能力者が、犯罪組織に入って政府に仇為す危険性を理解し始めた――と、こうだ。

 また前提として、蒸気技術が世に広まる過程で様々な思想も時を同じくして伝播していった。その中には過激なものも少なくない。今や、我がフランスには政府が把握出来ていないものも含め、過激な反国家組織が大小二百はあると推定されている。そうした連中に霊能力者が加わると非常に都合が悪い。

 これはフランスの旧植民地に関しても言えることだ。程度の差は勿論あるが、フランスの旧植民地では、現在、反フランス組織が急激に伸長している――というのが内務省の見解だよ。フランス政府は教育支援を名目に、旧植民地における幼年霊能力者の発掘にあたっているけど、我がフランス本土でもまだその試みは功を奏しているとは言えず、まして旧植民地では焼け石に水といった感じだろう。つまり、まだ世には人知れない強い霊能力者がおり、彼女らが反フランス組織に感化されるというのは十二分に有り得る話ってことだ。フランスが未だに霊的脅威に晒されているというのはそういう意味さ。

 だからこそ、依然としてアタシ達の様な組織が必要ってことさね」

「まだ――怪人だけでなく、人と人とが戦わなければならないということですか…」そう言うエリカの顔は、心を痛めているということが如実に表れていた。

 ――エリカにはこういう話は辛いかもね…。論文に目を落としつつ、向かいの椅子に座っているエリカを、アイリスはちらりと見た。

「今言った様に、国家規模の霊的防衛組織はまだ、政府のお偉いさん方に必要性を強く認知されたというだけで、具体的なことは殆ど未決定だ。だけど、アタシは、そう遠くないうちにこの話が政府の公式な場で議論され決断される様に、お偉いさん方に強く働き掛けていくつもりさ。

 そしてこの話が日の目を見た暁には、エリカ、アイリス、アンタ達にはフランスの霊的防衛に関する最古参として、今よりも高度な役割を演じることが要請されるだろう。これからはその事を念頭に置いて、日々戦ってもらいたい」

「私が…巴里華撃団のみならず、フランス全体の防衛に関与するんですか…?」エリカはおずおずと問う。「この私が…?」

「エリカ、ムッシュ大神から巴里華撃団を託された時点で、アンタに泣き言を言う資格はもうないよ」大神――その名を聞いてエリカの表情が変わった。「巴里の為、そしてフランスの為に、これまで以上にしっかりやっておくれ、エリカ」

「はい…了解しました!」

「アイリスもだよ」

「了解しました。来るべき時に備え、私なりに色々研究してみます」

「よろしい。二人共、今のことはまだ他の隊員には言わないでおくれ。余計な動揺を与えたくないからね。二人にだけこのことを言ったのは、華撃団の、将来の発展に、正副隊長には構えておいてもらいたかったからさ。

 以上がアタシからだ。二人から何か質問は?」

「いえ、ありません!」「ありません」

「ならば結構。では解散し訓練に合流しておくれ」

「了解!」

 

 

 片手に双眼鏡、片手に無線電話の送話器を持ち、アイリスはシャノワール地下訓練場の展覧台にいた。二十数メートル眼下では光武の戦闘訓練が繰り広げられている。エリカとグリシーヌ以外の隊員も見ていた。

 アイリスは送話器に叫ぶ。「エリカ、飛びながら精密射撃なんか駄目!そんなに長時間同じ場所にいたら撃墜される!強く叩くのはグリシーヌに任せてエリカは敵を攪乱!」「りょ、了解!」

 翼を広げ宙の一点に留まっていたエリカの操縦する赤い光武は、急降下し訓練用敵機の群れの上を駆け抜ける。エリカは上からガトリングで弾丸をばら撒いた。敵を撃破するには不十分だが、牽制、そして砂塵を巻き上げることで目隠しの意味がある。

 装着したイヤホンからアイリスにも二人の通信が聞こえる。「今ですっ、グリシーヌ!」

 遮蔽物の陰から高速で飛び出した青いグリシーヌの機体は、その速度を利用して戦斧を叩き込む。大斧の重たい打撃は多少粗いものであっても、一撃で敵機を切り裂いた。しかし敵機の残数、約三十。このままの勢いで殲滅し尽くすことは無理である。

 アイリスは再び叫んだ。「グリシーヌ、周囲を確認!今のままじゃ包囲される、一旦退避、エリカの陽動を待って!」

 隙かさずエリカはグリシーヌを追う敵に、宙から弾丸を浴びせる。「グリシーヌ!私が広範囲を撃って敵を引き受けます!その間に側面へ!」「頼んだぞ!」

 想定は光武以外のあらゆる武器、支援が望めない状況での、少数機による敵多数との戦闘であった。霊力による回復の奇蹟で仲間をサポートすることの多いエリカだが、最近は火器を活かした他隊員との連携に重点を置いていた。この訓練もそれを意識してのことである。

 しばらくアイリスが高台より見た二人の行動の基本的な誤りを指摘していたが、見ている側から改善され、徐々に二人の意思疎通だけで敵機に対処出来る様になった――が依然として容易な状況ではない。

 意識は目の前で戦いを繰り広げる赤と青の光武、そして両耳をつんざく通信に向けながらも、アイリスはグランマの話を思い出していた。

 ――グランマの言っていた話。あれはフランスの霊的防衛を、フランス一国で完結しようという話。つまり「賢人会議」が進めている「欧州防衛構想」とはその思想が根本から異なる…グランマの進める巴里防衛新計画の方が、発想としては自然だと思うけど。

 欧州防衛構想。アイリスはその概要を知らされた時、俄に驚いた。各地の霊的防衛組織と協力しながら、巴里華撃団が主軸となって欧州の土を魔的脅威から防衛せんとする構想。これの要求するところは各国による欧州全体の防衛の為の、兵士なり金なり技術なりの供出。それは国益の中枢に関わる要素を大陸全体の為に提出しろということで、一見すると幼児にしか通用しなさそうな安い道徳論を、硬い言葉で着飾っただけの様に見える。アイリスも最初、その様に感じた。――各国が協力して欧州を守る?はん、美しい話ね、と。

 アイリスがこの構想に今一つ好意的になれなかったのは、これが欧州大戦後、各国の文壇論壇を支配している空想的平和主義の臭いがするからであった。即ち欧州大戦以後、欧州には厭戦の気運が席巻し、猫も杓子も「平和は素晴らしい」と叫び続けていたのである。

 そうした毒にも薬にもならない文章の中に、「一なる欧州」とでもカテゴライズ出来るものがあった。かの大戦争が終わった今、欧州は一つの理念、一つの旗の下に結集せねばならない――と説く論説である。決して主流派と言う訳ではないが、確かにそうした人々が、今の欧州では一定の地位を占めていた。

 アイリスには、欧州防衛構想がその様な胡散臭い――が世間全体が浮かれている為にそれが隠蔽されている――主張と同一の如く思えるのであった。

 眼下ではエリカとグリシーヌが良い動きを見せていた。しかしエリカ機の光武に搭載されたガトリングの銃弾は既に払底、エリカは主要武器を使えない窮地に陥っている。アイリス、そして他の隊員は真剣な表情でそれを見守った――アイリスが指示を出すのは、飽くまでも基本的な行動ミスのみで、訓練場を俯瞰出来るこの位置から、命令を出すことはしない。この訓練の目的は光武に搭載された兵装、通信機能のみで多数の敵を撃破し得るまで、隊員間の連携を高めることにある。

 ――一なる欧州、平和の大陸、世界を主導すべき文明……確かに、あの戦争の規模を思えば、一時的にそうした熱に浮かされるのも、理解出来ないではない。私だって平和が一番好き、そこに異を唱えるつもりはない。でもだからといって、そういう気分を安全保障にまで持ちこんでいいものかしら?国家の枠組みを超えて欧州の為に連帯するなんて、今の世界で可能なの?

 例えば欧州全体の敵となる、もっと分かりやすい存在があれば別よ。そんな敵がいれば否応なく国家間の協力を高次にせざるを得ない。でも第一に怪人などの魔的脅威は「見えにくい」から、そこまで積極的に国家同士が、お互いの腹を割って協働することは――私は、出来ないと思う。やっぱり敵が「見えやすい」って重要なことなのよ。そして第二に「共通の敵がいれば」なんて話は、「火星人がやってくれば人類は一つになれる」って話と同次元――つまり「一なる欧州」の理念も、それくらい荒唐無稽な、それでいて時代の空気が夢物語であることを覆い隠しているだけだと思うわ。

 それに――きっとこれから、技術が躍進していく中で国家間の勢力均衡が崩れ、また戦争が利益確保の手段として――それが幾ら非効率だとしても――合理的になる時代が来るに違いないの……今、そうした要因となり得るのは飛行機……でも、もっと未来においては――霊力兵器。

 アイリスは物憂げな顔をした。人々を守る為に今、自分達が使っている武器が、何れ人間同士が殺し合う道具として動員されることを予感したからだった。

 霊子甲冑光武の開発は、飛行機に次ぐ世紀の大発明である。しかしうら若き歴史しか持たぬ飛行機よりも更に生を受けて日が浅い光武、その詳細は世間一般にはまだ轟いておらず、各国間の情報交流も鈍く、各国各部隊で試行錯誤しながら技術の洗練を進めている状態となっている。また兵器として実戦配備が急がれた故に、基礎研究もおざなりにされている。

 ――だけど、こうした状況も新技術の黎明期特有の過渡的なもので、何れ蒸気機関その他の技術と同様、多くの科学者、技術者が公開される手続きに従って公の場で議論する様になるハズ。霊力に関する研究だけこのままということは有り得ない、世界中の秀才天才達が、この不可思議な現象を放っておく訳ないもの。

 そうして霊力に関する研究が進んだ時……未来においては、きっと、より弱い霊力でも強大な力を取り出すことが出来る様になるわ。今の少数精鋭のみが扱える兵器としての霊力兵器ではなく、槍の様に、銃の様に、訓練すれば誰もが使える兵器として、この光武達は世界に革命を起こすに違いないの。それが具体的にどんな姿をしているか、そこまでいくと私の想像を超えるけれど、でもいつの日か霊力兵器がもっと一般化するのは…間違いないと思う、時間は、長く掛かるでしょうけど。

 そして霊力兵器がもたらす国際関係と戦場とへの衝撃は、世界の安定を揺るがすに余りあり、もしかすると揺らしすぎて世界を滅茶苦茶にしてしまうかも知れない。その大変革を前にして、現在の欧州平和の季節が脆かろうということは想像に難くない。

 蒸気、飛行機、光武……。紅蘭が聞いたら溜息をつきそうな話だわ、とアイリスは思った。

 そういう訳で、アイリスはグランマの言った巴里、そしてフランスの霊的防衛の拡大には賛成であった。

 ――巴里華撃団を、より強力な組織に!

 敵残数が約二十、弾丸の切れたエリカ機は飛翔し、敵中央に突っ込もうとしていた。「!」その判断の意図が読めず、アイリスは指示を出そうにも何も言うことが出来ない。

 するとエリカは自身の霊力を開放し、敵中心でバリアーを展開する。「グリシーヌ、私が敵を引きつけている間に!」「まかせろ!」

 グリシーヌが敵を駆逐するまでエリカのバリアーがもつか――他の隊員は固唾を呑んで見守る。二人はエリカ機のみに敵が群がるよう、異なる進路で移動を続けた。少しずつではあるが、グリシーヌが着実に敵の群れを削っていく。

「敵、残り七!頑張れ、エリカ!」

「防御がもちそうにありません、一旦下がります!」

 敵の群れを挟み二人は立つ。あれだけの数とたった二機で応戦した為に、消耗も激しい。

「あと少しだが、こちらも機敏な動きはもう出来ぬ…どうする、隊長?」

「あとは力でゴリ押ししかありません!エレガントな戦いとは言えませんが、私はバリアーを使った体当たりでいきます!なるべく敵のまとまりを切り裂く様に突進しますから、グリシーヌは散り散りになった敵をお願いします」

「了解!」

 エリカ機は翼を羽ばたかせ、自身を射出するかの様にして高速で敵へ走る。一挙に間合いを縮められた敵機は為す術なく、ただ陣形への進入を許した。エリカの目の前には敵数機。そのままぶつかる勢いで、バリアーを一気に発動した。バリアーによってエリカ機の移動に敵数体が巻き込まれ、敵陣形は二分された。敵を遮蔽物に叩きつけ、エリカは停止する。「さあ皆さん、お相手はこのエリカが仕りましょう!」

 グリシーヌの前には数体の敵が残るのみとなった。「エリカめ、私よりも軽武装の癖に多く引き受けおってからに!すぐそちらへ向かう、いざ!」

 アイリスの側にロベリアがやって来た。「アイツら、中々悪くなかったな。あんな厳しいシチュエーションだったのに」

「うん…特にエリカが、上手くグリシーヌの打撃を支援出来ていたわ」

「以前はアイツ一人で突っ込むことも少なくなかったが、ちったあ、戦闘ってモンが分かる様になってきたってことかね。このままいってくれれば、安心して火力支援を任せられるよ」

「でもやはり、エリカの光武は火力不足ね。グリシーヌの戦斧やロベリアの大爪と違って、弾丸は使い捨てだから持久戦に弱いのはしょうがないけど――それにしても、もうちょっと一発が重いといいわね」

「同感だが、装備を新しくする金はあるのか?」

「……整備班の人達に相談するのはタダだから」

「笑うしかないな」なので、二人して笑った。自律型訓練用敵機を使用した今回の訓練も、グランマによるとかなりの遣り繰りの末に実施出来たものらしい。直接アイリスが華撃団の帳簿に関わっている訳ではないが、財務担当者のことを思うと胃痛がしてきそうだった。

 隣で観戦していたコクリコと花火が黄色い声を上げた。アイリスのイヤホンにはエリカからの通信が届く。

「アイリスっー?どうです、私達やりましたよ、見てますか?」

「見ているわ、二人共、見事な連携だった」

「当然――とは言えない勝利だ。お互いの呼吸が乱れていては戦い抜けなかった」グリシーヌの声。

「ふふふ、じゃあ観戦しているみなさーん?こっち見てくださーい!」エリカ機がアームを振った。「エリカ達の方を見てだって」アイリスは他の隊員に伝える。

「せーっの、勝利のポーズ、決め!」エリカ機がガッツポーズをした。「ってそれは実戦の時だけだろうが、エリカ!」グリシーヌが間髪を入れずツッコむ。

 わはは――と訓練場の広さに勝るとも劣らない大きな笑い声が湧いた。

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