魔法少女リリカルなのはStrikerS -Another Sankt King- Re: 作:炎狼
数多存在する次元世界の基点と言われる第一管理世界、ミッドチルダ。空には複数の月のようなものが見え、どこか幻想的な雰囲気を漂わせる。
けれど、その空の下に目を向けると近未来的な建造物が天を突くように聳えている。ミッドチルダの首都クラナガンだ。
首都の中心には、一際高い黒いビル。それを中心として追う様に高層ビル群が周囲を囲っている。
この高層ビル群全体が、時空管理局地上本部である。施設全体には常時強固な魔力障壁が展開され、外敵からの侵入、侵略を許さない。さながら鉄壁の要塞だ。
その地上本部からやや離れ、海を挟んだ場所には真新しさが漂う隊舎と、そこに勤める隊員のためであろう寮がある。ここが、八神はやてが部隊長として新設した、古代遺物管理部 機動六課である。
まだ正式な運用には日数があるが、部隊長室には三人の人物がソファに座っていた。
「さてと、二人とも来てくれたところで始めよか」
地球でいうところの柔和な関西弁で言ったのは、栗毛の髪に前髪を黄色の髪留めで留めた、機動六課の部隊長である八神はやてだ。
彼女の目線から向かって右側にいるのは長い金髪を毛先で括った女性、本局の提督である、クロノ・ハラオウンの義妹、フェイト・T・ハラオウンだ。
フェイトの隣に座っているのは、はやてよりも明るめな栗毛をサイドアップに纏めた女性、高町なのはである。
三人は幼少の頃からの友人同士であり、今回の機動六課設立にあたっても、二人ははやてからの誘いを快諾している。
「それで話って?」
「ほら、六課を設立するってなった時話したやん。クロノくんのとこに一人優秀な執務官君がいるって話」
「あぁ、そういえば言ってたね。それがどうかしたの?」
「うん。この前クロノくんから正式に辞令が降りて、今日その子が来てくれることになってるんよ」
はやては空中に投影したモニターを操作しながら二人に言うと、目的のページを呼び出してからモニターを二人の前にも投影させた。
「名前は白雲聖くん。階級はフェイトちゃんと同じで執務官、クロノくんの隊にいた時はクロノくんの右腕ポジションだったみたいやね。年齢はわたしらと同い年の十九歳で、ランクはSS」
モニタに表示されている情報を彼女が読み上げると、なのはが何かに気が付いたようで声を上げた。
「名前の響きからすると、地球出身?」
「せやね。わたしやなのはちゃんと同じ、地球出身の魔導師やね。クロノくんに聞いた話やと、執務官試験は一発合格だったらしいで」
管理局において、執務官という役職はなるのが難しい役職である。通常の魔導師としての技術は勿論、法務知識を中心に多様な知識や技術が必要であり、資格試験は非常に難易度が高い。
「執務官試験を一発合格ってことは、すごい優秀なんだね! ね、フェイトちゃ……あっ」
しまったという表情を浮かべて固まるなのは。はやても「あちゃー」と言った表情を浮かべている。
二人の視線の先には、どことなく落ち込んだ雰囲気のフェイトが俯いていた。
彼女がこんな反応をとるのも無理はない。フェイトも聖と同じく執務官であることに変わりはない。しかし、彼女の場合執務官試験に二度落ちているという過去があり、それが一種のトラウマと化しているのだ。
とは言っても、試験に落ちた際には彼女の精神状態が、ある事件のせいで不安定だったということもあるのだが。
「こほん! そない落ち込むことないで、フェイトちゃん! クロノくんが言うてたけど、この聖くんは結構ギリギリで合格だったみたいやし!」
「それにフェイトちゃんは聖くんよりも早く資格が取れてるんだし、自信持っていいよ!」
二人でフェイトを励ましにかかる。それがこうをそうしたのか、フェイトは纏っていた暗い雰囲気を消して「そ、そうだね」と気分を入れ替えた。
「と、とりあえず執務官試験のことは置いておいてや。聖くんが正式に入隊になるんは、今日の午後一時になっとる。せやから、二人には十二時半までには再集合してほしいんよ。シグナム達にはもう言ってあるから」
「わかった」
「了解」
「ほんなら、今日はこのまま六課のこと話そか。まだ詳細も伝えてなかったこともあるし。そしたらシグナムも誘ってお昼行こか。残念ながらヴィータとシャマル、ザフィーラは仕事があるから来れへんけど」
「そうなの? あれ、そういえばリインもいないね」
「リインはちょっと書類整理の方を手伝ってもらっとる。ヴィータたちは、あれやよ。ガジェット関連」
はやての言葉になのはとフェイトの表情が僅かに強張った。ガジェットと言うのは、最近現れた正体不明の無人兵器だ。主にロストロギアの探索をしているため、機動六課の任務の中にはこのガジェットを倒すことも含まれている。
「また現れたの?」
「せやね。最近は発生の頻度もあがっとるから、わたしらも注意せんとな。っと、今はそっちよりも六課の話や」
クラナガンの次元港には利用者のためにリラクゼーション施設が設けられている。食事が出来るレストランフロアに加え、サロンなども完備されている。その他にもシャワールームなども存在している。しかも24時間営業のため、過ごそうと思えばいくらでも過ごせる。
そんなリラクゼーション施設の一角、地球で言うところの某有名ジャンクフード店のように、ハンバーガーを扱う店の席にハンバーガーを食べている聖の姿があった。
時刻は午前十時半。六課に顔をだすのが午後一時なので、移動時間を見計らっての昼食だ。
〈聖様、前々から幾度となく、口がすっぱくなるほど言ってきましたが、たまにはジャンクフード以外も食べたらどうでしょうか?〉
「別にいいだろー。第一、お前口ないじゃん」
〈比喩です。お母様から食生活が乱れないように監視してくれと言われている私の身にもなってください〉
「報告義務はないんだし、帰ったときにでも嘘つけば良いさ。んー、やはりこの体に悪そうな感じがたまらない」
ジャンクフード独特の脂っこく、濃い味付けに舌鼓をうちながら聖は周囲から見えないようなアングルで、モニターを投影する。
「にしても、資料を読めば読むほどすんげぇ戦力だな。機動六課」
次元航行船の中でも一通り目を通したが、読み込むほどこの部隊の戦力の異常さが浮かんできている。
「……俺、この部隊でやっていけるのだろうか」
〈随分と弱気ですね〉
「だって、完全なアウェーだし。例えるなら、部活とかサークル活動があるだろ?」
〈ありますね〉
「あれさ、一年の頃から所属してれば大体人間関係は形成されんだろ。けどよ、そこに2年から入ったらどうなるよ」
〈あー、それは完全に浮きますね。他は気心しれた仲間同士なのに、一人だけ全く話したことがない人は確実に浮きます〉
「俺が言いたいのはつまりそういうことだ。どう考えてもあっちは全員顔見知り、クロノ提督の義妹さんにでも会ってればまだ気が楽だったんだけどな」
聖はポテトを四本くらいつまんで口に放る。実際のところ聖の胸中は、心配半分、期待半分と言ったところだ。
人間関係の形成事態は、彼自身コミュニケーション能力がある方だと自負しているので、そこまで悩むことはない。悩むとすれば、信頼の獲得だろうか。
「手っ取り早く戦闘訓練とかで実力を見せ付けられればいいんだけどな。上手く行くかねぇ」
〈そのあたりは行って見なければわかりません。それと聖様、時間を見ながら食べてください。シャワー浴びたり、身だしなみを整えなければならない時間もありますからね〉
「わーってるよ。いやでもこの新作のハンバーガー、中々美味いな。期間限定にしとくにはもったいない気がする」
先ほどまでの六課に対する不安感はどこへやら。聖は自信が食べているハンバーガーの味のことをメインに考えてしまっていた。
早めの昼食を終えて数十分後、聖はシャワーを浴びてから身だしなみを整てから、管理局の執務官服に着替え次元港を出た。
そのまま次元港からクラナガン中心街へ向かうため、適当なタクシーを拾って揺られること十数分。
六課に向かうために一番近いとされる、ターミナルのロータリーでタクシーを降りた聖は荷物を出してから大きく伸びをした。
伸びきったところで、ふと聖が何かに気が付いたようだ。
「なぁ、安綱よ。あのでけぇビルなんだっけ?」
〈あれは管理局に管理されている次元世界なかの大財閥。コキルトスグループの本社ビルですよ。以前テレビでやっていたではありませんか〉
「そうだっけ。でもあんだけでかい企業ともなると、あそこに生まれた子供ってのは色々大変かもなぁ。子供の頃からガチガチの英才教育に、社交界とか、息が詰まりそうだ」
肩を竦める聖であるが、リニアレールが出発する時間が迫っていることを思い出し、ターミナルへ足を向ける。
が、その時。今度は視界の端でなにやらよからぬことが行われているのが見えた。
見れば会社員らしき女性に三人組のガラの悪そうな男達が絡んでいるではないか。
「……うーむ、なんというか、ああいうのはどこの世界も共通なのか? 凡そ三人で絡んでるのはあれか、三馬鹿とでも言ってもらいたいのか」
〈そんなことを考えるのであれば、助けて差し上げたらどうですか? 執務官の職務範囲内だと思われますが〉
「はいよっと」
聖はターミナルを一瞥したあと、溜息をつきながら女性および、三馬鹿の下に小走りに駆けていく。
近づいていくと、女性の拒絶の声と三馬鹿の下卑た声が聞こえる。周囲の人々は見て見ぬ振り。まぁそれが普通の反応だろう。自分から厄介ごとに首を突っ込むなど稀な人間だ。
……さすがに男が女の人を助けないわけにはいかないわな。
である以前に、聖は管理局の魔導師だ。時空管理局はその性質上、犯罪を取り締まる警察機関の一旦も担っている。それがたとえ魔法犯罪でなくても取り締まるのは同じことである。
なので聖もその役目をしっかりと発揮することにした。指先を自信の目の前、三馬鹿のちょうど真ん中にいる男に合わせる。
すると、金属が打ち鳴らされたような、シャンッ! という音が響き、男の両腕と両足、腰を白銀に輝く円環が拘束した。
管理局に所属する魔導師であれば大半の人間が使える拘束魔法、バインドだ。
「んなぁっ!?」
いきなり自分の動きが拘束されたことでバランスを崩した男は、そのままコンクリートの地面に倒れこんだ。
他の二人が助けようとするが、聖はそれを許さずに、拘束した男に馬乗りになる。
「はいはい、おとなしくしろー。市民に対する迷惑行為、ならびに……なんだっけ、まぁあれだ、婦女暴行とかそんなんの罪で拘束しまーす」
「あんだテメェは!?」
「俺らを無視するんじゃねぇ!」
両脇の男達ががなり立てるが、聖は特に気にした様子もなくバインドを強めておく。
すると、完全に無視されていることにイラだったのか、両脇の男達が拳を振りかぶって聖に向けて振り下ろしてきた。
が、日々鍛えている聖にとってそんなものが避けられないわけはなく、彼は少し態勢をずらすだけでそれを避けきった。そして追加で男達にもバインドを仕掛けておく。
「はい、これで管理局員に対する暴行、及び公務執行妨害の成立ー。警防署に突き出してやるからちょっと待ってろー」
「ちょ、ちょちょちょい待ち! お、お兄さんあれなの、管理局の人なわけ!?」
「制服で気付けや。まぁ、そうですけどなんか言い残すことはありますかー?」
「ま、待って待って! コームシッコーボーガイってあれだろ、仕事の邪魔したとかそんな感じのヤツ! それに暴行ってオレ等お兄さんに怪我とかさしてないジャン!」
「しましたー。怪我しましたー。この辺かすって擦りむいてますー。あー、痛いなぁ。これは病院行って治してもらわないと!」
わざとらしく語尾を延ばしながら聖は着々と警防署に連絡を繋いでいく。
「い、いくらなんでも横暴すぎんだろ! 管理局って行ったってやっていいこととワリィことがあんぜ!!」
「ギャーギャー喚くな。いいか三馬鹿くん、権力は絶対なのだよ。でもまぁ、俺もそこまで鬼じゃない。しっかり反省してもう二度とこういうことをしないってなら警防署には突き出さない」
「します、します! 反省しまくります!」
男達は必死に訴えるが、いまいち本心から言っているように聞こえない。なので、聖は安綱に録音させた音声を再生した。
「お前等が言ったこと、今しっかり録音したからな。あと、映像、画像としても記録してる。もしも次に俺がお前等がなんか悪さしてるのを見たら、問答無用で突き出すからな」
「わ、わかしましたぁ!!」
聖はその声を聞いてから立ち上がるものの、男達のバインドを解かずに、今度は三人を纏めて縛り上げるようにして近場の柱にバインドを展開した。
何が起きたのか分かっていないような男達に対し、リヒトは荷物の中に入っている手帳を取り出し、なにやらサラサラと綴ると三ページを引き千切って男達の額に叩き付けた。
「んぎゃ!?」
「このまま解放しても良いけど、さすがにそれじゃあ反省が足りないだろうからな。しばらくここで頭冷やしてろ」
彼は言うものの男達は、失神してしまったようで聞こえていない。ちなみに、額に叩き付けたメモ帳の切れ端には「僕達は悪いことをしました」と書いてあった。
「お姉さん、大丈夫っスか」
「あ、はい。ありがとうございました!」
いきなり三人が拘束されたことに驚いていた様子だった女性は、彼に頭を下げた。女性は所謂美人であり、男なら誰でも目を惹かれてしまうような美貌の持ち主だった。
三馬鹿達が声をかけたのは無理はないというべきか。
「アイツ等は一応痛めつけといたんで、変なことはしないと思います。なんかあったら最寄の警防署に行って下さい」
「わかりました。あの、なにかお礼を……」
「気にしないでいいですよ。仕事なんで。それじゃ」
片手を上げて会釈したあと、小走りにターミナルへ駆けていく。
「安綱。時間は?」
〈あと十分でリニアレールが出ます。ホームまでの距離がありますので、少々お急ぎを〉
「おーらいっ!」
聖は足を速めてリニアレールがやってくるホームへと急いだ。
なんとかリニアレールに間に合い、機動六課の隊舎の近くの駅に到着した聖は、そのまま隊舎へ向けて歩き始めた。
「えーっと、六課の隊舎までは歩きで大体十分くらい、か」
歩きながら呟く聖はモニタを投影してインターネットの画面を開いた。
〈なにかお調べになっておられるのですか?〉
「ちょっとな。機動六課に入隊したらミッドで暮らすわけだし、バイクでも買っておこうかと思ってよ。いちいちリニア使うのも面倒だしな」
〈それは良い考えです。では、この色はいかがでしょう〉
安綱もネットに接続してバイクを検索したのだろう。彼女が見せてきたモニタには、赤と金を基調としたやや派手なバイクが載っていた。
「ちょっと派手じゃないか?」
〈そうですか? 聖様は目立ちたがり屋の節もあると思ったのでこれも良いと思ったのですが〉
「ねぇよ! ったく……。いいさ、バイクはあとで中心街に行った時にでも見に行く」
〈わかりました。それと、聖様〉
「あん?」
安綱に問い返すと彼女は抑揚のない声で、
〈今のところを右折です〉
「早く言えや!」
聖はドスドスと強めに地面を踏みながら今来た道を戻り、角を曲がっていった。
そのまま安綱とコント染みた話をしながら歩いていると、彼等の視線の先に機動六課の隊舎が見えてきた。
入隊時刻まではまだ時間があるが、足を速めて隊舎へと急ぐ聖。
が、途中で彼は足を止める。
彼の視線を辿ると、その先には一人の女性が佇んでいた。
制服は地上部隊の茶色の制服。やや赤みが強いピンクの髪をポニーテールにまとめている。顔立ちは非常に凛々しく、可愛らしいという言葉ではなく、かっこいいという言葉が似合う女性だ。
すると、彼女は聖の姿を捉えたようで、鋭い眼光を向けてきた。すぐに背筋を伸ばした聖は、彼女の下に駆けよって敬礼すると、彼女もまた聖に対して敬礼する。
「本局クロノ隊より異動になりました。白雲聖執務官です。着任手続きのため参りました」
「部隊長より承っています。私は、機動六課ライトニング分隊副隊長、シグナム二等空尉です。部隊長室に案内しますのでこちらへどうぞ」
シグナムに促され、敬礼を解いたあと彼女と共に六課の隊舎へと入っていく。外観からもわかったが、やはり新設された部隊だけあって設備が新しい。が、まだ本格始動の日までは日にちがあるので隊舎内は閑散としている。
周囲を見回しながら歩く聖であるが、彼は思い出したようにシグナムに話しかけた。
「シグナム空尉」
「なにか?」
「えっと、年下に敬語とかなれてなかったら素で話してくれて構わないですよ。というか、自然体でいてくれた方が俺も話しやすいんで」
聖が言うと、シグナムは僅かにこちらに振り向いてから小さな笑みを浮かべた。
「ばれていたか。では、お前の言葉に甘えさせてもらうとしよう」
先ほどまでの敬語ではなく、実に凛とした言葉が飛んできた。やはり、こちらが彼女の素なのだろう。
「だが、うまく敬語で話したと思ったのだがな。どうしてわかった?」
「ほぼ感ですけど、話してるときにちょっと硬い感じがしたんで年下に敬語は慣れてないのかなって思って」
「なるほど。まぁ確かに外れてはいないな。しかし、お前はどうなんだ、白雲。部隊長がクロノ提督に聞いた話では、お前も敬語が得意ではないと聞いたが?」
シグナムが笑いながら言ったことに、聖は内心で「なに言ってくれてんだあの提督」とクロノに悪態をついた。が、それを悟られないように切り返す。
「確かに苦手といえば苦手ですけど、でも年上の人には敬語を使えって実家で散々教わったので」
「そうか。……時に白雲、お前の得意な戦闘スタイルは剣を用いたクロスレンジだそうだな」
「……なぜにそこまで知っておられるのでしょうか」
「クロノ提督に聞いたのさ。割りとすんなりと教えてくれたよ」
シグナムの返答に対し、聖は内心で非常に大きなため息をついた。人の得意なスタイルを本人の許可なく教えるなど個人情報保護もあったもんじゃない。
だがまぁ、クロノであればしょうがないとその場は割り切っておく。
「お前もクロノ提督から渡された資料には眼を通しているだろうから知っているとは思うが、私もお前と同じでクロスレンジが得意でな。使用するデバイスも剣になる。そこでどうだ、今度私と模擬戦で手合わせをするというのは」
「いいですよ。俺でよければ相手になります」
シグナムと模擬戦の約束をすると、彼女は満足げに笑みを浮かべて前に向き直る。
一階から入って階段をあがってからしばらく行くと、シグナムが立ち止まりスライドドア側を向いた。聖もそちらを向くと、スライドドアの上にある電子プレートにはミッドの言葉で「部隊長室」と書かれていた。
「主はやて、シグナムです。白雲執務官をお連れしました」
シグナムがノックをした後に告げると、室内から「はいなー」と、随分と気の良さそうな女性の声が聞こえた。
「シグナム、入ってもらってー。もう皆そろっとるから」
「はい。……いいか、白雲」
「大丈夫です」
聖は一度深呼吸をする。そしてシグナムがスライドドアの脇にある端末に手をかざすと、ドアが開いた。
シグナムは何も言わずに入室したが、聖はそんなわけにも行かないので、室内に入る前に一礼する。
「失礼します」
言ってから顔を上げると、部隊長室には当然であるが部隊長である八神はやて。そしてフォワードメンバーとされる、スターズ分隊とライトニング分隊の隊長を務める高町なのはと、フェイト・T・ハラオウン。そしてはやての肩のあたりには30cmくらいの少女、リインフォースⅡが見えた。彼女は所謂融合機というやつらしい。
資料で見たシグナムとは別の守護騎士達はいないようだ。任務にでも出ているのだろうか。
などと気にしつつも、聖は窓際の大きなデスクの向こう側に立っているはやてと、デスクを挟むような形で近づくと、正面玄関でシグナムにした時と同じように敬礼をした。
「本日付けで古代遺物管理部 機動六課に配属になりました。元本局クロノ隊、白雲聖執務官です」
「はい、よろしくお願いします。白雲執務官。機動六課は貴方の入隊を歓迎します」
「ありがとうございます。八神陸佐」
挨拶を終えて、聖とはやては握手を交わした。すると、なのはとフェイト、シグナム、リインフォースがそれぞれ軽い拍手を送ってきた。
やがて二人が手を離すと、先ほどまで大真面目だったはやての表情がほころび、ニヤッとした笑みを浮かべた。
「さぁてと、ほんなら堅苦しい挨拶はこれで終わりにしよか。これからよろしゅうな、聖くん。あと、わたしのことははやてでええから。同い年やし。あ、リインも挨拶しとくか?」
「はいです~! 初めまして、白雲執務官! わたしの名前はリインフォース
「リインにはわたしの補佐もしてもらっとる。分からないこととかあったらリインに聞くのもありやでー」
「わかった。それじゃあ、改めてよろしくなはやて、リイン」
「よろしくお願いします~」
「うん。よろしく~」
先ほどの入隊の挨拶と比べるとはやてにかなりギャップがあったため、聖は内心で彼女のことを心配してしまっていた。
……随分と軽い感じもするが、大丈夫なのかおい。
とは言っても、本人がいいと言っているのだから、気にしたら負けと言うヤツなのだろう。
「ホントはシグナム以外にもヴィータとシャマルにザフィーラがおるんやけど、今日はまだ仕事で帰ってきてへんのよー。せやからなのはちゃん達と自己紹介済ませといてくれるか?」
「ああ。了解だ」
返答すると、はやてが二人を誘う。そしてなのはとフェイトの二人がそれぞれ聖の前に並ぶ。
「はじめまして、聖くん。クロノくんから紹介されてるから知ってるかもしれないけど改めて自己紹介させてもらうね。高町なのはです。階級は一等空尉。これからよろしくね。私のこともはやてちゃんと同じで呼び捨てでいいよー」
「次は私だね。初めまして、聖。多分なのはと同じでクロノから紹介されてると思うけど、クロノの義妹のフェイト・T・ハラオウンです。役職は聖と同じ執務官。執務官同士仲良くしようね。あと、私も呼び捨てで大丈夫だよ」
「ああ。これからよろしく頼む、なのは、フェイト」
二人と握手を交わしたところで、不意にはやてに肩をたたかれた。
「聖くん、この後予定が詰まってたり体調が悪いとかあるか?」
「いや。そんなことはないけど。なんかあるのか?」
首をかしげて彼女に問うと、はやては含みのある笑みを浮かべてから外に見える、会場のギガフロートのようなものを指差した。
「あれは?」
「あれはね、陸戦空間シュミレータって言って簡単にいっちゃうと訓練場だよ。でも、設計したのは六課のメンバーの子で、私の知り合い」
「ちなみに監修したのは私だよー。市街はもちろん、森林も再現できるからいちいち遠くの訓練場に行く手間が省けるんだよ」
「なるほど。演習時間を延ばすことで移動時間を極限まで削ったわけか。すごいな。で、あそこでなにかするのか?」
聖が問うと、はやては頷いてから話を始める。
「聖くんにはちょっとした戦闘訓練、みたいなものをしてもらいたいんよ。実力を測るためのな~。あ、別に聖くんの強さとか成績とかを疑っとるわけやないよ」
「分かってるさ。ようは戦力調査みたいなものだろ。部隊長として、隊員の戦力がどんなもんか図るのは当然だ」
「ありがとうなぁ。ほんなら、訓練所へレッツラゴーや!」
「レッツラゴーですー!」
はやてに続きリインフォースまでもがテンション高めに歩き始めた。その様子にやや呆れていると、フェイトがフォローを入れてきた。
「あのね、聖。はやてはあんな風に結構唐突なことも言ってくるけど、変な人ではないから」
「別に気にしてないって。ただ、テンション高めだなーって思っただけさ。クラスに一人はいるタイプだ。見てて面白いから嫌いじゃない」
肩を竦めながらも聖は口角を僅かにあげて頬を綻ばせていた。
新部隊に配属となった時は、若干アウェーな空気が流れるのではと心配にもなったがそうでもなくやっていけそうである。
部隊長室を後にした聖達は、訓練場にやってきた。訓練場にはすでに市街地のシュミレータが起動されており、聖たちがいるのはそのシュミレートによって作り出されたビルの屋上だ。
「ほんなら、なのはちゃんから実力調査の解説をしてもらいまーす」
「こほん、それじゃあルールを説明するよ、聖くん。今から聖くんにしてもらうのは簡単に言っちゃうと、魔導師ランク試験の改良版。聖くんのランクに合わせたものになります」
「ってことは、SSの試験ってことか。ふむ、これはなかなか骨が折れそうだな」
心配事のようなことを口にする聖であるが、その表情はどこか楽しげだ。もとよりやや戦闘好きの面があるためか、こういった体を動かすことが好きなのだ。
「聖くんにはこのルートを制限時間以内にゴールしてもらうよ。その途中には攻撃用スフィアに、拘束用スフィア、人質を模したスフィアにプレート。その他ギミックも展開してるからね」
「了解だ。制限時間は?」
「コース自体はそんなに長くないけど、飛行魔法は使っちゃダメだから十五分だね。身体強化は使ってもいいからね」
「なるほど。それじゃあ、さっそく始めようぜ」
聖は軽くストレッチをすると、安綱を外して空中に放った。
「安綱、セットアップ」
〈了解〉
その声と共に聖の体が彼の魔力色である白銀の光に包まれる。そして光が空気中にはじけるようにして消えると、バリアジャケットを纏った聖の姿が露になった。
インナージャケットの色は黒で、その上に重ねているのは、シグナム達ヴォルケンリッターの騎士服を髣髴とさせる真紅のジャケット。だが、どこか日本の和風感も存在している。腕の先には穴あきのグローブをはめ、手の甲にあたる部分には銀のプレートが取り付けられている。
下は厚みがありそうなカーゴパンツ風のパンツにややごつめのブーツを履いている。そしてそれらを全て包むのは、膝裏近くまである真紅のジャケットだ。襟などには黒のラインが入っており、魔力光とは別の印象を持たせるデザインだ。
彼が手に持つのは、これまた日本の刀を忠実に再現したデバイス。が、刀ほど薄くはない。鍔の部分にはカートリッジシステムが搭載されており、鍔と柄は赤黒い配色がなされている。
「よし、準備完了。いつでもいいぜ」
聖が調子を確かめるように拳を何度か握ると、なのはがはやてを見やる。彼女もそれに頷くと、なのはが空間モニタをタイピングする。すると、聖の前に大型のモニタが現れて十秒からカウントが始まった。
「0になったら始めてね。それじゃ聖くん、がんばって!」
「あいよ」
なのはに対して親指を立てて答えると、聖は目の前のモニタを見据える。既にカウントは残り五秒をさしていた。
そしてあっというまに五秒は過ぎて、0になった瞬間訓練場に演習開始を告げるアラームが鳴り響いた。
「そんじゃ、行きますか!!」
はい、お疲れ様でした。
第二話でございます。
流れは一緒ですが、変えた部分もありました。
結構変わってましたでしょうか?
次回は演習をやるところから始めます。
その後は前作ではやらなかった六課が始まるまでの話もやりたいと思います。
例えばヴァイスとのからみだったり、グリフィスとか、アルトとかルキノとか、ロングアーチたちとも交流があればと思います。
では、三話はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちください。
感想ありましたらよろしくお願いしますー。