魔法少女リリカルなのはStrikerS -Another Sankt King- Re:   作:炎狼

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リメイクです。序盤も結構変わってます。


第一話

 薄暗い空間を、切れ掛けの照明が明滅しながら照らしていた。所々ひび割れたコンクリートの床には、大小さまざまな太さのチューブや配線が所狭しと散らばっている。

 

 その配線の先を見ると、蛍光グリーンの液体に満たされた大きなカプセルがあった。さらにその前には、三つの人影が見える。

 

()の生育は順調に進んでいるかい?」

 

 人影の一つ、白衣を着た紫色の髪を持った男性がテノール調で二つの人影の内の一人に問うた。

 

「はい。リンカーコアの成長も滞りなく進んでいます。ただ、貴方がお望みの力は……」

 

「構わないさ。今はそれよりも彼自身に興味がある。DNAのサンプルも保管してあるね?」

 

 男性が問うと、淡い紫色の頭髪をした女性は静かに頷く。

 

 彼等は一様に蛍光グリーンの液体で満たされた目の前のカプセルを見ている。その中には、赤ん坊と変わらない大きさの子供がいた。

 

 すると、人影のうちの最後の一人、金に似た茶髪の女性がカプセルの中の赤ん坊を愛おしそうに見つめ、カプセルを撫でる。

 

 そんな彼女の様子に、男性が口角を上げて笑みを浮かべる。

 

「彼のことが気に入ったかい?」

 

「はい。ねぇドクター、この子を私にいただけますか? 私好みに育てたいので」

 

「無論、構わないよ。君に任せれば問題もないだろう。さぁ、ここはあとは私がやっておく。君達は他の妹達の下へ戻ってあげなさい」

 

 男性が優しく告げると、女性達は黙礼した後、別室へ消えた。

 

 二人がいなくなった後、残された男性はカプセルの中に浮かぶ赤ん坊を見やる。

 

「ふふ、君が安定するのもあと少し……。そうすれば君も彼女たちと同じく、私の大切な家族であり、作品となる。実に楽しみだよ……ククク、クハハハハハ!」

 

 狂笑。まさしく狂った笑い声であった。男性の金の瞳には狂気が渦巻き、口元は三日月のように吊りあがっている。

 

 彼の狂笑が聞こえたのか、それとも偶然だったのか。赤ん坊の瞼が開き、二色の瞳が見えた。左の瞳は真紅。右の瞳は碧。

 

 それぞれ別の色の瞳には体を曲げて笑う男性が写りこんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電子音のアラームが室内に鳴り響く。窓から差し込むのは日の光……ではなく、太陽光に似せて作られた擬似的な光だ。

 

 ここは次元世界における司法機関の役割を担っている、『時空管理局』の本局の内部にある、局員のための居住区の一室。

 

 室内には小さめのテーブルがあり、その上にはハードカバーの本が置かれている。壁に設置されている本棚を見てもそれは同様で、この部屋の住人が読書家であることを表している。

 

 けれど、残念なことに片付けは苦手なようで、置かれた本は決して整理されているとは言いがたく、雑多に置かれている。デスクの上にある本を含め、書類すらも適当に置かれている。

 

 辛うじて壁に掛けられている執務官特有の黒い制服だけはハンガーにかけられているのが、せめてもの救いだろうか。

 

 相変わらず室内には目覚ましと思われるアラームが鳴り響いている。そして、ベッドで布団に包まって寝ていた部屋の主が、布団からゆっくりと腕だけを出してアラームを叩くように止めた。

 

 もぞり、と布団が動くと、アラームを止めた腕で布団を剥ぎ取った。退けられた布団の中にいたのは黒髪の青年だった。

 

 青年は瞼を擦りながらも、人肌に温められ、非常に心地よくなったベッドの誘惑を振り払って上半身を起した。

 

 ガシガシと頭を掻いてから大きく伸びをした青年は、ようやくその重たげな瞼を開けた。瞼の下から覗いたのは、燃え上がる炎を髣髴とさせる真紅の瞳。ややツリ目であるためか、寝起きであっても彼の表情には、やや凄みがあるようにも見える。

 

「くぁ……」

 

 今度は立ち上がり、欠伸をしながら大きく伸びる。ここでようやく脳が覚醒してきたようで、瞳も先程よりは開かれている。

 

「……昨日は残業だったからなぁ。『安綱』、起きてるか?」

 

 軽く朝のストレッチをしながらベッドサイドに置かれている、ブレスレットに話しかける。いや、正確に言えば、ブレスレットに取り付けられている刀を思わせるオブジェに話しかけたのだ。

 

〈はい。起きております、聖様〉

 

 ふわりとブレスレットが浮き上がり、女性の電子音声が響く。電子音の声から分かるとおりだが、一応彼女は女性のようなものである。彼女は『インテリジェントデバイス』と呼ばれる存在で、管理局でも一部の魔導師しか持つことのない、デバイスである。

 

 そして、安綱を携えるこの青年の名前は白雲聖。時空管理局本局クロノ隊に属する執務官だ。

 

「今日ってなんか予定あったっけか?」

 

〈いつもでしたら休日ですが、今日はクロノ提督に呼ばれています〉

 

「あーそっか、昨日……つか、今日の深夜にメールが来たんだよな。顔出しに来いって。何時からだ?」

 

〈午前十時ですね〉

 

 冷静に答える安綱に、聖もまた頷いて返すが寝間着を脱いだところで彼の動きが止まった。

 

「……なぁ安綱よ。いつも休日の俺は目覚ましを何時に設定してたっけな」

 

〈いつもならば午前十時に起きるために、午前九時五十分に設定しています〉

 

「んで、今日は本来なら休日だったよな。てことは……」

 

 恐る恐ると言った様子でベッドの上にある時計を見やると、彼の瞳に写ったのは『am.09:55』という最悪な表示だった。

 

「やっべぇ! あと五分かよ! なんでもっと早くいわねぇんだ安綱!!」

 

〈いえ、よく眠っていらしたので邪魔しては悪いかと〉

 

「唐突に出てくる優しさを変なところで発揮しないでくれるか!? お前、俺がクロノ提督に呼ばれてること知ってたよな!」

 

〈まぁそうですが、それよりも聖様。私と問答している場合ではありませんよ。あと三分です〉

 

「げっ。確かにこの際誰のせいとも言えねぇか!」

 

 聖は大急ぎで制服を着込むと、安綱を引っ掴んで自室を飛び出した。足を縺れさせながらもクロノの執務室へとにかく急いだ。

 

 

 

 

 

 十分後。聖は上官であるクロノの執務室にある、彼のデスクの前でやや息を荒げながら立っていた。

 

 時刻は午前十時九分。ほんの少しではあるが遅刻である。

 

「ふむ……九分の遅刻か」

 

「いやー、ちょっと目覚ましの調子が悪くってですね。おっかしいなー、昨日の夜にちゃんとセットしたはずなんだけどなぁ。あ、アハハハ」

 

 渇いた笑いを漏らす聖。クロノはと言うと、椅子に座りながら、見透かしたような視線を彼に向けている。

 

 彼は聖の直属の上司に当たる、クロノ・ハラオウン提督。聖が所属している、本局クロノ隊の隊長であり、戦艦クラウディアの艦長でもある。聖はそんな彼の下で彼をサポートする執務官として働いているのだ。

 

「で、本当の理由はなんだい? 白雲聖執務官」

 

 威圧感たっぷりの笑顔を向けるクロノ。その様子に聖も逃れる術がないと踏んだのか、一度項垂れた後素直に白状した。

 

「えーっと……来るようにって言われてたのは覚えてたんですけど、時計のアラームがいつもの休日設定になっていて、遅れたといいますかなんと言いますか」

 

「なるほど。まったく、最初からそう言えばいいものを」

 

「正直に言ったって結局愚痴るじゃねぇかよ……」

 

「どちらにせよ遅れたことに変わりはない。上司として注意するのは当然だろう」

 

 まぁ彼の言うことは間違いではない。部下が約束どおり来ないのであれば、それを注意するのが当然だろう。聖もまた、今回の自分の非を認め反省しておく。急に呼び出した目の前の男に対する不服もあるにはあるが。

 

「さて、あまり長々と説教を垂れるのも無意味だからな。かけたまえ、聖」

 

 スッと応接用のソファを指され、聖は彼に従ってソファに座る。クロノもまたデスクの椅子から立ち上がると、聖の向かいのソファに腰を下ろした。

 

 同時に彼は空間投影型のモニターを呼び出して操作を始め、操作を全て終えてからこちらに向きなった。

 

「では、今日僕が君を呼び出した理由を話そうか。端的に言うと、聖。君に人事異動の命令がある」

 

「異動命令ぃ!?」

 

「そうだ」

 

 コクリと頷くクロノは相変わらず涼しげな表情をしている。なんか一言言ってやりたい気持ちの聖だが、なんとかそれを押し殺す。

 

「随分と急じゃないっすかね」

 

「前々から話は持ち上がっていたんだがね。つい最近決まったんだ。あと、異動とは言っても完全な異動ではないよ。一定期間君を貸すという形だ。まぁ殆ど除隊と変わらないがね」

 

「そういうのって早めに伝えてくれませんかねぇ……」

 

「仕方あるまい。最近の忙しさは尋常ではなかった。だからそれは置いておこう」

 

 ……置いておくなよ!!

 

 内心で突っ込みを入れるが、言ったらまた何を言われるかたまったものじゃないのでこれもまた押し殺しておく。

 

「聖、君に異動してもらいたいのは、ミッドに新たに配備される『時空管理局本局 古代遺物管理部 機動六課』という部隊だ。部隊長は、君も聞いたことがあると思うが、あの八神はやて二等陸佐だ」

 

 八神はやて。聖も聞いたことはある。クロノとは十年来の友人で、古代ベルカ式の魔法を操るSSランク魔導師。が、特筆すべきは彼女の持つ彼女個人の部隊とも言って良い守護騎士ヴォルケンリッターと、彼女自身が所持する『夜天の魔導書』だ。

 

『夜天の魔導書』とはかつて『闇の書』とも呼ばれた『ロストロギア』である。そんなものを持っているためか、彼女は『歩くロストロギア』などと呼ばれており、彼女の存在を疎ましく思っているおえらい方も少なからず存在していると聞く。

 

「実を言うと、機動六課の立ち上げに関しては、僕や聖王教会のカリムも噛んでいてね。僕の義妹であるフェイトや、友人のなのはそこに所属することになっている」

 

「へぇ……って、ちょっと待ってください、提督。それって結構やばい事になってませんか?」

 

 クロノの説明に聖が腕を前に突き出して、待ったの意を示す。すると、クロノも聖の反応を想定していたようで、一度頷いてからモニタをフリックして聖にも見えるようにした。

 

 モニタに表示されていたのは現在の機動六課の大まかな人員だ。部隊長である、はやてをトップに、凄まじい面々が揃っている。まずはやて個人の部隊であるヴォルケンリッターの面々は当然のように組み込まれている。

 

 そして、フォワードと表示された分隊、『スターズ』の隊長には、本局の『エース・オブ・エース』の異名をとる、高町なのは一等空尉が、そして『ライトニング』の隊長には、クロノの義妹であり、なのはやはやてとも旧知の仲だというフェイト・T・ハラオウン執務官がいた。因みに、ヴォルケンリッターのシグナム二等空尉は、ライトニング隊の副隊長を、ヴィータ三等空尉はスターズ隊の副隊長を務めるようだ。

 

 ロングアーチのスタッフを見ても、どれも皆成績優秀な面々ばかりであった。

 

 一通り資料を見てから聖は大きく溜息をつく。

 

「よくこんなでたらめな戦力で査察通りましたね」

 

「そこは隊長達のランクをリミッターで制限しているからな。だからクリアできたというわけさ」

 

「なるほど」

 

 時空管理局では、一つの部隊に強力な魔導師が偏ることを良しとしない。これを破っていると過剰保有(オーバーホールド)となり、査察の際に部隊の凍結や解散すらもありうるのだ。なので、今回のような場合は、魔導師ランクが高い者達に力を制限するリミッターをかけることにより査察を通らせたということらしい。

 

 かなり強引なやり方だと思う聖だが、これもまた一つの手段ではある。

 

「なのはとフェイトはそれぞれ2ランクダウン。はやては4ランクも落としている。と言うわけでだ、聖。君もこの部隊に所属するのだから、リミッターはかけさせてもらう。2ランクダウンだ」

 

「……もう報告が遅いとか言わないっすわ」

 

 上司から明かされる事実に頭を抱えそうになるものの、なんとかそれを抑えて溜息だけにしておく。リミッターがかけられるということは、魔導師として本気が出せないのも一緒であるので、聖からすると少々納得がいかない。

 

「とは言っても有事の際はちゃんと外すから安心してくれ」

 

「その辺は別に心配とかないですけど。で、配属はいつなんですか?」

 

 モニタを閉じてから彼に問いを投げかけると、クロノはいたって冷静な口調で告げてきた。

 

「明日の午後三時ちょうどだ。実際に六課が部隊として活動を開始するのは二週間後だがね」

 

「早いよ! なんでそういうのをもっと早く言わないんですかねぇ、提督!」

 

「その辺りはすまん。最近僕も色々と忙しかったからね。君だって分かっているだろう?」

 

「それはまぁ……そうですけど」

 

 確かにここ最近、彼は激務に追われていた。それは副官である聖も同じことであるが、あの激務の最中では、このように面と向かって話すのは無理だっただろう。

 

 一応は話せなかったことに理由があったことに納得していると、クロノは続ける。

 

「とは言ってもだ。今から準備をすれば、明日の早朝にはミッドに到着するだろう。六課の隊舎もクラナガンに近いから、充分間に合うさ」

 

 彼の言うことは正しい。今日の夜の便で行けば、充分間に合う。が、今から大急ぎで部屋の私物を片付け、そのあと荷物の配送手続きを完了させ、私室の掃除もしなければならない。あとは、『無限書庫』から借りた本も返しに行く必要がある。

 

「では、形式的に君は本日を持って僕の隊を除隊するということになる。だから、ここはそういった形を取ることにしよう」

 

 彼は立ち上がり、聖もそれに続いた。そして、向かい合ったままクロノは鋭い眼光を見せる。

 

「白雲聖執務官。現時刻をもって、君をクロノ隊から除隊とする。除隊後、君の所属は『時空管理局本局 古代遺物管理部 機動六課』とする。以上」

 

「了解」

 

 先ほどまでのフランクな絡みはなく、聖はしっかりとした敬礼でそれに答える。これでクロノ隊から除隊となった。

 

 敬礼を終えて一礼したあと、聖は「それじゃ」と短く告げてから出て行こうとした。が、それを背後からかけられた声で止められる。

 

「待て、聖。最後に一つだけ言っておくことがあった」

 

「さすがにこれで最後にしてくださいよ」

 

「ああ。わかっている。……機動六課が追うのはロストロギアだけではない。ある次元犯罪者も追っている」

 

「……」

 

 聖は黙っているが、その顔にはどことなく怒りとも、恨みとも取れるような色があった。

 

「その次元犯罪者の名前は、『ジェイル・スカリエッティ』。これが何を表しているか、分かっているな、聖」

 

「ええ。六課への配属、感謝します。提督」

 

「……無理はするなよ」

 

 気がかりが残るような声音で言うクロノに、聖は無言のまま頷いてクロノの執務室を後にした。

 

 

 執務室から出た聖は本局の廊下を歩いていた。しかし、歩く速さはどことなく速く、表情も固くなっている。眉間には深く皺がより、近づきがたい雰囲気が漂っている。

 

 そんな彼を心配したのか、相棒の安綱が声をかける。

 

〈聖様〉

 

「わかってる。大丈夫だ」

 

〈……なら、いいのですが。先ほど提督も申されていましたが、余りご無理はなさらぬように〉

 

「ああ」

 

 短く答え、そのまま自身の私室へ向かう。途中、彼は先ほどクロノが告げた名前を心の中で思い浮かべる。

 

 ……スカリエッティ、ついに見つけたぜ。

 

「提督には感謝しなきゃな」

 

 息をつく聖であるが、表情は先ほどから比べると少しだけ柔らかくなっている。けれど、瞳に宿る光には、怒りの色が色濃く残っている。

 

 とても人に向けて良い眼光ではないが、不意に彼の耳に元気のよさげな声が入ってきた。

 

「そっちじゃないってば! こっちよこっち」

 

「えー? そっちはさっき通ってきたところじゃないの?」

 

 聖が視線を向けた方向にいたのは、二人の少女だった。どちらも陸士部隊の制服を着ている。

 

 一方の少女は、オレンジ色の髪に気の強そうなツリ目が特徴的だ。対する少女は群青色の頭髪を短めに揃え、ややたれ目であるが、スポーツをやっていそうな雰囲気がある。

 

「迷子か?」

 

〈子というにはいかがな歳かと思いますが……〉

 

「じゃあ迷人か。あの制服からして陸士だよな。ミッドから初めてこっちに来たって感じか」

 

 言いつつ、聖は少女達の方に足を進める。二人は空間モニタに映されている地図を眺めながら、あーだこーだと悩みまくっている。やはり迷っているようだ。まぁ確かに管理局の本局は広い。しかも一部の区域は通路が入り組んでいるため、初めてここを訪れる人物にとっては酷なところもあるだろう。

 

「お困りかい、お二人さん」

 

「え?」

 

 疑問符を浮かべながら二人が聖の方を向いた。一瞬怪訝な表情をした二人であるが、彼が来ている制服が、執務官を表す黒い制服だとわかったようで、すぐに姿勢を正してほぼ同時に敬礼してきた。

 

「な、なんでしょうか?」

 

 オレンジ髪の少女が、驚き半分不安半分と言った声音で問うてきた。確かに唐突に執務官に声をかけられれば、驚くのも無理はないか。

 

「あぁ、いや楽にしてくれ。別に二人をどうこうしようってわけじゃねぇよ。ただ、その様子からして本局は初めてみたいだったからな。道にでも迷ったか?」

 

「はい……。第三訓練場に行きたいんですけど、さっきからずっと同じところをグルグル回ってる気がして」

 

 青髪の少女が恥ずかしげに頭を掻く。聖はそれに頷くと、薄く笑みを浮かべる。

 

「第三は確かに分かりにくいところにあるからな。よし、行き方教えてやる。ちょっとこっち来てみ」

 

 二人を呼びつつ、聖はモニタを呼び出して本局の地図を表示させる。現在地を指定してから、モニタの地図を指でなぞっていく。

 

「いいか、俺たちが今いるのがここだ。第三訓練場はこの道を真っ直ぐ行って、二つ目の角を右に曲がる。そのまましばらく歩くと、左にエスカレーターがあるからそれを下に降りるんだ。エスカレーターを降りきったら、そのまま真っ直ぐ進め。んで、一つ目の角を左に行って進んだところにある。一応、経路を赤いラインで表示しておいたから、困ったらこれを使え」

 

 赤い経路案内のラインが入った地図データを、オレンジ髪の少女のモニタに送ると、二人は揃って頭を下げた。

 

「ありがとうございました! 行ってみます!」

 

「おう。訓練、がんばってな」

 

 軽く手を上げてから聖は踵を返して、私室へ戻っていった。

 

 

 

 二人と別れ、私室に戻った聖は、引越し用のコンテナを借りてきて、部屋の私物を淡々と詰めていった。

 

 ベッドやテーブル、椅子、デスクは元々あったものを使っていたので、持っていく必要はない。持っていくとすれば、私服や日用品、あとは本の類だ。

 

「よし。これで一通りのモンは詰めたか。ふむ……改めて見るとそんなに量多くなかったな。あとは部屋の掃除と……あー、これがあったか」

 

 厄介なものを見たという風に、聖は額の辺りに手を置いて苦い顔をした。みると、デスクの上には山積みになった本の数々が。

 

 この本は聖の私物ではない。聖が無限書庫から借りてきた本の数々だ。その殆どは、古代ベルカ時代に関する歴史書、叙事詩といったものだ。それら殆どは古代ベルカ語で記されているため、聖はそれらを読むために古代ベルカ語も習得している。

 

「これ今日中に返して来ないとな。ユーノのヤツいるかな」

 

 時刻は十二時三十分。昼食時である。この時間帯であれば、書庫よりは食堂にいるかもしれない。

 

「行く前に確認とってみるか」

 

 空間モニタを呼び出し、アドレスを表示させて無限図書の司書長であるユーノに連絡を取る。

 

 何度かのコール音の後、モニタの中に眼鏡をかけた聖と同年代くらいの青年が現れた。彼が、無限図書の若き司書長であるユーノ・スクライアだ。

 

『やぁ、聖。どうかした?』

 

「ちょいとな。ユーノ、お前今どこにいる?」

 

『今は大食堂でお昼食べてるところだよ。書庫に用だった?』

 

「ああ。挨拶代わりに貸してもらってた本、返しに行こうかと思ってな。持ち出すわけにもいかねぇし」

 

 借りていた本を持ち上げながら言うと、ユーノは一瞬不思議そうな顔をした。

 

『挨拶代わりって、聖どこか出かけるの?』

 

「ミッドの方の部隊に異動になったんだ。そんで、一旦こっちの部屋は引き払うことになった。だから、一応お前に挨拶しておこうと思ってよ」

 

『随分と急だねぇ。あ、もしかしてクロノが言い忘れてたとか』

 

「正解だ。よくわかったな」

 

『彼とは長い付き合いだけど、たまーにそういうことがあるんだよ。あまり知られてないけどね』

 

 苦笑気味に答えるユーノ。その様子からして彼もまたクロノには振り回された過去があると見た。もうちょっと詮索してみたいものだが、今は本を返しに行くことが先だ。

 

「ユーノ、今から書庫行って大丈夫か?」

 

『うん。僕も今お昼食べ終わるところだったし、途中で合流できると思う』

 

「わかった。んじゃ、行ってるぜ。見かけたら声かけてくれ」

 

 告げたあと、聖はモニタを閉じて書庫から借りた本を袋の中に詰めた。数にしてざっと二十冊くらいだろうか。

 

「……我ながら早く返せよって感じがすごいな」

 

〈そのあたりはルーズすぎますねぇ〉

 

「うっせ。じゃ、ちょっと行ってくるから、安綱、お前はデータ整理頼むわ」

 

〈かしこまりました〉

 

 仕事のデータのバックアップを安綱に任せ、聖は無限書庫へと向かう。

 

 

「あ、聖くん」

 

 無限書庫へ向かう途中、聖は不意に声をかけられた。そちらをみると、やや大きめな眼鏡をかけた、本局の職員の制服の上に白衣を着た女性がいた。

 

「どもっす、マリーさん」

 

 聖がマリーと呼ぶこの女性の本名は、マリエル・アテンザ。所属は、本局第四技術部で、役職は、精密技術官と第四技術部の主任も務めている。

 

 聖とはクロノの紹介で出会い、安綱のメンテナンスをしてくれるのも彼女だ。聖にとっては非常に助けになってもらっている存在である。いや、魔導師であれば、技術部の人間に世話になるのは当然か。

 

「聞いたよ。ミッドの新部隊に異動になったんだってね。確か、フェイトちゃんが所属してる部隊だよね」

 

「ええ。てか、なんで知ってんスか」

 

「さっきクロノくん……じゃなかった、クロノ提督のデバイスの調整が終わったから、それを報告したときに聞いたんだよ。それで、安綱のことなんだけど……」

 

 やや声のトーンを落とし、真剣な表情になるマリエル。聖も背筋を引き締めて彼女の声を聞く。

 

「わかってるとは思うけど、新部隊に行っても無茶はさせちゃダメだよ。不調なところを感じたら、すぐにメンテナンスに出してあげること。あと、安綱は結構隠すときがあるから、マスターの君がしっかりそれを感じ取ってね」

 

「わかりました。ありがとうございます、マリーさん」

 

「お礼なんていいって。これが私の仕事なんだし。六課のメカニックには私の知り合いもいるみたいだし、細かいことはその子にも伝えておくね」

 

「お願いします。でも、マリーさん俺やアイツの過去までは……」

 

 注意を促すように言うと、マリエルもそれに頷く。

 

「大丈夫。君達の過去までは話さないよ。これはクロノ提督との約束でもあるしね」

 

「どうも。なにからなにまで世話になりっぱなしで、申し訳ないっス」

 

「気にしないでいいってば。それじゃ、聖くんも用があるみたいだし、私はこれで行くね。いつでも連絡してきていいからね」

 

 マリエルは柔和な笑みを見せたあと、聖が向かう方向とは逆方向に向かった。彼女の後姿を見送ると、聖も無限書庫へ向けて改めて足を進める。

 

 

 

 

 

 夜。聖の姿は本局の次元港にあった。手荷物は小さめのボディバッグのみで、服装も制服ではなく、黒のカーゴパンツに赤いTシャツ、その上には濃い灰色をした薄手のパーカーを羽織っている。

 

 コンテナに詰めた私物は、先ほど次元港に併設されている宅配所で宅配申請を出しておいたので、数日後には六課の隊舎に届くだろう。制服や着替え、軽い日用品などを

 

 時刻は午後九時三十五分。次元航行船に搭乗が始まるのはあと十分後だ。

 

「次元航行船が出るのは十時で、あっちに着くのは六、七時間後か。戦艦使えば一瞬なんだけどな」

 

〈聖様一人のために戦艦を動かせるわけがないでしょう。ですが、あちらに到着したどうするのですか? 早朝ですしどこかで時間でも潰しますか〉

 

「ミッドの次元港は二十四時間対応だからな。適当なジャンクフード食ったり、カフェで時間でも潰すさ。六課に行く前に軽くシャワー浴びていくけどな」

 

〈賢明な判断です。新部隊に所属するのですから、清潔にするのはよろしいかと。それに、機動六課は女性が多い部隊のようですし〉

 

 安綱の言うとおりである。機動六課の現在のところの主要な構成メンバーだけを見ても女性が非常に多い。

 

「まぁあの三人は管理局全体で見ても抜きん出てるからな。だから、あの三人が同じ部隊にいるってのは中々すごいことなんだけど」

 

〈リミッターまでかけた徹底ぶりですからね〉

 

「なんつーか、完全なアウェーに飛び込んでいく感じがヤバイ」

 

 なにせ向こう側の殆どのメンバーは昔からの知り合いだ。その中にまったくの初対面である聖が飛び込むのは中々に勇気のいることである。

 

〈いつになく弱気ですね。ヘタレですか?〉

 

「ヘタレてねぇよ。すこしばかり気になっただけさ。まっ、あんまり気にしたって意味ねぇか」

 

 とりあえず、気にするのをやめて時間を確認しようとすると、ちょうどアナウンスが入った。

 

『午後十時発、ミッドチルダ、首都クラナガン行きにご搭乗のお客様。搭乗準備が完了しましたので、搭乗ゲートからお進みください』

 

 女性スタッフの声に、聖は背後に広がる本局を見やってから搭乗ゲートへ進んだ。

 

「んじゃ、行きますか」

 

 どこか満足げな微笑を浮かべた聖は、ミッドチルダ行きの次元航行船へのゲートをくぐった。




お疲れ様です。
炎狼でございます。始めてみましたリメイク。いかがでしたでしょうか?
大筋は同じような感じですが、出だしから色々バレてますね。けど、リメイクなのでこれでいい気がします。あとは、描写を以前より細かくしてみました。(つもり)
リメイクするにあたって、前のヤツを読み返しましたが……序盤とか酷かったですねwもう吐くレベルでしたw

そして、この作品の更新についてですが、恐らく超亀更新になるかと思います。じっくり書き上げて行きたいです。それでも、ある程度のスパンでは書いて行きますので、よろしくお願いします。

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